- 宅建業法ー9.8種制限
- 4.手付金の額等の制限
- 手付金の額等の制限
- Sec.1
1手付金の額等の制限
■手付金の額等の制限
手付は、契約の成立の時点で買主から売主に交付されるもので、通常次のような意味をもつ。
① 証約手付 … 契約の成立した証拠として交付されるもの(一般的には代金の5%程度)。
② 解約手付 … 契約成立の証拠の意味に加えて、買主からは手付の放棄により、売主からは手付の倍返しにより、契約を解除できるものとして交付するもの(一般的には代金の20%程度)。 ③ 違約手付 … 買主に債務不履行があれば、売主がこれを没収するものとして交付されるもの等(ただし、解約手付との区別は困難)。 |
宅建業法では、宅建業者が自ら売主となる場合に交付された手付はすべて解約手付とみなすこととしている。したがって反証はできず、どのような趣旨で交付した手付であってもすべて「解約手付」となる。
すると、その額が代金額と比べて著しく高いと、買主にとって酷な結果となる(手付放棄によって解除したくても、放棄の金額が高額なため、惜しくて解除できない)。そこで、宅建業法は、次の規定を置く。
① 宅建業者が、自ら売主となる宅地建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであっても、買主はその手付を放棄して、売主である宅建業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。
ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、解除をすることができない。 なお、これらに反する特約で、買主に不利なものは、無効となる。 ② 宅建業者は、自ら売主となる宅地建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができない。 |
本来、契約を解除するためには、相手方が債務不履行に陥っている等、法律上特に解除権が発生する場合に該当することが必要である(解除理由の存在)。
しかし、解約手付は、約定解除であり、当事者があらかじめ、なんら解除理由がなくても手付金の損失さえ覚悟すれば契約をなかったことにできるというものである(無理由解除権の留保)。
Point1 解除権の行使については、契約の「相手方が履行に着手」した後は行使できない。契約に着手すれば、相手方は契約の実現に期待を持つであろうから、その期待を裏切ってはいけないと考えたのである。逆に、自ら履行に着手していても、相手方が着手していなければ、契約を解除できる。
Point2 中間金(契約成立から義務履行(財産引渡しなど)までの間に支払う、売買代金額の一部)の支払いは、買主にとっての履行の着手にはなっても、売主にとっての履行の着手にはならない。よって、買主側からは引き続き手付放棄による解除が可能である。
Point3 手付解除は、契約当事者があらかじめ契約により解除権を留保する「約定解除」である。そこで、手付解除以外の解除、すなわち法定解除(債務不履行解除、契約不適合責任による解除等)や合意解除をした場合には、交付した手付金の返還請求ができることに注意が必要である(これは、買主側の債務不履行の場合も同様)。
Point4 「10分の2を超えることはできない」とは、10分の2を超えた部分は、手付としての効力はないという意味である(単純な一部金扱いになる)。したがって、1,000万円の物件の売買契約で300万円の手付を交付した場合は、買主は、手付解除したうえで、手付としての効力がない100万円の返還を請求できるということになる。手付契約自体が無効となるわけではない。