• 会社法ー7.付録 会社法改正情報 令和4年施行予定
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1付録 会社法改正情報 令和4年施行予定

堀川 寿和2022/01/25 15:23

 令和元年(2019年)会社法改正のうち株主総会資料の電子提供制度の創設等については、令和4年(2022年)施行予定とされています。施行日によっては令和4年度の司法書士試験で出題される可能性もあるため、付録として記述しておきます。

 なお、例年通りであれば、本改正の施行日が令和441日までの場合は、令和4年度の司法書士試験の出題対象となります。ただし、施行日が令和442日以降の場合であっても、法務省から本改正を出題の対象とする旨の発表があった場合は出題の対象となりますので、法務省が発表する「受験案内」などで必ずご確認ください。

 

株主総会資料の電子提供措置の制度の創設ー1

 令和元年(2019年)会社法改正によって、株主総会資料の電子提供措置の制度が創設された。本改正の施行日以後は、その利用が可能になる。

 この制度は、本来であれば書面による招集通知に記載すべき事項および招集通知に際し株主に交付すべき株主総会参考書類等に記載すべき事項について、その情報をインターネット上のウェブサイトに掲載し、書面による招集通知には株主総会の日時・場所や、当該ウェブサイトのURLなど最低限の情報を記載することで足りるとする制度である。株主は、当該ウェブサイトにアクセスして株主総会資料を入手することになる。他方で、インターネットの利用が困難などの理由で書面での資料提供を希望する株主は、書面の交付を請求することもできる。

 この制度の創設により、株式会社は、株主総会資料の印刷や郵送に要する時間や費用を削減することができ、印刷や郵送が不要となることに伴い、株主に対し、従来よりも早期に充実した内容の株主総会資料を提供することができるようになることなどが期待されている。

 

(1) 電子提供措置

 電子提供措置とは、簡単にいうと、株式会社が自社のホームページなどのウェブサイト上に情報を掲載し、株主が閲覧できるようにする措置である。

 正確には、「電子提供措置」とは、電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合は、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令〔会施規95条の2〕で定めるものをいう(会社法325条の2括弧書)。

 

(2) 電子提供措置をとる旨の定款の定め

① 定款の定め

 株主総会資料の電子提供措置を利用するためには、その旨の定款の定めを設けなければならない。

 株式会社は、取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとる旨を定款で定めることができる(会社法325条の2前段)。この定款の定めをすることにより、電子提供措置の制度を利用することができる。

 なお、この場合、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる(会社法325条の2前段)。したがって、情報が掲載されるウェブサイトのURLなどを定款に定める必要はない。

 

② 株主総会参考資料等

 電子提供措置の対象となる「株主総会参考資料等」とは、次の資料である。

(a) 株主総会参考書類

(b) 議決権行使書面

(c) 計算書類および事業報告〔会社法437条〕

(d) 連結計算書類〔会社法4446項〕

 

(3) 電子提供措置の方法

 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社が、取締役会設置会社であるか、非取締役会設置会社であっても、書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合は、その取締役は、株主総会の日の3週間前の日または招集通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3か月を経過する日までの間、一定の事項〔=電子提供措置事項〕に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない(会社法325条の31項)。

 

① 電子提供措置が必要になる場合

 電子提供措置が必要になる場合は、次のとおりである(会社法325条の31項・2992項)。

(a) 取締役会設置会社

(b) 書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合〔非取締役設置会社でも〕

 つまり、書面による招集通知が要求される場合に〔株主の承諾を得れば電磁的方法でもよい〕、電子提供措置をとる株式会社では、電子提供措置が必要になる。

 

② 電子提供措置期間

 「電子提供措置期間」とは、電子提供措置開始日から電子提供措置終了日までの間をいう。

 

(a) 電子提供措置開始日

 電子提供措置開始日は、株主総会の日の3週間前の日または招集通知を発した日のいずれか早い日である。

 遅くとも株主総会の日の3週間前から電子提供措置を開始しなければならないということを意味し、招集通知を3週間前よりも早く発する場合には、招集通知を発する日が電子提供開始日となる。

 

(b) 電子提供措置終了日

 電子提供措置終了日は、株主総会の日後3か月を経過する日である。

 電子提供措置事項に係る情報が株主総会の決議取消しの訴え(決議の日から3か月以内)〔会社法831条〕で証拠として使用されうることが考慮されている。

 

③ 電子提供措置事項

 電子提供措置をとる必要があるのは、次の(a)(g)の事項についてである(会社法325条の31項各号)。これらの事項を「電子提供措置事項」という。

 ただし、議決権行使書面については、むしろ招集通知に添付して株主に交付するほうが簡便であるとも考えられることから、取締役が株主総会の招集通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、(b)のうち議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、電子提供措置をとることを要しない(会社法325条の32項)。

(a) 会社法2981項各号に掲げる事項(1号)

) 株主総会の日時および場所

) 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項

) 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

) 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

) その他、法務省令〔会施規63条〕で定める事項

(b) 株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使を認める場合には、株主総会参考書類および議決権行使書面に記載すべき事項(2号)

(c) 株主総会に出席しない株主に電磁的方法による議決権行使を認める場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項(3号)

(d) 株主から議案の要領の通知請求があった場合には、議案の要領(4号)

(e) 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、計算書類および事業報告(これらの書類につき監査を受けている場合は、監査報告または会計監査報告を含む。)に記載され、または記録された事項(5号)

(f) 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、連結計算書類に記載され、または記録された事項(6号)

(g) 上記(a)(f)の事項を修正したときは、その旨および修正前の事項(7号)

 なお、(a)(f)の事項は、本来であれば、株主に対し、書面により提供する必要があったものである(会社法2994項、会社法3011項、会社法3021項、会社法3051項、会社法437条、4446項)。

 

④ 開示用電子情報処理組織を使用する場合の特例

 「開示用電子情報処理組織」とは、金融商品取引法に基づく有価証券報告書などの開示書類に関する開示システムのことをいい、金融庁が運営している。一般には「EDINET」〔エディネット。Electronic Disclosure for Investors' NETworkの略。〕と呼ばれている。

 有価証券報告書の提出義務がある株式会社〔金融商品取引法241項〕が、電子提供措置開始日までに電子提供措置事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類およびこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を開示用電子情報処理組織〔=EDINET〕を使用して行う場合には、株主は情報をここから閲覧することができるため、当該事項に係る情報については、電子提供措置をとることを要しない(会社法325条の33項)。

 

(4) 株主総会の招集の通知等の特則

① 株主総会の招集通知の発出期限

 電子提供措置の制度を採用する株式会社は、公開会社であるか否かを問わず、株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の2週間前までに、株主に対してその通知を発しなければならない(会社法325条の41項・2991項)。

 

② 招集通知の内容

 電子提供措置をとる場合も、株主総会の招集通知は書面でしなければならないが(会社法2992項)、株主の承諾があれば、電磁的方法によりすることができる(会社法2993項)。ただし、電子提供措置をとる場合は、29815号の事項については記載または記録を要せず(325条の42項)、また、招集通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類等を交付し、または提供することを要しない(会社法324条の43項)。

 電子提供措置をとる場合に招集通知に記載または記録しなければならないのは、次の事項である(325条の42項)。

(a) 会社法29811号~4号に掲げる事項

) 株主総会の日時および場所

) 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項

) 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

) 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

(b) 電子提供措置をとっているときは、その旨

(c) 有価証券報告書の提出の手続〔会社法325条の33項〕を開示用電子情報処理組織〔=EDINET〕を使用して行ったときは、その旨

(d) その他法務省令〔会施規95条の3〕で定める事項

→電子提供措置をとっている場合やEDINETを使用している場合の当該ウェブサイトのURLなどのアクセスに必要な情報

 

③ 議案の要領の通知

 従来から、株主は、取締役に対し、株主総会の8週間前までに〔定款で短縮可能〕、当該株主が株主総会において提案しようとする議案の要領を株主に通知するよう請求できるものとしていたが(3051項本文)、電子提供措置をとる会社では電子提供措置をとることを請求することができる(325条の44項)。

 

 

(5) 書面交付請求

① 書面交付請求権

 電子提供措置の制度を採用する株式会社の株主は、株式会社に対し、電子提供措置によって提供される電子提供措置事項を記載した書面の交付を請求することができる(会社法325条の51項)。この株主の権利を、書面交付請求権という。

 書面交付請求権は、インターネットの利用が困難な株主の利益に配慮して、認められるものである。したがって、株主総会の招集通知について、書面による通知に代わる磁的方法による通知の承諾をした株主〔会社法2993項〕には、書面交付請求権は認められない(会社法325条の51項)。

 

② 書面交付請求の期限

 株主は、いったん書面交付請求をすれば、その後に開催されるすべての株主総会について書面の交付を受けることができる。ただし、株主総会の基準日を定めた場合は、書面交付請求は、当該基準日までに行わなければならない(会社法325条の52項)。

 取締役は、株主総会の招集通知に際して、書面交付請求をした株主に対し、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面〔=電子提供措置事項記載書面〕を交付しなければならない(会社法325条の52項)。

 

③ 電子提供措置事項記載書面に記載すべき事項

 電子提供措置事項記載書面には、電子提供措置事項を記載しなければならない。ただし、株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令〔会施規95条の4〕で定めるものの全部または一部については、交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる(会社法325条の53項)。

 

④ 書面交付請求の失効

 株主による書面交付請求の日(当該株主が以下に説明する異議を述べた場合は、当該異議を述べた日)から1年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の催告期間〔=1か月以上〕内に異議を述べるべき旨を催告することができる(325条の54項)。

 当該株主が催告期間内に異議を述べたときを除き、催告期間を経過した時に、書面交付請求は効力を失う(325条の55項)。

 上記のとおり、株主は、いったん書面交付請求をすれば、これを撤回しない限り、その後に開催される株主総会について書面の交付を受けることができる。しかし、それでは書面交付請求株主が累積していくおそれもあるため、書面交付請求を失効させるための制度が設けられている。

株主総会資料の電子提供措置の制度の創設ー2

【参考】株主総会資料の電子提供措置

 

(6) 電子提供措置の中断〔中断した場合の救済制度〕

① 電子提供措置の中断

 「電子提供措置の中断」とは、株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったことまたは当該情報がその状態に置かれた後改変されたこと(会社法325条の317号の規定により修正されたことを除く。)をいう(会社法325条の6括弧書)。

 

② 中断した場合の救済制度

 電子提供措置は、電子提供措置期間中「継続して」行う必要ある(会社法325条の31項)。したがって、中断が生じた場合は、電子提供措置は原則として無効となる。しかし、電子提供措置の中断が生じた場合であっても、一定の要件を満たせば救済されて、電子提供措置の効力に影響を及ぼさない(会社法325条の6)。

 このような救済措置が設けられたのは、通信障害などの些細な中断で電子提供措置が無効になってしまうと、会社に酷であるし、株主の混乱を招くことにもなるからである。例えば、電子提供措置が無効になると、電子提供措置をとらなかったということで過料の対象となるし(97616号)、中断が株主総会の日までの期間中に生じた場合は、株主総会の決議取消しの訴えの取消事由となってしまう(83111号)からである。

 

③ 救済を受けるための要件

 救済を受けるための要件は、次の(a)(d)のいずれにも該当する場合である(会社法325条の6各号)。

(a) 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないことまたは株式会社に正当な事由があること(1号)。

(b) 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと(2号)。

(c) 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと(3号)。

(d) 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間および電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと(4号)。

 

株式会社の登記事項の追加

 令和元年(2019年)会社法改正によって、株主総会資料の電子提供措置の制度が創設されたことに伴って、本改正の施行日以後は、次の事項が、株式会社の登記事項に追加される(会社法911312号の2)。

会社法325条の2の規定による電子提供措置をとる旨の定款を定めた場合は、その旨