- 会社法ー4.組織再編
- 1.会社の合併
- 会社の合併
- Sec.1
1会社の合併
■合併の意義
(1) 合併の意義
合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により会社の権利義務の全部を合併後存続する会社または設立する会社に承継させるものをいう。
(2) 合併の種類
合併には、吸収合併と新設合併の2種類がある。
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後に存続する会社に承継させるものをいう(会社法2条27号)。
新設合併とは、2以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう(会社法2条条28号)。
吸収合併により消滅する会社のことを吸収合併消滅会社、新設合併により消滅する会社のことを新設合併消滅会社、吸収合併後存続する会社のことを吸収合併存続会社、合併によって設立する会社を新設合併設立会社という。
(3) 合併の自由とその制限
① 会社の種類による制限
会社は、他の会社と合併をすることができる(会社法748条)。原則として、会社法に規定されている4種類の会社(株式・合名・合資・合同会社)間で自由に合併をすることができる。
特例有限会社も、株式・合名・合資・合同会社いずれの類型の会社とも合併できるが、特例有限会社を存続会社・新設会社とすることはできない。また、外国会社との合併はすることができない。
② 解散した会社との合併
会社が解散した場合、当該解散した会社を消滅会社とする合併はすることはできるが、解散した会社が存続する吸収合併はすることができない。間もなく消滅する会社を存続会社としても無意味であるからである。
③ 独占禁止法による制限
合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合などは、合併をすることができず、一定規模の合併については、あらかじめ公正取引委員会へ届出をしなければならない場合がある(独禁法15条)。
④ 特別法による制限
銀行等金融業や特殊会社(保険、信託業等)については、主務大臣(内閣総理大臣等)の認可を受けなければ合併の効力が生じない。
■株式会社が吸収合併存続会社となる合併ー1
(1) 合併手続の流れ
(2) 合併契約
① 合併契約の締結
会社が他の会社と合併をしようとする場合、合併をする会社は合併契約を締結しなければならない(会社法748条)。合併契約は、取締役会設置会社では、取締役会の決議(取締役会設置会社以外の会社は取締役の過半数の決定)を経て、当事会社の代表取締役(代表執行役)が株主総会による承認を停止条件として締結する。合併契約で定める定めるべき事項は会社法749条1項で法定されているが、法定事項以外の事項も合併の本質や強行法規に反しない限り、合併契約で定めることができる。
② 合併契約事項
(a) 株式会社が吸収合併存続会社となる場合
会社が吸収合併をする場合において、吸収合併存続会社が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない(会社法749条1項)。(*1)
(イ)吸収合併存続株式会社および吸収合併消滅会社の商号および住所(1号) (ロ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法ならびに当該吸収合併存続株式会社の資本金および準備金の額に関する事項(2号イ) (ハ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(2号ロ) (ニ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法(2号ハ) (ホ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ハ)の事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ニ)の事項(2号ニ) (ヘ)吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる株式等(*2)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(2号ホ) (ト)(ロ)〜(へ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社および吸収合併存続株式会社を除く。)または吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続株式会社を除く。)に対する(ロ)〜(へ)の金銭等の割当てに関する事項(3号) (*3) (チ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行している場合において、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して吸収合併存続株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法(4号イ) (リ)(チ)の事項を定めた場合において、(チ)の吸収合併消滅株式会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、吸収合併存続株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨ならびにその承継に係る社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(4号ロ) (ヌ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行している場合において、吸収合併存続株式会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して金銭を交付するときは、当該金銭の額またはその算定方法(4号ハ) (ヲ)(チ)〜(ヌ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する(チ)〜(ヌ)の吸収合併存続株式会社の新株予約権または金銭の割当てに関する事項(5号) (ワ) 吸収合併がその効力を生ずる日(効力発生日)(6号) |
(*1)つまり、どの会社とどの会社が合併するのかを(イ)で定め、(ロ)~(ト)で合併対価の内容と割当て方を定め、消滅する会社が新株予約権を発行している場合は(チ)~(ヲ)でその処理方法を定め、(ワ)で合併の効力発生日を定める。
(*2)ここでいう株式等とは、株式のほか、社債、新株予約権のことを指す。
(*3)なお、株式会社が存続会社となる吸収合併を行う場合、((ト)の事項についての定めは、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社および吸収合併存続株式会社ならびにⅰ)の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(下記ⅱ)の事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない(会社法749条3項)。
なお、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続株式会社および吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、(ト)に掲げた事項として、次に掲げる事項を定めることができる(会社法749条2項)。
ⅰ)ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨および当該株式の種類(1号) ⅱ)ⅰ)の場合のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨および当該異なる取扱いの内容(2号) |
(b) 持分会社が吸収合併存続会社となる場合
会社が吸収合併をする場合において、吸収合併存続会社が持分会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない(会社法751条1項)。(*1)
(イ)吸収合併存続持分会社および吸収合併消滅会社の商号および住所(1号) (ロ)吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、吸収合併存続持分会社が合名会社であるときは、当該社員の氏名または名称および住所ならびに出資の価額(2号イ) (ハ)吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、存続持分会社が合資会社であるときは当該社員の氏名または名称および住所、当該社員が無限責任社員または有限責任社員のいずれであるかの別、ならびに当該社員の出資の価額(2号ロ) (二)吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員が吸収合併に際して吸収合併存続持分会社の社員となる場合に、吸収合併存続持分会社が合同会社であるときは、当該社員の氏名または名称および住所ならびに出資の価額(2号ハ) (ホ)吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる社債を交付するときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(3号イ) (ヘ)吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主または吸収合併消滅持分会社の社員に対してその株式または持分に代わる吸収合併存続持分会社の持分または社債以外の財産を交付するときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(3号ロ) (ト)(ホ)または(ヘ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社および吸収合併存続持分会社を除く。)または吸収合併消滅持分会社の社員(吸収合併存続持分会社を除く。)に対する(ホ)または(ヘ)の金銭等の割当てに関する事項(4号) (チ)吸収合併消滅株式会社が新株予約権を発行しているときは、吸収合併存続持分会社が吸収合併に際して当該新株予約権の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる金銭の額またはその算定方法(5号) (リ)(チ)の事項を定めた場合には、吸収合併消滅株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する(チ)の金銭の割当てに関する事項(6号) (ヌ)効力発生日(7号) |
(*1)つまり、(イ)でどの会社とどの会社が合併するのかを、対価を持分とする場合には、定款変更を伴うため、(ロ)~(ニ)で変更後の定款規定を、対価を持分以外の財産とする場合は(ホ)~(ト)でその具体的内容や割り当て方法を定め、また消滅する会社が新株予約権を発行している場合は(チ)(リ)でその処理方法を、(ヌ)で効力発生日を定めることになる。
なお、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社であるときは、吸収合併存続持分会社および吸収合併消滅株式会社は、吸収合併消滅株式会社の発行する種類の株式の内容に応じ、(ト)に掲げた事項として、次に掲げる事項を定めることができる(会社法751条2項)。
ⅰ)ある種類の株式の株主に対して金銭等の割当てをしないこととするときは、その旨および当該株式の種類(1号) ⅱ)ⅰ)の場合のほか、金銭等の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨および当該異なる取扱いの内容(2号) |
持分会社が吸収合併存続会社となる吸収合併を行う場合には、(ト)の事項についての定めは、吸収合併消滅株式会社の株主(吸収合併消滅株式会社および吸収合併存続持分会社ならびにⅰ)の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数( ⅱ)に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて金銭等を交付することを内容とするものでなければならない(3項)
■株式会社が吸収合併存続会社となる合併ー2
合 併 契 約 書
ABC株式会社(以下、甲という。)とXYZ株式会社(以下、乙という。)は、両会社間において合
併をするため、以下のとおり吸収合併契約を締結する。
第1条 甲および乙は、大阪市北区梅田一丁目1番1号の甲を吸収合併存続株式会社、神戸市中央区三宮一丁目1番1号の乙を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併を行う。
第2条 甲は、合併に際して、普通株式1000株を発行し、合併の効力発生日前日の最終のこの株主名簿に記載された株主に対し、その保有するこの株式1株につき甲の普通株式1株の割合をもって交付する。ただし、甲が所有する乙の株式については、交付しない。
第3条 甲は効力発生日において、乙の従業員全員、資産および負債その他一切の権利義務を承継する。
第4条 甲および乙は、本契約締結後、効力発生日前日に至るまで善良なる管理者の注意をもって各業務を遂行し、かつ一切の財産の管理を行う。
第5条 甲が合併により増加すべき資本金および資本準備金の額は、以下のとおりとする。
1. 資本金 金1000万円
2. 資本準備金 金250万円
3. その他資本剰余金会社計算規則に定めるところに従って、甲が適切に定める。
第6条 甲は、合併に際して、乙発行の新株予約権に対しては一切の対価を交付しない。
第7条 合併の効力発生日は、令和○○年○月○○日とする。ただし、前日までに合併に必要な手続が終了しないときは、甲および乙が協議の上、会社法の規定に従い、これを変更することができる。
第8条 この契約の日から合併の効力発生日に至る間において、天災地変その他の事由により、甲または乙の財産または経営状態に重大な変動を生じたときは、甲および乙相互に合併条件の変更、または契約の解除を求めることができる。
第9条 本契約は法令に定められた関係官庁等の承認が得られないときは、その効力を失う。
本契約締結の証として本書1通を作成し、甲・乙記名押印のうえ、甲がこれを保有する。
令和○○年○月○○日
(甲)(吸収合併存続会社)大阪市北区梅田一丁目1番1号
ABC株式会社
代表取締役 甲野 太郎 ㊞
(乙)(吸収合併消滅会社)神戸市中央区三宮一丁目1番1号
XYZ株式会社
代表取締役 乙野 次郎 ㊞
(3) 吸収合併消滅会社における手続
① 吸収合併契約の備置きおよび閲覧等(事前開示)
吸収合併消滅株式会社は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併の効力発生日までの間、吸収合併契約の内容その他法務省令で定める事項(会施規182条)を記載し、または記録した書面または電磁的記録をその本店に備え置かなければならない(会社法782条1項)。吸収合併消滅株式会社の株主および債権者は、その営業時間内はいつでも、上記書類の閲覧等を求めることができる(同条3項)。
なお、吸収合併契約等備置開始日とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう(同条2項)。
1. 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日) 2. 株主に対する会社法785条3項の規定による通知の日または同条4項の公告の日のいずれか早い日 3. 新株予約権者に対する会社法787条3項の規定による通知の日または同条4項の公告の日のいずれか早い日 4 債権者保護手続をしなければならないときは、会社法789条2項の規定による公告の日または同項の規定による催告の日のいずれか早い日 5. 1.~4.以外の場合には、吸収分割契約または株式交換契約の締結の日から2週間を経過した日 |
② 吸収合併契約の承認等
(a) 吸収合併消滅会社が株式会社(単一株式発行会社)の場合
(イ)原則(株主総会の特別決議)
吸収合併消滅株式会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに、原則として、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(会社法783条1項、会社法309条2項12号)。
(ロ)例外
ⅰ)株主総会特殊決議
合併により消滅する株式会社(種類株式発行会社を除く。)が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合は、株主総会特殊決議が必要である(会社法309条3項2号)。ここでいう「譲渡制限株式等」とは、譲渡制限株式のほか、吸収合併存続株式会社の取得条項株式であって、取得対価である他の株式が譲渡制限株式であるもの、または吸収合併存続株式会社の取得条項付新株予約権であって、取得対価である当該会社の株式が譲渡制限株式であるもののことをいう。つまり、合併前は譲渡制限の付かない株の株主であったのに、合併対価として交付されるのが、譲渡制限の付いたまたは将来付く可能性のある株式である場合である。
ⅱ)総株主の同意
吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社でない場合において、吸収合併消滅株式会社の株主に対して交付する金銭等(合併対価等)の全部または一部が持分等(持分会社の持分その他法務省令(会施規186条 持分会社の持分および譲渡制限株式を除く権利の移転または行使に債務者その他の第三者の承諾を要するもの。)で定めるものをいう。)であるときは、吸収合併消滅株式会社の総株主の同意を得なければならない(会社法783条2項)。株主の地位から持分会社の持分権者(社員)となること等は、株主にとって重大な問題だからである。
(b) 吸収合併消滅会社が株式会社(種類株式発行会社)の場合
(イ)全体株主総会特別決議+譲渡制限株式等の割当てを受ける譲渡制限株式でない種類株主の種類株主総会特殊決議
吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部または一部が譲渡制限株式等(譲渡制限株式その他これに準ずるものとして法務省令(会施規186条)で定めるものをいう。)であるときは、吸収合併は、当該譲渡制限株式等の割当てを受ける種類の株式(譲渡制限株式を除く。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては、当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議(特殊決議 会社法324条3項2号)がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存しない場合は、この限りでない(会社法783条3項)。
(ロ)全体株主総会特別決議+ある種類株主全員の同意
吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合において、合併対価等の全部または一部が持分等であるときは、吸収合併は、当該持分等の割当てを受ける種類の株主の全員の同意がなければ、その効力を生じない(会社法783条4項)。
(c) 吸収合併消滅会社が持分会社の場合
持分会社が吸収合併消滅会社となる場合は、効力発生日の前日までに、吸収合併契約について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合はこの限りではない(会社法793条1項1号)。
(d) 吸収合併契約の承認を要しない場合(略式手続による吸収合併)
(イ)要件
吸収合併存続会社が消滅株式会社の特別支配会社である場合には、消滅株式会社における株主総会決議は不要である(会社法784条1項)。特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社および当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社のことである(会社法468条1項、会施規136条)。つまり、吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の議決権の90%以上握っている場合である。この場合、全体株主総会決議が不要になるのであって、種類株主総会の決議まで不要になるわけではない点に注意!
(ロ)例外(略式手続によることができない場合)
吸収合併における合併対価等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合であって、消滅株式会社等が公開会社であり、かつ、種類株式発行会社でないときは、この限りでない(会社法784条1項ただし書)ため、原則どおり消滅株式会社における株主総会決議を要する。この場合、消滅会社の株主の株式に譲渡制限が付着する結果となり、影響が大きいから原則どおり株主総会の決議を要求するのである。
(e) 登録株式質権者等への通知
吸収合併消滅株式会社は、吸収合併の効力発生日の20日前までに、その登録株式質権者および新株予約権の登録新株予約権質権者に対し、吸収合併をする旨を通知または公告しなければならない(会社法783条5項6項)。
③ 株式の買取請求等
(a) 反対株主の定義
次のいずれかに該当する吸収合併消滅株式会社の株主(反対株主)は、会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる(会社法785条2項各号)。
(イ)吸収合併をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合においては、当該株主総会で議決権を行使することができる株主であって、株主総会に先立って会社に対し反対の意思を通知し、かつ、株主総会において吸収合併に反対した株主 (ロ)当該株主総会において議決権を行使することができない株主 (ハ)吸収合併をするために株主総会および種類株主総会の決議を要しない場合(会社法784条)は、すべての株主(吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。) |
ただし、対価が持分等である場合であって、吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社でない場合は株式買取請求をすることはできない(会社法785条1項1号)。この場合は、総株主の同意が要求されているため、反対株主は存在しないからである。
(b) 吸収合併をする旨の通知または公告
吸収合併消滅株式会社は、吸収合併の効力発生日の20日前までに、その株主(持分等の割当てを受ける株主および吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収合併をする旨ならびに吸収合併存続会社の商号および住所を通知しなければならない(会社法785条3項)。なお、次に掲げる場合には、上記の通知を公告に代えることができる(会社法785条4項)。
(イ)吸収合併消滅株式会社が公開会社である場合 (ロ)吸収合併消滅株式会社が株主総会の決議によって吸収合併契約の承認を受けた場合 |
(c) 株式買取請求の方法
株式買取請求は、吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない(会社法785条5項)。また、株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主(株券喪失登録の請求をした株主を除く。)は、消滅株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない(同条6項)。
(d) 株式の価格の決定
吸収合併存続会社)と株主との間に協議が調ったときは、吸収合併存続会社は、吸収合併の効力発生の日から60日以内にその支払いをしなければならない(会社法786条1項)。
株式の価格の決定について、吸収合併の効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主または吸収合併存続会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる(同条2項)。
(e) 株式買取の効力発生
吸収合併消滅株式会社における株式買取請求に係る株式の買取りは、吸収合併の効力発生日に、その効力が生じる(会社法786条6項)。なお、株券が発行されている株式について株式買取請求があった場合は、株券発行会社は、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない(同条7項)。
(f) 株式買取請求の撤回
株式買取請求をした株主は、吸収合併消滅株式会社の承諾を得た場合に限り、株式買取請求を撤回することができる(会社法785条7項)。ただし、上記④の価格の決定について協議が調わず、吸収合併の効力発生の日から60日以内に株主または吸収合併存続会社から価格の決定の申立てがない場合においては、その期間の満了後は、株主はいつでも株式買取請求を撤回することができる(会社法786条3項)。なお、吸収合併消滅株式会社が吸収合併を中止した場合、当該吸収合併の際にされた株式買取請求はその効力を失う(会社法785条8項)。
④ 新株予約権の買取請求等
吸収合併消滅株式会社の新株予約権者に対し、吸収合併存続株式会社の新株予約権または金銭が割り当てられる旨が合併契約に定められた場合において、当該定めが新株予約権の内容(会社法236条1項8号)に合致する場合以外においては、吸収合併消滅株式会社の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる(会社法787条1項)。
新株予約権付社債を有する者が新株予約権の買取請求をする場合は、その新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがあるときを除き、当該新株予約権と併せて、新株予約権付社債に付された社債を買い取ることを請求しなければならない(同条2項)。
消滅株式会社は、効力発生日の20日前までに、新株予約権の新株予約権者に対し、吸収合併をする旨ならびに存続会社の商号および住所を通知しなければならない。当該通知は、公告をもってこれに代えることができる(同条3項)。
新株予約権証券が発行されている新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、その新株予約権証券を提出しなければならない(同条6項)。
また、新株予約権付社債券が発行されている新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権買取請求をしようとするときは、当該新株予約権の新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社に対し、その新株チ約権付社債券を提出しなければならない(同条7項)。なお、新株予約権買取請求をした新株予約権者は、吸収合併消滅株式会社の承諾を得た場合に限り、その新株予約権買取請求を撤回することができる(同条8項)。ただし、新株予約権の価格の決定について、効力発生日から30日以内に協調が調わず、効力発生日から60日以内に裁判所に対する新株予約権者または吸収合併消滅会社(効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社)から裁判所に対する価格の決定の申立てがないときは、その期間の満了後は、新株予約権者は、いつでも、新株予約権買取請求を撤回することができる(会社法788条3項)。なお、吸収合併を中止したときは、新株予約権買取請求の効力は失われる(会社法787条9項)。