• 民事訴訟法ー6.審理と審理の諸原則
  • 3.弁論主義
  • 弁論主義
  • Sec.1

1弁論主義

堀川 寿和2022/02/02 15:37

弁論主義と職権探知主義

(1) 弁論主義の意義

 訴訟資料(判決の基礎となる事実と証拠)の収集・提出を当事者の権能と責任にゆだねる建前を「弁論主義」という。

 

(2) 職権探知主義

 上記に対し、訴訟資料の収集・提出を裁判所の権能と責任とする建前を「職権探知主義」という。この主義によると、裁判所は、当事者の弁論に拘束されず、当事者の提出しない事実をも裁判の資料にでき、当事者間に争いのない事実でも裁判の基礎として採用しないことができる。また、裁判所は当事者の申し出た証拠以外にも、職権で他の証拠を取り調べることができる。

 

(3) 現行民事訴訟法の適用

 現行の民事訴訟法では、弁論主義を原則とし、人事訴訟等の公益性の高い事件について部分的に職権探知主義を採用する。

 

(4) 職権探知主義の適用場面

人事訴訟事件(人訴20条、33条、34条)、会社関係訴訟(株主総会決議取消の訴えなど決議の効力を争う訴訟)

行政事件訴訟(行訴24条、38条、41条、43条)

通常の民事訴訟の中でも、公益に関する訴訟上の事項の判断、例えば訴訟要件の具備の判断の多くは職権探知主義が採用される。

 

弁論主義の内容

(1) 弁論主義による派生原則

 判決の基礎をなす訴訟資料の提出を当事者の権能と責任とする建前である弁論主義から、以下の3つの原則(テーゼ)が派生する。

第一のテーゼ(主張責任)

 裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎に採用してはならない。

第二のテーゼ(自白の裁判所拘束力)

 裁判所は、当事者に争いのない事実は、そのまま判決の基礎として採用しなければならない。

第三のテーゼ(職権証拠調べの禁止)

 裁判所は、当事者間に争いのある事実(係争事実)を証拠によって認定する際には、当事者の申し出た証拠によらなければならない。

 

(2) 第一のテーゼ

主張責任

 裁判所は、当事者の主張しない主要事実を判決の基礎に採用してはならないことから、仮に裁判所が証拠調べの結果、その事実の存在を確信しても、当事者の主張がなければ判決の基礎とすることはできない。その結果、当事者は訴訟手続の中で自己に有利な事実を主張しておかなければ、たとえその事実が証拠調べで現われても、裁判所に採り上げてもらうことができず、不利益をこうむることになる。つまり、その事実はないものとして判決が下されることになる。この不利益を主張責任という。例えば、貸金返還請求訴訟において、他の事実についての証人が弁済の事実を陳述しても、被告が弁済の事実を抗弁として主張しておかなければ、裁判所がたとえ弁済の事実があるとの心証を得たとしても、弁済の事実を採用して債務の消滅を判断することができないことになる。

 また、同時履行の抗弁権についても、当事者がこれを主張しない限り裁判所はこれを判決の基礎とすることができないことになる。

 引換給付判決の場合も同様で、原告が初めから引換給付判決を求めていない限り、原告からの給付請求に対し被告が同時履行の抗弁又は留置権の抗弁を提出して、裁判所が理由ありと認める場合でなければ、裁判所は引換給付判決をすることができない。

証拠共通の原則

 当事者のいずれかが主張すれば、裁判所はその者に有利・不利を問わず判決の基礎とすることができる。

第一のテーゼの適用範囲

 第一のテーゼは、主要事実についてのみ妥当する。したがって、間接事実や補助事実については弁論主義の適用はなく、裁判所は当事者が主張しない場合でも判決の基礎とすることができる。

 

(3) 第二のテーゼ(自白の裁判所拘束力)

 当事者間に争いのない事実(自白された事実)については、裁判所は証拠による認定を要しないばかりでなく、そのまま判決の基礎としなければならない。ここでいう事実も主要事実をさし、間接事実や補助事実については自白の拘束力はない(最S31.5.25)。

 

(4) 第三のテーゼ(職権証拠調べの禁止)

 当事者間で争いのある事実を証拠により認定する際にも、裁判所は当事者が申し出た証拠しか採用してはならない。しかし、いずれの当事者が提出したかは問わない(証拠共通の原則)。

 ただし、例外として裁判所が職権でできる証拠調べもある(ex 当事者尋問(民訴法207条1項)、調査嘱託(民訴法186条)、鑑定嘱託(民訴法218条)、証拠保全(民訴法237条))。

 

職権探知主義の内容

 弁論主義の3つのテーゼと正反対の内容が職権探知主義である。

裁判所は当事者が主張しない事実も裁判の基礎とすることができる。

当事者間に争いのない事実でも証拠によりそれに反する事実を認定することができる。

当事者の申出がなくても職権で調拠調べをすることができる。