- 商業登記法ー1.商業登記制度
- 10.印鑑の提出と証明
- 印鑑の提出と証明
- Sec.1
1印鑑の提出と証明
■印鑑の提出
登記の申請書に押印すべき者は、あらかじめ、その印鑑を登記所に提出しなければならない。(商登法20条1項)この規定は、委任による代理人によって登記の申請をする場合には、委任をした者又はその代表者について適用する。(同条2項)
(1) 趣旨
届出の印鑑と、登記申請書又は委任状に押された印鑑とを照合することによって、登記申請が真実の申請人からなされることを担保しようとするものである。(虚偽の登記申請の防止)
本人申請の場合には、申請書に、代理人申請の場合には、登記委任状にあらかじめ届け出ている代表者等の印鑑を押印して、照合する。代理人によって登記を申請する場合であっても、登記所に印鑑を提出することを要する者は委任者又はその代表者であって、代理人は印鑑の提出を要しない。
申請書又は委任状に押印された印鑑が、あらかじめ登記所に提出している印鑑の印影と異なるときは、一定期間内に補正しない限り、その登記申請は却下されることになる。
(2) 印鑑の提出方法
印鑑の提出は、当該印鑑を明らかにした書面(印鑑届書)をもってしなければならない。印鑑届書には法定の印鑑届出事項を記載するほか、氏名、住所、年月日及び登記所の表示を記載し、押印しなければならず、また法定の添付書面が必要である。(商登規9条1項5項) 代理人によって印鑑の届出をすることもできる。なお、オンラインによる印鑑の提出はできない。
(3) 印鑑の提出先
会社の本店所在地を管轄する登記所に提出すれば足り、支店所在地のでは印鑑を提出する必要はない。
(4) 印鑑を提出すべき者
登記の申請書に押印すべき者が、印鑑を提出しなければならない。
① 個人商人
登記の申請人となる商人である。具体的には、商号の登記、未成年者の登記、後見人の登記、支配人の登記を申請する商人である。
② 株式会社の代表者
代表取締役、代表執行役、代表清算人等である。
③ 持分会社の代表者
持分会社の(代表)社員、(代表)清算人である。
④ 支配人、管財人又は保全管理人等
支配人又は破産法の規定により会社につき選任された破産管財人もしくは保全管理人、民事再生法の規定により会社につき選任された管財人もしくは保全管理人、会社更生法の規定により選任された管財人もしくは保全管理人、外国倒産処理手続の承認援肋に閲する法律の規定により選任された承認管財人もしくは保全管理人は、その印鑑を登記所に提出することができる。(商登法12条、商登規9条)これらの者に印鑑提出義務はないが、任意に提出することができ、印鑑を提出すれば印鑑証明書の交付を受けることができる。
なお、支配人の印鑑は支配人が(営業主の保証書と作成後3か月以内の登記所作成の印鑑証明書を添付して)自らが提出する。(商登規9条5項3号)代表取締役が支配人に代わって提出するわけではない点に注意。(登研373号)
(5) その他
① 代表者が複数いる場合
各代表者が提出しても、登記申請する代表者のみが提出しても、いずれでもよい。なお、全員が提出する場合でも同時に提出する必要はない。(登研251号)また、数人の代表者が同一の印鑑を提出することは認められていない。(S43. 1.19民甲207号)
② 外国会社の代表者
外国会社の日本における代表者も印鑑を提出することができる。ただ、外国会社の日本における営業所は商業登記法上、本店・支店の扱いはされないため、、外国会社の日本における代表者は各営業所ごとに印鑑を提出しなければならない。なお、登記申請の度に本国官憲のサイン証明を貼付することによって印鑑の提出をしないこともできる。(S48.1.29民四821号)
(6) 印鑑提出が必要な場合
① 設立登記の際
② 代表者の就任による変更登記の際(代表取締役、代表執行役、代表清算人等)
(イ)同一人が代表取締役として重任する場合、又は代表取締役の権利義務を有していた者が代表取締役として再選された場合のように、新たな選任行為が行われてもその者が継続して代表者の地位を保有している間はそのつど印鑑の提出を要するものではない(S37. 4.19民甲737号)
(ロ)新任の代表者が、前任者の使用していた印鑑を引き継いで使用する場合でも、改めてその印鑑を新代表者の印鑑として提出する必要がある。
③ 合併による設立登記の際
④ 株式移転、会社分割による設立登記の際
⑤ 組織変更による設立登記の際(登研553号)
⑥ 会社継続の登記の際
⑦ 管轄外への本店移転の際
(7) 届出事項の変更
印鑑に係る記録に記録された事項で且つ登記事項につき変更が生じ変更登記を申請した場合、登記官が印鑑に係る記録にその旨を記録することとされているため、印鑑の届出事項の変更届出は不要であるし、印鑑を再提出する必要もない。
■印鑑証明の請求
登記所に印鑑の提出をしている者は、手数料を納付してその印鑑証明書の交付を請求することができる。(商登法12条1項 )
先例 |
(S42.1.31民甲244号) |
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登記簿上、存続期間の満了している会社の代表取締役は、印鑑証明書の交付を受けることはできない。 |
⇒ これに対し、退任登記が未了である代表取締役は印鑑証明書の交付請求が可能である。
先例 |
(S42.1.31民甲244号) |
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会社更生法による更正手続が開始された場合であっても、代表取締役は印鑑証明書の交付を受けることができるが、「会社更生法による更正手続開始決定の登記がある」旨の付記がなされる。 |
先例 |
(H12.3.31民四802号) |
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民事再生手続における再生債務者に再生手続開始決定、再生計画認可決定、監督命令、管理命令又は保全管理命令があったときは、印鑑証明書、代表者事項証明書、登記簿抄本又は登記事項もしくは登記簿の抄本の記載事項に変更がないことの証明書には、認証文の次に「民事再生法による再生手続開始決定の登記(又は再生計画認可決定、監督の命令、管理の命令、保全管理の命令)がある。」旨を付記する。 |
先例 |
(H23.4.1民商816号) |
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破産手続開始決定を受けた会社の手続開始決定当時の代表取締役は、登記所に印鑑を提出していれば印鑑証明書の交付を受けることはできるが、破産手続開始の登記がある旨の、付記がなされる。 |
cf かつては
先例 |
(S45.7.20民甲518号) |
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破産手続開始決定があった場合、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所選任の破産管財人に専属するので破産管財人は登記所に印鑑を提出して印鑑証明書の交付を受けることができるが、代表取締役は破産開始決定により当然にその地位を失うので印鑑証明書の交付を受けることはできない。 |
先例 |
(S40.3.16民甲581号) |
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職務執行を停止された旨の登記のある会社の代表取締役は代表権を有せず、印鑑証明書の交付を受けることはできないが、職務代行者は印鑑証明書の交付を受けることができる。 |
⇒ これに対して、代表取締役の職務執行停止及び職務代行者選任の登記がされた後に、株式会社につき新たに選定された代表取締役は、印鑑を登記所に提出し、印鑑証明書の交付を受けることができる。
■印鑑の改印と廃止
(1) 改印の届出
印鑑が亡失したり、摩耗又は毀損した場合は改印する必要がある。
改印の手続は改印後の印鑑を明らかにして、最初に印鑑を提出する場合と同じである。
(2) 印鑑の廃止
① 印鑑の廃止の届出
印鑑の提出をした者は、印鑑届出事項のほか、氏名、住所、年月日及び登記所の表示を記載し、当該印鑑を押印した書面で印鑑の廃止の届出をすることができる。(商登規9条7項)
② 廃止の手続き
印鑑提出者が、登記所に提出した印鑑を押印した書面(印鑑廃止届出書)でおこなう。
印鑑廃止届出書には、廃止する印鑑を押印しなければならない。しかし、後述の印鑑カードを提示するときは、押印を要しない。(商登規9条7項)
先例 |
(H10.5.1民四876号) |
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廃止する印鑑の押印又はカードの提示のいずれもできないときは、実印を押し、市区町村長発行の印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)を添付する必要がある。 |
③ 印鑑カードの返納
印鑑カードの交付を受けた者は、印鑑の廃止の届出をするときは、原則として、印鑑カードを返納しなければならない。(商登規9条の5 5項)っまり、印鑑カードの交付を受けているならば、印鑑の廃止と合わせて印鑑カードの返納(廃止)をすることになる。代理人によって印鑑廃止の届出をすることもできる。この場合、委任状を要するが、印鑑カードの提示をもって委任状の添付に代えることができる。