• 宅建業法ー4.保証金制度
  • 2.弁済業務保証金(宅建業保証協会)
  • 弁済業務保証金(宅建業保証協会)
  • Sec.1

1弁済業務保証金(宅建業保証協会)

堀川 寿和2021/11/22 14:55

 営業保証金制度は、宅地建物の取引に関して、一般消費者を保護しようというものであった。

 しかし、営業保証金は、どれだけ小規模の業者でも一律1,000万円と高額である。これでは、潤沢な自己資金を有するものしか宅建業を営むことができず、問題がある。そこで登場したのが、「宅地建物取引業保証協会」である。この保証協会は、宅建業者の集合体であり(社団)、宅建業者が多く集まるので、個々の業者の拠出するお金が安価で済む。いわば保険の原理で、個々の出資金は少なくとも、大勢集まるため、弁済に支障はないだけの保証金が集まるという構図である。

 この保証金を「弁済業務保証金」といい、会員(社員といういいかたをする)である業者の負担額は営業保証金の100分の6、つまり、60万円である。この金額を保証協会に納めることによって、営業保証金を供託しなくて済むのである。



保証協会とは

(1) 保証協会の指定

 保証協会は、宅建業の発展のための業者団体であるから適性が求められる。よって、 国土交通大臣が指定して初めて保証協会となれる。

 宅建業法は以下のような指定の基準を定めている。

① 申請者(協会になろうとする者)が、必須業務の全部について適正な計画を有し、かつ確実にその業務を行うことができると認められること
② 一般社団法人であること
③ 宅建業者のみを社員とする者であること
④ 宅建業法64条の22第1項の規定により指定を取り消され、その取消の日から5年を経過しない者でないこと
⑤ 申請者の役員が免許欠格事由に該当したり指定の取消しを受けて5年を経過しない者でないこと

※ 国土交通大臣は、保証協会が弁済業務を適正かつ確実に行えないと認められるときなどは、その指定を取り消すことができる。

※ ここにいう「社員」とは、保証協会に加入している宅建業者のことである。


(2) 保証協会の業務

 保証協会の一番重要な業務は『弁済業務』であるが、そのほかにも、次のような業務がある。

1. 必須業務(必ずしなければならないもの)
① 苦情の解決…宅建業者の相手方などからの、社員の取り扱った取引に関する苦情を解決する業務
② 研修業務…取引士や宅建業に従事しまたは従事しようとする者に対して研修をする業務
③ 弁済業務…社員と宅建業に関し取引をした者の有する、その取引により生じた債権を弁済する業務
2.任意業務(してもしなくてもよいもの)
① 一般保証業務…社員が負った債務について連帯して保証する業務
② 手付金等保管事業…手付金等の保全措置の一つである手付金等保管事業を行うこと
③ 研修費用の助成業務…全国の宅建業者を直接・間接の社員とする一般社団法人による取引士等に対する研修に要する費用の助成
④ 宅建業の健全な発達を図るため必要な業務…宅建業のレベルを上げるための業務

※ 宅建業法は、「宅建業者を直接または間接の社員とする一般社団法人は、取引士等がその職務に関し必要な知識・能力を効果的かつ効率的に習得できるよう、法令、金融その他の多様な分野に係る体系的な研修を実施するよう努めなければならない」と定めており、保証協会はこのような研修に費用の助成をすることができる(任意業務③)。これは、取引士等の能力や資質の維持向上に、業界団体全体で取り組む趣旨である。


弁済業務保証金分担金

(1) 弁済業務保証金分担金の納付

 『営業保証金』は、業者が自ら供託所に供託する場合の名称である。これに対して、業者が保証協会を通じて納める保証金を『弁済業務保証金』といい、これは保証協会が供託所に供託する

 業者が保証協会に収める金銭は、『弁済業務保証金分担金』という。弁済業務保証金制度においては、「主語」と「支払先」に加えて、「支払うお金の名称」を整理しておいてほしい。


① 保証協会の社員となろうとする者は、その加入しようとする日までに、弁済業務保証金分担金を保証協会に納付しなければならない。
② 保証協会の社員は、事務所を増設したときは、増設した日から2週間以内に、増設した事務所についての弁済業務保証金分担金を保証協会に納付しなければならない。

※ 社員は、1つの保証協会の社員にしかなれない。


 社員が事務所を増設しながら2週間以内に分担金を納付しない場合は、社員の地位を失う(宅建業法64条の9第3項)。社員の地位を失うと、『営業保証金』を供託しなければならなくなるので、業者にとっては痛手となる。


(2) 弁済業務保証金分担金の額

 改めて、分担金の額を確認しておく。

① 主たる事務所については60万円
② その他の事務所については、一つにつき30万円
の合計額を保証協会に納付する。

※ 営業保証金の100分の6という数字はここから導かれる。


Point 弁済業務保証金「分担金」は必ず金銭で納付しなければならない。『弁済業務保証金』の供託や『営業保証金』の供託が有価証券で行えることと区別が必要。


(3) 弁済業務保証金の供託

 保証協会は、個々の社員から分担金の納付を受けたら、それを今度は供託所に供託しなければならない。

① 保証協会は、弁済業務保証金分担金の納付を受けたときは、その日から1週間以内に、納付額に相当する弁済業務保証金を供託所に供託しなければならない。
② 保証協会は、供託書の写しを添付して供託した旨を免許権者に届け出なければならない。

※ 供託場所は、法務大臣及び国土交通大臣の定める供託所とされている。ちなみに、現在は「東京法務局」である。また、現在、保証協会は全国に2つしかない。


弁済業務保証金の還付等

(1) 弁済業務保証金の還付

 弁済業務保証金の還付は、営業保証金の還付と同様、宅建業者と取引をした一般の消費者を保護することにある。ただ、還付額については、弁済業務保証金の額が少ないことから特別の規定がある。

弁済業務保証金から還付を受けることのできる額は、当該社員(業者)が社員でないとしたときに、その者が供託すべき営業保証金の額に相当する額である。


Point1 弁済業務保証金の還付は、業者が、社員となる前に生じた取引による債権であっても対象となる。



Point2 還付を受けるためには、弁済を受ける額について、保証協会の認証(確かに債権があるという証明)を受けなければならない。


Point3 保証協会の社員と宅建業に関して取引をした者が「宅建業者」である場合は、弁済業務保証金から弁済を受けることができない。


 弁済業務保証金分担金は、業者が1個の事務所で営業する場合は60万円と額が少なく、取引相手が弁済を受けても回収には及ばない。そこで、営業保証金で考えると1,000万円なので、その限度で弁済しようというものである。つまり、業者が保証協会の社員であろうとなかろうと、取引相手が供託金から還付を受けることのできる金額は同額になっているのである。


(2) 弁済業務保証金の不足額の供託

 還付がなされると、営業保証金同様、供託金に不足を生じる。そこで、不足額を補ってやらなければならない。


① 保証協会は、還付があった場合においては、国土交通大臣から供託金の還付があった旨の通知を受けた日から2週間以内に、還付された弁済業務保証金の額に相当する額の弁済業務保証金を供託しなければならない。
② 保証協会は、上記供託をしたときは、供託書の写しを添付して、免許権者に供託した旨の届出をしなければならない。


 もちろん、これだけでは、今度は保証協会の資金に不足が生じるので、社員に対し補充を要求する(還付は社員が弁済すべきものを保証協会が一旦代わって供託したにすぎない)。


① 保証協会は、弁済業務保証金の還付があったときは、その還付に係る社員または社員であった者に対して、還付額に相当する額の還付充当金を保証協会に納付すべき旨を通知しなければならない。
② 通知を受けた社員または社員であった者は、その通知を受けた日から2週間以内に、通知された額の還付充当金を保証協会に納付しなければならない。
③ ②の期間内に納付しないときは、業者は社員たる地位を失う。


(3) 弁済業務保証金の取戻し

営業保証金と同じく、弁済業務保証金もその取戻しが認められる。次の場合である。なお、この場合の取戻しの主語となるのは「保証協会」であることに注意。


① 社員である宅建業者が社員でなくなったとき
② 社員が、その一部の事務所を廃止したため、弁済業務保証金の額が法定の額を超過することとなったとき


 保証協会は、取り戻した後に、その額に相当する分担金を社員または社員であった者に返還する。

 ただし、以下の条件がある。

① 社員が社員でなくなった場合は、還付請求権者に対し6ヶ月を下らない期間内に認証の申出をすべき旨を公告しなければならない(社員が一部の事務所を廃止した場合は、公告せずに取り戻せる。この点『営業保証金』の場合と異なるので注意)。
② 保証協会が分担金を返還すべき宅建業者に債権を有するときには、その債権の弁済が終わった後でなければならない。
③ 保証協会がその社員であった者の還付請求権者に認証していた場合は、その弁済と、還付金の充当が終わったこと。