• 宅建業法ー2.宅建業者
  • 1.免許
  • 免許
  • Sec.1

1免許

堀川 寿和2021/11/22 11:28

 宅建業を行うためには免許が必要である。本節では、宅建業者にふさわしくない者には免許を与えないという「免許の基準」が特に重要である。宅建業は、不動産という極めて高額の物件を扱う業であるため、適正を欠く者を排除する社会的要請が強いのである。

免許の区分

 宅建業の免許は、国土交通大臣免許と都道府県知事免許がある。両者に違いはなく、宅建業者を監督するための便宜に過ぎない。

①国土交通大臣免許 → 2つ以上の都道府県に事務所を設置して宅建業を営む場合
②都道府県知事免許 → 1つの都道府県にのみ事務所を設置して宅建業を営む場合





Point 免許の区分は、事務所自体の数ではなく、事務所の設置場所による。つまり、事務所が10個あっても、すべて兵庫県内であれば兵庫県知事免許、事務所は2個でも、兵庫県と大阪府にあれば国土交通大臣免許である。


免許の申請手続

 免許の申請手続は以下のとおり。

①知事免許の申請は、当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事に対し直接申請する。
②国土交通大臣免許の申請は、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事を経由して申請する。


免許の基準

 宅建業者にふさわしくない者には免許を与えるべきでない。しかし、何をもってふさわしくないというかについて、免許を与える者(「免許権者」という)の恣意的な判断によるのは不当である。宅建業法は、免許権者の恣意的な判断を防ぎ、公平に免許が与えられるように、免許の基準を定めている。

 なお、免許を与えてはならない場合を「免許欠格事由」という。個別に説明を加えるが、まずはおおまかにグループ分けをしておこう。大きく分けて、以下の3グループに分けられる。

1. 免許申請者自身に問題がある場合   2. 免許申請者の関係者に問題がある場合
3. 申請手続上の問題がある場合


(1) 免許申請者自身に問題がある場合

【免許欠格事由①】

① 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者



 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者は、経済的信用が失われてしまった者である。このような者に業者になられると一般の顧客が不安であるため、免許を取れないものとした。


Point 破産手続開始の決定を受けた者が復権を得た場合は、直ちに免許を受けることができる。欠格事由②以降に登場する、5年の欠格期間がないので注意。


【免許欠格事由②】

②以下の3つのいずれかの事由によって免許を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者。
1. 不正手段により免許を受けた
2. 業務停止処分事由に該当し情状が特に重い
3. 業務停止処分に違反した



 いわゆる、「三大悪事」と呼ばれる行為を行い、免許を一度取り消されてしまった者が、再度免許申請をしようとしている場面で問題となる規定である。悪事をして免許を取り消されたのだから、そのほとぼりも冷めないうちに再度免許を取得させたのでは意味がない。そこで、5年間の欠格期間が課され、その間は再度免許申請をしても免許が取れないことになっている。

 『業務停止処分』とは、業者に対する監督処分の一つであり、一番重いのは『免許取消』、次が『業務停止』、一番軽いのは『指示』処分となる。


Point あくまでも、「三大悪事」により、免許を「取り消された」場合である。『指示処分』や『業務停止処分』で済んだ場合は欠格事由にあたらないので注意。


【免許欠格事由③】

 次に、欠格事由②にあたる者が法人の場合、その法人の役員が免許を取れないというものがある。

③いわゆる、「三大悪事」を行って免許を取り消された者が法人である場合において、取消処分の聴聞の期日及び場所の公示日前60日以内に法人の役員だった者で、取消しの日から5年間を経過しない者。



 法人は自然人と異なり、それ自体に行為をする能力はない団体であるから、すべて取締役などの役員が意思決定をして行為を行っている。よって、たとえ法人が法人として行った「三大悪事」であっても、役員個人の行為とは別であるとして、役員に逃げ道を与えてしまうことは妥当でないと考えたのである。

 なお、ここでいう『役員』とは、業務を執行する役員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し取締役等と同等以上の支配力を有すると認められる者をいう(宅建業法5条1項2号括弧書)。よって、免許申請書などに記載する役員とは必ずしも一致しない。名目(肩書き)ではなく、実質で判断するということである。

役員である者の例代表取締役、取締役、社長、執行役、相談役、顧問
役員でない者の例監査役、取引士、支店長、営業所長、支配人


Point 『監査役』は通常、業務執行権を持っていないので役員でない者に分類してあるが、事実上会社を支配しているという立場にあれば、「役員」となる。


【免許欠格事由④】

 免許欠格事由④は、免許欠格事由②の応用編である。業者が違法または不当な行為を行ってそれが発覚し、聴聞のための呼び出しがかかった場合、処分を察したところで先手を打って廃業の届出を出し(それによって手続きは中止され処分はなかったことになる)、ほとぼりが冷めたところで知らぬ顔をして免許を得ようとする場合がある。これを認めたのでは免許欠格事由②を定めた意味がなくなってしまう。

 そこで、欠格事由②の潜脱手段を防ぐために次のような規定が置かれた。

④いわゆる、「三大悪事」を行ったとして、免許取消処分の聴聞の期日及び場所が公示された日から、処分をするかしないかを決するまでの間に正当な理由なく廃業等の届出をした者で廃業等の届出の日から5年を経過しない者。


 この規定があることによって、自主廃業等で処分を免れた者も処分を受けた者と同じ扱いになる。

なお、『廃業等の届出』とは、①廃業の届出、②法人が、合併及び破産以外の理由によって解散した場合をいう。『合併』、『破産』の場合が除かれているのは、『合併』すればその会社は消滅するので、以後免許取得はできないこと、『破産』については、監督処分を免れるため意図的に破産することが考えにくいことによる。


Point この場合の5年間の欠格期間は、廃業等の届出によって実際には免許取消処分が行われないので、「免許取消処分の日」から起算することはできず、「廃業等の届出の日」から起算する。


【免許欠格事由⑤】

 次は、免許欠格事由④に該当するのが「法人」であるパターンである。その趣旨は、免許欠格事由③と同じく、法人が違法または不当な行為をした場合に、その法人の役員だった者も免許を取れなくするというものである。

⑤免許欠格事由④の期間内に相当の理由なく合併により消滅した法人、又は廃業等の届出のあった法人の聴聞の期日及び場所の公示日前60日以内に役員だった者で、その消滅又は廃業等の届出の日から5年を経過していない者。



 こちらは『合併』が含まれている。この点、『合併』するとその『法人』は消滅するが、その当時役員だった者が消えてなくなるわけではなく、その役員の免許取得は考えられるからである。


【免許欠格事由⑥】

 続いて、犯罪を行った者を排除する規定である。

⑥禁錮以上の刑に処され、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過していない者。



「刑」には全部で7種類あるが、そのうち「禁錮以上の刑」とは、死刑、懲役、禁錮の3つである。「執行を終わり」とは、刑務所に入り、いわゆる『お務め』を終わった場合をいい、「刑の執行を受けることがなくなった」とは、刑の執行を免除された場合である。あくまで刑が「執行されなくなった」だけという場合のことをいい、刑の言渡しそのものが「無効」となる、「執行猶予期間の経過」はこれに含まれない


Point1 『執行猶予』とは、犯罪を行ったとして有罪になったときに、比較的短い有期刑(3年以下)と罰金刑に付されるものである。一定の期間が定められており、この期間中に再犯等をすることもなく無事期間を満了すれば、刑の言渡しそのものが無効になるという制度である(刑法27条)。


Point2 『執行猶予』が付された場合、執行猶予期間中は免許を受けられない。ただし、執行猶予期間が満了すれば、直ちに免許を受けることができる。「刑の執行の免除」ではないため、5年の欠格期間が課されないことに注意が必要。


Point3 控訴・上告中の者は、免許を受けることができる。後で軽い刑を言い渡されたり、無罪になったりする可能性があるからである。なお、「控訴」とは、地方裁判所の判決に対して高等裁判所に不服を申し立てること。「上告」とは、高等裁判所の判決に対して最高裁判所に不服を申し立てることである。


【免許欠格事由⑦】

犯罪については、もう一つ重要な欠格事由がある。

⑦ 以下の犯罪行為により罰金刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
(a) 宅建業法に違反
(b) 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反
(c) 傷害罪、傷害助勢罪、暴行罪、凶器準備集合罪、脅迫罪、背任罪、暴力行為等処罰に関する法律違反


 この規定は、宅建業法違反や、暴力行為による犯罪を特に厳しく取り扱うものである。犯罪一般が「禁錮以上」で欠格事由なのに対し、こちらは「罰金刑」でも欠格事由である。昭和60年代のいわゆるバブル期に行われた、違法な地上げ屋の活動を取り締まるため、罰金刑でも免許がとれないように厳しく改正した。


【免許欠格事由⑧】

 欠格事由の8番目は、過去に宅建業に関して不正、又は著しく不当な行為をした者である。過去に不正、又は著しく不当な行為をしたということは、将来も同様の行為を行う可能性が高いと考えるのである。

⑧免許申請前5年以内に宅建業に関し不正、又は著しく不当な行為をした者。


【免許欠格事由⑨】

⑨宅建業に関し不正、又は不誠実な行為をすることが明らかな者。


この規定は、宅建業以外に関して不正、又は著しく不当な行為をした者を、宅建業者から排除しようという規定である。


【免許欠格事由⑩】

⑩暴力団の構成員や構成員でなくなった日から5年を経過しないもの。


【免許欠格事由⑪】

⑪心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの


 「国土交通省令で定める者」として、「精神の機能の障害により宅地建物取引業を適正に営むに当たって必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない者」が定められている。申請者本人が成年被後見人または被保佐人である場合は、契約の締結およびその履行にあたり必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができる能力を有するか否かが、個別的・実質的な審査により判断される。


Point 成年被後見人または被保佐人であっても、契約の締結およびその履行にあたり必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができる能力を有する場合は、宅建業の免許を受けることができる。しかし、宅建業者(個人に限り、未成年者を除く。)が宅建業の業務に関し行った行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。宅建業者が行った行為が制限行為能力者であることを理由に後から取り消されてしまうと、取引の相手方等に損害を与えてしまうおそれがあるからである。


(2) 免許申請者の関係者に問題がある場合

【免許欠格事由⑫】

 欠格事由①で見たように、未成年者であるだけでは免許欠格事由にはならないが、その法定代理人が上記の欠格事由に該当する場合は、申請者本人である未成年者も免許を取ることができないというものがある。

⑫営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者で、その法定代理人(法定代理人が法人である場合においては、その役員を含む)が上記①~⑪のいずれかに該当する場合。



 「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者」とは、法定代理人から営業の許可を与えられていない未成年者のことである。未成年者が「営業の許可」を与えられていないと、不動産の取引は、法定代理人が代わってやるか(代理)、未成年者が法定代理人の同意を得てやるしかない。いずれにしても、実質的には法定代理人が意思決定することになる。そこでその法定代理人を審査することとしたのである。

  この規定の裏の目的は、免許欠格事由に該当する者が、自己名義で免許を取れないため、例えば未成年者の息子等を名目的な免許申請者として、実質的には自らが宅建業を営もうとするのを防ぐというものである。


Point1 「成年者と同一の行為能力を有しない」のところを、「有する」と変えて出題するのが出題者の典型的な手口である。引っかからないように注意。


Point2 年齢は20歳未満でも、婚姻していれば成年者として取り扱われる(成年擬制/民法753条)ため、婚姻している未成年者は「成年者と同一の行為能力を有しない」未成年者ではない


【免許欠格事由⑬】

 「法人」につき、申請者となる法人自身は欠格事由に該当する行為をしていなくても、その役員が免許欠格事由にあたれば免許が取れないというものがある。

⑬法人で、その役員又は政令で定める使用人のうちに上記①~⑪のいずれかに該当する者がいる場合。





 ここでの『役員』とは、免許欠格事由③と同じで、実質的に会社を動かしている者のこと。「政令で定める使用人」とは、支店長、営業所長などの事務所の代表者のことである。

 併せて、免許欠格事由③と異なる点を挙げておくと、③は、免許を申請しているのは「元役員個人」であり、こちらは「法人」であるという点である。

 さらに、こちらでは「政令で定める使用人」が含まれているのに対し、③では含まれていない。これは、政令で定める使用人が法人の意思決定に直接かかわる権限を持っていないことによる。つまり、③は実質的に法人を動かす権限を持っていた人間を連帯責任として欠格事由にしているといえる。

 それに対してこちらは、「悪事を働いたことのある人間を抱えている会社には免許を与えない」というものであるから、法人を動かすほどの権限を持っていない人間でも、そこそこの立場の者であれば免許審査の要素に加えるのである。


【免許欠格事由⑭】

次に、⑬の「個人事業主」パターンである。

⑭個人で、政令で定める使用人のうちに上記①~⑪のいずれかに該当する者がいる場合


【免許欠格事由⑮】

⑮暴力団員等がその事業活動を支配する会社(または個人)。


(3) 申請手続上の問題がある場合

【免許欠格事由⑯】

⑯ (a) 事務所ごとに法定数の取引士を置いていない場合
(b) 免許申請書、もしくはその添付書類中の重要な事項について虚偽の記載があり、もしくは重要な事実の記載が欠けている場合