• 民事訴訟法ー12.債権及びその他の財産権に対する強制執行
  • 3.少額訴訟債権執行
  • 少額訴訟債権執行
  • Sec.1

1少額訴訟債権執行

堀川 寿和2022/02/04 12:44

意義

 少額訴訟債権執行とは、少額訴訟に係る債務名義に基づく金銭債権に対して強制執行をする場合に限り、当該債務名義を形成した簡易裁判所の裁判所書記官に対して金銭債権執行の申立てをする方法である(民執法167条の2第1項3項)。債権執行は原則として地方裁判所が執行裁判所となっているが、少額の債権について簡易・迅速な紛争解決を図ろうとする少額訴訟の趣旨を貫徹させるため、平成16年改正により設けられた制度である。

 

少額訴訟債権執行の手続

(1) 開始手続

執行機関

 次に掲げる少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行は、通常の債権執行の方法による裁判所(地方裁判所)が行うほか、申立てにより、少額訴訟に係る債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官が行うものとする(民執法167条の2第1項)。少額訴訟債権執行の手続において裁判所書記官が行う執行処分に関しては、その裁判所書記官の所属する簡易裁判所をもって執行裁判所とする(民執法167条の3)。

 

債務名義の種類

執行する簡易裁判所の書記官

1.少額訴訟における確定判決

判決をした簡易裁判所

2.仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決

判決をした簡易裁判所

3.少額訴訟における訴訟費用又は和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分

処分をした簡易裁判所

4.少額訴訟における和解又は認諾の調書

和解が成立し、又は認諾がされた簡易裁判所

5.少額訴訟における民訴275条の2第1項の規定による和解に代わる決定

和解に代わる決定をした簡易裁判所

 

 この少額訴訟債権執行は、裁判所書記官の差押処分により開始する(民執法167条の2第2項)。

 裁判所書記官は、差押処分において、債務者に対し金銭債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない(民執法167の5第1項)。

執行の効力

 少額訴訟債権執行の手続において栽判所書記官が行う執行処分は、特別の定めがある場合を除き、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。当該裁判所書記官が行う執行処分に対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる(民執法167の4第1項2項)。

第三者意義の訴え

 少額訴訟債権執行の不許を求める第三者異議の訴えは、民執法38条3項の規定にかかわらず、執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する(民執法167条の7)。通常であれば、執行裁判所の専属であるが、その例外である。

 

(2) 配当要求

 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は、裁判所書記官に対し、配当要求をすることができる(民執法167の9第1項、154条2項)。

債権執行手続への移行

 転付命令等や配当のように重要な手続については少額訴訟債権執行の手続内ではなすことができず、通常の債権執行手続に移行した上でなされる。

 

(1) 転付命令等のための移行

 差押えに係る金銭債権について転付命令又は譲渡命令、売却命令、管理命令その他相当な方法による換価を命じる命令(転付命令等)のいずれかの命令を求めようとするときは、差押債権者は、執行裁判所に対し、地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることを求める旨の申立てをしなければならない(民執法167条の10第1項)。なお、当該申立ての却下決定に対しては、執行抗告をすることができる(同条2項)。

 

(2) 配当等のための移行

 供託された差押えに係る金銭債権について配当を実施すべきときは、執行裁判所は、その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させなければならない(民執法167条の11第1項)。配当の実施をしない場合において、債権者が1人であるとき又は2人以上であって供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは、裁判所書記官は、供託金の交付計算書を作成し、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する(同条第3項)。

 

(3) 裁量移行

 執行裁判所は、差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して相当と認めるときは、その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができる(民執法167条の12第1項)。

 

(4) 移行決定の効果

 移行決定が効力を生じたときは、差押処分の申立て等があったときに地方裁判所に差押命令の申立て等があったものとみなし、すでにされた執行処分その他の行為は、当該地方裁判所における債権執行の手続においてされた執行処分その他の行為とみなされる(民執法167条の10第6項、167条の11第7項、167条の12第3項)。