• 民事訴訟法ー8.口頭弁論の準備
  • 3.争点整理手続
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1争点整理手続

堀川 寿和2022/02/02 16:14

争点・証拠の整理手続

(1) 意義

 訴訟の審理を能率的に行うために、当事者間に争いのある事実である争点を明らかにし、必要な証拠を整理することを目的とした争点・証拠の整理手続が設けられる。

 

(2) 争点整理手続の種類

 争点とは、争いのある事実で当事者間の主張にくい違いがある部分である。それについては証拠調べによって明らかにする必要があるが、口頭弁論においていつまでも当事者が新たな主張ができるとすれば新たな争点が出て、また新たな証拠調べも必要になる。そのような訴訟行為を認めると集中的な証拠調べが困難になるため、口頭弁論に先立って当事者双方の主張の不一致を明らかにしてその後の口頭弁論において行うべき証拠調べのテーマを確定する作業が必要になる。そこで争点及び証拠の整理手続として次の3つの手続が設けられている。

準備的口頭弁論→ 公開の法廷

弁論準備手続→ 法廷以外(準備室・和解室・裁判官室 等)

書面による準備手続→ 裁判所に出頭しない

 

 3つの種類の整理手続のどれによるかは、裁判所が個々の事案ごとに妥当と考えるものを選択する。

 争点が明確で証拠の整理も要しない事件については争点・証拠の整理手続をする必要はない。

 

(3) 当事者の意思の尊重

 裁判所が弁論準備手続及び書面による準備手続を選択する際には、当事者の意見を聴かなければならない(民訴法168条、175条)。

準備的口頭弁論

(1) 意義

 準備的口頭弁論とは、争点及び証拠の整理を行うことを目的とする口頭弁論をいう(民訴法164条~167条)。弁論準備手続を経ない事件で集中審理を可能にするため、口頭弁論を2つの段階に分け、第1段階で争点、証拠の整理をし、第2段階で本来の審理を集中して行おうとするものである。

 

(2) 趣旨

 社会的に注目を集める事件や当事者や関係人が多数いる事件など、公開の法廷での弁論という形で争点及び証拠の整理をすることが適切な場合に、口頭弁論手続を利用して争点及び証拠の整理を行うために準備的口頭弁論の規定を置いている。口頭弁論である以上、公開が要求される。

 法廷は証人尋問等を行うには適しているが、争点及び証拠の整理のための協議をする場としては適さない面があるため、裁判所内のラウンドテーブル法廷を利用することによって、裁判所と当事者の率直な意見交換によって、効率的な争点及び証拠の整理を行うことを目的とする。

 

(3) 準備的口頭弁論の開始

 裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、準備的口頭弁論を行うことができる(民訴法164条)。準備的口頭弁論を行うか否かは裁判所の訴訟指揮権によるため、裁量に任される。準備的口頭弁論も口頭弁論の一種であるため、通常の口頭弁論の場合と同様に公開主義や準備書面に関する規定が適用されるし、証拠調べを行うこともできる。

 

(4) 準備的口頭弁論の終了

証明すべき事実の確認

 裁判所は、準備的口頭弁論を終了するにあたり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする(民訴法165条1項)。

要約書の提出

 裁判長は、相当と認めるときは、準備的口頭弁論を終了するに当たり、当事者に準備的口頭弁論における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる(民訴法165条2項)。

 

(5) 準備的口頭弁論で得られた資料

 準備的口頭弁論で得られた資料は、弁論準備手続や書面による準備手続で得られた資料と異なり、当然に訴訟資料となるため、特段の手続を要しない。

 

(6) 準備的口頭弁論終了後の攻撃・防御方法の提出の制限

 準備的口頭弁論終了後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論の終了前にこれを提出できなかった理由を説明しなければならない(民訴法167条)。理由の説明がなされなかったり、説明しても理由として不十分な場合、裁判所は申立て又は職権で、その攻撃・防御方法の却下の決定をすることができる(民訴法157条1項)。

 

(7) 当事者の不出頭等による終了

 当事者が準備的口頭弁論の期日に出頭せず、又は定められた期間内に準備書面の提出もしくは証拠の申出をしないときは、裁判所は、準備的口頭弁論を終了することができる(民訴法166条)。

 

弁論準備手続

(1) 意義

 弁論準備手続とは、口頭弁論が効率的に行えるようにするため、口頭弁論の期日外の期日において、争点と証拠を整理するために当事者が協議する手続をいう。法廷外の裁判官室・準備室・和解室等で行われる。

 

(2) 弁論準備手続の開始

 裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる(民訴法168条)。弁論準備手続は、いったん口頭弁論を経た後に弁論準備手続に付されるのが原則である。口頭弁論を開かずいきなり弁論準備手続に付すことができるのは、当事者に異議がない場合に限られる。

 

(3) 弁論準備手続の実施

主宰者

 弁論準備手続は裁判所が実施するのが原則だが、合議体の一員である受命裁判官に行わせることができる(民訴法171条)。

公開の要否

 弁論準備手続期日は、口頭弁論そのものではないため公開の必要はないが、当事者双方が立ち会うことができる期日において行う(民訴法169条1項)。裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない(同条2項)。

手続の実施

 弁論準備手続では、裁判所の訴訟指揮、釈明、攻撃防御方法の提出時期、陳述の擬制、擬制自白、期日の調書等についての口頭弁論の規定が準用される(民訴法170条5項)。

 裁判所は、当事者に準備書面を提出させることもできる(同条1項)。また、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論期日外ですることができる裁判(ex 文書の提出命令)をしたり、文書の証拠調べをすることもできる(同条2項)。

 しかし、弁論準備手続では文書(準文書を含む)の証拠調べ以外はできない。したがって証人尋問や当事者尋問はできないことになる。cf 準備的口頭弁論の場合は口頭弁論そのものであるため、すべての証拠調べが可能であることと比較。

電話会議システムの利用

 裁判所は当事者が遠隔地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話することができる方法(電話会議システム)によって、弁論準備手続の期日における手続を行うこともできる(民訴法170条3項)。ただし、当事者の一方がその期日に出頭した場合に限られる。

この場合、その手続に関与した欠席当事者は出頭したものとみなされる(同条5項)。

cf 準備的口頭弁論には電話会議システムに関する規定の適用はない。

 

(4) 弁論準備手続の終了

証明すべき事実の確認

 裁判所は、弁論準備手続を終了するにあたり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする(民訴法170条5項、165条1項)。

要約書の提出

 裁判長は、相当と認めるときは、弁論準備手続を終了するに当たり、当事者に弁論準備手続における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる(民訴法170条5項、165条2項)。

弁論準備手続に付する裁判の取消し

 裁判所は相当と認めるときは、申立てにより又は職権で弁論準備手続に付する旨の裁判を取り消すことができる。ただし、当事者双方の申立てがあるときは、これを取り消さなければならない(民訴法172条)。これによって、弁論準備手続は終了する。

当事者の不出頭等による終了

 当事者が弁論準備手続の期日に出頭せず、又は定められた期間内に準備書面の提出もしくは証拠の申出をしないときは、裁判所は、弁論準備手続を終了することができる(民訴法170条5項、166条、162条)。

 

(5) 弁論準備手続の効果

口頭弁論への上程

 当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない(民訴法173条)。

 準備手続で提出された資料は当然には口頭弁論の訴訟資料とはならないからである。

cf 準備的口頭弁論で得られた資料は当然に訴訟資料となる点と比較!

 なお、ここでいう当事者とは、当事者の双方ではなく一方で足りる。

弁論準備手続終了後の攻撃・防御方法の提出の制限

 弁論準備手続後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論の終了前にこれを提出できなかった理由を説明しなければならない(民訴法167条)。理由の説明がなされなかったり、説明しても理由として不十分な場合、裁判所は申立て又は職権で、その攻撃・防御方法の却下の決定をすることができる(民訴法174条、167条)。