- 民事保全法ー6.仮処分の効力
- 1.不動産所有権についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力
- 不動産所有権についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力
- Sec.1
1不動産所有権についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力
■不動産所有権についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力
(1) 不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行の方法
不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く)を請求する権利(以下、登記請求権という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う(民保法53条1項)。仮登記請求権が除かれているのは、処分禁止の登記には対抗力が認められているため、対抗力がなく順位保全効を有するにすぎない仮登記請求権にこれを認めることは適切でないためである。
① 不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行
具体的には、不動産所有権の保存・移転•消滅及び不動産に関する所有権以外の権利の移転・消滅についての登記請求権保全のための処分禁止の仮処分である。
この場合の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。
② 不動産に関する所有権以外の権利についての登記又は登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分
具体的には、不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行である。
この場合は、処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記(保全仮登記)をする方法により行う(民保法53条2項)。
登記請求権
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所有権 |
所有権以外の権利の移転・消滅 |
所有権以外の権利の 保存、設定、変更 |
仮処分の執行方法 |
処分禁止の登記 |
処分禁止の登記 + 保全仮登記 |
(2) 不動産に関する権利についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行
① 相対的効力
不動産の登記請求権保全のための処分禁止の仮処分が執行されても、債務者は当該不動産の処分権能を失わない。ただし、民保法53条1項の処分禁止の登記の後にされた登記に係る権利の取得又は処分の制限は、同項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をする場合には、その登記に係る権利の取得又は消滅と抵触する限度において、その債権者に対抗することができない(民保法58条1項)。
不動産を買い受けたが、売主が移転登記の申請に協力しない場合、買主は売主を被告として
所有権移転登記手続を命じる判決を得て、単独で登記申請をすることができる。
↓
しかし、実際に判決を得るまでには相当の日数を要し、買主が判決を得る前に売主が第三者
に所有権移転登記をしてしまった場合、買主はたとえ売主に対する勝訴判決を得ても、この
判決に基づき自己名義に所有権移転登記ができなくなってしまう。
↓
そこで、買主は事前にその不動産について現状維持を命じる裁判所の処分である「処分禁
止の仮処分」の登記を入れておくことによって、売主からその後当該不動産を買い受けた
第三者に対抗できるようにしておく。
【甲区】
1 |
所有権保存
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所有者 A |
2 |
処分禁止の仮処分
|
債権者 B |
3 |
所有権移転
|
所有者 C |
② 処分禁止の仮処分の登記に後れる登記の抹消
民保法53条1項の仮処分の債権者(同条2項の仮処分の債権者を除く)は、同条1項の処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができる(民保法58条2項)。つまり、仮処分債権者が、本案の勝訴判決に基づき、その登記請求権に係る登記をする場合には、仮処分債権者は処分禁止の登記後の第三者の登記を、承諾なしに単独で抹消することができることになる。仮処分登記後の第三者の所有権や制限物権などの取得は、仮処分債権者に対抗できないためである。
この扱いは、仮処分債権者が、本案判決に基づき登記する場合のみならず、仮処分債務者との共同申請により登記をする場合も同様である(S37. 6.18民甲1562号)。
【甲区】
1 |
所有権保存
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所有者 A ① |
2 |
処分禁止の仮処分
|
債権者 B ② |
3 |
所有権移転
|
所有者 C ③ |
【乙区】
1 |
抵当権設定
|
抵当権者 甲 ④ |
仮処分に遅れる甲区3番のAからCへの所有権移転登記と乙区1番の甲の抵当権を仮処分債権者Bの単独申請により抹消する場合の登記申請書 記載例
登記の目的 3番所有権抹消
原因 仮処分による失効
義務者 (住所)C
申請人 (住所)B
添付書面 通知を証する情報 代理権限証明情報
登録免許税 金1000円
登記の目的 1番抵当権抹消
原因 仮処分による失効
義務者 (住所)甲
申請人 (住所)B
添付書面 通知を証する情報 代理権限証明情報
登録免許税 金1000円
仮処分に遅れる登記の抹消後、Bが判決によりAからBへの所有権移転登記を単独申請する場合の登記申請書 記載例
登記の目的 所有権移転
原因 平成何年何月何日売買
権利者 (住所)(申請人)B
義務者 (住所) A
添付書面 登記原因証明情報(*) 住所証明情報 代理権限証明情報
課税価格 金1000万円
登録免許税 金20万円
(*)登記原因証明情報として確定証明書付きの判決正本を添付する。
③ 登記の抹消の通知
仮処分の債権者が処分禁止仮処分の効力を援用して、第三者の登記を抹消するときは、あらかじめその登記の権利者に対し、その旨を通知しなければならない。つまり、仮処分の債権者が、民保法58条2項又は4項の規定により登記を抹消するには、あらかじめ、その登記の権利者に対し、その旨を通知しなければならない(民保法59条1項)。
この通知は、これを発する時の同項の権利者の登記簿上の住所又は事務所にあてて発することができる。この場合には、その通知は、遅くとも、これを発した日から1週間を経過した時に到達したものとみなす(民保法59条2項)。
④ 処分禁止の登記の抹消
仮処分の効力が援用されて登記請求権に係る登記が実現されたときは、処分禁止の登記自体は登記官が職権で抹消する。
完了後の登記記録
【甲区】
1 |
所有権保存 |
所有者 A ① |
2 |
処分禁止の仮処分 |
債権者 B ② |
3 |
所有権移転 |
所有者 C ③ |
4 |
3番所有権抹消 |
原因 仮処分による失効 ④ |
5 |
所有権移転 |
所有者 B ⑥ |
6 |
2番仮処分登記抹消 |
仮処分の目的達成により年月日登記 ⑦ |
【乙区】
1 |
抵当権設定 |
抵当権者 甲 ⑤ |
⑤ 当事者恒定効
処分禁止の仮処分登記をしておけば、債務者に対する登記訴訟係属中に係争不動産が処分されたとしても、仮処分債権者は当該第三者に訴訟を承継させる必要がなく、そのまま仮処分債務者を被告として訴訟を続行すれば足りることになる。上記の事例でいうと、BがAに対して訴訟を提起した後に、AからCに所有権が移転しても、A・B間の訴訟を続行すればよく、Cに訴訟承継させる必要はない。