- 会社法ー2.株式会社
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- Sec.1
1会社の計算
■株式会社の計算規定 総説
(1) 趣旨
株主は会社の所有者であるから、株主としての地位に基づく固有の権利として、剰余金の配当を受ける権利を有するが、一方で株主は間接有限責任しか負わないため、会社債権者保護のために会社財産を確保する要請が強く働く。株式会社においては、会社財産が債権者に対する唯一の担保となるからである。したがって、株主はできるだけ多く配当をしてもらいたいと要求するのに対し、会社債権者は会社の経営状況が悪くなったときに備えて、できるだけ多く会社財産を確保してもらいたいと考えるのが通常である。この株主と会社債権者の利害調整をはかるため、会社法には株主への剰余金の配当の限度額に関する規定が設けられている(会社法461条1項8号)。
また、会社債権者が債権回収の可能性を予測し、株主が自己の投資による利益を予測するために、会計に関する情報を会社債権者および株主に対して開示する必要がある。そこで、会社法には会計に関する情報の開示に関する様々な規定が設けられている(会社法442条3項、433条1項等)。
(2) 会社の計算についての法的規制
株式会社においては、会社財産が会社債権者に対する唯一の担保となることになるため、これを適切に確保するための様々な規定が設けられている(会社法461条1項各号)。
たとえば、株式会社は各事業年度に係る計算書類を作成しなければならず(会社法435条2項)、監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)においては監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっでは監査委員会)の監査を受け、さらに会計監査人設置会社においては会計監査人の監査を受け(会社法436条1項2項)、取締役会設置会社においては取締役会の承認も受けなければならない(会社法436条3項)。
そして、定時株主総会の承認を経た後(会社法438条2項)、会社の本店および支店に当該計算書類またはその写しを一定期間会社に備え置き、株主および会社債権者に開示し(会社法442条1項2項3項)、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表および損益計算書)を公告しなければならない(会社法440条1項)。また、株主に対して剰余金の配当等を行う場合、厳格な財源規制とこれに違反した場合の責任についての規定が定められている(会社法461条、462条)。
これに対して、合名会社や合資会社では、無限責任社員が存するため、計算について厳しい規制を設ける必要がない。いざというときには、社員に直接責任を追及すればよいからである。したがって、合名会社や合資会社においては、株式会社のような厳格な規制は存在しない。
■計算書類等
(1) 総説
株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない(会社法432条1項)。
会計帳簿のほか、株式会社は、各事業年度に係る貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものおよび事業報告ならびにこれらの附属明細書の作成が義務付けられている(会社法435条2項)。これらのうち「貸借対照表」「損益計算書」および「法務省令で定めるもの」を計算書類という。法務省令で定めるものは、具体的には株主資本等変動計算書および個別注記表を指す。
① 貸借対照表 貸借対照表とは、ある時点における会社の資産、負債および純資産を記載することにより、その時点における株式会社の財産状態を明らかにするものである。 ② 損益計算書 損益計算書とは、会社の一事業年度に発生した収益と費用とを記載し、その期間内の株式会社の経営成績を明らかにするものである。 ③ 株主資本等変動計算書 株主資本等変動計算書とは、資本金の額の減少による剰余金の額の増加や自己株式の処分による剰余金の額の増加などにより起こった純資産の部の計数の変動を明らかにするものである。 ④ 個別注記表 個別注記表とは、重要な会計方針に係る事項や、貸借対照表および損益計算書等に関する注記等を明らかにするものである。 ⑤ 事業報告 事業報告とは、一定の事業年度における会社およびその子会社からなる企業集団の重要な事項を、文章の形で記載した報告書である。 ⑥ 附属明細書 附属明細書とは、計算書類および事業報告の記載を補足ために、重要事項について、詳細を記載または記録したものである。 |
なお、会計帳簿、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書は電磁的記録をもって作成することができる(会社法433条1項2号、435条3項)。
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① 会計帳簿(会社法432条1項) |
計算書類 |
② 貸借対照表(会社法435条1項、2項) |
③ 損益計算書(会社法435条2項) |
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④ 法務省令で定めるもの(会社法435条2項) (株主資本等変動計算書および個別注記表) |
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⑤ 事業報告(会社法435条2項) |
⑥ 附属明細書(会社法435条2項) |
(2) 会計帳簿
① 会計帳簿の作成
株式会社は、法務省令(会計規4条〜56条)で定めるところにより、適時に、正確な会計帳薄を作成しなければならず、この帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を保存しなければならない(会社法432条)。
② 株主の会計帳簿等の閲覧謄写請求権
(a) 「総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主」または「発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主」は、株式会社の営業時間内は、請求の理由を明らかにして、いつでも、その閲覧・謄写等の請求をすることができる(会社法433条1項)。
株式会社は次の会社法433条2項に該当する事由(請求の拒絶事由)のない限り、これらの請求を拒むことができない(同条2項)。
(イ)当該請求を行う株主(「請求者」)がその権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき (ロ)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき (ハ)請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争閨係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき (ニ)請求者が会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するために請求したとき (ホ)請求者が、過去2年以内において、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき |
(b) 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、請求の理由を明らかにしたうえで裁判所の許可を得て、会計帳簿またはこれに関する資料について閲覧・謄写等の請求をすることができる(会社法433条3項)。拒絶事由があれば、許可されない(同条4項)。
③ 会計帳簿の提出命令
裁判所は、申立てによりまたは職権で、訴訟の当事者に対し、会計帳簿の全部または一部の提出を命ずることができる(会社法434条)。
(3) 株式会社の計算書類等
① 計算書類等の作成
(a) 株式会社は、法務省令(会計規58条)で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない(会社法435条1項)。また、各事業年度に係る計算書類として「貸借対照表」「損益計算書」「その他株式会社の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの(株主資本等変動計算書および個別注記表)および事業報告ならびにその附属明細書を作成しなければならない(会社法435条2項)。会計帳簿は、計算書類およびその附属証明書を作成する原資料となるものであるが、計算書類ではない。また、一定の会社は連結計算書類を作成でき、または作成しなければならない(会社法444条1項、3項)。
(b) 会計参与設置会社では、会計参与は、取締役と共同して、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を作成する。この場合、会計参与は、法務省令(会施規102条)で定めるところにより、会計参与報告を作成しなければならない(会社法374条1項)。
② 計算書類の保存
上記①の計算書類等(計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書)は電磁的記録をもって作成することができる(会社法435条3項)。計算書類等は、株式会社はその作成した時から10年間保存しなければならない(同条4項)。
貸借対照表 記載例
資産の部 |
負債の部 |
流動資産 現金および預金 受取手形 売掛金 原材料および材料 仕掛品 繰延税金資産 その他 貸倒引当金 流動資産合計 固定資産 有形固定資産 建物 構築物 備品 土地 その他 無形固定資産 特許権 のれん その他 投資その他の資産 投資有価証券 子会社株式 繰延税金資産 その他 貸倒引当金 固定資産合計 繰延資産
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流動負債 支払手形 買掛金 短期借入金 未払費用 その他 流動負債合計 固定負債 社債 長期借入金 従業員退職給付引当金 役員退職慰労引当金 その他 流動負債合計 |
純資産の部 |
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株主資本 資本金 新株式申込証拠金 資本剰余金 資本準備金 その他資本剰余金 利益剰余金 利益準備金 その他利益剰余金 任意積立金 繰延利益剰余金 利益剰余金合計 自己株式 自己株式申込証拠金 株式資本合計 評価・換算差額等 その他有価証券評価差額金 繰延ヘッジ損益 土地再評価差額金 評価・換算差額等合計 新株予約権 |
会社計算規則によれば、貸借対照表は「資産の部」「負債の部」「純資産の部」に区分して表示しなければならないこととされ、資産の部は「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の項目に区分し、負債の部は「流動負債」「固定負債」の項目に区分し、純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」の項目に区分されなければならないとされている。そして純資産の部のうち「株主資本」に係る項目は「資本金」「新株式申込証拠金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」「自己株式申込証拠金」の項目に区分しなければならないとされ、「資本剰余金」にかかる項目は、「資本準備金」と「その他資本剰余金」に、「利益剰余金」は「利益準備金」と「その他利益剰余金」の項目に区分しなければならないとされている。
(4) 連結計算書類
連結計算書類とは、会計監査人設置会社およびその子会社からなる企業集団の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいい、会計監査人設置会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る連結計算書類を作成することができる(会社法444条1項)。また、事業年度の末日において大会社であって、有価証券報告書を内閣総理大臣に提出する義務のある株式会社は、当該事業年度に係る連結計算書類を作成しなければならない(会社法444条3項)。
(5) 臨時計算書類
株式会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(臨時決算日)における当該株式会社の財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより、次に掲げるものを作成することができる(会社法441条1項)。
① 臨時決算日における貸借対照表 ② 臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書 |
①および②を併せて、臨時計算書類という。
■計算書類の承認手続
(1) 監査
① 監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社
監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社においては、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書は、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)の監査を受けなければならない(会社法436条1項2項)。
② 会計監査人設置会社
会計監査人設置会社においては、計算書類およびその附属明細書は、会計監査人の監査を受けなければならない(会社法436条2項1号)が、事業報告およびその附属明細書は会計監査人の監査を受ける必要はない。なお、この場合であっても監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設設置会社にあっては監査委員会)は、計算書類、事業報告およびその附属明細書を監査する必要がある(会社法436条2項2号)。
(2) 取締役会の承認
取締役会設置会社においては、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書について、取締役会の承認を受けなければならない(会社法436条3項)。なお、上記(1)の監査を受ける必要がある株式会社においては、当該監査を受けたものについて取締役会の承認を得なければならない(会社法436条3項カッコ書)。
(3) 定時株主総会での承認
① 原則
取締役は、計算書類および事業報告を定時株主総会に提出または提供し(会社法438条1項)、計算書類については承認を受け(同条2項)、事業報告についてはその内容を報告しなければならない(同条3項)。定時株主総会に提出または提供する計算書類および事業報告は、上記(1)(2)の監査および取締役会の承認を経ている必要がある。定時株主総会における計算書類の承認は、普通決議で足りる。なお、事業報告については、株主総会の承認を受けるという性質のものではないので報告で足り、承認を受ける必要はない。
② 例外(会計監査人設置会社である取締役会設置会社の特則)
会計監査人設置会社である取締役会設置会社においては、取締役会の承認を受けた計算書類が法令および定款に従い株式会社の財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令(会計規135条)で定める要件に該当する場合には、定時株主総会の承認を受ける必要はなく、定時株主総会に当該計算書類の内容を報告すれば足りる(会社法439条)。
ここでいう、計算書類が法令および定款に従い株式会社の財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令(会計規135条)で定める要件とは、会計監査報告の内容に監査の対象となった計算関係書類が適正である旨が含まれ、監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会の監査報告の内容に会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認める意見がなく、取締役会を設置していること等の要件を満たしている場合である(会計規135条)。