- 民事訴訟法ー2.訴訟の主体
- 6.当事者の代理人及び代表者
- 当事者の代理人及び代表者
- Sec.1
1当事者の代理人及び代表者
■訴訟上の代理人
(1) 意義
訴訟上の代理人とは、当事者の名において、これに代わって訴訟行為を行い、また相手方や裁判所の訴訟行為を受ける者をいう。その効果は本人に帰属することになる。
(2) 機能
単独で有効に訴訟追行ができない訴訟無能力者にとっては、その能力を補充するためであり、また訴訟能力者であっても、訴訟追行は複雑で専門的な知識を要するため、第三者である法律専門家を代理人にすることによって、より有効な訴訟行為が可能となるためである(拡張)。
(3) 訴訟上の代理人の種類
民法上の代理と同様、本人との間の代理関係の発生が本人の意思に基づかない法定代理人と、本人の意思に基づく任意代理人とがある。法定代理人には実体法上の法定代理人の他に訴訟法上の特別代理人(民訴法35条、236条)がある。任意代理人には、法令上の訴訟代理人と訴訟委任に基づく訴訟代理人とがある。
① 法定代理人
法定代理人とは、その代理権が当事者の意思に基づかない代理人をいう。「実体法上の法定代理人」と「訴訟法上の法定代理人」の2つがある。
(イ)実体法上の法定代理人
a) 意義
実体法上の法定代理人は訴訟法上も法定代埋人となる(民訴法28条)。したがって、未成年者の親権者、未成年後見人、成年被後見人の成年後見人は訴訟法上も法定代理人となり、訴訟無能力者のために訴訟行為を行うことができる。また、家庭裁判所は審判で保佐人、補助人に訴訟代理権を付することもできる(民法876条の4第1項、876の9第1項)。
b) 代理権の範囲
法定代理権の範囲は、民事訴訟法に特別の定めがない限り、民法等の規定による(民訴法28条)。
c) 代理権の証明
法定代理人の代理権及び法定代理人に与えられた特別の授権は、書面で証明されなければならない(民訴規15条)。
d) 法定代理権の消滅
代理権の消滅事由も民法等の実体法の定めによる。したがって、「本人の死亡」「本人の成年到達」「後見開始の審判の取消し」「法定代理人の死亡」「後見開始の審判」「破産」等によって消滅することになる。なお、法定代理権の消滅は、能力を取得、回復した本人又は法定代理人が交替した場合、新旧のいずれかの法定代理人から相手方に通知しなければ、効力を生じない(民訴法36条1項)。通知して初めて消滅の効果が生ずる。手続の明確、画一化のためである。
法定代理権の消滅の効果が生ずると、訴訟手続は中断する(民訴法124条1項3号)。ただし、訴訟代理人がある場合には、法定代理権が消滅しても訴訟手続は中断しない(民訴法124条2項)。
(ロ)訴訟法上の特別代理人
a) 意義
訴訟上の特別代理人とは、特定の訴訟のために裁判所が選任する法定代理人をいう。
b) 未成年者や成年被後見人の特別代理人
未成年者又は成年被後見人の特別代理人とは、未成年者又は成年被後見人に法定代理人がいない場合、又はいても代理権の行使ができない場合(例えば、利益相反行為につき訴訟行為を必要とするとき)等に未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をすることを可能にするための臨時の法定代理人をいう(民訴法35条1項)。
c) 選任、改任等
選任は未成年者又は成年被後見人の相手方の申請により、受訴裁判所の裁判長が命令で行う(民訴法35条1項)。また、裁判所はいつでも裁判長が選任した特別代理人を改任することができる(同条2項)。
d) 権限
当該訴訟につき法定代理人と同一の権限を有する。
(ハ)法人の代表者
a) 意義
法人等の代表者とは、法人等の代表機関として、その法人等の名で、自己の意思に基づいて行為し、その効果が法人等に帰属する関係にある者をいう。法人等を当事者とする訴訟はこれらの者が追行する。例えば、一般社団法人の理事、株式会社の代表取締役、権利能力なき社団・財団の代表者•管理人である。
b) 代表者の訴訟上の地位
法人等の代表者は、法定代理人に準じて取り扱われる(民訴法37条)。
c) 法人の代表者の登記と表見法理
法人に対する訴えは通常、登記簿上の代表者を代表者として提起するが、問題はそれが真の代表者でなかった場合、訴訟行為の効力とりわけ判決の効力がどうなるかが争われる。つまり、登記簿上の代表者に対する訴えの提起その他の訴訟行為にも、実体法上の表見代理規定の適用があるかの問題であるが、判例(最S45.12.15)によれば、登記簿上の代表者を真の代表者と信じた相手方は保護されず、その手続をやり直さなければならないとする。
判例 |
(最S45.12.15) |
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民法109条及び会社法354条の規定は、いずれも取引の相手方を保護し、取引の安全を図るために設けられた規定であるから、取引行為と異なる訴訟手続において会社を代表する権限を有する者を定めるにあたっては適用されないものと解するを相当とする。 |
⇒ したがって、この場合裁判所はまず原告に対し訴状の補正を命じ、会社に真正な代表者がいないときは原告の申立てにより特別代理人を選任して、その者に対し訴状の送達を改めてなすべきであるとする。被告である法人の代表者の代表権限の欠缺を看過したまま原告の請求を容認した第1審判決について被告が控訴した場合、控訴審裁判所は補正のため事件を第1審裁判所に巻き戻さなければならない。
② 任意代理人
任意代理人とは、代理権の授与が本人の意思に基づく代理人をいう。まず「個別代理人」と「訴訟代理人」に分類されるが、包括的な代理権を有さないのが「個別代理人」で、有するのが「訴訟代理人」である。例えば、送達受取人のように、個々の訴訟行為についての代理権をもつにすぎない者は、個別代理人である。
「訴訟代理人」については、さらに「訴訟委任による訴訟代理人」と「法令による訴訟代理人」に分類される。
(イ)訴訟委任による訴訟代理人
a) 意義
特定事件の訴訟追行のための、本人の授権行為に基づく代理人をいう。
b) 資格
原則として弁護士でなければならないが、簡易裁判所の事件については裁判所の許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人に選ぶことができる(民訴法54条1項)。
また、司法書士も、請求額140万円以内の簡裁通常民事訴訟事件のほか、即決和解、支払督促、証拠保全、民事調停等につき訴訟代理権をもつ。ただし所定の研修と法務大臣の認定を条件とする(司法書士法3条)。その他、弁理士等にも特例あり。
c) 代理権の発生
訴訟上の代理権も代理権授与行為により発生する。代理権の存在又は訴訟代理人に与えられた特別の授権は、書面で証明しなければならない(民訴規23条1項)。
d) 代理権の範囲
代理人は相手方からの反訴、参加、強制執行、仮押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができるほか、勝訴のために必要な一切の訴訟行為をすることができ(民訴法55条1項)、その前提として私法行為、例えば、法律行為の取消しや契約の解除、相殺を行うこともできる。
なお、代理権の範囲はこれを制限することはできないが、弁護士でない者が訴訟代理人であるときはこの限りでないため、代理権に制限を加えることができる(同条3項)。
cf 重大な結果をもたらす次の行為をなすには特別の授権を要する(同条2項)。
・ 訴えの取下げ、訴訟上の和解、請求の放棄・認諾、訴訟の脱退など
・ 反訴の提起、復代理人の選任
・ 控訴、上告、上告受理申立て、それらの取下げ
・ 手形訴訟、少額訴訟の終局判決に対する異議の取下げ又はその取下げの同意
e) 個別代理の原則
当事者が数人の代理人に訴訟委任をすることがあるが、その場合にも各代理人はそれぞれ単独で当事者を代理して訴訟を追行する権限を有する(民訴法56条1項)。裁判所や相手方当事者は、複数の代理人のうち1人に対して訴訟行為をすれば足りる。なお、複数の代理人間で共同代理人として訴訟追行すべき旨を定めた場合、当事者間では有効であっても、裁判所や相手方との関係では無効である(民訴法56条2項)。
f) 訴訟代理権の消滅
次の事由によって消滅する。なお、訴訟代理権の消滅は、法定代理権の消滅の場合と同様に本人又は代理人からその旨を相手方に通知しなければ、効果が生じない(民訴法59条、36条1項)。
・ 代理人の死亡、後見開始、破産手続開始決定(民法111条1項2号)
・ 委任の終了、辞任、解任(民法651条)
・ 本人の破産手続開始決定(民法653条2号)
cf 民事訴訟法は、民法の代理権消滅(民法111条)と異なり、次に掲げる事由によっては消滅しない旨の特則を置く(民訴法58条1項)。したがって、訴訟手続も中断することはなく、訴訟代理人により訴訟は続行される。
・ 当事者の死亡、訴訟能力の喪失(後見開始の審判など)
・ 当事者である法人の合併による消滅
・ 当事者である受託者の信託の任務の終了
・ 法定代理人の死亡、訴訟能力の喪失、法定代理権の消滅・変更
・ その他(民訴法58条2項3項)
他人のために訴訟の当事者となるもの(訴訟担当者)により付与された訴訟代理権は当事者が死亡その他の事由により担当者の資格を喪失しても消滅しないし、選定当事者により付与された訴訟代理権についても選定当事者が死亡その他の事由により資格を喪失しても消滅しない。
(ロ)法令による訴訟代理人
a) 意義
法令による訴訟代理人とは、法が一定の地位につく者に訴訟代理権を認める場合に、その地位に選任されることによって訴訟代理権が与えられる者をいう。支配人が典型である。支配人等の選任によって法定の権限として訴訟代理権も与えられているので、特別に授権は必要がない。
b) 代理権の発生・消滅
本人によりその地位に任命されたときに発生し、その地位の喪失によって消滅する。
c) 法令による訴訟代理人の資格
法令による訴訟代理人は弁護士である必要はない。
d) 代理権の範囲
法令上の訴訟代理人の代理権の範囲は、法令の定めるところによる。一般に包括的代理権が与えられ、裁判上も一切の行為ができるのが原則である。例えば、支配人は一切の裁判上及び裁判外の代理権が法律によって与えられており、特定の事件に限定されることはなく、また裁判上の一切の行為をすることができる。また、法令上の代理人は、特別な授権がなくても、反訴提起、訴えの取下げ、和解等をすることができる。
cf 訴訟代理人の場合
■代理権欠缺の効果
(1) 職権調査事項
法定代理権、訴訟代理権も含めて、代理権の存在は訴訟要件の1つであり、その存否は裁判所の職権調査事項である。
(2) 補正命令
訴え提起の段階から代理権を欠くときは、訴訟要件を欠くため、訴えは却下されることになるが、訴訟能力の欠缺の場合と同じく、裁判所の補正命令や本人又は法定代理人の追認が認められる。
① 補正命令
代理権を欠く場合、裁判所は期間を定めて補正を命じ、補正されなぃときはそれが訴え提起であるときは却下し、その他の行為であるときは効力のなぃものとして排斥する。
② 追認
法定代理人又は本人が追認したときも、行為の時に遡って有効となる(民訴法34条2項、59条)。
(3) 無権代理人の訴訟行為の効果
代理権のない者がした又は受けた訴訟行為は無効であって、本人に効果が帰属しない。
① 判決確定前
上訴によって取り消すことができる。つまり、控訴・上告理由となる。
② 判決確定後
再審事由とされているため、判決確定後であっても再審によって取り消すこともできる。