• 供託法ー3.弁済供託
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  • Sec.1

1弁済供託の目的

堀川 寿和2022/02/08 09:32

弁済供託の目的

(1) 供託の目的たる債務

弁済供託の目的たる債務は、いかなる原因に基づいて生じたものかは問わない。

① 不法行為に基づく損害賠償債務の供託

交通事故による損害賠償債務について、債務者(加害者)が客観的に相当と認めた賠償額を提供したが受領を拒否されたときは供託することができる(昭38.12.27民甲3373号)。自動車事故の加害者は損害賠償債務として任意に算定した額について弁済供託をすることができる(昭41.7.5民甲1749号)。不法行為に基づく損害賠償債務については賠償額に争いがあっても民法494条の要件を満たす限り弁済供託をすることができ(昭32.4.15民甲710号)、また、不法行為に基づく損害賠償債務または不当利得の返還債務等は必ずしも債務額が明確でなく、当事者間で争いがある場合であっても、客観的にはその額は定まっており、不確定の債務ではなく、したがって弁済供託の目的となる。

↓ これに対して

夫婦間における扶助または婚姻費用の分担の内容などは、まず夫婦当事者の協議で定めるものとされており、その協議が調わずまたは協議ができないときは、扶助または婚姻費用分担権利者の需要および同義務者の資料ならびにその他一切の事情を考慮して夫婦の一方から家庭裁判所に調停または審判の申立てをし、そこで決められることになる。そのため、夫が子と共に別居中の妻に対して自己に扶養義務があるとして自己の考えにより一方的に扶養料を算定し、それを妻に提供しても、その提供は債務の本旨に従った弁済の提供をしたとはいえず、受領拒否を理由として供託することはできない(平4全国供託課長会合同決議)。

 

先例

(昭55.6.9民四3273号)

 

不法行為に基づく損害賠償債務の弁済供託についても、損害額に対し不法行為時から提供時までの遅延損害金を付して供託したものであることを要する。

⇒ 不法行為時(損害発生時)から遅滞に陥るためである(最昭37.9.4)。

 

② 手付金の弁済供託

契約を解除するにあたり、手付金の倍額を返還しようとしたが受領を拒否された場合において、手付金を受領した時からの利息を付けないで弁済供託があったときは受理して差し支えない(昭41.7.5民甲1749号)。これは、特段の意思表示がない限り手付は解約手付と推定され、解除権の行使には手付の倍額の提供が債務の本旨による弁済となるため、たとえ弁済期日後に供託する場合でも、遅延損害金を加えることは要しないからである。

 

③ 公共料金等の弁済供託

電気料金の値上げに反対する需要者が、改訂前の電気料金を電力会社に提供して拒否されたとする弁済供託は受理することができない(昭50.3.17民四1448号)。

↓ これに対して

先例

(昭51.8.2民四4344号)

 

公営住宅については借家法7条の適用があるため、家賃の値上げを不当なものとして、賃借人が従前の家賃または自己が相当と認める額の家賃を提供して、その受領を拒否された場合には、受領拒否を原因として供託することができる。

 

(2) 債務の現存性・確定性

債務は、現存し、かつ確定していなければ供託することはでない。したがって、たとえば、来月分の賃料につき、受領拒否を理由としてあらかじめ供託することは認められないことになる。

 

先例

(昭24.10.20民甲2449号)

 

地代・家賃等継続して発生する債務についても、その先払いの特約がない限り、将来発生すべき賃料をあらかじめ供託することはできない。

⇒ 受領しないことが明らかであっても同様である(昭40.10.5民甲2828号)。

 

先例

(昭39全国会同決議)

 

家賃の弁済供託において、係争中のため受領しないことが明らかな場合でも、弁済期前に供託することはできない。