• 会社法ー6.商法
  • 8.商行為法
  • 商行為法
  • Sec.1

1商行為法

堀川 寿和2022/01/25 14:59

商行為の種類

 商行為の種類は次のとおり(商法501条~503条)。

絶対的商行為

営業として行われたか否かを問わず、当然に商行為となる

相対的商行為

営業的商行為

営業として行われた場合に限り、商行為となる

附属的商行為

商人がその営業ためにする行為

 詳細については、第1章第2節第3款「『商行為』の意義」参照。

民法の特則となる商行為に関する規定ー1

(1) 総説

 一般市民である個人間で行われる取引は通常1回限りであり、営利を目的としていない。それに対して、商人が行う取引は営利を目的としており、大量に、かつ反復継続的に行われ、また迅速性も要求される。そこで商法では、民法で必要とされるルールを不要としたり、民法の債権者保護の規定をより徹底したりするなど、民法の一般的規定を補充・変更している。

 民法の特則となる商行為に関する規定は、適用対象の違いから、次の3つに分けられる。

 

取引のパターン

商行為一般に関する規定

商人商人商人非商人非商人非商人

当事者の一方が商人である場合に適用される規定

商人商人商人非商人

当事者双方が商人である場合にのみ適用される規定

商人商人

 

(2) 商行為一般に関する規定

 次の規定は、商行為一般に適用される。つまり、商行為であれば、商人間の取引だけではなく、商人と非商人との取引や、非商人間の取引にも適用される。

 

① 商行為の代理(商事代理)

 商取引では、商人は商業使用人(代理人)を利用して商行為を行うのが一般的である。このような商行為の代理を商事代理という。

 

(a) 原則(非顕名主義)

 商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる(商法504条本文)。つまり、商事代理では顕名が要求されない。これを、非顕名主義という。

 民法の原則では、顕名主義であり、代理人が意思表示をする場合、その権限内において「本人のためにすること」を示すこと顕名)が必要であり(民法991項)、代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、原則として、自己のためにしたものとみなされ(民法100条)、本人のためにその効力を生じない。これに対して、商取引では、大量の取引を簡易・迅速に成立させることが要求されるので、商法では、顕名主義の例外を定めている。

Point 「商行為の代理」にいう「商行為」とは、「本人のため」に商行為となる行為である(最判昭51.2.26)。本人のために商行為となる行為でなければ、代理人にとって商行為となる行為であっても、顕名がないと、法律行為は本人のために効力を生じない。

 

(b) 例外(相手方の保護)

 しかし、顕名がないと、相手方が本人のためにすることを知らなかった場合に代理人を本人と信じて取引をした相手方に不測の損害を及ぼすおそれがある。そこで、そのような相手方を保護するために、相手方が代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をするこができる(商法504条ただし書)。

 

Point1 判例によると、善意の相手方は、本人のためにすることを知らなかったことについて、「過失がなかったこと」が必要である(最大判昭43.4.24)。つまり、保護されるのは善意無過失の相手方である。したがって、代理人が本人のためにその行為をすることを相手方が過失により知らなかった場合は、代理人に対して履行の請求をすることができない。

Point2 判例によると、この規定の趣旨は、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかったとき(過失により知らなかったときを除く)は、相手方保護のため、相手方と代理人との間にも本人との間と同一の法律関係が生ずるものとし、相手方は、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張することを許容するものであり、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、本人相手方間の法律関係の存在を主張することはできない(最大判昭43.4.24)。

 

判例

(最判昭48.10.30

 

このようにして相手方がその選択により本人または代理人のいずれかに対して債務を負担することを主張することができる場合において、本人が相手方に対し右債務の履行を求める訴を提起し、その訴訟の係属中に相手方が債権者として代理人を選択したときは、本人の請求は、右訴訟が係属している間代理人の債権につき催告に準じた時効中断〔現在の時効の完成猶予〕の効力を及ぼすものと解するのが相当である。

 

② 商行為の委任

 商行為の受任者は委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる(商法505条)。

 民法の原則では、受任者は委任を受けていない行為をすることはできないが、商取引では、臨機応変に対応する必要があるので、このように受任者の権限が拡張されている。

 

③ 商行為の委任による代理権の消滅事由の特例

 商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては、消滅しない(商法506条)。したがって、代理人は、本人の死亡後は、本人の相続人の代理人になる。

 民法の原則では、委任による代理権は、本人の死亡によって消滅する(民法11111号)。しかし、商取引の場合、本人が死亡しても、その相続人によって営業活動が継続されることが多い。そこで、商法では、委任による代理権の消滅事由について、特例を定めている。

 

Point この規定は任意規定であるので、代理権が本人の死亡により消滅する旨の合意があるときは、その代理権は本人の死亡により消滅することになる。

 

④ 多数当事者間の債務の連帯

(a) 多数債務者の連帯

 数人の者がその1人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担することになる(商法5111項)。つまり、商法では、複数の債務者がいる場合の債務は、自動的に連帯債務になる。

 民法の原則では、数人の債務者がある場合は、別段の意思表示がない限り、各債務者は、それぞれ等しい割合で義務を負うことになる(民法427条)。つまり、民法では、原則として、複数の債務者がいる場合の債務は、分割債務になる。これに対して、商法では、商取引の信用を確保するために、債務者の債務を重くしている。

 

Point この規定は「債権者にとってのみ」商行為である場合には適用されない(大判明45.2.29)。したがって、数人の者がそのうちいずれの者のためにも商行為とならない行為によって債務を負担した場合は、その行為が債権者にとって商行為となるものであっても、連帯債務とはならない。

 

(b) 保証人の連帯

 保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、または保証が商行為であるときは、主たる債務者および保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担することになる(商法5112項)。つまり、商法では、保証人は、自動的に連帯保証人になる。

 民法の原則では、保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担する旨の意思表示をしない限り、連帯保証とはならない。これに対して、商法では、商取引の信用を確保するために、保証人の責任を重くしている。

民法の特則となる商行為に関する規定ー2

 

Point 判例によると、「保証が商行為であるとき」とは、保証人の保証をする行為が商行為になる場合だけでなく、債権者が保証をさせる行為が商行為になる場合〔たとえば、銀行が貸付けをするに当たり商人ではない者に保証人になってもらう場合〕も含まれる(大判昭14.12.27)。

 

⑤ 債務の履行の場所

 民法の原則では、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない(民法4841項)。

 これに対して、商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質または当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない(商法516条)。

 

⑥ 契約による質物の処分(流質契約)の許容

 民法の原則では、質権設定者は、設定行為または債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない(民法349条)。このような契約を流質契約といい、債務者の困窮につけこんだ暴利行為を防ぐために、民法では禁止される。

 これに対して、商法では、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、流質契約は禁止されない(商法515条)。商人は、冷静に利害を計算する能力を有するからである。

 

(3) 当事者の一方が商人である場合に適用される規定

 次の規定は、当事者の一方が商人である場合に適用される。

 

① 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務

 商人平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない(商法5091項)。そして、商人がこの通知を発することを怠ったときは、その商人は、契約の申込みを承諾したものとみなされる(商法5092項)。

 民法の原則では、契約の申込みに対して諾否の応答をする義務はなく、承諾をしない限り契約は成立しないが、商取引では同様の取引が繰り返し行われることが多いことから、商法は、申込みに対する諾否の応答について、特別の規定を設けている。

 

② 契約の申込みを受けた者の物品保管義務

 商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない(商法510条本文)。

 ただし、その物品の価額がその費用を償うのに足りないとき、または商人がその保管によって損害を受けるときは、保管義務を負わない(商法510条ただし書)。

 商取引では、契約の申込みとともに、商品見本などの物品を送ることが多い。そこで、商法は、このような物品の保管について、特別の規定を設けている。

 

 

③ 報酬請求権

 商人その営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、報酬の特約がなくても、相当な報酬を請求することができる(商法512条)。

 民法の原則では、委任や寄託は、原則として無償契約であり、他人のために法律行為や物の保管などを行っても、受任者や受寄者は、特約がない限り、委任者や寄託者に対して報酬を請求することができない(民法6481項、656条、665条)。商人は、営利を目的として活動する者なので、営業の範囲内の行為であれば、営利目的と考えられるために、特別の規定が設けられている。

 

④ 受寄者の注意義務

 商人その営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければならない(商法595条)。

 民法の原則では、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う(民法659条)。つまり、受寄者の注意義務が軽減されているのであるが、商法では、商人の信用を高めるために、特別の規定が設けられている。