• 民事執行法ー4.違法執行・不当執行の救済
  • 2.執行抗告
  • 執行抗告
  • Sec.1

1執行抗告

堀川 寿和2022/02/03 15:00

執行抗告の意義

 執行抗告とは、民事執行手続に関する執行裁判所の裁判に対する不服申立てである。抗告理由は、手続違背に限られる。

執行抗告事由

 執行抗告は、特別の規定がある場合に限って許される(民執法10条1項)。執行手続の先延ばしのために利用されるのを防ぐ趣旨である。執行抗告事由代表例としては、次のとおりである。

執行抗告却下決定(民執法10条8項)

民事執行12条1項の裁判(民執法12条1項)

1. 民事執行の手続を取消す旨の決定

2. 民事執行の手続を取消す執行官の処分に対する異議申立てを却下する裁判

3. 執行官に対して民事執行の手続の取消しを命ずる決定

強制競売の申立て却下の裁判(民執法45条3項)

配当要求却下の裁判(民執法51条2項 105条2項 154条3項)

売却許可・不許可の決定(民執法74条1項)

引渡命令の申立てについての決定(民執法83条4項)

強制管理の申立てについての決定(民執法93条5項)

債権差押命令の申立てについての裁判(民執法145条6項)

転付命令の申立てについての決定(民執法159条4項)

財産開示手続の申立てについての裁判(民執法197条5項)

代替執行・間接強制の申立てについての裁判(民執法171条5項172条5項)

 上記のうち、② は確定しなければその効力を生じない。

執行抗告の手続

(1) 抗告状

 抗告の提起は、裁判の告知を受けた日から1週間(不変期間)内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない(民執法10条2項)。

 

(2) 抗告権者

 その裁判に対して不服の利益を有する債権者、債務者、その他の利害関係人である。

 

(3) 抗告理由書の提出

 抗告状に抗告理由を記載しないときは、抗告提起のときから1週間以内に抗告理由書を原裁判所に提出しなければならない(民執法10条3項)。抗告の理由は、最高裁判所規則で定めるところにより記載しなければならない(同条4項)。

 

(4) 原裁判所による手続

執行抗告の却下

 次の場合には、原裁判所は執行抗告を却下しなければならない(民執法10条5項)。理由のない抗告を原裁判所の段階で却下させる趣旨である。

(イ)執行抗告の理由書の提出がないとき(①号)

(ロ)理由書の提出があっても、その記載が明らかに最高裁判所規則に違反しているとき

   (②号)

(ハ)執行抗告が不適法であって、その不備を補正できないことが明らかなとき(③号)

(ニ)執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものである

   とき(④号)

 この却下決定に対しては、執行抗告をすることができる(民執法10条8項)。これを認めないと、抗告人は抗告理由について、抗告審で判断してもらうことができなくなってしまうからである。

再度の考案

 原裁判所は抗告理由が正当だと思えば自ら原裁判を取り消し、変更することができる(民執法20条、民訴法333条)。

抗告裁判所への送付

 原裁判所が抗告を却下せず、また再度の考案による取消しも変更もしなかったときは、事件を抗告裁判所へ送付する。

 

(5) 抗告裁判所による処理

執行抗告の却下

 原裁判所が執行抗告を却下すべきであったのに却下しないで事件を送付してきたときは、抗告裁判所が却下する。

抗告裁判所の調査

 抗告裁判所は、抗告状又は執行抗告の理由書に記載された理由に限り調査する。ただし、原裁判に影響を及ぼすべき法令違反又は事実の誤認の有無については職権で調することができる(民執法10条7項)。

抗告審の裁判

 執行抗告については特別の規定がなく、かつ執行抗告の性質に反しない限り民事訴訟法の規定が準用される。よって抗告裁判所は抗告につき口頭弁論によらないで審理することができる。口頭弁論をしない場合には当事者又は当事者の申し出た参考人を審尋することができる。

(イ)原裁判を維持すべきとき

 抗告を棄却する。

(ロ)原裁判が不当で執行抗告に理由があると判断したとき

 原裁判を取り消し、又は変更の決定をする。