• 宅建業法ー4.保証金制度
  • 1.営業保証金
  • 営業保証金
  • Sec.1

1営業保証金

堀川 寿和2021/11/22 14:37


 本章からは毎年2問出題される。前半の営業保証金については、供託、還付、取戻しといった一連の流れを把握し、個々のポイン卜をイメージしていこう。過去の出題が繰り返し出されている典型的な項目であるから、過去問集のこの分野の問題は完璧にマスターする必要がある。
 後半の弁済業務保証金の制度趣旨は、営業保証金と共通している。様々な類似規定に注意しつつ、個々の問題を解き、営業保証金の場合はどうであったかと比較して考えることが重要である。


 「営業保証金」は、宅建業者が営業を開始する前に供託所に供託する。そして、万が一宅建業者が破産などした場合に、その宅建業者と取引をした者が、破産した宅建業者が供託しておいた営業保証金の中から弁済を受けられる、とするものである。




営業保証金の供託

(1) 供託場所

 宅建業法は、営業保証金を供託し、その供託した旨を免許権者に届け出なければ営業を開始できないものとしている。

①宅建業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない。
②宅建業者は、営業保証金を供託したときは、その供託物受入の記載のある供託書の写しを添付して、その旨を免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事に届け出なければならない。
③宅建業者は、この届出をした後でなければ、その事業を開始できない。



(2) 供託金額

 宅建業法は、供託金の金額につき、事務所の数に応じて供託すべき旨を定める。

主たる事務所については、1,000万円
その他の事務所については、その事務所ごとに500万円の合計額を主たる事務所のもよりの供託所に供託する。


例えば、本社1つと支店3つで宅建業を営む場合の営業保証金は、

1,000万円 + (500万円×3)=2,500万円

(本社分)   (支店分)ということになる。


Point1 2,500万円をまとめて本社のもよりの供託所に供託するのであって、支店ごとに500万円ずつ、支店のもよりの供託所に供託するのではない


Point2 営業保証金は、主たる事務所とその他の事務所の全額を供託することが必要である。一部の事務所についてのみ供託し、その事務所についてのみ営業を開始することはできない。


(3) 有価証券による供託

 営業保証金は、通常は金銭で供託されるが、必ず金銭でしなければならないわけではなく、有価証券で供託することもできる

①営業保証金は、国債証券、地方債証券、政府保証債券、その他国土交通省令で定める有価証券で供託できる。
②ただし有価証券の評価額は、
1. 国債証券は、額面金額
2. 地方債証券・政府保証債券は額面金額の100分の90
3. その他の有価証券は額面金額の100分の80とする。


 「国債証券」とは、国の債務証書、「地方債証券」とは、地方自治体の債務証書、「政府保証債券」とは、政府がその債務の支払いを保証した債務証書である。

 「その他国土交通省令で定める有価証券」とは、鉄道債券・電信電話債券・中小企業債券などをいう。

有価証券の評価額が3段階に分かれているのは、その債務の主体の信用力による。


Point1 「有価証券」という言葉からイメージする代表的なものは、手形・小切手・株券であるが、それでは供託できない。これらは、現金化できなかったり、価額が変動したりすることがあるからである。


Point2 宅建業者は、営業保証金の変換(金銭で供託した者が有価証券に差し替えたり、その逆の差し替えをしたりすること)のため新たに供託をしたときは、遅滞なくその旨を免許権者に届け出なければならない。



供託しない者に対する措置

 このように宅建業法は、その開業前に営業保証金を供託することを義務付けたが、その義務の履行を確保するため、供託しない者に対して以下のような措置を定める。

① 国土交通大臣または都道府県知事は、免許をした日から3ヶ月以内に、宅建業者が営業保証金を供託した旨の届出をしないときは、届出をすべき旨の催告をしなければならない
② この催告が宅建業者に到達した日から1ヶ月以内に届出がなされないときは、その免許を取り消すことができる




Point 催告の方は必要的であるが、免許取消の方は任意的(場合によっては取り消さなくてもよい)である。


営業保証金の保管替え等

 営業保証金は、主たる事務所のもよりの供託所に供託する。ということは、主たる事務所を移転した場合、もよりの供託所が変更になるときがある。その場合にどうするかが保管替えの問題である。宅建業法は次のように定める。


金銭のみで営業保証金を供託しているときは、移転後遅滞なく費用を予納して、営業保証金を供託している供託所に対して、移転後の主たる事務所のもよりの供託所への保管替えを請求する。
有価証券のみ又は金銭有価証券で営業保証金を供託しているとき、移転後遅滞なく法定額の営業保証金を移転後のもよりの供託所に新たに供託する。




 金銭だけで営業保証金を供託している場合には、簡単な形での保管替えを認めるというものである。有価証券の場合は、証券と権利が分離できないので、簡便な手段をとることができないのである。ここで、「費用」を予納とあるのは、書類の郵送料のことである。

 有価証券のみまたは有価証券と金銭で営業保証金を供託している場合は、移転後のもよりの供託所に新たに供託すると、それまでに供託していた供託所と二重に営業保証金が供託されていることになる。営業保証金を二重に供託するのは不必要であるから、従来の主たる事務所のもよりの供託所から営業保証金を取り戻すことになる。