• 会社法ー6.商法
  • 2.商法の適用範囲
  • 商法の適用範囲
  • Sec.1

1商法の適用範囲

堀川 寿和2022/01/25 14:23

総論

 一般市民間の取引には民法が、商取引には商法が適用されるといったが、これだけでは民法と商法の適用範囲の区別があいまいである。さらに具体的に、商法はどのような場合に、どのような範囲で適用されるのかが問題となる。

 商法は、商法が適用される場合について、次のように規定している(商法11項)。

商人の営業商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。

 このように、「商人の営業」や「商行為」に商法が適用される。そこで、まずは「商人」「商行為」の意味が問題となる。

「商人」の意義

 商法の適用対象となる「商人」には、「固有の商人」と「擬制商人」とがある。

 また、商人の中には、「小商人」があり、商人のうち小商人には、商法の一部の規定が適用されない。

 

(1) 固有の商人

 商法において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう(商法41項)。これを固有の商人という。

 「自己の名をもって」とは、自分が行為から生じた権利義務の帰属主体となることである。「業とする」とは、営業として、つまり営利の目的をもって、同種の行為を反復継続して行うことを意味する。

 商行為」とは、後述する「絶対的商行為」(商法501条)および「営業的商行為」(商法502条)をいう。

 

(2) 擬制商人

 店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者〔店舗営業者〕または鉱業を営む者〔鉱業営業者〕は、商行為を行うことを業としない者であっても、商人とみなされる(商法42項)。これを擬制商人という。

 

① 店舗営業者

 店舗営業者とは、農業や漁業で原始取得した物〔自家栽培の野菜・果実など〕を店舗などの設備を用いて販売する者である。

 このような場合、固有の商人と外形上見分けがつかず、また固有の商人と区別する理由もないので商人とみなされる〔販売する商品が他人から有償取得した物であれば、「絶対的商行為」(投機的購買およびその実行行為、商法5011号)に当たるので、その販売者は固有の商人となるが、商品が原始取得された物か他人から有償取得した物かは外部から判断しにくい場合がある〕。

 なお、「無店舗」で物品の販売を行う者は、店舗営業者には当たらない

② 鉱業営業者

 鉱業営業者とは、自ら採掘した鉱物石灰石など〕を販売する者である。

 原始取得した鉱物を販売する行為も商行為ではないが、鉱業は、通常、大規模な設備投資が必要になるので、商人とみなされる。

 

(3) 小商人

 小商人とは、商人のうち、その営業のために使用する財産の価額が50万円を超えないものをいう(商法7条括弧書、商施規3条)。

 小商人には、商法の規定のうち、商業登記および商業帳簿などに関する規定が適用されない(商法7条)。営業規模の非常に小さな商人にまで商業登記や商業帳簿の作成を求めることは、その者にとって負担になりすぎるからである。

「商行為」の意義ー1

 

 商法の適用対象となる「商行為」は、大きく「絶対的商行為」と「相対的商行為」の2つに区分できる。

 さらに、「相対的商行為」は、さらに、「営業的商行為」と「附属的商行為」の2つに区分できる。

 

 

(1) 絶対的商行為

 絶対的商行為は、行為の性質から見て営利性が極めて強い行為であり、営業として行われたか否かを問わず、当然に商行為とされるものである。絶対的商行為は、商人ではない者1回限り行っただけでも、商行為となる

 次の行為は、商行為〔絶対的商行為〕となる(商法501条)。

利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産もしくは有価証券の有償取得またはその取得したものの譲渡を目的とする行為〔投機購買およびその実行行為〕(1号)

② 他人から取得する動産または有価証券の供給契約およびその履行のためにする有償取得を目的とする行為〔投機売却およびその実行行為〕(2号)

③ 取引所においてする取引〔商品取引所・証券取引所における取引〕(3号)

④ 手形その他の商業証券に関する行為〔手形・株券などの有価証券について発行・裏書・引受けをする行為〕(4号)

 

 

(2) 営業的商行為

 営業的商行為は、営業としてするときに限り、商行為とされるものである。「営業としてする」とは、営利の目的をもって、同種の行為を反復継続して行うことである。

 次の行為は、営業としてするときは、商行為〔営業的商行為〕となる(商法502条本文)。

① 賃貸する意思をもってする動産もしくは不動産の有償取得もしくは賃借またはその取得しもしくは賃借したものの賃貸を目的とする行為〔投機貸借およびその実行行為〕(1号)

例)不動産賃貸業、各種のレンタル・リース業など

② 他人のためにする製造または加工に関する行為(2号)

例)衣服のクリーニングや仕立てなど

③ 電気またはガスの供給に関する行為〔電気・ガスの継続的供給を引き受ける行為〕(3号)

運送に関する行為〔物品運送または旅客運送を引き受ける行為〕(4号)

例)鉄道業、バス運送業など

作業または労務の請負5号)

例)不動産工事の請負、労働者供給の請負〔労働者派遣業〕など

出版印刷または撮影に関する行為(6号)

例)出版社、新聞社、印刷業者、写真撮影業など

⑦ 客の来集を目的とする場屋における取引(7号)

例)ホテル、旅館、レストラン、劇場、遊園地、野球場、パチンコ店、ボーリング場、碁会所など

⑧ 両替その他の銀行取引8号)

例)両替商、受信・与信の両方を行う金融業者など

⑨ 保険(9号)

例)営利保険を引き受ける行為

⑩ 寄託の引受け(10号)

例)倉庫業など

⑪ 仲立ちまたは取次ぎに関する行為(11号)

 「仲立ち」とは、他人間の法律行為の媒介を引き受ける行為をいう。

例)商法上の仲立人、民事仲立人〔婚姻の媒介・不動産仲介業など〕、媒介代理商

 「取次ぎ」とは、自己の名をもって他人の計算において法律行為をなすことを引き受ける行為をいう。

例)問屋、運送取扱人、準問屋

⑫ 商行為の代理の引受け(12号)

例)締約代理商〔損害保険代理店など〕

⑬ 信託の引受け(13号)

 

Point1 ①~⑬に該当する行為であっても、「専ら賃金を得る目的」で物を製造し、または労務に従事する者の行為は、商行為とはならない(商法502条ただし書)。

Point2 判例によると、国または地方公共団体(都道府県・市町村)などの公法人であっても、営利を目的とする事業を行う場合には、その限りで商人となる(大判大6.2.3)。

Point3 判例によると、「質屋営業者」の金員貸付行為は、商法5028号の「銀行取引」にあたらない(最判昭50.6.27)。「銀行取引」というためには「受信行為」〔預金の受入れなど〕と「与信行為」〔金銭の貸付けなど〕の両方を行っている必要があるが、質屋営業者は「与信行為」のみ〔自己資金による金銭貸付〕しか行っていないからである。