- 商業登記法ー46.登記の抹消
- 1.登記の抹消
- 登記の抹消
- Sec.1
1登記の抹消
■1.抹消登記の意義
抹消の登記とは、登記が無効である場合又は登記された事項に対応する実体関係が存在しないか又は無効である場合に、その登記を抹消することによってこれを是正する必要があり、その登記を抹消するためにする登記をいう。抹消には、職権による場合と申請による場合の二つの方法がある。
■抹消事由
抹消事由は商登法134条で次のとおり列挙されている事項に限られる。したがって、法令に別段の定めがない限り、それ以外の事由で登記を抹消することはできない。
① 管轄違いの登記(商登法134条1項1号、24条1号) 登記所が、管轄権を有しない登記を誤って受理し登記をしたときは、その登記は無効となるため、抹消事由とされる。 ② 登記すべき事項以外の登記(商登法134条1項1号、24条2号) 登記事項でない事項を登記官が誤って登記しても、その登記は無効となるため、抹消事由となる。 ③ 二重登記(商登法134条1項1号、24条3号) 事件がその登記所においてすでに登記されているにもかかわらず、更にその事件にっき登記がされたときは、後になした登記は無効となるため、抹消事由となる。例えば、商号使用者の同一商号を重ねて登記したときは、抹消申請が可能である。 ④ 同時に到達した申請の目的が相互に矛盾するとき(商登法134条1項1号、24条5号) 郵送等により申請された数個の申請書を登記官が同時に受け取った場合又は数個の申請書を受け取った時の前後が明らかでない場合において、そのうちのいずれかの申請に係る登記をすることにより、他の申請書に係る登記をすることができなくなるとき(申請の目的が相互に矛盾抵触するとき)は、登記官はいずれの登記も却下しなければならないが、誤って登記をした場合には、その登記は無効になるため、抹消事由とされる。相互に矛盾抵触する具体例としては、(イ)同一場所における同一商号の会社の設立登記の申請が同時になされた場合、(ロ)同一の株式会社について、同一日時の取締役会議事録を添付して、同一の代表取締役を解職してその後に異なる者を代表取締役とした旨の変更登記の申請が同時にされた場合等が挙げられる。 ⑤ 登記された事項に無効の原因があるとき(134条1項2号)(ただし、訴えをもってのみ主張できる場合を除く。(*1)) 例えば、定足数に足りない取締役が出席した取締役会において、代表取締役の解職決議をした場合の代表取締役の変更登記は、抹消申請できるし、資本準備金の資本組入れにより資本金の額の変更登記をしたが、実際には資本準備金が存在しなかった場合も抹消申請できる。 ⑥ 登記された事項が不存在の場合 登記された事項が不存在の場合にも、無効原因がある場合と同様、抹消することができる。 ⑦ 登記された事項に錯誤がある場合 登記された事項に錯誤がある場合は、原則として更正の事由となるが、更正の前後を通じて同一性が認められない場合は、抹消の事由となる。 |
(*1)訴えをもってのみ無効を主張することができる場合
1. 会社の設立 2. 株式会社の成立後における株式の発行 3. 自己株式の処分 4. 新株予約権の発行 5. 株式会社における資本金の額の減少 6. 会社の組織変更 7. 会社の吸収合併 8. 会社の新設合併 9. 会社の吸収分割 10. 会社の新設分割 11. 株式会社の株式交換 12. 株式会社の株式移転 |
上記の場合、訴えによって無効判決が確定しなければ、無効原因があってもその事項は有効なものとして取り扱われるため、抹消登記を申請することができない。なお、訴え提起の結果、無効の判決が確定したときは、登記された事項は無効になるが、その登記は裁判所による嘱託登記でなされるため、当事者は抹消の申請をする必要はない。
先例 |
(S39.3.28民甲837号) |
|
|
登記すべき事項につき訴えをもってのみ主張できる無効、取消しであっても、その訴えが提訴期間内に提起されなかった場合は、その事項を登記することができる。 |
■申請による抹消
(1) 意義
登記につき商登法134条1項各号に掲げる抹消事由があるときは、当事者はその登記所に登記の抹消を申請することができる。
(2) 登記申請手続
① 登記期間
抹消登記の申請についても、登記期間の定めはない。
② 申請人
抹消の対象となる事項を登記した当事者が申請人となる。
③ 登記の事由
「登記された事項の不存在による抹消」又は「登記すべき事項が無効であるため抹消」等と記載する。
④ 登記すべき事項
登記事項は、ある登記の抹消であり、その登記を特定できるよう申請書に記載する。なお、更正の場合と同様に抹消年月日の記載は不要である。
⑤ 添付書面
(イ)抹消事由を証する書面
原則として、登記された事項が無効又は不存在であることを証する書面を添付しなければならない。
ただ、申請書又は登記簿の記録そのものにより、登記の無効等の原因があることが判明する場合は、これを証する書面の添付は省略できる。この場合は、その旨を申請書に記載することを要する。
また、管轄違いの登記、非登記事項の登記、二重登記、相互矛盾の登記の抹消の場合は、抹消原因が明白であるため、これを証する書面の添付は不要となる。(商登法134条2項)
(ロ)代理人によって申請する場合は、「委任状」
⑥ 登録免許税
(イ)本店所在地
金2万円(登録免許税別表一、二十四(一)ナ)
(ロ)支店所在地
金6000円(登録免許税別表一、二十四(ニ)ロ)
先例 |
(S57.12.15民甲7583号) |
|
|
取締役の就任の登記を抹消した結果、法律又は定款に定めた員数を欠くことになるため、前任の取締役の登記を回復する場合には、職権により(その前任の取締役の)退任の登記を抹消することを要する。 |
判例 |
(最S25.6.13) |
|
|
解任された取締役につきなされた辞任の登記は、取締役たる資格消滅という身分変動については結局真実に合致しているから登記としての効力を有する。したがって、当該取締役は、会社に対し当該登記の抹消を請求することができない。 |
申請による抹消登記 申請書 記載例 (本店所在地)
登記の事由
登記された事項の不存在による抹消
登記すべき事項
取締役甲野太郎の登記を抹消
登録免許税
金2万円
添付書類
取締役選任決議不存在を証する書面 1通
委任状 1通