- 供託法ー16.執行供託
- 2.債権に対する強制執行における供託
- 債権に対する強制執行における供託
- Sec.1
1債権に対する強制執行における供託
■単発の差押えの場合
(1) 意義
金銭債権の一部または全部が差し押さえ(仮差押)られた場合、第三債務者は、その金額を債務の履行地の供託所に供託して債務を免れることができる(民執法156条1項)。また、供託をせずに差押債権者の取立てに応じて支払ってもよい(民執法155条1項〔権利供託〕)。具体的には、差押えが競合しない場合、差押債権者Cは債務者Aに対して差押命令が送達されて1週間経過したら、第三債務者Bに直接取立てができる。仮にBが支払いに応じなければCはBに対し取立訴訟を提起して、支払いを求めることもできる。
(2) 債権の全部が差し押さえられた場合
債権の全部が差し押さえられた場合、第三債務者は、その金額を債務の履行地の供託所に供託して債務を免れることができる(民執156条1項)。この供託は権利であって義務ではないため、供託をせず差押債権者の取立てに応じて支払っても問題ない(民執法155条1項〔権利供託〕)。
CがAの100万円のうち自己の債権額80万円分を差し押えたときには、第三債務者Bは100万円全額供託することができる。80万円のみの供託しかできないとすれば、差額20万円はAに弁済しなければならず、二度手間となるからである(もちろん80万円のみ供託することも可能である。)。
なお、この場合、差押えの効力が及んでいない20万円の部分ついては弁済供託に当たるため、債務者Aは還付請求をすることができ、供託者Bは、供託不受諾を理由として取戻請求をすることができる。そのため、供託書にはAを被供託者として記載するとともに、Aに宛てて供託通知をする必要がある。また、供託官に供託通知書の発送を請求することも可能である(供託規16条)。しかし、供託書には法令条項として民執法156条1項のみを記載すればよく、民法494条を法令条項として掲げる必要はない。なお、Bが供託できるのは、100万円全額か80万円のいずれかである。
cf. これに対して、Cの債権額が100万円でAの債権全額100万円を差し押さえた場合、第三債務者Bが100万円供託する際に、供託書に被供託者Aの記載をする必要はない。100万円全額が執行供託となるからである。
先例 |
(昭55全国会同決議) |
|
|
民執156条1項による供託をする場合、弁済期経過後であれば遅延損害金を付さなければならない。 |
⇒ 金銭債権につき差押えがなされたことによって遅延損害金がなくなることはなく、第三債務者が弁済期後にその債権全額を供託する場合でも、供託する日までの遅延損害金を付さなければならない。
(4) 供託金の払渡手続
① 事情届
第三債務者は、民執156条1項により供託したときは、その旨を執行裁判所に届け出なければならない(民執156条3項)。この届出書には供託書正本を添付しなければならない(民執規138条2項)。これにより執行裁判所による配当等の手続が開始される。
② 執行供託部分の払渡し(100万円のうち80万円の部分)
供託金のうち、差押えの効力が及んでいる部分についての払渡しは、執行裁判所の配当等の実施としての支払委託に基づいて行われる。執行裁判所の書記官は、配当等の金額などを記載した支払委託書を供託所に送付し、同時に払い渡しを受けるべき者(債権者)に証明書を交付し、債権者は、この証明書を添付した供託物払渡請求書を提出して還付を受けることになる(供託規30条)。
この場合、差押債権者Cは直接供託所に還付請求することはできない。執行裁判所による支払委託によることになる。
③ 弁済供託部分の払渡し(100万円のうち20万円の部分)
供託金のうち、差押えの効力が及んでいない部分(20万円)については弁済供託に当たるため、債務者Aは被供託者として、還付を受ける権利を有することを証する書面を添付した供託物払渡請求書を供託所へ提出して還付を受けることができる。また、第三債務者Bも、この部分については供託不受託を原因として供託金の取戻請求ができる。
(5) 供託後に差押命令が失効した場合
先例 |
(昭55.9.6民四5333号) |
|
|
第三債務者が供託した後、差押命令の申立てが取り下げられたり、差押命令が取り消されたときは、供託金は執行裁判所の支払委託によって債務者Aに払い渡される。 |
⇒ 供託者Bの供託原因消滅を原因とする取戻しは認められない。供託によって債務免脱の効果が生じてしまっているため、すでにAの債権となっているからである。
↓ ただし
当該支払委託手続の実施前に債務者Aから供託金払渡請求書に差押命令の申立てが取り下げられたことまたは差押命令を取り消す決定が効力を生じたことを証する書面を添付して払渡請求があったときは、これを認可して差し支えないとする(上記先例)。この場合、債務者Aは払渡請求書に取下げまたは取消決定が効力を生じたことを証する書面とともに、供託書正本およびその下付証明書を添付することを要する。
■差押等が競合する場合
(1) 差押えの競合の意義
差押え(仮差押え)の競合とは、1つの金銭債権に対して2つ以上の差押命令(または仮差押命令)が発せられた場合において、差押(仮差押)債権額の合計額が差し押えられた債権額を超える場合をいう。
(2) 差押えが競合した場合(義務供託)
差押えがなされた金銭債権につき、取立訴訟の訴状の送達を受けるまでに更に差押え(または仮差押え)がなされて差押えが競合する場合は、その債権全部を債務履行地の供託所へ供託しなければならない(民執法156条2項〔義務供託〕)。この場合は全額が執行供託であることから、供託書の被供託者欄に被供託者の記載を要せず空欄にしておけばよい。
cf. 差押えが競合しても、弁済期の未到来、同時履行の抗弁権が存在するなど、支払義務がない場合には、第三債務者は供託の義務はない。差押えの競合によって先履行が強制されることはないからである。
(3) 義務供託の効果
義務供託の場合、第三債務者は、供託の方法によらなければ免責の効果を得ることができない。第三債務者が差押債権者の一部の者に弁済しても、取立権を有しない者への弁済となり、弁済の効力は生じない。したがって、二重払いさせられることになる。第三債務者が供託をすれば、供託をした時に配当要求遮断効が生じ、その後に債権者が差押えまたは配当要求をしても、当該配当手続において配当を受けることはできない(民執法165条1項1号)。
(4) 差押えと配当要求が競合した場合
CのみがAのBに対する債権100万円のうち90万円の部分を差し押さえ、Dは自ら差押えをせずにCに対して配当要求した場合、BはCが差し押さえた90万円についてのみ供託義務を負うことになる。もっとも、Bは、差押えに係る金銭債権の全額である100万円を債務履行地の供託所に供託することもできる(民執156条1項)。これにより全額免責の効果を得ることができる。
(5) 義務供託の供託金払渡手続
① 第三債務者の事情届
差押えが競合した場合も事情届がなされるが、差押えが競合した場合の事情届は先に差押命令を発した裁判所に対してすることとされており、この事情届を受けた執行裁判所が配当等を実施する。
② 債権者の払渡請求
先に差押命令を発した執行裁判所は支払委託書を送付して供託所に対して支払委託をし、債権者に対し支払証明書を交付する。債権者は、この証明書を払渡請求書に添付して還付を受ける(供託規30条)。
(6) 差押えが失効した場合
差押えの競合または配当要求により第三債務者が供託した後、申立ての取下げや取消しによって差押えの効力がすべて失われた場合も、差押えが競合しない場合と同様に、供託金の払渡しは執行裁判所の支払委託によりなされるのが原則だが、債務者Aから供託金払渡請求書に差押命令が取り下げられたこと、または差押命令の取消し決定が効力を生じたことを証する書面等を添付して供託金の払渡請求があったときは認可して差し支えない(昭55.9.6民四5333号、平17.3.1民商544号)。