- 会社法ー2.株式会社
- 8.新株予約権付社債
- 新株予約権付社債
- Sec.1
1新株予約権付社債
■新株予約権付社債の意義
(1) 意義
新株予約権付社債とは、新株予約権を付した社債をいう。社債を引き受けた者に新株予約権を合わせて付与するものである。社債を引き受ける者に新株予約権を与えることによって、資金調達しやすくする目的がある。
(2) 種類
① 転換型
新株予約権を社債と分離して処分することができず、社債の発行価額と新株予約権の権利行使価額を同額とし、新株予約権を行使するときは必ず社債全額の償還することとし、償還された額をもって新株予約権の払込みがあったものみなされるものである。新株予約権の行使により社債が消滅して新株が交付される。
② 非転換型
非転換型も転換型と同様に新株予約権を社債と分離して処分することができない。ただ、転換型と異なり、社債全額の償還に代えて新株予約権の払込みがあったものみなされず、新株予約権行使の際に新たな払込みをすることによって株式を取得する。したがって、社債の償還を受ける前に新株予約権を行使すれば、社債権者兼株主ということになる。
■新株予約権付社債の発行手続ー1
新株予約権付社債は社債であるが社債の募集に関する会社法676条から680条までの規定は適用されない(会社法248条)。よって社債としてではなく、新株予約権として募集事項を定め、その中で社債に関する事項も決定することになる。
(1) 募集方法
株主割当てとそれ以外の割当ての方法(第三者割当て)がある。
(2) 募集事項の内容
通常の新株予約権の内容と同様である(会社法236条1項)。
新株予約権付社債に付された新株予約権の数は、当該新株予約権付社債についての社債の金額ごとに、均等に定めなければならない(会社法236条2項)。
新株予約権の内容
① 新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあって、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法 ② 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法 ③ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額 ④ 新株予約権を行使することができる期間 ⑤ 新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金および資本準備金に関する事項 ⑥ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨 ⑦ 新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項(取得条項付新株予約権) (イ) 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨およびその事由 (ロ) 当該株式会社が別に定める日が到来することをもって(イ)の事由とするときは、その旨 (ハ) (イ)の事由が生じた日に(イ)の新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨および取得する新株予約権の一部の決定の方法 (ニ) (イ)の新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその算定方法 (ホ) (イ)の新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権者に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計頷またはその算定方法 (へ) (イ)の新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の他の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該他の新株予約権の内容および数またはその算定方法 (ト) (イ)の新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ホ)に規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ヘ)に規定する事項 (チ) (イ)の新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法 ⑧ 当該株式会社が、合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転をする場合に、吸収合併存続株式会社、新設合併設立株式会社、吸収分割承継株式会社、新設分割設立株式会社、株式交換完全親株式会社、株式移転設立完全親会社となる会社の新株予約権を新株予約権者に交付することとするときは、その旨およびその条件 ⑨ 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に1株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨 ⑩ 新株予約権に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨 ⑪ ⑩の場合に、新株予約権が記名式と無記名式の転換の請求の全部または一部をすることができないこととするときは、その旨 |
(3) 募集事項の決定
① 新株予約権・新株予約権付社債共通の決議事項(会社法238条1項1号から5号)
1. 募集新株予約権の内容および数
2. 募集新株予約権と引き換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
3. 無償ではない場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権1個と引換えに払い込む金銭の額をいう。)またはその算定方法
4. 募集新株予約権を割り当てる日(割当日)
5. 募集新株予約権と引き換えに金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
② 新株予約付社債特有の決定事項(会社法238条1項6号7号)
(a) 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合は、会社法676条各号に掲げる社債の内容に関する事項を定めなければならない。
(イ)募集社債の総額 社債の発行価額と各新株予約権の発行価額とは各別に決する。 (ロ)各募集社債の金額 (ハ)募集社債の利率 (ニ)募集社債の償還の方法および期限 (ホ)利息支払の方法および期限 (へ)社債券を発行するときは、その旨 (ト)社債権者が、記名社債と無記名社債の間の転換請求の全部または一部をすることができないこととするときは、その旨 (チ)社債管理者が社債権者集会の決議によらずに会社法706条1項2号に掲げる行為をすることができることとするときは、その旨 (リ)各募集社債の払込金額もしくは最低金額またはこれらの算定方法 (ヌ)募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日 (ル)一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするとき(打切り発行制度を採用しない場合)は、その旨およびその一定の日 (ヲ)その他法務省令(会施規162条)で定める事項 |
(b) 募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合において、新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての買取請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め
③ 株主割当ての場合
(a) 上記①②の決議事項に加えて、以下の事項を決定する(会社法241条1項)。
(イ)株主に対し、申込みをすることにより当該株式会社の募集新株予約権(種類株式発行会社にあっては、その目的である株式の種類が当該株主の有する種類の株式と同一の種類のもの)の割当てを受ける権利を与える旨 (ロ)募集新株予約権の引受けの申込みの期日 |
(b) 株主(当該株式会社を除く。)は、その有する株式の数に応じて募集新株予約権の割当てを受ける権利を有する。ただし、当該株主が割当てを受ける募集新株予約権の数に1に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする(会社法241条2項)。
④ 募集事項の決定機関
新株予約権の募集事項の決定機関と同様である。
(a) 株主割当以外の場合
公開会社 |
原則 |
取締役会(会社法238条2項、240条1項) |
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有利発行の場合 |
原則 |
株主総会特別決議 (会社法238条2項、240条1項、309条2項6号) (*3)(*4) |
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例外 |
株主総会特別決議により、取締役会に委任できる。 (会社法239条1項、309条2項6号) (*1)(*2)(*3)(*4) |
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公開会社以外 |
原則 |
株主総会特別決議(会社法238条2項、309条2項6号) |
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例外 |
株主総会特別決議により、取締役(取締役会設置会社においては、取締役会)に委任できる(会社法239条1項、309条2項6号)。 (*3)(*4) |
(*1)この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない(会社法239条1項各号)。
1. その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権付社債の内容および数の上限
2. 1.の募集新株予約権付社債につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
3. 1.の募集新株予約権付社債につき金銭の払込みを要することとする場合は、払込金額の下限
(*2)この委任決議は、割当日が決議の日から1年以内の日である募集についてのみ、その効力を有する(会社法239条3項)。
(*3)有利発行に該当するのは、次に掲げる場合である(会社法238条3項各号、239条2項各号)。
1. 募集新株予約権付社債を無償で発行する場合において、金銭の払込みを要しないとすることが募集新株予約権付社債の割当てを受ける者に特に有利な条件であるとき
2. 募集新株予約権付社債を有償で発行する場合において、当該払込金額(またはその下限)が募集新株予約権の割当てを受ける者に特に有利な金額であるとき
(*4)有利発行に該当する場合には、取締役は、株主総会において、有利な条件または有利な金額で募集新株予約権付社債を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない(会社法238条3項、239条2項)。
(b) 株主割当の場合
公開会社 |
原則 |
取締役会(会社法241条3項3号) |
公開会社以外 |
原則 |
株主総会特別決議(会社法241条3項4号、309条2項6号) |
例外 |
定款により、取締役(取締役会設置会社においては、取締役会)に委任できる(会社法241条3項1号2号)。 |
(*)株主割当の方法により募集新株予約権付社債の発行をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、定款に別段の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の特別決議がなければ、募集新株予約権付社債の発行の効力は生じない(会社法322条1項5項、324条2項4号)。
(4) 引受けの申込みをしようとする者に対する通知
株式会社は、募集に応じて募集新株予約権付社債の引受けの申込みをしようする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない(会社法242条1項各号)。
① 株式会社の商号 ② 募集事項 ③ 新株予約権付社債の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所 ④ ①から③に掲げるもののほか、法務省令(会施規54条)で定める事項 |
なお、この通知は、金融商品取引法2条10項に規定する目論見書を引受けの申込みをしようとしている者に交付している場合その他募集新株予約権の引受けの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令(会施規55条)で定める場合には不要である(会社法242条4項)。
(5) 募集新株予約権付社債の引受けの申込み
募集に応じて募集新株予約権付社債の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付し、または株式会社の承諾を得て、次に掲げる事項を電磁的方法により提供しなければならない(会社法242条2項3項)。
① 申込みをする者の氏名または名称および住所 ② 引き受けようとする募集新株予約権付社債の数 |
募集新株予約権が募集新株予約権付社債に付されたものである場合には、申込者(募集新株予約権のみの申込みをした者に限る。)は、その申込みに係る募集新株予約権を付した新株予約権付社債の引受けの申込みをしたものとみなされる(会社法242条4項)。
■新株予約権付社債の発行手続ー2
(6) 募集新株予約権付社債の割当て(株主割当て以外の場合)
株式会社は、申込者の中から募集新株予約権付社債の割当を受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集新株予約権付社債の数を定めなければならない。この場合において、株式会社は、当該申込者に割り当てる募集新株予約権付社債の数を、上記(5)②の数よりも減少することができる(会社法243条1項)。なお、以下に掲げる場合においては、募集新株予約権付社債の割当ての決定は、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によらなければならない(会社法243条2項各号、309条2項6号)。ただし、定款に別段の規定を設けることも可能である(会社法243条2項ただし書)。
① 募集新株予約権付社債の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式である場合 ② 募集新株予約権付社債が譲渡制限新株予約権付社債である場合 |
株式会社は、割当日の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集新株予約権付社債の数を通知しなければならない(会社法243条3項)。
(7) 総数引受契約
募集新株予約権付社債付社債を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、上記(4)の通知、(5)の申込み、(6)の割当ての手続はいずれも不要となる(会社法244条1項)。
総数引受契約を締結する場合において、次に掲げるときは、株式会社は、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該契約の承認を受けなければならない(会社法244条3項各号、309条2項6号)。
① 募集新株予約権付社債の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式であるとき ② 募集新株予約権付社債が譲渡制限新株予約権であるとき |
ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない(会社法244条3項ただし書)。
(8) 新株予約権付社債権者となる日
割当日において、申込者は株式会社の割り当てた募集新株予約権の新株予約権者に、契約により募集新株予約権の総数および当該募集新株予約権を付した社債の総額を引受けた者はその者が引き受けた募集新株予約権の新株予約権者になる(会社法245条1項)。
募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときは、新株予約権者となる者は、同時に当該募集新株予約権を付した新株予約権付社債についての社債の社債権者となる(同条2項)。
(9) 募集事項の通知または公告
① 株主割当以外の場合(第三者割当)
公開会社が取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、割当日の2週間前までに、当該募集事項を、株主に通知または公告しなければならない(会社法240条2項、3項)。
株主が有する募集新株予約権付社債の発行の差止請求権を行使する機会を与えるためである。
ただし、次に掲げる場合は、募集事項の通知または公告を要しない。
1. 非公開会社の場合 2. 株主割当による場合 3. 公開会社であっても、有利発行により募集新株予約権付社債の発行を行う場合 4. 一定の期日までに金融商品取引法所定の届出をしている場合、その他法務省令(会施規53条)で定める場合 |
② 株主割当の場合
株主割当の方法により募集新株予約権付社債の発行を行う場合には、株主に引受けの申込みの機会を保障するため、引受けの申込みの期日の2週間前までに、割当てを受ける権利を有する株主(当該株式会社を除く。)に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない(会社法241条4項)。
1. 募集事項 2. 当該株主が割当てを受ける募集新株予約権付社債の内容および数 3. 募集新株予約権付社債の引受けの申込みの期日 |
株主割当の方法により募集新株予約権付社債の発行をする場合において、割当てを受ける権利を有する者が、引受けの申込みの期日までに申込みをしないときは、募集新株予約権付社債の割当てを受ける権利を当然に失う(会社法243条4項)。
(10) 募集新株予約権付社債にかかる払込み
① 募集新株予約権付社債を有償発行する場合、新株予約権付社債権者は、募集新株予約権付社債について、新株予約権を行使することができる期間の初日の前日(払込期日という。募集新株予約権付社債と引き換えにする金銭の払込期日が定められているときは、その期日)までに、会社が定めた銀行等の払込みの取扱場所で、それぞれの新株予約権付社債の発行価額の全額の払込みをしなければならい(会社法246条1項)。
② 株式会社の承諾を得て、金銭の払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、会社に対する債権をもって相殺することもできる(会社法246条2項)。
③ 募集新株予約権付社債を有償発行する場合、新株予約権付社債権者は払込期日までに全額の払込み(またはこれに代わる金銭以外の財産の給付もしくは会社に対する債権による相殺)をしなかったときは、当該新株予約権を行使することができない(会社法246条3項)。
(11) 新株予約権付社債の登記
新株予約権付社債を発行するときは、払込期日より、本店の所在地において2週間内に、新株予約権付社債に付された新株予約権につき新株予約権の登記をしなければならない(会社法911条3項12号、915条1項)。なお、社債については、登記事項とはされていない。