• 民事執行法ー4.違法執行・不当執行の救済
  • 5.請求異議の訴え
  • 請求異議の訴え
  • Sec.1

1請求異議の訴え

堀川 寿和2022/02/03 15:10

意義と趣旨

 請求異議の訴えとは、債務名義によって確定された請求権が、その後の弁済や相殺などを理由として実体法上変更されたことを理由として債務名義の執行力の排除を求める訴えをいう(民執法35条)。つまり債務名義自体の効力を否定するものではなく、その債務名義による強制執行の不許を求めるものである。いわば債務名義の執行力の排除を目的とする訴えである。

 執行機関は債務名義記載の債権の有無を調査することなく執行を開始するため、債務名義の成立後にそこに記載された債権が消滅又は内容が変更されていても執行機関はそれを把握しておらず、申立てどおりに執行を開始する。そこで、債務者が不当執行として訴えをもって債務名義の執行力の廃除を求めるのが、請求異議の訴えである。

請求異議が認められない債務名義

 請求異議の訴えは、すべての債務名義につき、その執行力排除のために認められるのが原則である。ただし、次の例外がある。いずれも、請求異議の訴えによらなくても、他の不服申立て方法が認められている場合である。

確定前の仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促

 通常の不服申立て方法(上訴や異議申立て)によることができるからである。

不動産担保権の実行

 執行抗告又は執行異議の申立てが認められているからである(民執法182条)。

仮差押え・仮処分命令

 保全異議又は事情変更による保全取消しが認められているからである。

異議事由

(1) 請求権の存在についての異議

 請求権の不存在による債務名義の執行力の排除を求める異議である。

 請求権が弁済、免除、消滅時効の完成、相殺、解除などにより消滅したこと、契約の不成立、錯誤、詐欺、強迫による取消し、無権代理による不存在などに基づき、債務名義の執行力の排除を求める場合である。

(2) 請求権の内容についての異議

 請求権の存在を前提として、その内容や容態が債務名義の表示と異なることにより、債務名義の執行力の一時的・延期的排除を求める異議である。債権者による期限の猶予、延期の合意、停止条件の付加などを主張する場合がこれにあたる。裁判以外の債務名義の成立についての異議債務名義の作成手続における瑕疵の存在によってその執行力の排除を求める異議である。

 

(3) 裁判以外の債務名義の成立についての異議

 債務名義の作成手続における瑕疵の存在によってその執行力の排除を求める異議である。

 債務名義が執行証書の場合に問題となる。執行証書の作成嘱託・執行受諾の陳述をした代理人に代理権がなかった場合や、執行受諾の意思表示に錯誤があったことを主張する場合である。和解調書や調停調書についても作成手続の瑕疵を異議事由とすることができる。執行証書と同様にこれらの債務名義も、取消しや変更を求めるための上訴や再審等の制度が設けられてないからである。