• 会社法ー2.株式会社
  • 7.社債
  • 社債
  • Sec.1

1社債

堀川 寿和2022/01/24 16:03

社債の意義

 社債とは、発行した会社を債務者とする金銭債権であって、後述する会社法676条の募集事項の定めに従って償還されるものをいう。

社債の発行手続

(1) 募集事項の決定

① 募集事項の決定機関

(a) 原則

 募集社債に関する事項は、業務執行の決定機関が決定するため、次の区分による。

(イ)取締役会設置会社 ⇒ 取締役会(会社法36245号)

(ロ)非取締役会設置会社 ⇒ 取締役の過半数の一致(取締役会3482項)

 

(b) 決定の委任

 社債の発行は、会社の資金繰りの一方法であるため、会社の業務執行の一環である。もっとも、取締役会設置会社における募集社債に関する事項の決定については、募集社債の総額およびその他社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項は、取締役へ委任することはできない(会社法36245号)。なお、指名委員会等設置会社の取締役会は、その決議によって、執行役に委任することは可能である(会社法4164項)。

 重要な事項として法務省令で定める事項は、以下のとおりである(会施規99条)。

(イ)2以上の募集に係る676条各号に掲げる事項の決定を委任するときは、その旨

(ロ)募集社債の総額の上限((イ)に規定する場合にあっては、各募集に係る募集社債の総額の上限の合計額)

(ハ)募集社債の利率の上限その他の利率に関する事項の要綱

(ニ)募集社債の払込金額の総額の最低金額その他の払込金額に関する事項の要綱

 

 

② 募集事項の内容

 会社は、その発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。)について次に掲げる事項を定めなければならない(会社法676条)。

1. 募集社債の総額(1号)

2. 各募集社債の金額(2号)

3. 募集社債の利率(3号)

4. 募集社債の償還の方法および期限(4号)

5. 利息支払の方法および期限(5号)

6. 社債券を発行するときは、その旨(6号)

7. 社債権者が会社法698条の規定〔記名式・無記名式の間の転換〕による請求の全部または一部をすることができないこととするときは、その旨(7号)

8. 社債管理者を定めないこととするときは、その旨7号の2

9. 社債管理者が社債権者集会の決議によらずに会社法70612号に掲げる行為〔社債についてする訴訟、破産手続に属する行為等〕をすることができることとするときは、その旨(8号)

10. 社債管理補助者を定めることとするときは、その旨8号の2

11. 各募集社債の払込金額(各募集社債と引換えに払い込む金銭の額をいう。)もしくはその最低金額またはこれらの算定方法(9号)

12. 募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日(10号)

13. 一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするときは、その旨およびその一定の日(11号)

14. そのほか、法務省令〔会施規162条〕で定める以下の事項(12号)

(イ)数回に分けて募集社債と引換えに金銭の払込みをさせるときは、その旨および各払込みの期日における払込金額(会社法6769号に規定する払込金額)

(ロ)他の会社と合同して募集社債を発行するときは、その旨および各会社の負担部分

(ハ)募集社債と引換えにする金銭の払込みに代えて金銭以外の財産を給付する旨の契約を締結するときは、その契約の内容

(ニ)会社法702条の規定による委託に係る契約において法に規定する社債管理者の権限以外の権限を定めるときは、その権限の内容

(ホ)会社法7112項本文に規定するときは、同項本文に規定する事由

(ヘ)募集社債が信託社債であるときは、その旨および当該信託社債についての信託を特定するために必要な事項

 

 

 

(2) 社債の募集

 特定人に社債総額を引き受けさせる「総額引受け」と、それ以外の「募集」がある。募集の中で一般から社債を募集するのが「公募」である。

(3) 社債の申込み

① 募集による場合

 会社は、募集に応じて募集社債の引受けの申込みをしようとする者に対し、会社の商号、募集事項、その他法務省令(会施規163条)で定める事項(社債管理者•社債原簿管理人を定めた場合は、その名称(氏名)および住所)を通知しなければならない(会社法6771項)。

 社債の申込みは、申込みをする者の氏名または名称および住所、引き受けようとする募集社債の金額および金額ごとの数、社債発行の最低価額を定めた場合は希望する払込金額を記載した書面を会社に対して交付しなければならない(同条2項)。また、書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、会社の承諾を得て、書面に記載すべき事項を電磁的方法により会社に提供することができる。電磁的方法により会社に提供した者は書面を交付したものとみなされる(同条3項)。

 

② 総数引受けによる場合

 上記①のような申込みの手続は不要である(会社法679条)。

 

(4) 社債の割当て

① 社債契約の成立

 会社は、社債の申込者に対して募集社債の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集社債の金額および金額ごとの数を定めなければならない。この場合、会社は申込者に割り当てる社債の金額ごとの数を、申込者が希望した数よりも減少することができる(会社法6781項)。

 会社は、募集事項において定め、申込みをしようとする者に通知した「募集社債と引換えにする金銭払込みの期日」の前日までに、申込者に対し、割り当てる募集社債の金額および金額ごとの数を通知しなければならない(同条2項)。申込みと割当ては申込みと承諾に当たり、社債契約が成立することになる。なお、総額引受契約による場合は割当てはなされない(会社法679条)。

 

② 打ち切り発行

 社債の応募額が、予定された社債の総額に達しないときでも、原則として、応募額で社債は成立する。いわゆる「打切り発行」である。例外的に、募集事項の決定において、打切り発行を認めない旨を定めた場合に限り、社債全部が不成立となる(会社法676111号)。

 

(5) 社債の払込み

 社債は、払込みと同時に成立することになる。つまり、払込みによって社債の発行の効力が生じる。

 社債の払込みは金銭債務の履行であるため、株式のような規制がなく、会社が定めた払込期日までに、金銭であれば払込みをし、金銭以外の財産を給付する契約があればその給付をする。検査役の調査の制度はなく、申込者側からする相殺の禁止や、払込取扱機関についての規定も設けられていない。

社債の管理ー1

(1) 社債管理者

 社債管理者とは、社債権者のために社債を管理する者である。

 社債は公募債として多数の一般投資家に対して発行される場合もあるが、小口の社債権者は、社債発行会社が社債の履行を行わない場合に、自ら強制執行などの債権の実現に必要な行為をすることは困難である。そこで、会社が社債を発行する場合は、原則として、社債管理者の選任が義務付けられる。

 

① 原則

 社債を発行する場合には、社債発行会社は、社債管理者を定め、社債権者のために弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならない(会社法702条)。

 

② 例外

 次の場合には社債管理者の設置は義務付けられない。

(a) 各社債の金額が1億円以上である場合

(b) その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令(会施規169条)で定める場合。具体的には、ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合〔つまり、当該種類の社債の社債権者が50人以上とならない場合〕である。

 

③ 社債管理者の資格

 社債管理者は、次に掲げる者でなければならない。

1. 銀行

2. 信託会社

3. 2号に掲げるもののほか、これらに準ずるものとして法務省令(会施規170条)で定める者

 

④ 社債管理者の義務

 社債管理者は社債権者に対して公平・誠実に社債の管理をなす義務を負う(会社法7041項)。

 また社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理を行わなければならない(同条2項善管注意義務)。

 

⑤ 社債管理者の権限

(a) 法定権限

(イ)社債管理者は、社債権者のため社債に係る債権の弁済を受け、または、社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(会社法7051項)。

 これらの行為は、社債権者の利益となる行為だから、社債権者集会の決議を要しない。

(ロ)社債管理者が弁済を受けた場合には、社債権者は、その社債管理者に対し、社債の償還額および利息の支払いを請求することができる。この場合において、社債券を発行する旨の定めがあるときは、社債権者は社債券と引換えに当該償還額の支払を、利札(利息債権を表章する有価証券)と引換えに利息の支払いを請求しなければならない(同条2項)。

(ハ)(ロ)の請求権は10年間で時効消滅する(同条3項)。

(二)社債管理者は、その管理の委託を受けた社債につき上記(イ)の行為をするために必要があるときは、裁判所の許可を得て、社債発行会社の業務および財産の状況を調査することができる(同条4項)。

 

(b) 社債権者集会の決議により行使できる権限

 社債管理者は、社債権者集会の決議によらなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

 ただし、次の(ロ)に掲げる行為については、社債管理者が社債権者集会の決議によらずにすることができる旨を社債の募集事項として定めている場合にはこの限りでない(会社法7061項 )。

(イ)当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務もしくはその債務の不履行によって生じた責任の免除または和解((ロ)掲げる行為を除く。)

(ロ)当該社債の全部についてする訴訟行為または破産手続、再生手続、更生手続もしくは特別清算に関する手続に属する行為(会社法7051項の行為を除く。)

 当該(ロ)に掲げる行為については、社債管理者が社債権者集会の決議によらずにすることができる旨を社債の募集事項として定めることができ(会社法6768号)、この定めがある場合は、社債権者集会の決議は不要であり、会社法705条にある社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、または社債に係る債権の実現を保全するために必要な行為(社債管理者の法定権限)については、(ロ)から除かれる。なお、社債管理者は、この規定により社債権者集会の決議によらずに当該行為をしたときは、遅滞なく、その旨を公告し、かつ、知れている社債権者には、各別にこれを通知しなければならない(会社法7062項)。この公告は、社債発行会社における公告の方法によりしなければならない。ただし、その方法が電子公告であるときは、その公告は、官報に掲載する方法でしなければならない(会社法7063項)。

 

(c) 裁判所の許可を得て行使できる権限

 社債管理者が上記①②の権限を行使するため、必要があるときは裁判所の許可を得て、発行会社の業務および財産の状況を調査することができる(会社法7064項)。

 

(d) 特別代理人の選任

 社債権者と社債管理者との利益が相反する場合において、社債権者のために裁判上または裁判外の行為をなす必要があるときは、裁判所は、社債権者集会の申立てにより、特別代理人を選任しなければならない(会社法707条)。社債管理者が自らもまた発行会社に対する債権者であるような場合である。

 

(e) 社債管理者等の行為の方式

(イ)社債管理者または会社法707条の特別代理人が社債権者のために裁判上または裁判外の行為をするときは、個別の社債権者を表示することを要しない(会社法708条)。民法99条の顕名が不要ということである。

(ロ)2以上の社債管理者があるときは、これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならない(会社法7091項)。この場合において、社債管理者が会社法7051項の弁済を受けたときは、社債管理者は、社債権者に対し、連帯して、当該弁済の額を支払う義務を負う(同条2項)。

 

⑥ 社債管理者の責任

 社債管理者が会社法または社債権者集会の決議に反する行為をし、社債権者に損害を与えたときは、社債権者に対して連帯して損害賠償責任を負う(会社法7101項)。

 

⑦ 社債管理者の辞任、解任

(a) 辞任

(イ)社債管理者は、発行会社および社債権者集会の同意を得て辞任できる。この場合において、他に社債管理者がいないときは、当該社債管理者は、あらかじめ、事務を承継する社債管理者を定めなければならない(会社法711条)。

(ロ)(イ)にかかわらず、委託に係る契約に事務を承継する社債管理者に関する定めがあり、かつ契約に定めた辞任事由があるときは、辞任することができる。ただし、当該契約に事務を承継する社債管理者に関する定めがないときは、この限りでない(同条2項)。

(ハ)(イ)にかかわらず、社債管理者は、やむを得ない事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる(同条3項)。

 

(b) 解任

社債管理者がその義務に違反したとき、その事務処理に不適任であるときその他正当な理由があるときは、社債発行会社または社債権者集会の申立てにより裁判所はこれを解任することができる(会社法713条)。

 

⑧ 社債管理者がなくなった場合の措置

(a) 社債管理者が会社法703条各号に掲げる者(銀行、信託会社、その他これらに準ずるもの)でなくなったとき(免許取消等)、やむを得ない事由があることを理由に裁判所の許可を得て辞任し、解任されまたは解散してなくなったときは、発行会社は事務を承継すべき社債管理者を定め、社債権者のために、社債の管理を行うことを委託しなければならない。この場合、発行会社は、遅滞なく社債権者集会を招集してその同意を得、かつ、同意が得られないときは同意に代わる裁判所の許可の申立てをしなければならない(会社法7141項)。

(b) また、やむを得ない事由があるときは、利害関係人は、裁判所に対し、事務を承継する社債管理者の選任を申し立てることができる(同条3項)。

(c) 辞任、解任、免許取消、解散などで社債管理者がなくなった後、2か月以内に会社が同意を得るための社債権者集会を招集せず、または裁判所の許可を求めないときは、社債総額につき期限の利益を失う(同条2項)。

 事務を承継する社債管理者を定めた場合(社債権者集会の同意を得た場合を除く。)または利害関係人の申立てにより裁判所が事務を承継する社債管理者を選任があった場合には、発行会社は遅滞なく、その旨を公告し、かつ知れたる社債権者に通知しなければならない(同条4項)。

 

(2) 社債管理補助者

 社債管理者の設置が義務付けられない場合に、社債発行会社の選択により、社債権者のために社債管理の補助を行うことを第三者である社債管理補助者に委託することができる。

 社債管理者は自らが社債権者のために社債の管理を行う者であったが、社債管理補助者は社債権者自身による社債の管理が円滑に行われるよう、これを補助する者である。したがって、社債管理補助者の権限は、社債管理者の権限よりも限定されている。

 

① 社債管理補助者の設置

 会社は、会社法702条ただし書に規定する場合〔社債管理者の設置が義務付けられない場合〕には、社債管理補助者を定め、社債権者のために、社債の管理の補助を行うことを委託することができる(会社法714条の2)。ただし、当該社債が担保付社債である場合は、社債管理補助者を設置することができない(同条ただし書)。

 

② 社債管理補助者の資格

 社債管理補助者は、会社法703条各号に掲げる者〔(a)銀行、(b)信託会社、(c)その他これらに準ずるものとして法務省令で定める者〕その他法務省令で定める者でなければならない(会社法714条の3)。資格要件は社債管理者よりも緩やかだが、社債管理者になれる者は、社債管理補助者にもなることができる。

 

③ 社債管理補助者の義務

 社債管理補助者は、社債権者のために、公平かつ誠実に社債の管理の補助を行わなければならない(会社法714条の77041項)。また、社債管理補助者は、社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理の補助を行わなければならない(会社法714条の77042項)。

 

④ 社債管理補助者の権限等

(a) 社債管理補助者が当然に有する権限

 社債管理補助者は、社債権者のために次の行為をする権限を有する(会社法714条の41項)。

ⅰ)破産手続参加、再生手続参加または更生手続参加(1号)

ⅱ)強制執行または担保権の実行の手続における配当要求(2号)

ⅲ)会社法4991項の期間内〔会社の清算手続における債権申出期間内〕に債権の申出をすること。(3号)

 

(b) 社債管理補助者が委託契約の範囲内で有する権限

 社債管理補助者は、会社法714条の2の規定〔上記①〕による委託に係る契約に定める範囲内において、社債権者のために次の行為をする権限を有する(会社法714条の42項)。

ⅰ)社債に係る債権の弁済を受けること。(1号)

ⅱ)会社法7051項の行為〔社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、または社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上または裁判外の行為〕(会社法714条の41項各号〔上記(a)ⅰ)~ⅲ)〕および714条の421号〔上記(b)ⅰ)〕の行為を除く。)(2号)

ⅲ)会社法7061項各号の行為〔1.当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務もしくはその債務の不履行によって生じた責任の免除または和解、2.当該社債の全部についてする訴訟行為または破産手続、再生手続、更生手続もしくは特別清算に関する手続に属する行為〕(3号)

ⅳ)社債発行会社が社債の総額について期限の利益を喪失することとなる行為(4号)

 なお、会社法714条の421号〔上記(b)ⅰ)〕の行為をする権限を有する社債管理補助者が社債に係る債権の弁済を受けた場合には、社債権者は、その社債管理者に対し、社債の償還額および利息の支払を請求することができる(会社法714条の45項、7052項)。そして、この請求権は、これを行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅する会社法714条の45項、7053項)。

 

(c) 債権者集会の決議によらなければすることができない行為

社債管理補助者が上記(b)ⅰ)~ⅳ)の権限を有する場合には、社債管理補助者は、社債権者集会の決議によらなければ、次に掲げる行為をしてはならない(会社法714条の43項)。

ⅰ)会社法714条の422号〔上記(b)ⅱ)〕の行為であって、次に掲げるもの

イ)当該社債の全部についてするその支払の請求

ロ)当該社債の全部に係る債権に基づく強制執行、仮差押えまたは仮処分

ハ)当該社債の全部についてする訴訟行為または破産手続、再生手続、更生手続もしくは特別清算に関する手続に属する行為(イおよびロに掲げる行為を除く。)

ⅱ)会社法714条の423号および4号〔上記(b)ⅲ)・ⅳ)〕の行為

 

(d) 社債管理補助者による報告等

 社債管理補助者は、会社法714条の2の規定〔上記①〕による委託に係る契約に従い、社債の管理に関する事項を社債権者に報告し、または社債権者がこれを知ることができるようにする措置をとらなければならない(会社法714条の44項)。