• 供託法ー3.弁済供託
  • 3.債務の本旨にしたがった供託
  • 債務の本旨にしたがった供託
  • Sec.1

1債務の本旨にしたがった供託

堀川 寿和2022/02/07 16:42

債務の本旨にしたがった供託

(1) 一部供託の有効性

一部の弁済提供は債務の本旨に従った提供ではないことから、受領を拒否されてもそれを理由に供託することはできず、誤って受理されても供託は無効である(大昭12.8.10)。不足額のみを追加して供託することはできず改めて全額の供託をする必要がある。ただし、不足額がわずかな場合(たとえば、数百円程度の場合)は信義則上有効な提供となり、供託も無効とすべきではない(最昭35.12.15)。また、一部ずつの弁済供託の合計額が全債務額に達する場合は、供託は有効である(最昭46.9.21)。

 

(2) 超過供託の有効性

過大な弁済供託は受理されない(昭38.2.4民甲351号、昭41.12.15民甲3620号)。

錯誤により債務額を超える額を供託してしまったときは、債務の同一性が認められる限り、本来の債務額の範囲で供託自体は有効であるとする(福岡高昭49.1.29)。この場合、超過部分については錯誤を証する書面を添付して取り戻すことができる(昭36.4.8民甲816号認可)。

 

(3) 利息制限法違反の供託

利息制限法所定の利率を超えた利息や遅延損害金を付した供託は受理できないが、所定の限度に引き下げて申請があれば受理される(昭38.1.21民甲45号)。

 

(4) 履行期後の供託

履行期を経過してから弁済するときは、元本と履行期後の遅延損害金とを併せて提供しなければ債務の本旨に従った提供とはならないため、それをしないで受領を拒否された場合、受領拒否を理由とする供託は受理することができない(昭36.4.4民甲808号)。たとえ遅延損害金の額が謹少なものであっても元金のみを供託することができない。したがって、毎月末に支払うべき地代、家賃につき、過去の数か月分をまとめて提供したが、その受領を拒否されたとして供託するためには、各月分につきその支払日から提供日までの遅延損害金を付して提供することが必要である。

cf. 取立債務の場合にも原則として口頭の提供は必要であるが、銀行預金や給与債権など債務の履行期および場所が確定しておりこれを債権者も了知し、かつ受領行為以外に債権者の協力が不要である取立債務については口頭の提供を要せず債務者はあらかじめ支払いの準備をしておくだけで遅滞の責を免れる。そしてこのような場合には遅延損害金を付すことなく受領不能を原因として弁済供託することができる。

 

先例

(昭38.5.27民甲1569号)

 

家賃の弁済期徒過後、家賃のみを提供して受領を拒否された場合は、供託することができない。

 

先例

(昭36.4.4民甲808号)

 

期日に債務の履行をなさず、1か月経過後に債権者に提供して受領を拒否された場合、元本の他に利息・損害金等があるときは、それらをも提供したのでなければ債務の本旨に従った提供とならないので、受領拒否を理由とする供託は受理することができない。

 

先例

(昭38.5.18民甲1505号)

 

持参債務の定めがある地代・家賃につき数か月履行遅滞があったため債権者から期日を指定して催告があり、その期日に提供したが受領を拒否された場合、遅延損害金と共に提供したのでなければ、供託は受理できない。

 

先例

(昭43.4.8民甲808号)

 

取立債務につき債権者が取立てに来ないため、民法493条ただし書による催告をしたが、なお取立てがないため弁済供託をする場合には、支払日から催告日までの遅延損害金を付して供託すべきである。この場合、供託書中の備考欄に利率(約定がない場合には法定利率)、遅延日数、損害金の額を記載し、元金と共に提供した旨を記載する。

 

(5) 期限の利益の放棄と弁済供託

利息および弁済期の定めのある金銭消費貸借契約の債務者は、弁済期が未到来の場合であっても、その受領を拒否されたときは、借用金額および弁済期までの利息を提供して弁済供託することができる(支払日まででは足りない!)。期限の利益を放棄して弁済期前の弁済もできるが、その場合は相手方の利益を害することができないためである。

 

先例

(昭39.2.3民四43号)

 

金銭消費貸借の借主が期限の利益を放棄して弁済をする場合に、借用金額および弁済期までの利息を提供して拒否されたものであれば、当該金額を供託することができる。