• 民事保全法ー1.民事保全序説
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1民事保全

堀川 寿和2022/02/04 13:35

民事保全

(1) 民事保全の意義

意義

 民事保全とは、民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押え及び係争物に関する仮処分並びに民事訴訟の本案の権利関係につき仮の地位を定めるための仮処分をいう(民保法1条)。

 次の3つの総称である。

 

民事保全

仮差押え

将来の執行保全

仮処分

係争物に関する仮処分

仮の地位を定める仮処分

暫定的法律関係の形成

 

保全処分の必要性

 裁判所の判決があってから強制執行に着手したのでは債務者の譲渡や隠匿等によって権利の実現が困難になることがあり得る。そこで債権者に予め債務者の財産を差し押えたり、係争物の処分を禁止したり、仮の地位を認めるなどの、権利実現の確保の手段が与えられた。この意味で、民事保全は民事訴訟及び強制執行を補完する機能をもつ制度である。

 

(2) 仮差押え・仮処分

仮差押え

 仮差押えは、金銭の支払いを目的とする債権のための民事保全である(民保法20条)。債権者が債務名義を取得し、強制執行により満足を得るまでの期間、債務者の財産を予め差し押えておくために行われる。

               100万円の貸金債権

          A ―――――――――――――――→ B

 

AはBに対して貸金債権を有するが、弁済期になってもBが弁済しなかったため、

AはBに対して貸金返還請求訴訟を提起しようとしている。

                   ↓

Aが勝訴判決を得てから強制執行申し立てをして差押えをすることになるが、

もしBにめぼしい財産がなければ勝訴判決は単なる紙切れに過ぎないことになる。

訴訟提起前にあらかじめBの財産を仮に差押えておくと安心して裁判をすることができる。

係争物に関する仮処分

 係争物に関する仮処分とは、係争物に関する金銭以外の請求権に基づく強制執行を保全するための仮処分をいう。係争物の権利関係や物的状態の変更を目的とする請求権について、その現状維持のために用いられる。

 

                建物の引渡請求

          A ―――――――――――――――→ B

 

       訴訟継続中にBが当該建物を処分するとAはその相手方に

対しても訴訟をしなければならなくなる。

                   ↓

       裁判所に処分禁止の仮処分命令を発令してもらい、その旨

の登記を入れておく。

                   ↓

       仮にBが当該建物をその後に処分しても仮処分債権者Aに

はそのことを対抗できない。

 

仮の地位を定める仮処分

 仮の地位を定める仮処分とは、争いのある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため、本案訴訟の確定まで仮の状態を定めるための仮処分をいう(民保法23条2項)。

 将来の強制執行を保全するためのものでないところが、仮差押えや係争物に関する仮処分と異なる。

 

       株主Aが取締役甲の職務執行に関し不正行為があったとして、

取締役解任請求の訴えを提起。

                   ↓

       この訴訟において甲を解任する判決が確定すれば、甲は取締役と

しての地位は失われるが、この訴え提起によって取締役甲の職務

執行は当然に停止されるわけではない。

                   ↓

       確定判決が出るまでの間に取締役甲が更に不正行為をして会社に

損害を与える可能性がある。

                   ↓

       そこで取締役甲の職務執行の停止を命ずる、「仮の地位を定める仮処分」

を求めることができる。