- 民事訴訟法ー2.訴訟の主体
- 4.訴訟の移送
- 訴訟の移送
- Sec.1
■移送原因
(1) 管轄違いによる移送
① 原則
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する(民訴法16条1項)。
② 例外
もっとも、地方裁判所はその管轄区域内の簡易裁判所の事物管轄に属する訴えを受理したとき、相当と認めれば申立て又は職権により、その簡易裁判所の専属事件を除き、移送せずに自ら審判することができる(民訴法16条2項)。
(2) 遅滞を避ける等のための移送
裁判所は、その管轄に属する訴訟であっても、著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要があると認めるときは、申立て又は職権により訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる(民訴法17条)。例えば、証拠の多くが他の裁判所の管轄区域内にあり、その管轄裁判所で審理した方がより迅速な審理を期待できるような場合である。
なお、民訴法17条の規定は、専属管轄に関する訴訟には適用されないが、専属的管轄の合意の場合には移送が可能である(民訴法20条1項)。
(3) 簡易裁判所から地方裁判所への裁量移送
簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合であっても、相当と認めるときは、その専属管轄に属する事件を除き、申立て又は職権により訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる(民訴法18条)。
(4) 簡易裁判所の必要的移送
① 不動産訴訟の必要的移送
訴額140万円以下の不動産に関する訴訟は簡易裁判所も地方裁判所も管轄権をもつため、原告が簡易裁判所に訴えを提起した場合、被告の申立てがあれば、簡易裁判所は必ず事件を地方裁判所へ移送しなければならない。ただし、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでないため、もはや申立てはできなくなる(民訴法19条2項)。
② 反訴提起に基づく必要的移送
簡易裁判所の訴訟において、被告が反訴を提起し、反訴請求が地方裁判所の事物管轄に属するとき、簡易裁判所は反訴請求についても管轄権を有するが、原告(反訴では被告)の申立てがあるときは簡易裁判所は決定で本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない(民訴法274条)。
(5) 同意による必要的移送
① 原則
原告が管轄裁判所に訴えを提起した場合でも、その第1審裁判所は当事者の申立て及び相手方の同意あるときは、その訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない(民訴法19条1項)。
② 例外1
ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることになるときはこの限りでないため、許されない(民訴法19条1項ただし書)。
③ 例外2
また、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外の場合においては、被告が本案につき弁論し、弁論準備手続で申述した後は移送は認められない(民訴法19条1項ただし書後段)。
移送の態様 |
被告の弁論・申述後の移送の可否 |
1.簡裁 ⇒ その所在地を管轄する地裁 |
○ |
2.簡裁 ⇒ その所在地を管轄する地裁以外の地裁 |
× |
3.地裁 ⇒ 他の地裁 |
× |
4.簡裁 ⇒ 他の簡裁 |
× |
5.地裁 ⇒ 簡裁 |
× |
■移送の手続
(1) 移送の裁判
移送に関する裁判(移送の決定又は移送の申立ての却下)は、裁判所の「決定」によってなされる。
(2) 不服申立て
移送の決定又は移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告ができる(民訴法21条)。
決定・命令に対する不服申立方法は「抗告」である。
ただし、反訴提起に基づく地方裁判所への移送の決定に対しては、不服申立ては認められない(民訴法274条2項)。
なお、抗告には、通常抗告と即時抗告があり、即時抗告は民訴法21条のように「即時抗告することができる」と特に規定している場合に限って認められる。即時抗告は、告知を受けた日から1週間以内にしなければならないが、通常抗告については、このような期間制限はない(詳しくは、後日)。