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1会社分割の登記

堀川 寿和2022/01/31 11:28

会社分割の態様

 分割会社は株式会社又は合同会社に限られる。(会社法757条、762条)これに対して、吸収分割承継会社、新設分割設立会社はすべての種類の会社がなることができる。

 

吸収分割ー1

(1) 手続きの流れ

 

(2) 吸収分割契約

① 吸収分割契約の締結

 会社が吸収分割をする場合、当事会社である吸収分割会社と吸収分割承継会社は、吸収分割契約を締結しなければならない。(会社法757条)②吸収分割契約事項

② 吸収分割契約の内容

 会社が吸収分割をする場合において、吸収分割承継会社が株式会社であるときは、吸収分割契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。(会社法758条)

 

株式会社に権利義務を承継させる吸収分割契約の内容

(イ)吸収分割会社及び吸収分割承継株式会社の商号及び住所(1号)

(ロ)吸収分割承継株式会社が吸収分割により吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項(2号)

(ハ)吸収分割により吸収分割株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式を吸収分割承継株式会社に承継させるときは、当該株式に関する事項(3号)

(ニ)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収分割承継株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項(4号イ)

(ホ)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(4号ロ)

(ヘ)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法(4号ハ)

(ト)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ホ)に掲げる事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ヘ)に掲げる事項(4号ニ)

(チ)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数もしくは額又はこれらの算定方法(4号ホ)

(リ)吸収分割承継株式会社が吸収分割に際して吸収分割株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付するときは、吸収分割契約新株予約権の内容(5号イ)

(ヌ)吸収分割契約新株予約権の新株予約権者に対して交付する吸収分割承継株式会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法(5号ロ)

(ヲ)吸収分割契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収分割承継株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(5号ハ)

(ワ)(リ)〜(ヲ)の事項を定めた場合には、吸収分割契約新株予約権の新株予約権者に対する吸収分割承継株式会社の新株予約権の割当てに関する事項(6号)

(カ)吸収分割がその効力を生ずる日(7号)

(ヨ)吸収分割株式会社が効力発生日に、取得対価が吸収分割承継株式会社の株式(吸収分割株式会社が吸収分割をする前から有するものを除き、吸収分割承継株式会社の株式に準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。)である全部取得条項付種類株式の取得を行うときは、その旨(8号イ)

(タ)吸収分割株式会社が効力発生日に剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継株式会社の株式(吸収分割株式会社が吸収分割をする前から有するものを除き、吸収分割承継株式会社の株式に準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。)のみであるものに限る。)をするときは、その旨(8号ロ)

 

持分会社に権利義務を承継させる吸収分割契約の内容

(イ)吸収分割会社及び吸収分割承継持分会社の商号及び住所(1号)

(ロ) 吸収分割承継持分会社が吸収分割により吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項(2号)

(ハ)吸収分割により吸収分割株式会社の株式を吸収分割承継持分会社に承継させるときは、当該株式に関する事項(3号)

(ニ)吸収分割会社が吸収分割に際して吸収分割承継持分会社の社員となる場合において、吸収分割承継持分会社が合名会社であるときは、当該社員の氏名又は名称及び住所並びに出資の価額(4号イ)

(ホ)吸収分割会社が吸収分割に際して吸収分割承継持分会社の社員となる場合において、吸収分割承継持分会社が合資会社であるときは、当該社員の氏名又は名称及び住所、当該社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別並びに当該社員の出資の価額(4号ロ)

(ヘ)吸収分割会社が吸収分割に際して吸収分割承継持分会社の社員となる場合において、吸収分割承継持分会社が合同会社であるときは、当該社員の氏名又は名称及び住所並びに出資の価額(4号ハ)

(ト)吸収分割承継持分会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継持分会社の社債を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社社債の金額の合計額又はその算定方法(5号イ)

(チ)吸収分割承継持分会社が吸収分割に際して吸収分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わり吸収分割承継持分会社の持分以外の財産を交付する場合であって、その財産が社債以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数もしくは額又はこれらの算定方法(5号ロ)

(リ)吸収分割がその効力を生ずる日(6号)

(ヌ)吸収分割株式会社が効力発生日に取得対価が吸収分割承継持分会社の持分(吸収分割株式会社が吸収分割をする前から有するものを除き、吸収分割承継持分会社の持分に準ずるものとして法務省令(会施規178条)で定めるものを含む。)である全部取得条項付種類の株式の取得をする場合は、その旨(7号イ)

(ヲ)吸収分割株式会社が効力発生日に剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継持分会社の持分(吸収分割株式会社が吸収分割をする前から有するものを除き、吸収分割承継持分会社の持分に準ずるものとして法務省令(会施規178条)で定めるものを含む。)のみであるものに限る。)をするときは、その旨(7号ロ)

 

(3) 吸収分割契約の備置き及び閲覧等(事前開示)

① 吸収分割株式会社

(イ)原則

 吸収合併分割株式会社は、吸収分割契約等備置開始日から吸収分割の効力発生日後6か月を経過する日までの間、吸収分割契約の内容その他法務省令(会施規183条)で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。(会社法782条1項)

 吸収分割株式会社の株主及び債権者は、その営業時間内はいつでも、上記書類の閲覧等を求めることができる。(同条3項)

 なお、吸収合併契約等備置開始日とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう(同条2項)

1. 吸収分割契約について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日)

2. 株主に対する会社法785条3項の規定による通知の日又は同条4項の公告の日のいずれか早い日

3. 新株予約権者に対する会社法787条3項の規定による通知の日又は同条4項の公告の日のいずれか早い日

4. 債権者保護手続をしなければならないときは、会社法789条2項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

5. 1.4. 以外の場合には、吸収分割契約の締結の日から2週間を経過した日

(ロ)例外

 吸収分割会社が合同会社である場合には、この事前開示に関する規定は存在しない。

② 吸収分割承継株式会社

 吸収分割承継株式会社は、吸収合併契約等備置開始日から、分割の効力発生日後6か月を経過する日までの間、吸収分割契約の内容その他法務省令(会施規192条)で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければならない。(会社法794条1項)

 吸収分割承継株式会社の株主及ひ債権者は、その営業時間内は、いつでも、上記の書面又は電磁的記録の閲覧等を請求することができる。(会社法794条3項)吸収合併契約等備置開始日とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。(会社法794条2項)

 

1. 吸収分割契約について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日)

2. 株式買取請求権の機会を与えるための、株主に対する通知の日又は公告の日のいずれか早い日(会社法797条3項4項)

3. 債権者保護手続の公告の日又は催告の日のいずれか早い日(会社法799条2項)

 

(4) 吸収分割契約の承認等

① 吸収分割株式会社

(イ)原則(株主総会特別決議による承認)

 吸収分割株式会社は、原則として、吸収分割の効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収分割契約の承認を受けなければならない。(会社法783条1項)

 吸収合併についての消滅会社の承認決議のように、株主総会特殊決議や総株主の同意が必要な場合はない点に注意!分割対価は、分割会社が取得し、会社分割を機に株主の有する株式が譲渡制限付となったり、持分会社の持分となったりすることがないからである。

(ロ)例外1.吸収分割契約の承認を要しない略式手続による吸収分割(略式分割)

 吸収分割承継会社が吸収分割株式会社の特別支配会社である場合には、吸収分割株式会社における株主総会決議は不要である。(会社法784条1項)特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9 (これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社のことである。(会社法468条1項、会施規136条)つまり、吸収分割承継会社が吸収分割株式会社の議決権の90%以上握っている場合である。

 * cf 略式合併・略式株式交換の場合

 合併(交換)対価の一部又は全部が譲渡制限株式等である場合であって消滅株式会社(完全子会社)が公開会社でありかつ種類株式発行会社でないとき(つまり合併(交換)を機に譲渡制限株主となってしまう場合)には株主総会特別決議による承認決議を省略できないという例外があった。しかし吸収分割の場合にはこの例外がない。なぜなら対価となる譲渡制限株式を取得するのは吸収分割会社であるから、吸収分割を機に吸収分割会社の株主の株式が譲渡制限付となることはないからである。

(ハ)例外2.簡易手続きによる会社分割(簡易吸収分割)

 株式会社が吸収分割を行う場合であって、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が、吸収分割株式会社の総資産額として法務省令(会施規則187条)で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合は、吸収分割株式会社において株主総会の特別決議を経ることを要しない。(会社法784条2項)

 cf 吸収合併の場合には、簡易手続きによることができるのは、吸収合併存続会社のみであった点と比較!

(ニ)吸収分割会社が合同会社の場合

 合同会社が吸収分割をして、その事業に関して有する権利義務の全部を他の会社に承継させる場合は、効力発生日の前日までに、吸収分割契約について当該合同会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合はこの限りではない。(会社法793条1項2号)

② 吸収分割承継会社

(イ)吸収分割承継会社が株式会社の場合

a) 単一株式発行会社

 吸収分割承継株式会社は、吸収分割の効力発生日の前日までに、原則として、株主総会の特別決議により、吸収分割契約の承認を受けなければならない。(会社法795条1項)

b) 種類株式発行会社

 吸収分割承継株式会社が種類株式発行会社である場合において、吸収分割会社に対して交付する金銭等が吸収分割承継株式会社の株式である場合にあっては、当該株式(譲渡制限株式であって、当該種類の株式に関する募集事項の決定につき、種類株主総会決議を要しない旨の定款の定めがないものに限る。)の種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議がなければ、吸収分割は、その効力を生じない。(会社法795条4項)

(ロ)吸収分割承継会社が持分会社の場合

a) 対価が持分の場合

 吸収分割会社が吸収分割に際して、吸収分割承継持分会社の社員となるときは、効力発生日の前日までに、吸収分割承継持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款で別段の定めがある場合はこの限りでない。(会社法802条1項2号)

b) 対価が持分以外の場合

 定款に別段の定めがない限り、通常の業務執行の決定として社員の過半数をもって決定することになる。(会社法590条2項)

 

(5) 株式の買取請求等

① 吸収分割株式会社

(イ)株式の買取請求

 次のいずれかに該当する吸収分割株式会社の株主(反対株主)は、会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。(会社法785条1項2項各号)

a) 吸収分割をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合においては、当該株主総会で議決権を行使することができる株主であって、株主総会に先立って会社に対し反対の意思を通知し、かつ、株主総会において吸収分割に反対した株主

b) 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

c) 吸収分割をするために株主総会及び種類株主総会の決議を要しない場合(会社法784条)は、すべての株主(吸収分割承継会社が吸収分割会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)

 ただし、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合にあっては、吸収分割株式会社の株主は、株式買取請求権を有しない。(会社法785条1項2号)

(ロ)吸収分割をする旨の通知又は公告

 吸収分割株式会社は、吸収分割の効力発生日の20日前までに、その株主(吸収分割承継会社が吸収分割会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収分割をする旨並びに吸収分割承継会社の商号及び住所を通知しなければならない。(会社法785条3項)ただし、簡易分割により吸収分割契約について株主総会の承認を要しない場合は、通知は不要である。なお、次に掲げる場合には、通知を公告に代えることができる。(会社法785条4項)

a) 吸収分割株式会社が公開会社である場合

b) 吸収分割株式会社が株主総会の決議によって吸収合併契約の承認を受けた場合

 

吸収分割ー2

② 吸収分割承継株式会社

(イ)株式の買取請求

 次のいずれかに該当する吸収分割承継株式会社の株主は、会社に対して自己の有する株式を、公正な価格で買い取ることを請求することができる。(会社法797条1項2項)

a) 吸収分割をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合においては、当該株主総会で議決権を行使することができる株主であって、株主総会に先立って会社に対し反対の意思を通知し、かつ、株主総会において吸収分割に反対した株主と、当該株主総会において議決権を行使することができない株主

b) 吸収分割をするために株主総会の決議を要しない場合は、すべての株主(吸収分割会社が吸収分割承継会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)

 ただし、吸収分割承継株式会社が簡易分割の手続をとる場合(会社法795条2項各号に掲げる場合及び796条1項ただし書又は3項に規定する場合を除く。)は、当該承継会社の株主は、株式買取請求ができない。(会社法797条1項ただし書)

(ロ)吸収分割をする旨の通知又は公告

 吸収分割承継株式会社は、吸収分割の効力発生日の20日前までに、その株主(吸収分割会社が吸収分割承継会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収分割をする旨並びに吸収分割会社の商号及び住所を通知しなければならない。(会社法797条3項)

 なお、次に掲げる場合は、上記の通知を公告に代えることができる。(同条4項)

a) 吸収分割承継株式会社が公開会社である場合

b) 吸収分割承継株式会社が株主総会決議によって吸収分割契約の承認を受けた場合

 

(6) 新株予約権の買取請求等

① 吸収分割株式会社

 吸収分割承継会社が株式会社である吸収分割をする場合において、次の新株予約権のうち、吸収分割契約に定めた内容が新株予約権の内容に合致する新株予約権以外の新株予約権を有する新株予約権者は、吸収分割株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。(会社法787条1項2号)

1. 吸収分割契約新株予約権

2. 吸収分割契約新株予約権以外の新株予約権であって、吸収分割をする場合において当該新株予約権の新株予約権者に吸収分割承継株式会社の新株予約権を交付することとする旨の定めがあるもの

② 吸収分割承継会社

 吸収分割承継株式会社の新株予約権者は、吸収分割に際して新株予約権の買取請求をすることができないため、新株予約権証券提出公告等の手続きは要しない。

 

(7) 債権者保護手続

① 吸収分割会社

(イ)異議を述べることができる債権者

 吸収分割をする場合、次の債権者は吸収分割会社に対して異議を述べることができる。(会社法789条1項2号)

1. 吸収分割後、吸収分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として吸収分割承継会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求できない吸収分割株式会社の債権者

2. 会社法758条8号又は760条7号に掲げる事項の場合(つまり、従来の人的分割と同様となる場合)すべての吸収分割株式会社の債権者

(ロ)公告及び催告

 吸収分割株式会社の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、吸収分割株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(異議を述べることができる債権者に限る。)に対しては各別に催しなければならない。(会社法789条1項2号、2項

1. 吸収分割をする旨

2. 吸収分割承継会社の商号及び住所

3. 吸収分割株式会社及び吸収分割承継株式会社の計算書類に関する事項として法務省令(会施規188条)で定めるもの

4. 債権者が一定の期間内(1か月を下ることができない。)に異議を述べることができる旨

 なお、吸収分割株式会社が官報のほか定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙により、又は電子公告の方法により公告をするときは、知れている債権者への各別の催告をすることは要しない。(会社法789条3項)ただし、この場合であっても、不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対する各別の催告を省略することはできない。(会社法789条3項カッコ書)

(ハ)異議を述べた債権者に対する対応

 債権者が期間内に異議を述べない場合には、吸収分割を承認したものとみなされるが、異議を述べたときは、吸収分割株式会社は、当該債権者に弁済をするか、相当の担保を提供するか、当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。(会社法789条5項)ただし、当該吸収分割をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでないため、弁済等の必要はない。

② 吸収分割承継会社

(イ)公告及び催告の手続き

 吸収分割承継株式会社の債権者は、吸収分割承継株式会社に対し、吸収分割について異議を述べることができる。(会社法799条1項2号)吸収分割承継株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告しなければならない。(会社法799条2項)

1. 吸収分割をする旨

2. 吸収分割会社の商号及び住所

3. 吸収分割承継株式会社及び吸収分割株式会社の計算書類に関する事項として法務省令(会施規199条)に定めるもの

4. 債権者が一定の期間内(1か月を下ることができない。)に異議を述べることができる旨

 なお、上記の事項を官報のほか、定款に定めた日刊新間紙に掲載するか、又は電子公告により公告をした場合は、知れている債権者への各別の催告は省略することができる。(会社法799条3項)

(ロ)異議を述べた債権者に対する対応

 債権者が期間内に異議を述べない場合には、吸収分割を承認したものとみなされるが、異議を述べたときは、吸収分割承継株式会社は、当該債権者に対し弁済をするか、相当の担保を提供するか、当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。

 ただし、当該吸収分割をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでないため、弁済等の必要はない。(会社法799条5項)

 

(8) 新株予約権証券提出公告

 株式会社が吸収分割をする場合において、吸収分割契約新株予約権に係る新株予約権証券(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債に係る新株予約権付社債券)が発行されているときは、当該株式会社は、吸収分割の効力が生ずる日(新株予約権証券提出日)までに当該株式会社に対し新株予約権証券を提出しなければならない旨を新株予約権証券提出日の1か月前までに公告し、かつ、当該新株予約権の新株予約権者及びその登録新株予約権質権者には、各別にこれを通知しなければならない。(会社法293条1項4号)吸収分割承継株式会社は、吸収分割の効力が生ずる日までに新株予約権証券を提出しない者があるときは、当該新株予約権証券の提出があるまでの間、当該行為によって当該新株予約権証券に係る新株予約権の新株予約権者が交付を受けることができる金銭等の交付を拒むことができる。(会社法293条2項5号)なお、新株予約権証券は、新株予約権証券提出日に無効となる。(会社法293条3項)

 

(9) 株主による差止請求

① 吸収分割株式会社

 吸収分割が行われる場合であって、次の(イ)又は(ロ)に該当し、吸収分割株式会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、吸収分割株式会社の株主は、吸収分割株式会社に対し、吸収分割をやめることを請求することができる。(会社法784条の2)

(イ)当該吸収分割が法令又は定款に違反する場合

(ロ)略式手続により吸収分割が行われる場合において、吸収分割契約に定められた対価が、吸収分割株式会社又は吸収分割承継会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

 ただし、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、吸収分割株式会社の株主は、吸収分割株式会社に対し、吸収分割をやめることを請求することができない。(会社法784条の2ただし書、784条2項)

② 吸収分割承継会社

 吸収分割が行われる場合であって、次の(イ)又は(ロ)に該当し、吸収分割承継株式会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、吸収分割承継株式会社の株主は、吸収分割承継株式会社に対し、吸収分割をやめることを請求することができる。(会社法796条の2)

(イ)当該吸収分割が法令又は定款に違反する場合

(ロ)略式手続により吸収分割が行われる場合において、吸収分割契約に定められた対価が、吸収分割承継株式会社又は吸収分割会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

 ただし、吸収分割により吸収分割会社に交付する対価の合計額が吸収分割承継株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額に対する割合が5分の1(これを下回る割合を吸収分割承継株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合 (会社法795条2項各号に掲げる場合及び会社法796条1項ただし書又は3項に規定する場合を除く。)は、吸収分割承継株式会社の株主は吸収分割をやめることを請求することができない。

 

(10) 吸収分割契約に関する書面の備置き及び閲覧(事後開示)

① 吸収分割株式会社

(イ)原則

 吸収分割株式会社は、吸収分割の効力発生日後遅滞なく、吸収分割承継会社と共同して、吸収分割により吸収分割承継会社が承継した吸収分割株式会社の権利義務その他の吸収分割に関する事項として法務省令(会施規189条)で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、吸収分割の効力発生日から6カ月間、当該書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。(会社法791条2項)

 吸収分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人は、吸収分割株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、上記の書面又は電磁的記録の閲覧等を請求することができる。(同条3項)

(ロ)例外

 吸収分割会社が合同会社である場合には、この事後開示に関する規定は存在しない。

吸収分割承継会社

(イ)原則

 吸収分割承継株式会社(合同会社が吸収分割をする場合における当該吸収分割承継株式会社に限る。)は、吸収分割の効力発生日後遅滞なく、吸収分割合同会社と共同して、吸収分割により吸収分割承継株式会社が承継した吸収分割合同会社の権利義務その他の吸収分割に関する事項として法務省令(会施規201条)で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。(会社法801条2項)

 そして、吸収分割承継株式会社は、吸収分割の効力発生日から6か月間上記の書面又は電磁的記録か、会社法791条1項1号の規定により吸収分割株式会社と共同して作成した書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければならない。(会社法801条3項)

 吸収分割承継株式会社の株主、債権者その他の利害関係人は、吸収分割承継株式会社に対して、上記の書面又は電磁的記録の閲覧等を請求することができる。(会社法801条5項4項)

(ロ)例外

 吸収分割承継会社が持分会社である場合には、この事後開示に関する規定は存在しない。

 

(11) 登記申請手続

① 登記期間

 会社が吸収分割をしたときは、その効力が生じた日から2週間以内に、その本店の所在地において、吸収分割をする会社及び当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社についての変更の登記をしなければならない。(会社法923条)

 支店所在地においては、支店所在地における登記事項に変更が生じた場合には、効力発生日から3週間以内に登記をしなければならない。

② 申請人

 吸収分割による吸収分割会社の変更登記は、吸収分割会社の代表者が、また、吸収分割による吸収分割承継会社の変更登記は、吸収分割承継会社の代表者がそれぞれ行う。cf 吸収合併、新設合併

③ 申請形態(経由同時申請)

(イ)経由申請

 本店の所在地にお吸収分割会社がする吸収分割による変更の登記の申請は、当該登記所の管轄区域内に吸収分割承継会社の本店がないときは、その本店の所在地を管轄する登記所を経由してしなければならない。(商登法87条1項)

(ロ)同時申請

 本店の所在地における吸収分割会社がする変更の登記の申請と、吸収分割承継会社がする吸収分割による変更の登記の申請とは、同時にしなければならない。(商登法87条2項)

 吸収分割承継会社の本店の所在地を管轄する登記所においては、上記の申請のいずれかにつき商登法24条各号のいずれかに掲げる却下事由があるときは、これらの申請を共に却下しなければならない。(商登法88条1項)吸収分割承継会社の本店の所在地を管轄する登記所においては、経由申請の吸収分割による変更の登記をしたときは、遅滞なく、その登記の日を登記の申請書に記載し、これを吸収分割会社の本店の所在地を管轄する登記所に送付しなければならない。(同条2項)

④ 登記の事由

(イ)吸収分割株式会社

 「吸収分割による変更」と記載する。吸収分割に際して、その他事項を変更した場合には、当該事項もあわせて記載する。ex 資本金の額の減少

(ロ)吸収分割承継会社

 「吸収分割による変更」と記載する。吸収分割に際して、その他事項を変更した場合には、当該事項もあわせて記載する。ex 役員変更、発行可能株式の総数の変更等

⑤ 登記すべき事項

(イ)吸収分割株式会社

a) 分割の年月日、分割をした旨並びに吸収分割承継会社の商号及び本店(商登法84条2項)

b) 吸収分割会社の新株予約権者に対して吸収分割承継会社の新株予約権が交付され、消滅した新株予約権がある場合には、当該新株予約権が消滅した旨及び変更年月日

c) その他、登記事項に変更が生じた場合は、その事項

(ロ)吸収分割承継会社

a) 変更後の資本金の額、発行済株式総数(種類株式発行会社にあっては、発行済の株式の種類及び数を含む)及び変更年月日

b) 吸収分割会社の新株予約権者等に新株予約権を発行した場合には、新株予約権に関する登記事項及び変更年月日

c) 分割の年月日、分割をした旨並びに吸収分割会社の商号及び本店(商登法84条1項)

d) その他、登記事項に変更が生じた場合は、その事項