• 民事執行法ー10.不動産に対する強制執行
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  • 強制競売
  • Sec.1

1強制競売

堀川 寿和2022/02/04 09:20

強制競売の手続

 不動産の強制競売も、他の金銭執行の場合と同じく、差押え⇒換価⇒満足の3段階によって行われる。

 

強制競売の開始

(1) 強制競売の申立て

 強制競売の申立ては、所定の事項を記載した書面によらなければならない(民執規1条)。

この強制競売の申立書には、執行力のある債務名義の正本のほか、登記事項証明書等の一定の書類を添付しなければならない(民執規23条)。

 

(2) 申立ての取下げ

 強制競売申立ての取下げは、買受人の代金納付まで許される。つまり、強制競売手続が終了するまでである。つまり、強制競売開始決定後でも許されるが、買受けの申出後に申立てを取下げるには、原則として最高価買受申出人又は売却許可決定後は買受人及び次順位買受申出人の同意が必要である(民執法76条1項)。

 

(3) 強制競売の開始決定

 執行裁判所は、執行開始の要件、申立ての要件等を審査し、申立てが適法であると認めるときは強制競売の開始決定をする。その開始決定において、強制競売の手続を開始する旨と、債権者のために不動産を差し押える旨を宣言する(民執法45条1項)。申立てが不適法なときは申立て却下の決定をする。この却下決定に対しては執行抗告ができる(同条3項)。

cf 強制競売の開始決定の場合

 強制競売の開始決定の場合には、後の売却不許可決定に対する執行抗告で改めて争うことができるから、この段階では執行異議のみが可能である。

 

(4) 開始決定の送達と登記

 競売開始決定は職権で債務者に送達される(民執法45条2項)。そして、強制競売の開始決定がされたときは、裁判所書記官は、直ちに、その開始決定に係る差押えの登記を嘱託しなければならない(民執法48条1項)。未登記の不動産については登記官が職権で保存登記をして、差押えの登記をする(不登法76条2項3項)。

 

甲区番 所有権移転  所有者 

   番 差押え  平成何年何月何日受付第何号

    原因 平成何年何月何日○○地方裁判所強制競売開始決定  

債権者 X 

 

差押えの効力

 

(1) 効力の発生時期

 差押えの効力は、強制競売開始決定が債務者に送達された時に生ずる。ただし、差押えの登記が送達前になされたときは登記の時に生ずる(民執法46条1項)。しかし差押えの効力が債務者への送達によって生じても、差押えの登記がなければ、その効力を第三者に対抗することはできない。つまり、登記が対抗要件ということである。

 

(2) 差押えの効力が及ぶ範囲

 差押えの効力が及ぶ範囲は、目的不動産と付加して一体をなす物及び従物、従たる権利(ex地役権)に及ぶ。建物の差押えの効力は原則として債務者の有する敷地利用権にも及び、買受人は建物所有権とともに敷地利用権も取得する(東京地S33.7.19)。

 

(3) 差押えの効力発生後

使用収益

 差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用・収益することを妨げない(民執法46条1項)。つまり、買受人が不動産を取得するまで、使用収益を継続できるのが原則である。

処分禁止効

 差押えの本質的効力は、目的財産に対する債務者の処分を禁止することである。しかし、この処分禁止の効力に違反してなされた債務者の処分も絶対的に無効とされるのではなく、その処分をもって差押債権者に対抗することができないという意味であり、処分の当事者間では有効である(相対的無効)。

手続相対効説

 処分の効力を対抗できない債権者の範囲が問題となるが、民事執行法は手続相対効の立場に立ち、債務者の抵触処分は、執行手続に参加するすべての債権者に対抗できないとする。したがって、抵触行為後の差押債権者や配当要求債権者に対しても、処分の効果を対抗できないことになる。

cf 個別相対効説

 

 

 上記の事例でXの債権者AがX所有の不動産に差押え後、Xが当該不動産をYに譲渡した場合、差押債権者AはYに対抗できる(つまりXとの関係では譲渡は無効として扱われる)ことはもちろん、その後差押えをしたBやAの差押えに対し配当要求したCもYに対抗できる。つまりX・Y間の譲渡は無効なものとして配当にあずかることができる。手続相対効説からの帰結である。