- 宅建業法ー5.業務上の規制
- 3.契約における規制
- 契約における規制
- Sec.1
1契約における規制
ここでは、契約に関連して、宅建業法が禁止している事項をまとめて述べる。
■契約時の制限・義務等
(1) 契約締結時期の制限
前節「広告時期の制限」とも関連するが、宅建業者としては、未完成物件でも広告はおろか、契約までも締結してしまいたいのが本音である。これに対して、一般消費者としては、契約した物と完成した物とが同じであることが保証されなければならず、それがない段階では契約したくない。この両者の利益調整として、以下の規定がある。
宅建業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、開発許可、建築確認等の処分があった後でなければ、取引のうち、売買、交換契約を、自ら行い、あるいは代理・媒介してはならない。 |
本条は、広告開始時期の制限と異なるところが一つだけある。「広告開始時期の制限」は、すべての取引の態様について適用されるが、「契約締結時期の制限」は、取引のうち「売買・交換」についてのみ制限される。「貸借」の代理・媒介については制限されないという点である。
なぜ貸借の代理・媒介が制限から除かれたのかは明らかでない。強いていうならば、未完成物件について賃貸借の契約が結ばれたとしても、実際にお金を払うのは完成した後であるから、損害の発生する蓋然性が低いということであろうと考えられる。
(2) 宅建業者の業務処理原則
宅建業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない。
宅建業者は業務を適正に実施するために必要な従業者教育を行うよう努めなければならない。 |
(3) 秘密を守る義務
宅建業者あるいはその従業者は、業務に関して取引相手の重要な秘密を知ることが多い。それを勝手に吹聴することを認めると、宅建業者全体の信用を損ねることとなる。そこで、厳しく秘密を守る義務が規定されているのである。他の職業(医者、弁護士等)にも守秘義務が課せられているものがある。
① 宅建業者は、正当な理由なくして、業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅建業をやめた後も同様である。
② 宅建業者の従業者は、正当な理由なくして、業務を補助して知り得た秘密を他人に漏らしてはならない。退職した後も同様である。 |
「正当な理由」とは、裁判の証人となったとか、その土地を売る場合等が挙げられる。
また、「業務上知り得た秘密」となっているので、業務によらずに知った秘密、例えば、偶然取引相手がその場にいて、その秘密を耳にした場合等には、それを漏らしてもここにいう「守秘義務違反」とはならない。
■契約時の禁止事項
(1) 不当に高額の報酬を要求する行為の禁止
報酬については法律が最高額を定めているが、それよりも「不当に高額」な報酬を要求することを禁じている。これを許したのでは、法を定めた意味がなくなるので至極当然の規制である。
宅建業者は、その業務に関して、相手方等に対して、不当に高額の報酬を要求する行為をしてはならない。 |
「不当に」とされているので、単に法定の報酬限度額を少し超えただけでは本条違反とはならない(報酬額の制限の規定には違反する)。誰が見ても「暴利だ」といえる程度になって初めて本条違反となる。
また、「要求する行為」自体が禁止されているので、相手がそれに応じることなく、結局、正規の報酬しか取れなかった場合でも、本条に違反することはある。
((2) 手付の貸与等による契約締結の誘引の禁止
これは、客が下見に来たような場合に、手付を貸し付けるとか、手付を分割するなどといって契約を誘引する行為を禁じたものである。一般消費者が業者のそのような行動・言動に惑わされ、慎重を欠いた意思表示をしてしまうことを避けるための規定である。
宅建業者は、その業務に関して、手付について、貸付けその他信用の供与をすることにより、契約の締結を誘引する行為をしてはならない。 |
あくまでも、「手付」について信用の供与をすることが禁じられている。代金ではないので注意。「信用の供与」とは、手付の支払延期、手形での支払い、分割払い等をいう。
ここでも、「誘引する行為」が禁じられている。よって、それに応じて契約をしなくても本条違反である。
(3) 不当な遅延行為の禁止
宅建業法は、「宅建業者は、その業務に関してなすべき宅地建物の登記、引渡又は取引に係る対価の支払いを、不当に遅延してはならない」(宅建業法44条)と定める。「不当に」とされているので、正当な理由、たとえば、同時履行の抗弁権がある場合等は、遅延しても不当ではないことになる。
(4) 断定的判断の提供の禁止
これは、物件の販売などに関し「この土地は絶対に値上がりします」等といった、『断定的判断』を提供し契約の締結を促すような行為を禁じるものである。
宅建業者又はその代理人、使用人その他の従業者は、契約の締結の勧誘をするに際し、相手方等に対し、利益を生じることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供する行為をしてはならない。 |
※「行為をしてはならない」ので、実際に契約が成立したか否かは問わない
(5) 相手方等威迫の禁止
これも当然のことながら、契約の相手方を脅す(威迫という)ような行為は禁止される。
宅建業者又はその代理人、使用人その他の従業者は、契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回もしくは解除を妨げるため、相手方等を威迫してはならない。 |
※この場合も、威迫する行為そのものが禁じられている。
(6) その他の禁止行為
① 宅地・建物の将来の環境または交通の利便について、誤解させるべき断定的判断を提供する行為
② 正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒む行為 ③ 当該勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号または名称及び当該勧誘を行う者の氏名並びに当該契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行う行為 ④ 宅地建物取引業者の相手方等が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示したにも関わらず、当該勧誘を継続する行為 ⑤ 迷惑を覚えさせるような時間に電話し、または訪問する行為 ⑥ 深夜または長時間の勧誘その他の私生活または業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させる行為 ⑦ 宅建業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒む行為 ⑧ 宅建業者の相手方等が手付を放棄して契約の解除を行うに際し、正当な理由なく当該契約の解除を拒み、妨げる行為 |
■チェック問 業務上の規制 問題
【チェック問 業務上の規制 問題】
1. 宅建業者Aがテレビやインターネットを利用して行う広告は、新聞の折込チラシや配布用のチラシと異なり法の規制の対象とならない。
2. 宅建業者Aは、建物の売買の広告に当たり、当該建物の形質について、実際のものよりも著しく優良であると人を誤認させる表示をした場合、当該建物に関する注文はなく、取引が成立しなくても、Aは監督処分及び罰則の対象となる。
3. 宅建業者Aは、実在しない宅地について広告又は虚偽の表示を行ってはならないが、実在する宅地については、実際に販売する意思がなくても、当該宅地の広告の表示に誤りがなければ、その広告を行うことができる。
4. 宅建業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事が完了するまでの間は、当該工事に必要な都市計画法に基づく開発許可、建築基準法に基づく建築確認その他法令に基づく許可等の処分があった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をすることはできない。
5. 宅建業者Aは、都市計画法第29条第1項の許可を必要とする宅地の造成工事着手前において、当該許可を受けていない場合であっても、当該許可を受けることを停止条件とする特約を付ければ、当該宅地の売買契約を締結することができる。
6. 宅建業者が、複数の区画がある宅地の売買について、数回に分けて広告をするときは、最初に行う広告以外には取引態様の別を明示する必要はない。
7. 宅建業者Aの従業者は、投資用マンションの販売において、相手方に事前の連絡をしないまま自宅を訪問したが、その際、勧誘に先立って、業者名、自己の氏名、契約締結の勧誘が目的である旨を告げた上で勧誘を行えば、宅建業法に違反しない。
8. 建物の売買の媒介に際し、買主から売買契約の申込みを撤回する旨の申出があったが、宅建業者Aは、申込みの際に受領した預り金を既に売主に交付していたため、買主に返還しないことができる。
9. 宅建業者A社は、業務上知り得た秘密について、正当な理由がある場合でなければ他にこれを漏らしてはならないが、A社の従業者Bについても、Bが専任の取引士であるか否かにかかわらず同様に秘密を守る義務を負う。
10. A社は、建物の販売に際して、買主が手付として必要な額を持ち合わせていなかったため手付を貸し付けることにより、契約の締結を誘引した場合、宅建業法に違反する。
11. 買主Bも宅建業者であるときは、宅建業者AがBに対し手付金を貸し付けて契約の締結を誘引してもさしつかえない。