• 民事訴訟法ー6.審理と審理の諸原則
  • 2.処分権主義
  • 処分権主義
  • Sec.1

1処分権主義

堀川 寿和2022/02/02 15:33

処分権主義の意義

 処分権主義とは、訴訟の開始、訴訟物の特定、訴訟の終了(訴訟上の和解、認諾、取下げ等)について当事者が自由に決定できる原則をいう。

 

処分権主義の内容

(1) 訴訟の開始

 訴訟は、原則として当事者からの訴えがなければ開始されず、職権で開始されることはない。この点については、上訴(控訴・上告)や再審も同様である。ただし、例外的に、訴訟費用の裁判と仮執行宣言については、当事者の申立てがなくても職権ですることができるとされている(民訴法67条、民訴法259条1項)。

 このように、訴えの提起が当事者に任されていることから、不起訴の合意や不控訴の合意等も認められ、また上訴権の放棄も認められることになる(民訴法284条、313条)。

 

(2) 審判の範囲

 民訴法246条では、「裁判所は、当事者が申立てていない事項について、判決することができない。」と規定している。すなわち訴え提起の際に原告が判決をすべき範囲を決める建前となっている。もっとも、形式的形成訴訟の場合には民訴法246条は適用されず、裁判所は当事者の申立てに拘束されずに判決することができる(ex境界確定訴訟等)。

 

(3) 訴訟の終了

 当事者は、その意思で訴訟を終了させることができる。訴訟上の和解(民訴法267条)、請求の放棄・認諾(民訴法266条)等によって、訴訟を裁判によらず終了させることができるし、訴えの取下げ(民訴法261条)、上訴の取下げ(民訴法313条、292条)によって当該訴訟手続の全部又は上訴審手続を初めから係属しなかったものとすることもできる。

 

申立事項と判決事項の関係

(1) 意義

 民訴法246条は、「裁判所は、当事者が申立てていない事項について、判決することができない。」と規定するが、ここでいう「当事者の申し立てていない事項」とは、当事者の申立事項よりも量的に多かったり、質的に異なる事項のことをさす。例えば、原告が100万円の支払いを求めて訴えを提起した場合、裁判所がそれ以上の支払いを命ずる判決はできないし、自動車の引渡しを求めた訴えに対して、金銭の支払いを命ずる判決をすることもできない。また、裁判所は原告の申立てた訴訟類型(給付・確認・形成)に拘束されるため、例えば、確認の訴えに対して給付判決をすることはできないことになる。

 

(2) 民訴法246条の具体的適用

量的一部認容判決

 上記のとおり、原告が求めた権利救済の範囲を超えて判決をすることは許されないが、その範囲内で原告の請求を認容することはかまわない(一部認容判決)。例えば、200万円の支払請求に対して、100万円の給付判決をすることは問題ない。

質的一部認容

 原告の無条件の給付請求に対して、被告の方から留置権の抗弁(民法295条)や同時履行の抗弁(民法533条)が提出され、その抗弁が認められた場合には、判例は請求棄却判決をするのではなぐ引換給付判決をなすべきであるとする(ex 「被告は原告から金○○円の支払いを受けるのと引き換えに原告に××を引き渡せ」)。

債務不存在確認請求と一部認容

 「100万円を超えて債務は存在しないことの確認を求める」旨の消極的確認判決において「50万円を超えて存在しない」との判決は、申立てを超えるものとして許されないが、「200方円を超えて存在しない」との判決は一部認容判決として認められる。