• 民事訴訟法ー13.訴訟の中断・中止
  • 2.訴訟手続の中断
  • 訴訟手続の中断
  • Sec.1

1訴訟手続の中断

堀川 寿和2022/02/03 10:06

訴訟手続の中断の意義

 中断とは、訴訟係属中に、当事者の一方に訴訟追行を不能又は困難にする一定の事由(中断事由)が発生した場合にその当事者の手続関与の機会を実際に保障するために、新追行者が訴訟に関与できるようになるまで手続の進行を停止することをいう。裁判所が職権で訴訟手続を中断する旨の決定をするのではなく、法定の中断事由があれば、当然に訴訟手続の停止の効果が発生する。

 つまり原告又は被告に法定中断事由が生ずれば当然に訴訟手続の停止の効果が発生し、裁判所は職権で訴訟手続を中断する旨の決定をする必要はない。

中断事由

 次に掲げる法定事由が発生すれば、訴訟は当然に中断する(民事訴訟法124条1項)。

(1) 当事者の死亡(1号)

(2) 法人の合併による消滅(2号)

(3) 当事者の訴訟能力の喪失、法定代理人の死亡・代理権の喪失(3号)

(4) 受託者等の信託の任務の終了(4号)

(5) 破産管財人等他人のために訴訟当事者となっている者の資格の喪失(5号)

(6) 選定当事者全員の資格喪失(6号)

 その他、「当事者の破産」や「当事者の破産手続の終了」によっても破産法の規定によって中断する。

当事者が破産した場合には、破産管財人が、破産手続が終了した場合には当事者が訴訟を受け継ぐことになるからである。

 

(1) 当事者の死亡による中断

当事者が死亡したときには、その相続人がその訴訟を受け継ぐまで訴訟手続は中断する。仮に法定代理人がいても中断する。本人の死亡により法定代理権も消滅するからである。もっとも相続人は相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことはできない(民訴124条3項)。

cf 当事者が死亡しても相続人がいない場合や相続人が相手方であって混同が生じた場合、又は訴訟物たる権利義務が一身専属権であって承継されない場合には、訴訟は終了し、中断の余地はない。

共同訴訟の場合

(イ)通常の共同訴訟の場合

 通常共同訴訟の場合は、共同訴訟人の一人が死亡しても、中断はその者についてのみ生じ、他の共同訴訟人との間では中断しない。例えば、訴訟代理人がいない場合において、主たる債務者と連帯保証人とを共同被告とする訴訟で主たる債務者に対する訴訟手続が同人の死亡により中断しても、連帯保証人に対する訴訟手続は中断しない。

(ロ)必要的共同訴訟の場合

 必要的共同訴訟の場合は、1人の死亡によって全員につき中断の効力が生ずる(民訴法40条3項)。

 必要的共同訴訟とは、訴訟の目的である権利又は法律関係が共同訴訟人の全員について合一に確定されなければならない共同訴訟をいう。例えば、第三者Aから甲・乙間の婚姻無効の訴えを提起する場合には、必ず甲乙両名を共同被告として訴えなければならず、いずれか一方に中断事由が生ずれば全員に中断の効果が生ずることになる。

 

(2) 法人の合併による消滅

 当事者たる法人が合併により消滅したときは、訴訟手続は中断する。

 cf それ以外の解散の場合はなお清算法人として存続するから中断しない。

 

(3) 当事者の訴訟能力の喪失、法定代理人の死亡・代理権の喪失

当事者が訴訟係属中に訴訟能力を失ったときには訴訟手続は中断する。

 例えば、当事者が訴訟係属中に後見開始の審判を受けた場合や未成年者が営業許可の取消しを受けた場合である。

cf 当事者が保佐開始の審判を受けても、訴訟能力を失わないため中断しないことと比較!

現に訴訟を追行中の法定代理人、法人の代表者の死亡又は代理権の消滅によっても訴訟

 手続は中断する。例えば、成年後見人が成年被後見人のため訴訟を追行していた場合において、後見開始の審判が取り消されたときには、訴訟手続は中断する。

cf 訴訟代理人がいない場合に、会社の代表者がその資格を失っても、その代表者が当該訴訟において会社を代表する者でないときには、中断しない。

共同親権者の父母の一方が親権を失っても、他の一方がこれを行使できるため、中断しない。

cf 共同親権者である父母双方が死亡した場合には訴訟は中断することになる。

訴訟代理人の代理権が消滅しても、当事者(又はその法定代理人)が自ら訴訟を追行できるため、中断しない。したがって、例えば、訴訟委任を受けた弁護士が死亡しても訴訟手続は中断しない。

 

(4) 受託者等の信託の任務の終了

 信託財産につき訴訟の当事者となっている受託者・信託財産管理者・信託財産法人管理人・信託管理人の任務が終了した場合、訴訟手続は中断する。例えば、受託者の死亡、後見開始の審判を受けたこと、破産、解任などの場合である。

 

(5) 資格の喪失による中断

 一定の資格を有する者が、自己の名で他人のために訴訟当事者となっている場合、その資格を喪失したときは、訴訟は中断する(ex 破産管財人、遺言執行者)。

 

(6) 選定当事者全員の資格喪失

 選定当事者の全員が資格を喪失したときも、訴訟手続は中断する。

cf 一部の選定当事者の資格喪失によっては中断しない。

 

(7) 当事者の破産

 訴訟追行中の原告もしくは被告が破産した場合、その破産管財人が訴訟の受継ができるようになるまで訴訟手続は中断される。

 

(8) 当事者の破産手続の終了

 逆に破産管財人が本人に代わって訴訟を追行中に本人の破産手続が終了し管理権が復活した場合、本人が訴訟を受継できるようになるまで訴訟手続は中断する。

 

中断と訴訟承継

 中断事由が当事者の交替である場合には、訴訟承継が生ずる。一方、当事者が訴訟能力を喪失した場合のように、当事者は交替しないが、現実の訴訟追行者が交替する場合には、法定代理人が訴訟を受継するまで訴訟手続は中断するが、訴訟の承継はない。

 また、当事者が死亡した場合、訴訟承継が生ずるが、訴訟代理人があるときには訴訟手続は中断しない。したがって、簡易裁判所の訴訟において原告が死亡した場合には、司法書士がその訴訟代理人になっていたときであっても、訴訟手続は中断しない。

 

中断事由

訴訟受継者

例外

1.当事者の死亡(1号)

相続人

訴訟代理人がある場合には中断しない。

2.法人の合併による消滅(2号)

存続会社又は新設会社

3.当事者の訴訟能力の喪失、

法定代理人の死亡・代理権の喪失

(3号)

訴訟能力を有するに至った当事者

法定代理人

4.受託者等の信託の任務の終了(4号)

新受託者・信託財産管理者

信託財産法人管理人・受益者等

5.破産管財人等他人のために訴訟当事者となっている者の資格の喪失(5号)

新資格者

6.選定当事者全員の資格喪失(6号)

新選定当事者・選定者全員

当事者の破産

破産管財人

なし

当事者の破産手続の終了

破産した当事者本人