- 会社法ー6.商法
- 4.商号
- 商号
- Sec.1
1商号
■意義
商号とは、商人(または会社)がその営業上の活動において自己を表示するために用いる名称をいう。したがって、商号は商人(または会社)の同一性を維持し、また取引の相手方などの信用の標的となる機能がある。
■商号単一の原則
1個の営業に数個の商号を認めると、取引の相手方が誰と取引しているかについて誤認する危険があるため、個人商人は1個の営業につき1個の商号のみを用いることができる。この原則を、商号単一の原則という。
このように、個人商人は1個の営業につき数個の商号を用いることができないが、個人商人が数個の営業を営む場合には、その営業ごとに異なる商号を使用することができる(大決大13.6.13)。つまり、この場合は、1人の個人商人が複数の商号を用いることができる。
これに対して、会社にあっては、商号は自然人の氏名と同様にその全人格をあらわしており、すべての生活関係において用いられるべきであるから、複数の営業を営む場合であっても、1個の商号しか使用することはできない。
■商号の選定
(1) 商号選定自由の原則
商人(会社および外国会社を除く。)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができる(商法11条1項)。商人は商号を自由に選定でき、これを商号選定自由の原則という。
Point たとえば、商号選定自由の原則により、運送業を事業目的としていない場合であっても、商号中に「運送」という文字を使用することができる。なお、会社の商号についても同様である。
(2) 商号選定自由の原則の例外
商号の選定が自由といっても、どのような商号をつけてもよいというわけではない。
① 他の商人(または会社)と誤認させる名称等の使用の禁止
何人も、不正の目的をもって、他の商人(または会社)であると誤認させるおそれのある名称または商号を使用してはならない(商法12条1項、会社法8条1項)。取引の相手方の利益が害されることを防ぐためである。この規定に違反して、不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある名称または商号を使用した者は、100万円以下の過料に処せられる(商法13条、会社法978条3号)。
この規定に違反する名称または商号の使用によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある商人(または会社)は、その営業上の利益を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または予防を請求することができる(商法12条2項、会社法8条2項)。
Point 不正の目的をもって商人の営業と誤認させるような商号を使用した者に対する侵害の停止または予防の請求は、自己の商号の登記をした商人だけでなく、商号の登記をしていない商人もすることができる。
② 会社の商号の特則
個人商店の場合、商号の使用は強制されないが、会社については、会社はその名称を商号とし、会社の種類にしたがって商号中に株式会社、合名会社、合資会社または合同会社という文字を用いなければならない(会社法6条1項・2項)。したがって、会社は1つの商号しか使用することができない。
また、株式会社ではない会社が株式会社を名乗るように、会社はその商号中に他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いることはできない(会社法6条3項)。さらに、会社でない者が会社であると誤認されるおそれのある文字を使うこともできない(会社法7条)。これらの規定に違反した者は、100万円以下の科料に処せられる(会社法978条1号・2号)。
Point1 会社でない商人は、会社から事業とともに商号を譲り受けた場合であっても、商号中に「会社」の文字を使用することはできない(会社法7条)。
Point2 判例によると、「合名商会」のように個人商人がその商号中に「会社」という文字を用いていなくても、「会社であると誤認されるおそれがある文字」と判断される場合がある(大決明41.11.20)。
判例 |
(大決明41.11.20) |
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個人商人は、その商号中に「合名商会」という文字を用いることはできない。 |
(3) 商号の登記
商人は、その商号の登記をすることができる(商法11条2項)。つまり、商号の登記は任意であり、義務ではない。
それに対して、会社は、その商号を必ず登記しなければならない(会社法911条3項2号・912条2号・913条2号・914条2号)。
Point1 商業登記に関する規定は、小商人には適用されないので(商法7条)、商人のうち小商人については商号の登記をすることができない。
Point2 商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあっては、本店。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない(商業登記法27条)。これは、会社であっても同様である(商業登記法34条2項参照)。
Point3 商号の登記をした者が正当な事由なく2年間当該商号を使用しない場合において、当該商号の登記をした者が当該商号の廃止の登記をしないときは、当該商号の登記に係る営業所(会社にあっては、本店。)の所在場所において同一の商号を使用しようとする者は、登記所に対し、当該商号の登記の抹消を申請することができる(商業登記法33条1項2号)。この申請は、会社であってもすることができる(商業登記法34条2項参照)。
Point4 商号の登記をした者が登記した商号を廃止または変更した場合において、当該商号の登記をした者が当該商号の廃止または変更の登記をしないときは、当該商号の登記に係る営業所(会社にあっては、本店。)の所在場所において同一の商号を使用しようとする者は、登記所に対し、当該商号の登記の抹消を申請することができる(商業登記法33条1項1号・3号)。この申請は、会社であってもすることができる(商業登記法34条2項参照)。