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1合併の登記

堀川 寿和2022/01/31 11:10

合併の態様

 会社は、会社の種類(株式会社、持分会社)を問わず、他の会社と合併することができる。つまり、すべての種類の会社間における合併が認められるということである。吸収合併の場合、存続会社は株式会社でも持分会社でも、いずれでもよい。株式会社と持分会社が吸収合併をする場合、持分会社を存続会社とすることも可能である。新設合併の場合も、新設会社は株式会社でも持分会社でもどちらでもよい。その結果、株式会社が他の株式会社、持分会社と合併して、持分会社を設立することも可能である。

吸収合併ー1

(1) 手続きの流れ

 

(2) 合併契約

① 合併契約の締結

 会社が他の会社と合併をしようとする場合、合併をする会社は合併契約を締結しなければならない。(会社法748条)合併契約は、取締役会設置会社では、取締役会の決議(取締役会設置会社以外の会社は取締役の過半数の決定)を経て、当事会社の代表取締役(代表執行役)が株主総会による承認を停止条件として締結する。合併契約で定める定めるべき事項は会社法749条1項で法定されているが、法定事項以外の事項も合併の本質や強行法規に反しない限り、合併契約で定めることができる。

② 合併契約事項

 株式会社が吸収合併存続会社となる場合(*1)

(イ)吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅会社の商号及び住所(1号)

(ロ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該吸収合併存続株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項(2号イ)

(ハ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(2号ロ)

(ニ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法(2号ハ)

(ホ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ハ)の事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ニ)の事項(2号ニ)

(ヘ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる株式等(*2)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法(2号ホ)

(ト)(ロ)〜(へ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する(ロ)〜(へ)の金銭等の割当てに関する事項(3号)(*3)

(チ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行している場合において、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して吸収合併存続株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法(4号イ)

(リ)(チ)の事項を定めた場合において、(チ)の吸収合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収合併存続株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(4号ロ)

(ヌ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行している場合において、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額又はその算定方法(4号ハ)

(ヲ)(チ)〜(ヌ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する(チ)〜(ヌ)の吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項(5号)

(ワ)吸収合併がその効力を生ずる日(効力発生日)(6号)

 

 なお、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、(ト)に掲げた事項として、次に掲げる事項を定めることができる。(会社法749条2項)

) ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは,その旨及び当該株式の種類(1号)

) )の場合のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容(2号)

 

 持分会社が吸収合併存続会社となる場合(*1)

(イ)吸収合併存続持分会社及び吸収合併消滅会社の商号及び住所(1号)

(ロ)吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、吸収合併存続持分会社が合名会社であるときは、当該社員の氏名又は名称及び住所並びに出資の価額(2号イ)

(ハ)吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、存続持分会社が合資会社であるときは当該社員の氏名又は名称及び住所、当該社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別、並びに当該社員の出資の価額(2号ロ)

(二)吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、吸収合併存続持分会社が合同会社であるときは、当該社員の氏名又は名称及び住所並びに出資の価額(2号ハ)

(ホ)吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる社價を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法(3号イ)

(ヘ)吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式又は持分に代わる吸収合併存続持分会社の持分又は社債以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数もしくは額又はこれらの算定方法(3号ロ)

(ト)(ホ)又は(ヘ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続持分会社を除く。)又は吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続持分会社を除く。)に対する(ホ)又は(ヘ)の金銭等の割当てに関する事項(4号)

(チ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる金銭の額又はその算定方法(5号)

(リ)(チ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する(チ)の金銭の割当てに関する事項(6号)

(ヌ)効力発生日(7号)

 

 なお、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続持分会社及び吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、(ト)に掲げた事項として、次に掲げる事項を定めることができる。(会社法751条2項)

) ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類(1号)

) )の場合のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容(2号)

 

 持分会社が吸収合併存続会社となる吸収合併を行う場合には、(ト)の事項についての定めは、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続持分会社並びにⅰ)の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(ⅱに掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない(3項)

 

(3) 吸収合併契約に関する書面の備置き及び閲覧(事前開示)

① 吸収合併消滅会社

 吸収合併消滅株式会社は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併の効力発生日までの間、吸収合併契約の内容その他法務省令で定める事項(会施規182条)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。(会社法782条1項)吸収合併消滅株式会社の株主及び債権者は、その営業時間内はいつでも、上記書類の閲覧等を求めることができる。(同条3項)

 なお、吸収合併契約等備置開始日とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう(同条2項)

(イ)吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日)

(ロ)株主に対する会社法785条3項の規定による通知の日又は同条4項の公告の日のいずれか早い日

(ハ)新株予約権者に対する会社法787条3項の規定による通知の日又は同条4項の公告の日のいずれか早い日

(ニ)債権者保護手続をしなければならないときは、会社法789条2項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日

(ホ) (イ)~(ニ)以外の場合には、吸収分割契約又は株式交換契約の締結の日から2週間を経過した日

② 吸収合併存続会社

 吸収合併存続株式会社は、吸収合併契約備置開始日から、合併の効力発生後6カ月を経過する日までの間、吸収合併契約の内容その他法務省令で定める事項(会施規191条)を記載し又は記録した書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければならない。(会社法794条1項)

 そして、吸収合併存続株式会社の株主及び債権者は、その営業時間内は、いつでも、上記の書面の閲覧・謄写等を請求することができる。(同条3項)なお、吸収合併契約等備置開始日とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。(同条2項)

(イ)吸収合併契約について株主総会(種類株主総金を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日)

(ロ)株式買取請求権を有する株主に対する通知の日又は公告の日のいずれか早い日(会社法797条3項4項)

(ニ)債権者保護手続をしなければならないときは、公告又は催告の日のいずれか早い日(会社法799条2項)

 

(4) 吸収合併契約の承認

① 吸収合併消滅会社

吸収合併消滅会社が株式会社(単一株式発行会社)の場合

(イ)原則(株主総会の特別決議)

 吸収合併消滅株式会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに、原則として、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない。(会社法783条1項、会社法309条2項12号)

(ロ)例外

) 株主総会特殊決議

 合併により消滅する株式会社(種類株式発行会社を除く。)が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合は、株主総会特殊決議が必要である。(会社法309条3項2号)ここでいう「譲渡制限株式等」とは、譲渡制限株式のほか、吸収合併存続株式会社の取得条項株式であって、取得対価である他の株式が譲渡制限株式であるもの、又は吸収合併存続株式会社の取得条項付新株予約権であって、取得対価である当該会社の株式が譲渡制限株式であるもののことをいう。つまり、合併前は譲渡制限の付かない株の株主であったのに、合併対価として交付されるのが、譲渡制限の付いた又は将来付く可能性のある株式である場合である。

) 総株主の同意

 吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社でない場合において、吸収合併消滅株式会社の株主に対して交付する金銭等(合併対価等)の全部又は一部が持分等(持分会社の持分その他法務省令(会施規186条 持分会社の持分及び譲渡制限株式を除く権利の移転又は行使に債務者その他の第三者の承諾を要するもの。)で定めるものをいう。)であるときは、吸収合併消滅株式会社の総株主の同意を得なければならない。(会社法783条2項)株主の地位から持分会社の持分権者(社員)となること等は、株主にとって重大な問題だからである。

吸収合併消滅会社が株式会社(種類株式発行会社)の場合

(イ)全体株主総会特別決議+譲渡制限株式等の割当てを受ける譲渡制限株式でない種類株主の種類株主総会特殊決議

 吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等(譲渡制限株式その他これに準ずるものとして法務省令(会施規186条)で定めるものをいう。)であるときは、吸収合併は、当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては、当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議(特殊決議 会社法324条3項2号)がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない。(会社法783条3項)

(ロ)全体株主総会特別決議+ある種類株主全員の同意

 吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部又は一部が持分等であるときは、吸収合併は、当該持分等の割当てを受ける種類の株主の全員の同意がなければ、その効力を生じない。(会社法783条4項)

吸収合併消滅会社が持分会社の場合

 持分会社が吸収合併消滅会社となる場合は、効力発生日の前日までに,吸収合併契約について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合はこの限りではない。(会社法793条1項1号)

吸収合併契約の承認を要しない場合(略式手続による吸収合併)

(イ)要件

 吸収合併存続会社が消滅株式会社の特別支配会社である場合には、消滅株式会社における株主総会決議は不要である。(会社法784条1項)特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9 (これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社のことである。(会社法468条1項、会施規136条)つまり、吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の議決権の90%以上握っている場合である。この場合、全体株主総会決議が不要になるのであって、種類株主総会の決議まで不要になるわけではない点に注意!

(ロ)例外(略式手続によることができない場合)

 吸収合併における合併対価等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合であって、消滅株式会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、この限りでない(会社法784条1項ただし書)ため、原則どおり消滅株式会社における株主総会決議を要する。この場合、消滅会社の株主の株式に譲渡制限が付着する結果となり、影響が大きいから原則どおり株主総会の決議を要求するのである。

② 吸収合併存続会社

吸収合併存続会社が株式会社の場合

(イ)単一株式発行会社

 吸収合併存続株式会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(会社法795条1項)

(ロ)種類株式発行会社

 ただし、吸収合併存続株式会社が種類株式発行会社であって、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等が吸収合併存続株式会社の株式(譲渡制限株式であって、当該種類の株式に関する募集事項の決定につき、種類株主総会決議を要しない定款の定めがないものに限る。)である場合は、通常の特別決議のほか、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議がなければ、吸収合併の効力が生じない。(会社法795条4項1号)

吸収合併存続会社が持分会社の場合

 吸収合併存続会社が持分会社であって、吸収合併により吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員が、吸収合併存続持分会社の社員となるときは、吸収合併の効力発生日の前日までに、吸収合併契約について吸収合併存続持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合はこの限りではない。(会社法802条1項)

略式手続による吸収合併

(イ)要件

 吸収合併消滅会社が存続株式会社の特別支配会社である場合には、存続株式会社における株主総会決議は不要である。(会社法796条1項)

(ロ)例外(略式手続によることができない場合)

 上記(イ)の要件に該当する場合であっても、吸収合併消滅株式会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社が公開会社でないときは、存続株式会社等における株主総会決議を省略することはできない。(会社法796条1項ただし書)

 

吸収合併ー2

簡易手続による吸収合併

(イ)要件

 株式会社が吸収合併を行う場合、次の一定の要件を満たすときは、吸収合併存続株式会社の株主に与える影響が軽微であるため、吸収合併存続株式会社において、株主総会における承認決議を省略することができる。(会社法796条2項)

1. 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する吸収合併存続株式会社の株式の数に1株当たりの純資産額を乗じて得た額

2. 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する吸収合併存続株式会社の社債、新株予約権又は新株予約権付社債の帳簿価額の合計額

3. 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額

 上記1.3.の合計額の吸収合併存続株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額に対する割合が、5分の1(これを下回る割合を吸収合併存続株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)超えない場合である。(会社法7962項、会施規196条)

(ロ)例外

a) ただし、以下に掲げる場合は、上記(イ)の要件を満たしても吸収合併存続株式会社における株主総会決議を省略することはできない。(会社法796条2項ただし書)

1. 吸収合併存続株式会社が承継する吸収合併消滅会社の債務の額(承継債務額、会施規195条)が吸収合併存続株式会社が承継する吸収合併消滅会社の資産の額(承継資産額)を超える場合(会社法795条2項1号)

2. 吸収合併存続株式会社が吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等(吸収合併存続株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合(会社法795条2項2号)

3. 吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等の全部又は一部が吸収合併存続株式会社の譲渡制限株式である場合であって、吸収合併存続株式会社が公開会社でないとき(会社法796条1項ただし書)

b) 法務省令(会施規197条)の規定により定まる数の株式(承認決議において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が会社法797条3項4項に定める合併をする旨等の株主への通知又は公告の日から2週間以内に吸収合併に反対する旨を吸収合併存続株式会社に対し通知したときも、株主総会の決議を省略することができない。(会社法796条4項)

 

(5) 反対株主の株式買取請求

① 吸収合併消滅会社

(イ)反対株主の株式買取請求

 次のいずれかに該当する吸収合併消滅株式会社の株主(反対株主)は、会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。(会社法785条2項各号)

a) 吸収合併をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合においては、当該株主総会で議決権を行使することができる株主であって、株主総会に先立って会社に対し反対の意思を通知し、かつ、株主総会において吸収合併に反対した株主

b) 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

c) 吸収合併をするために株主総会及び種類株主総会の決議を要しない場合(会社法784条)は、すべての株主(吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)

 ただし、対価が持分等である場合であって、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社でない場合は株式買取請求をすることはできない。 (会社法785条1項1号)この場合は、総株主の同意が要求されているため、反対株主は存在しないからである。

(ロ)吸収合併をする旨の通知又は公告

 吸収合併消滅株式会社は、吸収合併の効力発生日の20日前までに、その株主(持分等の割当てを受ける株主及び吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収合併をする旨並びに吸収合併存続会社の商号及び住所を通知しなければならない。(会社法785条3項)なお、次に掲げる場合には、上記の通知を公告に代えることができる。(会社法785条4項)

a) 吸収合併消滅株式会社が公開会社である場合

b) 吸収合併消滅株式会社が株主総会の決議によって吸収合併契約の承認を受けた場合

② 吸収合併存続会社

 吸収合併消滅会社の手続きと同様である。ただし、簡易合併する場合は、株式買取請求ができない。(会社法797条1項ただし書)

 

(6) 新株予約権の買取請求

① 吸収合併消滅会社

 吸収合併消滅株式会社の新株予約権者に対し、吸収合併存続株式会社の新株予約権又は金銭が割り当てられる旨が合併契約に定められた場合において、当該定めが新株予約権の内容(会社法236条1項8号)に合致する場合以外においては、吸収合併消滅株式会社の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。(会社法787条1項)

 新株予約権付社債を有する者が新株予約権の買取請求をする場合は、その新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがあるときを除き、当該新株予約権と併せて、新株予約権付社債に付された社債を買い取ることを請求しなければならない。(同条2項)

消滅株式会社は、効力発生日の20日前までに、新株予約権の新株予約権者に対し、吸収合併をする旨並びに存続会社の商号及び住所を通知しなければならない。当該通知は、公告をもってこれに代えることができる。(同条3項)

 新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、その新株予約権証券を提出しなければならない。(同条6項)

 また、新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、その新株予約権付社債券を提出しなければならない。(同条7項)なお、新株予約権買取請求をした新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる。(同条8項)ただし、新株予約権の価格の決定について、効力発生日から30日以内に協調が調わず、効力発生日から60日以内に裁判所に対する新株予約権者又は吸収合併消滅会社(効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社)から裁判所に対する価格の決定の申立てがないときは、その期間の満了後は、新株予約権者は、いつでも、新株予約権買取請求を撤回することができる。(会社法788条3項)なお、吸収合併を中止したときは、新株予約権買取請求の効力は失われる。(会社法787条9項)

② 吸収合併存続会社

 吸収合併消滅会社と異なり、吸収合併存続会社の新株予約権者に新株予約権の買取請求できる旨の規定は存在しない。

 

(7) 株券提供公告

① 吸収合併消滅株式会社

 吸収合併消滅株式会社が株券発行会社である場合(全部の株式について株券を発行していない場合を除く。)には、合併の効力が生じる日までに当該株券発行会社に対し株券を提出しなければならない旨を、当該効力発生日の1か月前までに公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。(会社法219条1項6号)

 吸収合併消滅会社は、株券の提出があるまでは、当該合併によって当該株券にかかる株式の株主が受けることのできる金銭等の交付を拒むことができる。当該株券は、合併の効力発生日に無効となる。(会社法219条2項3項)

② 吸収合併存続株式会社

 吸収合併存続株式会社においては、現実に株券を発行している場合であっても、合併に伴い株式の譲渡制限の定めを設ける場合を除き、株券提出公告等手続きは必要ない。

 

(8) 新株予約権証券の提出公告

① 吸収合併消滅株式会社

 合併消滅株式株予約権に係る新株予約権証券(又は、新株予約権付社債券)を発行しているとき株式しているときは、当該株式会社は、合併の効力が生じる日までに当該会社に対し新株予約権証券を提供しなければならない旨を、当該効力発生日の1か月前までに公告し、かつ、当該新株予約権の新株予約権者及び登録新株予約権質権者には、各別にこれを通知しなければならない。(会社法293条1項3号)合併の効力発生日(新株予約権証券提出日)までに新株予約権証券を提出しない者があるときは、吸収合併存続会社は当該新株予約権証券の提出があるまでの間、合併によって当該新株予約権証券に係る新株予約権の新株予約権者が交付を受けることができる金銭等の交付を拒むことができる。(会社法293条2項4号)新株予約権証券は、合併の効力発生日(新株予約権証券提出日)に無効となる。(会社法293条3項)

② 吸収合併存続株式会社

 吸収合併存続株式会社においては、新株予約権の提出公告に関する規定は存在しない。

 

(9) 債権者保護手続

① 吸収合併消滅株式会社

(イ)公告及び催告

 吸収合併をする場合、吸収合併消滅株式会社においては、吸収合併消滅株式会社の債権者に対して、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者に対しては各別に催告しなければならない。(会社法789条1項1号、2項)

1. 吸収合併をする旨

2. 吸収合併存続株式会社の商号及び住所

3. 吸収合併消滅株式会社及び吸収合併存続株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの(会施規188条)

4. 当該合併に異議があれば一定の期間内(1か月を下ることができない。)に異議を述べることができる旨

 ただし、吸収合併消滅株式会社が官報のほか定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙により又は電子公告の方法により公告をするときは、知れている債権者への各別の催告を要しない。(会社法789条3項)

 なお、吸収合併消滅会社が持分会社の場合、この各別の催告を省略できるのは、合同会社に限られ、合名会社及び合資会社においては、原則どおり官報公告と知れている債権者に対して各別に催告しなければならないことになる。

(ロ)異議を述べた債権者に対する弁済等

 債権者が期間内に異議を述べない場合は吸収合併を承認したものとみなされる(会社法789条4項)が、異議を述べた場合は、吸収合併消滅株式会社は、弁済をするか、相当の担保を提供するか、弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。

 しかし、合併してもその債権者を害するおそれがないときは、この限りでないため、会社は弁済等の手続きをとる必要はない。(会社法789条4項5項)

② 吸収合併存続株式会社

(イ)公告及び催告

 吸収合併存続株式会社は、債権者に対し、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別に催告しなければならない。(会社法799条2項)

1. 吸収合併をする旨

2. 吸収合併消滅会社の商号及び住所

3. 吸収合併存続株式会社及び吸収合併消滅株式会社の計算書類に関する事項として法務省令(会施規199条)に定めるもの

4. 債権者が一定の期間内(1か月を下ることができない。)に異議を述べることができる旨

 なお、上記1.~4.までの事項を官報のほか、定款に定めた日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告により公告した場合は、知れている債権者への各別の催告は省略することができる。(会社法799条3項)

(ロ)異議を述べた債権者に対する対応

 債権者が期間内に異議を述べない場合は吸収合併を承認したものとみなされる(会社法799条4項)が、異議を述べた場合には、吸収合併存続株式会社は、当該債権者に対し弁済をするか、相当の担保を提供するか、弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、吸収合併を行っても当該債権者を害するおそれがない場合には、会社は上記弁済等をする必要はない。(同条5項)

 

(10) 合併の効力発生

① 効力発生日

 吸収合併の効力は、債権者保護手続が終了していない場合又は吸収合併を中止した場合を除き、合併契約で定められた合併の効力発生日に生ずる。(会社法750条6項)

 効力発生日に吸収合併消滅会社は解散し、吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。(会社法750条1項)ただ、吸収合併消滅会社の吸収合併による解散は、吸収合併の登記の後でなければ、これをもって第三者に対抗することができない。(同条2項)

② 効力発生日の変更

 吸収合併消滅株式会社は、吸収合併存続会社との合意により、効力発生日を変更することができる。(会社法790条1項、793条2項)この場合、株主総会等を開催する必要はなく、業務執行機関の決定と吸収合併消滅会社と存続会社の代表者の合意があれば足りる。

 吸収合併消滅株式会社は、変更前の効力発生日(変更後の効力発生日が変更前の効力発生日前の日である場合にあっては、当該変更後の効力発生日)の前日までに、変更後の効力発生日を公告しなければならない。(会社法790条2項、793条2項)

 

(11) 吸収合併契約に関する書面の備置き及び閲覧(事後開示)

 吸収合併存続株式会社は、効力発生日後遅滞なく、吸収合併により吸収合併存続会社が承継した吸収合併消滅会社の権利義務その他の吸収合併に関する事項として法務省令(会施規200条)で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成しなければならない。(会社法801条1項)

 この書面又は電磁的記録は、吸収合併存続株式会社において、効力発生日から6か月間本店に備え置かなければならない。(同条3項)そして、吸収合併存続株式会社の株主及び債権者は、吸収合併存続株式会社に対して、その営業時間内はいつでも閲覧請求又は謄本又は抄本等の交付請求をすることができる。(同条4項)