• 民事保全法ー4.保全命令に対する不服申立て
  • 2.保全異議
  • 保全異議
  • Sec.1

1保全異議

堀川 寿和2022/02/04 13:59

保全異議

(1) 保全異議

 保全命令(仮差押命令、仮処分命令)に対しては、債務者はその命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる(民保法26条)。cf 本案の管轄裁判所に申立てをすることは不可

 

(2) 保全異議申立て

方式

 保全異議の申立ては発令裁判所に書面によってしなければならない(民保規1条3号)。異議申立て期間の制限はない。利益がある限りいつでも認められる。

事件の移送

 保全異議事件の管轄裁判所は保全命令を発した裁判所だが、裁判所は、当事者、尋問を受けるべき証人及び審尋を受けるべき参考人の住所その他の事情を考慮して、保全異議事件につき著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要があるときは、申立てにより又は職権で、当該保全命令事件につき管轄権を有する他の裁判所に事件を移送することができる(民保法28条)。

取下げ

 保全異議の申立てを取り下げるには、債権者の同意を得ることを要しない(民保法35条)。

債権者は保全命令の申立てを債務者の同意なく自由に取り下げることができるが、このことは、保全異議又は保全取消しの申立てがあった後においても同様である(民保法18条)。

 

(3) 保全異議の審理

対象

 審理の内容は、保全命令を発すべきでないのに発したということ、つまり被保全権利及び保全の必要性という保全命令の発令の要件の再審査である。保全命令は債権者のみの一方審尋や書面審理に基づいて発令される場合が多いので、それに対する債務者の不服申立てを認め、改めて同一審級で発令前の状態に立ち戻って、再審理を続行させるものである。したがって保全異議は上訴ではない。

② 手続

a) 決定手続

 保全異議の手続も決定によるため、必ずしも口頭弁論を開く必要がないが、保全異議においては、裁判所は口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ保全異議の申立てについて決定することができない(民保法29条)。保全異議は保全命令が発せられた後の手続であって密行性がなく、また債務者の主張をも含めて再審理を行う手続であるからである。

b) 参考人等の審尋

 裁判所は口頭弁論又は審尋の期日に、参考人又は当事者本人を審審することができる(民保法7条)。

 保全命令の申立てについての審理において提出された資料は、保全異議事件の審理において、すべて資料として利用することができる。

審理の終結

 裁判所は、審理を終結するには、相当の猶予期間を置いて、審理を終結する日を決定しなければならない(民保法31条)。当事者双方に攻撃防御方法を尽くす機会を与えるためである。ただし、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日においては直ちに審理を終結する旨を宣言することができる(同条ただし書)。双方出頭のもとだから、手続保障の機会は与えられているからである。

 

(4) 保全執行の停止

執行の停止・取消し

 保全異議の申立てがあっても、仮差押え、仮処分の執行は当然には停止されない。しかし、一定の要件のもとに保全執行の停止又は既にした執行の取消しが認められる。

執行の停止・取消しの要件

 保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合に限り、裁判所は、申立てにより、保全異議の申立てについての裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全執行の停止又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる(民保法27条1項)。

 

(5) 保全異議の申立てについての裁判

決定の内容

 裁判所は、保全異議の申立てについての決定においては、すでに発せられている保全命令を認可し、変更し、又は取り消さなければならない(民保法32条1項)。当該決定には理由を付さなければならず、また当事者に送達しなければならない(同条4項)。裁判所は、32条1項の決定において、相当と認める一定の期間内に債権者が担保を立てること又は14条1項の規定による担保(保全命令の担保)の額を増額した上、相当と認める一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施又は続行の条件とする旨を定めることができる(民保法32条2項)。

 裁判所は、32条1項の規定による保全命令を取り消す決定について、債務者が担保を立てることを条件とすることができる(同条3項)。

 なお、決定は告知によって直ちに効力を生じ、仮処分命令を取り消す決定も告知によって直ちに生ずるため、仮執行宣言を付す必要はない。

保全命令を取消す決定の効力

 裁判所は、32条1項の規定により保全命令を取り消す決定において、その送達を受けた日から2週間を超えない範囲内で相当と認める一定の期間を経過しなければその決定の効力が生じない旨を宣言することができる(民保法34条)。保全命令の取消し決定の効力が即時に生じると債務者が目的財産を処分してその後債権者が保全抗告によって再度保全命令を得ても保全の目的を達することができなくなる可能性があるため、裁判所の裁量で取消しの効力発生日を遅らせることができるとしたのである。ただし、その決定に対して保全抗告をすることができないときは、この限りでない(同条ただし書)。決定は告知によりただちに効力が生ずるのが原則だが、保全異議の場合、相当でないこともあるためである。

原状回復の裁判

 仮処分命令に基づき、債権者が物の引渡しもしくは明渡しもしくは金銭の支払を受け、又は物の使用もしくは保管をしているときは、裁判所は、債務者の申立てにより、32条1項の規定により仮処分命令を取り消す決定において、債権者に対し、債務者が引き渡し、もしくは明け渡した物の返還、債務者が支払った金銭の返還又は債権者が使用もしくは保管している物の返還を命ずることができる(民保法33条)。