- 供託法ー3.弁済供託
- 2.供託原因
- 供託原因
- Sec.1
1供託原因
■供託原因
(1) 供託原因の種類
民法494条は、弁済供託の原因について次の3つを規定している。
供託原因 |
1. 債権者が弁済の受領を拒んだこと(受領拒否) |
2. 債権者が弁済を受領することができないこと(受領不能) |
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3. 弁済者の過失なくして債権者を確知できないこと(債権者不確知) |
(2) 受領拒否
① 意義
債務者が債務の本旨に従った適法な弁済の提供をしたにもかかわらず債権者がこれに応じなかった場合である。ただ、受領拒否となるためには適法な弁済の提供をしなければならず、これをしなかったときはここでいう受領拒否にあたらず、受領拒否を原因として供託しても無効である。
② 弁済の提供
前述のとおり、受領拒絶を理由に供託する場合、弁済者はまず弁済の提供をしなければならず、これをせずにいきなり供託しても供託は要件を欠き、債務免脱の効果は生じない。
ここでいう、弁済の提供とは、民法493条の規定によると、原則として現実の提供でなければならず、あらかじめ債権者が受領を拒否している場合でも、口頭の提供をする必要があり、それをしないでなされた供託は無効であるとするのが判例・実務の扱いである。
民法493条
債務の弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
判例 |
(大明40.5.20)(大大10.4.30) |
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受領拒否を理由として供託するためには、債権者を受領遅滞に陥れることが必要である。債権者が予め受領を拒否している場合でも口頭の提供をして債権者を受領遅滞に陥れてからでなければ供託することはできない。 |
↓ したがって
先例 |
(昭36.11.9民甲2766号)(昭41.12.8民甲3325号) |
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取立債務につき債権者が約定日に取り立てにこない場合でも、債務者は言語上の提供(口頭の提供)をしない限り供託できない。債務者が期限の経過後に供託するためには口頭の提供が必要である。 |
先例 |
(昭39.9.3民甲2912号) |
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建物賃借人が賃貸人の設定した当該建物の抵当権者に対して弁済期日に賃貸人に代わって弁済の提供をしたが、抵当権者がその受領を拒否した場合、受領拒否を理由として供託することができる。 |
⇒ 抵当権が実行されると明渡しを余儀なくされるからである。
③ 受領拒否の意思が明らかな場合(不受領意思明確)
債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しないことが明らかな場合には、判例(大大11.10.25、最昭41.32.6.5)・先例(昭28.11.28民甲2277号)ともに、債務者は口頭の提供をしなくても直ちに供託をして債務を免れることを認める。
先例 |
(昭38.6.22民甲1749号) |
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家屋の明渡請求があり、あらかじめ受領を拒否された程度では家賃の弁済供託は受理できない。 |
⇒ あらかじめ受領を拒否した程度では受領しない意思が明白であるとはいえず、なお受領の催告を要する。
↓ これに対して
先例 |
(昭38.2.4民甲351号) |
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受領しない理由が賃借権自体を否認している場合は、それのみで受領しない意思が明白であるといえる。 |
先例 |
(昭37.5.25民甲1444号) |
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供託書の供託原因中に、債権者が賃料を受領しないことが明らかである事項の記載がある場合には供託を受理され、この場合には遅延損害金と共に供託する必要はない。 |
⇒ 受領しないことが明らかである以上、債務者が弁済期に弁済の提供をしなくても債務不履行の責は負わないためである。
↓ これに対して
判例 |
(最昭44.5.1) |
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経済状態が不良で弁済の準備ができないような債務者が債権者の不受領意思明確を理由として供託する場合は、履行遅滞に基づく遅延損害金と併せて供託する必要がある。 |
先例 |
(昭37.5.31民甲1485号) |
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家屋明渡しの請求を受けることにより債権者はあらかじめ受領しないことが明らかである旨記載して弁済供託の申請があった場合、係争中であれば「家屋明渡請求を受け目下係争中のため」と補正させたうえ受理するのが相当である。 |
⇒ 形式的審査権しかない供託官としては供託書の記載から受領しないことが明らかな場合かどうかを判断せざるを得ず、そのため単に明渡請求を受けたというだけではそれが明らかとはいえず、明渡に関して係争中である行の記載が必要であるとする。
(3) 受領不能
債権者が弁済を受領できない場合を受領不能という。債務者が弁済不能な場合である。受領不能のパターンとしては、持参債務の場合における債権者の不在、住所不明などのような「事実上の受領不能」と、債権者が制限行為能力者で法定代理人または保佐人がいない場合のような「法律上の受領不能」の場合とがある。
判例 |
(大昭9.7.17) |
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債権者その他弁済受領の権限を有する者が弁済の場所である債権者の住所にいないため弁済できないときは、その不在が一時たると否とを問わず債権者の受領不能に該当するものとして債務者の供託は有効である。 |
⇒ すなわち、不在は一時たると否とを問わない。したがって、債権者が海外出張のため不在である場合でも、受領不能を理由とする弁済供託ができるし、持参債務の債務者が弁済期日に電話で債権者の存否問い合わせたところ不在で受領できない旨の返答があった場合のように一時的不在も受領不能に該当する。
(4) 債権者不確知
弁済者の過失なくして債権者が誰であるかを確知することができない場合である。したがって、債権者不確知を理由とする供託は、債権者が誰であるかを知ることができないことについて、債務者に過失がある場合にはすることができない。債権者に相続が開始してその相続人が不明な場合や、債権譲渡が行われたがその譲渡の効力をめぐって譲渡当事者間で争いがあり、いずれが債権者であるか判断できない場合等が債権者不確知の例である。弁済供託においては供託の当事者として被供託者が具体的に確定しているのが原則であるが、被供託者が確定していない場合でも、このように一定の要件を満たしていれば債権者不確知による弁済供託をすることができる。
先例 |
(昭37.7.9民甲1909号) |
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債権者が死亡し、相続人が不明のため債権者不確知で供託する場合は、被供託者の表示は「住所何某の相続人」とするのが相当である。この場合には、相続人の有無および相続放棄の有無などの調査をする必要はない。 |
⇒ この場合、死亡した債権者の住所地を管轄する供託所に供託することになる。債務者の住所地の供託所ではない。
先例 |
(昭40.5.27民甲1069号) |
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妻名義の銀行預金について離婚後夫婦がそれぞれ印鑑と証書の一方のみを所持して互いに自らが預金者だと主張し現に係争中の場合、(債務者たる銀行は)債権者不確知を原因とする供託ができる。 |
先例 |
(昭59全国会同決議) |
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確定日付ある債権譲渡通知が、第三債務者に同時に到達した場合は、債権者不確知を原因とした供託はすることができない。 |
⇒ この場合、各債権者は全額の弁済請求ができ、債務者はそれに応じざるを得ず、いずれかに弁済すれば免責される(最昭55.1.11)ため、債権者不確知にあたらないからである。
↓ これに対して、
債権が二重に譲渡され、いずれの債権譲渡の通知も確定日付ある通知でなされている場合は、譲受人同士の優劣は確定日付に付された日付の先後ではなく、当該通知が到達した先後により決するため(最昭49.3.7)、先に通知が到達した譲受人に対して弁済すればよく、債権者不確知とはいえない。
↓ これに対して、
先例 |
(平5.5.18民甲3841号) |
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第三債務者から債権譲渡通知等の到達の先後関係が不明であるとして債権者不確知を原因とする供託の申請があったときは、受理して差し支えがない。 |
↓ これに対して、
確定日付のある債権譲渡通知を受けた債務者が誤ってその通知書を紛失し、真の債権者が不明になった場合であっても債務者は債権者不確知を理由として供託することはできない。債権者が誰であるかを知ることができないことにつき、債務者の過失があるためである。
判例 |
(最平6.3.10) |
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供託者が還付請求権を有しない者を被供託者として指定したときは、供託は無効とされるが、債権者不確知供託の場合は供託者が過失なく還付請求権を有する者が複数の中のいずれであるかを確実にすることができないときにすることができるものであるから、被供託者の中に還付請求権を有しない者があり得るのは当然のことであり、被供託者の中に還付請求権を有しない者があっても、還付請求権を有する者が含まれている以上、供託は無効とはならない。 |