• 会社法ー6.商法
  • 6.商業使用人
  • 商業使用人
  • Sec.1

1商業使用人

堀川 寿和2022/01/25 14:46

意義

 事業規模が大きくなると、商人がその営業活動をすべて自ら行うことが困難になるため、その業務を補助する者が必要になってくる。

 「商業使用人」とは、雇用契約によって特定の商人(または会社)に従属し〔=指揮監督に服し〕、商人(または会社)から営業に関する代理権を与えられて、その商業上の業務を対外的に補助する者である。なお、雇用契約は被用者に自然人を予定しているため、商業使用人になることができるのは自然人のみである。

商業使用人の種類

 商業使用人には、次の3種類がある。

① 支配人(商法20条~24条、会社法10条~13条)

② ある種類または特定の事項の委任を受けた使用人(商法25条、会社法14条)

③ 物品の販売等を目的とする店舗の使用人(商法26条、会社法15条)

 

支配人ー1

(1) 支配人

 支配人とは、商人(または会社)に代わってその営業(または事業)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人である(商法211項、会社法111項)。

 名称や肩書によって決まるわけではないので、商人(または会社)に代わってその営業または事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する者は、「支店長」や「マネージャー」という名称や肩書であっても支配人である。つまり、支配人とは、包括的代理権が与えられた商人(または会社)の代理人である。

 

Point1 支配人は代理人であるので、「未成年者」などの制限行為能力者であっても、支配人になることができる(民法102条)。

Point2 支配人は雇用契約の被用者であり、会社等の「法人」は、支配人になることができない。

 

 

 

(2) 支配人の選任・終任と支配人の登記

① 支配人の選任

(a) 商人による支配人の選任

 商人(会社および外国会社を除く。)は、その営業所の営業の主任者として、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる(商法20条)。

 

(b) 会社による支配人の選任

 会社(外国会社を含む。)は、その本店または支店の事業の主任者として、支配人を選任し、その本店または支店において、その事業を行わせることができる(会社法10条)。

 

Point1 支配人の選任は任意である。

Point2 会社は、その本店にも支配人を置くことができる(会社法10条)。

Point3 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)においては、支配人の選任・解任に関する事項の決定を取締役に委任することができないので(会社法36243号)、支配人の選任は、取締役会の決議によらなければならない。

Point4 株式会社の監査役は、監督機関という性質上、その会社または子会社の支配人を兼ねることができない(会社法3352項)。反対に、子会社の監査役が親会社の支配人を兼ねることはできる。

② 支配人の退任

 支配人は、次の事由によって退任する。

 

(a) 代理権の消滅

 支配人の代理権は、次の事由によって消滅する。代理権が消滅することにより、支配人は当然に退任したことになる(民法111条・6511項・653条、商法506条)。

 

 

死亡

破産手続開始の

決定

後見開始の審判

解任・辞任

商人

×

×

支配人

○:代理権が消滅する  ×:代理権は消滅しない

 

Point 支配人の代理権は「商行為の委任による代理権である」ため、本人の死亡によっては、消滅しない(商法506条)。したがって、商人が死亡しても支配人の代理権は消滅しない。

 

(b) 雇用関係の終了

 雇用期間の満了や、商人または支配人からの解約の申入れなどにより、支配人は退任する(民法626条~628条・631条)。

 

(c) 営業の廃止

 

(d) 会社の解散(大判明40.4.9

 

③ 支配人の登記

 商人(または会社)が支配人を選任し、またはその代理権が消滅したときは、その登記をしなければならない(商法22条、会社法918条)。

 支配人の選任および支配人の代理権の消滅は、登記の後でなければ、善意の第三者に対抗することができない(商法91項前段、会社法9081項前段)。

 

(3) 支配人の代理権

① 包括的代理権

 支配人は、商人(または会社)に代わってその営業(または事業)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(商法211項、会社法111項)。

 「裁判上の行為」とは、訴訟行為である。「裁判外の行為」とは、訴訟行為以外の営業に関する法律行為である。取引行為も、裁判外の行為に含まれる。一切の行為をすることができるので、このような代理権を、包括的代理権という。商法(および会社法)によって、このような包括的代理権が支配人に与えられるのは、商人(または会社)の取引活動を円滑に進めるためだけではなく、第三者の取引の安全を確保するためでもある〔取引の相手方である第三者は支配人の代理権の範囲を調査しなくても安心して取引をすることができる〕。

 

Point1 支配人は商人に代わってその営業に関する一切の「裁判上の行為」をする権限を有するので(商法211項)、商人の「訴訟代理人」となることはできるが、商人のために「訴訟当事者」となることはできない。つまり、商人のために「自己の名をもって」訴えを提起することはできない。

Point2 支配人の代理権は、商人(または会社)の「営業(または事業)に関する行為」の代理権であるので、営業(または事業)に関しない行為は代理権の範囲に含まない。支配人の行為が「営業(または事業)に関する行為」に当たるかどうかについて、判例は、支配人の主観的事情によるのではなく、「当該行為につき、その行為の性質・種類等を勘案し、客観的・抽象的に観察して決すべきである」と判示している(最判昭54.5.1)。

 

② 使用人の選任・解任権

 支配人は、他の使用人選任し、または解任することができる(商法212項、会社法112項)。

 

③ 代理権に加えた制限

 支配人には、商法(および会社法)によって、包括的代理権が与えられているが、商人(または会社)は、支配人の代理権に制限を加えることができる。ただし、支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない(商法213項、会社法113項)。これは、支配人の包括的代理権が制限されていることを知らなかった第三者を保護するためである。

 

Point1 支配人の代理権に加えた制限は、悪意の第三者に対しては対抗することができる(商法213項)。

Point2 支配人の代理権に加えた制限は登記事項とはされていないので、登記をすることはできない。