• 会社法ー4.組織再編
  • 4.株式交付
  • 株式交付
  • Sec.1

1株式交付

堀川 寿和2022/01/25 13:36

意義

 株式交付とは、株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。会社法774条の32項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(会社法232号の2)。

 株式交付をする株式会社を「株式交付親会社」といい、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式を発行する株式会社を「株式交付子会社」という(会社法774条の311号括弧書)。

 

 

 株式交付は、株式会社が他の株式会社を子会社にしたいが、完全子会社化までは求めない場合に、組織再編行為の一種として活用できるものである。株式交換のように、対象会社の全株主から強制的に株式を取得して完全子会社化するものではなく、対象会社(株式交付子会社)の一部の株主から株式を譲渡により取得し、その対価として自社株式を交付するものである。

 なお、株式交付は、持分会社や外国会社を対象会社(株式交付子会社)とすることはできず、既存の子会社株式の買い増しに利用することもできない。

株式交付ー1

(1) 株式交付計画の作成

① 株式交付計画の作成

 株式会社は、株式交付をすることができる(会社法774条の2前段)。この場合においては、「株式交付計画」を作成しなければならない(同条後段)。

 

② 株式交付計画

 株式会社が株式交付をする場合には、株式交付計画において、次の事項を定めなければならない(会社法774条の31項)。

(a) 株式交付子会社の商号および住所(1号)

(b) 株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類および種類ごとの数)の下限(2号)

(c) 株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法ならびに当該株式交付親会社の資本金および準備金の額に関する事項(3号)

(d) 株式交付子会社の株式の譲渡人に対する(c)の株式交付親会社の株式の割当てに関する事項(4号)

(e) 株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として金銭等(株式交付親会社の株式を除く。)を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項(5号)

ⅰ)当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(5号イ)

ⅱ)当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数またはその算定方法(5号ロ)

ⅲ)当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのⅰ)に規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのⅱ)に規定する事項(5号ハ)

ⅳ)当該金銭等が株式交付親会社の社債および新株予約権以外の財産であるときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(5号ニ)

(f) (e)に規定する場合には、株式交付子会社の株式の譲渡人に対する(e)の金銭等の割当てに関する事項(6号)

(g) 株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)または新株予約権付社債(以下「新株予約権等」と総称する。)を譲り受けるときは、当該新株予約権等の内容および数またはその算定方法(7号)

(h) (g)に規定する場合において、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対して当該新株予約権等の対価として金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項(8号)

ⅰ)当該金銭等が株式交付親会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法ならびに当該株式交付親会社の資本金および準備金の額に関する事項(8号イ)

ⅱ)当該金銭等が株式交付親会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(8号ロ)

ⅲ)当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法(8号ハ)

ⅳ)当該金銭等が株式交付親会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのⅱ)に規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのⅲ)に規定する事項(8号ニ)

ⅴ)当該金銭等が株式交付親会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(8号ホ)

(i) (h)に規定する場合には、株式交付子会社の新株予約権等の譲渡人に対する(h)の金銭等の割当てに関する事項(9号)

(j) 株式交付子会社の株式及び新株予約権等の譲渡しの申込みの期日(10号)

(k) 株式交付がその効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)(11号)

 

③ 株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限〔上記②(b)

 株式交付計画において定める「株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限」〔上記②(b)〕は、株式交付子会社が効力発生日において株式交付親会社の子会社となる数を内容とするものでなければならない(会社法774条の32項)。つまり、原則として、株式交付子会社の総株主の議決権の過半数になっていなければならないということである。そして、株式交付子会社の株式の譲渡人から給付された株式の総数がこの下限に満たなかった場合は、株式交付の効力は生じないことになる(会社法774条の1153号)。

 

④ 株式交付子会社が種類株式発行会社である場合

 株式交付子会社が種類株式発行会社であるときは、株式交付親会社は、株式交付子会社の発行する種類の株式の内容に応じ、「株式交付子会社の株式の譲渡人に対する株式交付親会社の株式の割当てに関する事項」〔上記(d)〕として次の事項を定めることができる(会社法774条の33項)。

(a) ある種類の株式の譲渡人に対して株式交付親会社の株式または金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨および当該株式の種類

(b) (a)に掲げる事項のほか、株式交付親会社の株式または金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨および当該異なる取扱いの内容

 

 

(2) 株式交付子会社の株式の譲渡しの申込み

① 株式の譲渡しの申込みをしようとする者への通知

 株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない(会社法774条の41項)。

(a) 株式交付親会社の商号

(b) 株式交付計画の内容

(c) その他法務省令で定める事項

 なお、株式交付親会社が上記(a)(c)の事項を記載した金融商品取引法第210項に規定する目論見書を株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対して交付している場合その他株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、上記の通知を要しない(会社法774条の44項)。

 

② 申し込みをする者の株式交付親会社に対する書面の交付等

 株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをする者は、「株式交付子会社の株式および新株予約権等の譲渡しの申込みの期日」(会社法774条の3110号)までに、次の事項を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない(会社法774条の42項)。

(a) 申込みをする者の氏名または名称および住所

(b) 譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類および種類ごとの数)

 申込みをする者は、上記の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、株式交付親会社の承諾を得て、上記の書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる(会社法774条の43項前段)。

 

③ 通知事項の変更の通知

株式交付親会社は、上記①(a)(c)の事項について変更があったとき(「効力発生日」を変更したとき(会社法816条の91項)および「株式交付子会社の株式および新株予約権等の譲渡しの申込みの期日」を変更したとき(同条5項)を含む。)は、直ちに、その旨および当該変更があった事項を上記②の申込みをした者(以下「申込者」という。)に通知しなければならない(会社法774条の45項)。

 

④ 申込みがあった株式交付子会社の株式の数が下限の数に満たない場合

 「株式交付子会社の株式および新株予約権等の譲渡しの申込みの期日」(会社法774条の3110号)において、申込者が譲渡しの申込みをした株式交付子会社の株式の総数が、株式交付計画において定めた「株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限」(同項2号)に満たない場合には、株式交付の効力は発生しない(会社法774条の10前段)。

 この場合は、株式交付親会社は、申込者に対し、遅滞なく、株式交付をしない旨を通知しなければならない(同項後段)。

 

 

(3) 株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の割当て

① 割当ての決定

 株式交付親会社は、申込者の中から当該株式交付親会社が株式交付子会社の株式を譲り受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる当該株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数(株式交付子会社が種類株式発行会社である場合にあっては、株式の種類ごとの数。)を定めなければならない(会社法774条の51項前段)。この場合において、株式交付親会社は、申込者に割り当てる当該株式の数の合計が、株式交付計画で定めた「株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限」(会社法第774条の312号)を下回らない範囲内で、当該株式の数を、「株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者が譲り渡そうとする株式交付子会社の株式の数」(会社法774条の422号)よりも減少することができる(同項後段)。

 

② 割当数の通知

 株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から当該株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の数を通知しなければならない(会社法774条の52項)。

 

③ 総数譲受けの場合

 株式交付子会社の株式を譲り渡そうとする者が、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の総数の譲渡しを行う契約を締結する場合には、上記①の割当ての決定、および②の割当数の通知は不要である(会社法774条の6)。

 

(4) 株式交付子会社の株式の譲渡し

① 譲渡人

 次の者が、次に定める株式交付子会社の株式の数について株式交付における株式交付子会社の株式の譲渡人となる(会社法774条の71項)。

譲渡人となる者

譲渡しの対象となる株式の数

申込者

会社法774条の52項〔上記(3)②〕の規定により通知を受けた株式交付子会社の株式の数

上記(3)③の契約により株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の総数を譲り渡すことを約した者

その者が譲り渡すことを約した株式交付子会社の株式の数

 

② 効力発生日における譲渡人の給付義務

 上記①の譲渡人となった者は、効力発生日に、それぞれ所定の数の株式交付子会社の株式を株式交付親会社に給付しなければならない(会社法774条の72項)。

 

 

(5) 株式交付子会社の株式の譲渡しの無効または取消しの制限

① 心裡留保および虚偽表示による無効主張の制限

 「心裡留保による意思表示の無効」(民法931項ただし書)および「虚偽表示の無効」(941項)は、「株式交付子会社の株式の譲渡しの申込み」(会社法774条の42項)、「株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の割当て」(774条の51項)および「株式交付子会社の株式を譲り渡そうとする者が、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の総数の譲渡しを行う契約」(第774条の6)に係る意思表示については、適用されない(会社法774条の81項)。したがって、これらについては、心裡留保や虚偽表示を理由に、無効を主張することができない。

 

② 錯誤、詐欺および強迫による取消しの制限

 株式交付における株式交付子会社の株式の譲渡人は、会社法774条の112項の規定により株式交付親会社の株式の株主となった日から1年を経過した後またはその株式について権利を行使した後は、錯誤、詐欺または強迫を理由として株式交付子会社の株式の譲渡しの取消しをすることができない(会社法774条の82項)。

 

(6) 株式交付子会社の新株予約権等も譲り受ける場合の株式の譲渡しに関する規定の準用

 上記(2)(5)は、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権または新株予約権付社債(以下「新株予約権等」と総称する。)を譲り受ける場合(会社法774条の317号)における株式交付子会社の新株予約権等の譲渡しについて準用される(会社法774条の9)。

 

株式交付ー2

(6) 株式交付の効力の発生等

① 効力発生の効果

 株式交付親会社は、効力発生日に、譲受人から給付を受けた株式交付子会社の株式および新株予約権等を譲り受ける(会社法774条の111項)。

 株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日に、株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の株主となる(会社法774条の112項)。

 また、株式交付親会社が株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として株式交付親会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債を交付する場合は、譲渡人は、効力発生日に、株式交付親会社の社債権者、新株予約権者、新株予約権付社債の社債権者および新株予約権者となる(会社法774条の113項)。

 

② 株式交付の効力が発生しない場合

(a) 株式交付の効力が発生しない場合

 次の場合は、株式交付の効力が発生しない(会社法774条の115項)。

ⅰ)効力発生日において債権者異議手続(会社法816条の8)が終了していない場合(1号)

ⅱ)株式交付を中止した場合(2号)

ⅲ)効力発生日において株式交付親会社が株式交付子会社の譲渡人から譲渡しを受けた株式交付子会社の株式の総数が株式交付計画において定めた株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限(会社法816条の312号)に満たない場合(3号)

ⅵ)効力発生日において株式交付親会社の株式の株主となる者がない場合(4号)

 

(b) 株式交付の効力が発生しない場合の通知

 上記(a)ⅰ)~ⅳ)の場合には、株式交付親会社は、株式交付子会社の譲渡人〔1.申込者、2.総数譲受け契約の締結者〕に対し、遅滞なく、株式交付をしない旨を通知しなければならない(会社法774条の116項前段)。この場合は、譲渡人から給付を受けた株式交付子会社の株式または新株予約権等があるときは、株式交付親会社は、遅滞なく、これらをその譲渡人に返還しなければならない(同項後段)。