- 民事訴訟法ー3.訴訟の客体
- 3.一部請求の訴訟物
- 一部請求の訴訟物
- Sec.1
1一部請求の訴訟物
■意義
一部請求とは、数量的に可分な債権の一部を他の残部から切り離して、訴訟で請求することをいう。
例えば、AがBに対して有する1000万円の貸金債権のうち、500万円の支払いを求める訴えを提起したような場合である。
■一部請求の可否
原告が債権の一部を訴求することができる点について争いはないが、問題は後日残額部分について訴訟が可能か否か(訴訟物の分断を認めるか)について見解が分かれるところである。
■学説・判例等の考え方
(1) 一部請求肯定説
請求された一部が訴訟物であり、既判力はその一部につき生じ残部には及ばない。したがって残部については再び後訴で争うことができるとする説。
(2) 一部請求否定説
一部請求も債権全部が訴訟物となり、全額につき既判力が生ずる。したがって残部請求は前訴の既判力に遮断され許されないとする説。
(3) 判例
① 明示的一部請求肯定説(最S37.8.10)
1個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して提起された訴えについては、訴訟物となるのはその債権の一部の存否のみであって、その確定判決の既判力は残部の請求には及ばない。
したがって、一部である旨の明示がなされていれば残部については再び後訴で争うことができることになる。
② 一部請求後に残部請求をした場合(最H10.6.12)
明示的一部請求であっても、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り信義則に反し許されない。
この判例のいうところの「一部請求訴訟で敗訴した」とは、請求棄却又は一部認容判決がなされた場合をさす。請求棄却とは、例えば1000万円の貸金のうち500万円の一部請求をしたが、500万円すら認めてもらえなかった場合であり、一部認容とは同じく500万円の一部請求のうちの300万のみが認められたような場合である。この場合、判例は信義則を理由に残額500万円の請求は後訴では認めない。