- 会社法ー2.株式会社
- 4.株式の分割、併合、無償割当て
- 株式の分割、併合、無償割当て
- Sec.1
1株式の分割、併合、無償割当て
■株式の分割
(1) 株式分割の意義
株式の分割とは、たとえば1株を10株にというようにすでに発行されている既存の株式を細分化して、発行済株式を増加することをいう。
50万円 × 100株 = 5000万円 ↓ 1株を10株に分割 5万円 ×1000株 = 5000万円 |
株式の分割が行われると、1株当たりの純資産額は減少し株価は当然下落する。それゆえ株価が高すぎて流通しにくくなった場合に、投資に適した株価に引き下げるためなどに利用される。
(2) 株式分割の要件
① 株式分割の手続
株式会社は、株式の分割をしようとするときは、その都度、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない(会社法183条2項)。
取締役会設置会社 ⇒ 取締役会の決議
非取締役会設置会社 ⇒ 株主総会決議(普通決議)
1. 株式の分割により増加する株式の総数の株式の分割前の発行済株式(種類株式発行会社にあっては、第3号の種類の発行済株式)の総数に対する割合および当該株式の分割に係る基準日 2. 株式の分割がその効力を生ずる日 3. 株式会社が種類株式発行会社である場合には、分割する株式の種類 |
② 基準日の公告
株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、株式の分割における決定事項を公告しなければならない(会社法124条3項)。
③ 種類株式の分割
株式の分割をすることによって、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、当該おそれのある種類株主の種類株主総会が原則として必要となる(会社法322条1項2号)。種類株式ごとに分割比率を異にすることも、一部の種類の株式のみを分割することも可能であるが、この場合、害されるおそれのある種類の株主の種類株主総会の決議を要することになる。全体株主総会での支配比率に大きな影響を及ぼすことになるからである。この種類株主総会は定款で定めることにより、不要とすることができるが(会社法322条2項3項)、その場合、反対株主の株式買取請求が当然に認められることになる(会社法116条1項3号イ)。
例)A種類株式のみ1株を2株に分割すると、全体の株主総会におけるB種類株式の株主の持株比率が低下することになる。
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発行済株式総数 |
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A種類株式 |
B種類株式 |
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株式分割前 |
200株 |
100株 |
100株 |
株式分割後 |
300株 |
200株 |
100株 |
→ この株式分割を行うには、B種類株式の種類株主総会における特別決議が必要になる。
④ 発行可能株式総数による分割の限界
(a) 原則
株式の分割は会社の発行可能株式総数の枠内でなされなければならない。もし、分割後の発行済株式がその枠を超えることとなる場合は発行する株式総数の定款変更が必要となる。つまり株主総会特別決議による定款変更についての承認を得て、前提として発行可能株式総数を増加させなければならない。
1株を10株に分割 発行済株式総数 100株 ――――――→ 1000株
発行可能株式総数 400株 ―――――――→ 1000株以上に定款変更必要! |
(b) 例外
しかし、株式分割に伴いその分割比率に応じて発行可能株式総数を増加する定款変更には株主総会の特別決議を要せず、取締役会の決議(非取締役会設置会社においては取締役の過半数の決議)のみで足りる。たとえば、上記の事例の場合、分割比率の10倍の範囲内で発行可能株式総数を増加させる場合(400株×10=4000株以内)においては、通常定款変更の際に必要となる株主総会特別決議を経ることなく、取締役会決議または取締役の過半数の決議のみ発行可能株式総数を増加させることができる。
(c) 現に2種類以上の種類株式を発行している会社
しかし、現に2種類以上の株式を発行している会社の場合は、原則どおり発行可能株式総数の拡大については通常の定款変更の手続が必要である(会社法184条2項かっこ書)。
たとえばA種類株式とB種類株式をそれぞれ50株ずつ発行している会社がA種類株式のみを株式分割し1株を10株にするのに合わせて、発行可能株式総数も10倍に増やし、実際にそれだけの数のA種類株式が発行されると全体株主総会でのB種類株主の支配比率が今までの10分の1になってしまう。だからこの場合は原則どおり発行可能株式総数を増加する定款変更にはB種類株主も含めた全体株主総会の特別決議を要する。
(ex.) 発行済株式総数 100株 発行可能株式総数 400株 発行済各種株式の数 発行可能種類株式総数 A種類株式 50株 A種類株式 200株 B種類株式 50株 B種類株式 200株 |
⑤ 株式分割の効力発生
基準日において株主名簿に記載され、または記録されている株主(種類株式発行会社にあっては、基準日において株主名簿に記載され、または記録されている分割の対象となる種類株主)は、株式分割の効力発生日に、基準日に有する株式(種類株式発行会社にあっては、分割の対象となる種類の株式。)の数に分割の割合を乗じて得た数の株式を取得する(会社法184条1項)。
⑥ 株主名簿
株式会社は、株式の分割をした場合には、分割した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法132条3項)。
株式会社は、株式の分割をした場合において、質権の質権者が登録株式質権者であるときは、分割した株式について、その質権者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法152条3項)。
⑦ 株券の交付
株券発行会社は、株式の分割をしたときは、効力発生日以後遅滞なく、分割した株式に係る株券(すでに発行されているものを除く。)を発行しなければならない。もっとも、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求があるときまでは、株券を発行しないことができる(会社法215条3項4項)。
■株式無償割当て
(1) 株式無償割当ての意義
株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、ある種類の種類株主)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の株式の割当てをすることができる(会社法185条)。株式無償割当てという。割当てを受けるのは、株主に限られる。
(2) 株式無償割当ての要件、手続
① 決議
株式会社は、株式無償割当てをしようとするときは、その都度、定款に別段の定めがない限り、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議により次に掲げる事項を定めなければならない(会社法186条1項3項)。
cf. 株式分割の場合には定款で別段の定めはできない!
取締役会設置会社 ⇒ 取締役会の決議
非取締役会設置会社 ⇒ 株主総会決議(普通決議)
1. 株主に割り当てる株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法 2. 当該株式無償割当てがその効力を生ずる日 3. 株式会社が種類株式発行会社である場合には、当該株式無償割当てを受ける株主の有する株式の種類 |
② 割当ての内容
株主に割り当てる株式の数またはその数の算定方法についての定めは、当該株式会社以外の株主(種類株式発行会社にあっては、割当てを受ける種類株主)の有する株式(種類株式発行会社にあっては、割当てを受ける種類株式)の数に応じて株式を割り当てることを内容とするものでなければならない(会社法186条2項)。
③ 種類株主総会決議
株式無償割当てをすることによって、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、当該おそれのある種類株主の種類株主総会が原則として必要となる(会社法322条1項2号)。種類株式ごとに分割比率を異にすることも、一部の種類の株式のみに無償割当てすることも可能であるが、この場合、害されるおそれのある種類の株主の種類株主総会の決議を要することになる。株式の分割の場合と同様に、全体株主総会での支配比率に大きな影響を及ぼすことになるからである。
この種類株主総会は定款で定めることにより、不要とすることができるが、その場合、反対株主の株式買取請求が当然に認められることになる(会社法116条1項3号ロ)。
④ 効力の発生
(a) 株式の割当てを受けた株主は、株式無償割当てがその効力を生じる日に、割当てられた株式の株主となる(会社法187条1項)。
(b) 株式会社は、株式無償割当ての効力発生の日後遅滞なく、株主(種類株式発行会社にあっては、割当てを受ける種類株主)およびその登録株式質権者に対し、当該株主が割当てを受けた株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)を通知しなければならない(会社法187条2項)。
cf. 株式の分割の場合にはこのような規定は存在しない。株式無償割当て特有の規定である。
⑤ 株主名簿への記載
(a) 株式会社は、株式を発行した場合または自己株式を処分した場合には、当該株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法132条1項)ことから、株式無償割当てをした際には、割り当てた株式に関する事項を株主名簿に記載(記録)しなければならない。
(b) 株式会社(株券発行会社を除く。)は、株式の無償割当をした場合において、質権の質権者が登録株式質権者であるときは、株主が受けることができる株式について、その質権者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法152条)。また、株券発行会社は、株主が受ける株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない(会社法153条1項)。
(3) 株式の分割との違い
① 自己株式の交付の可否
(a) 株式分割
会社が有する自己株式を交付することができない。
(b) 株式無償割当て
会社が有する自己株式を交付することができる。
② 自己株式部分への割当ての可否
(a) 株式分割
自己株式の部分についても、分割比率の割合に応じて増加する。
(b) 株式無償割当て
自己株式の部分には、無償割当てすることはできない。
③ 異なる種類の株式の交付の可否
(a) 株式分割
異なる種類の株式を割り当てることはできない。分割比率に応じて同種類の株式が交付される。
(b) 株式無償割当て
異なる種類の株式を割り当てることはできる。
■株式の併合
(1) 株式の併合の意義
株式の併合とは、株式の分割の場合と逆に、たとえば2株を1株とするように、複数の株式を合わせて少数にする場合をいう。1株当たりの出資単位が低くなった場合に用いられる手法である。
5000円 × 10000株 = 5000万円 ↓ 10株を1株に併合 5万円 × 1000株 = 5000万円 |
(2) 株式の併合の要件、手続
① 決議
(a) 株主総会の特別決議
株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議(特別決議)によって、次の事項を定めなければならない(会社法180条2項)。株式の併合によって、各株主の持株数は減少することになり、併合比率によっては1株に満たない端数が発生することもあり、株主にとって影響が大きいためである。取締役は、株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない(会社法180条4項)。
(イ)併合の割合 (ロ)株式の併合がその効力を生ずる日(効力発生日) (ハ)株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類 (ニ)効力発生日における発行可能株式総数 |
(b) 種類株主総会の決議
株式の併合によって、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、当該おそれのある種類株主の種類株主総会が原則として必要となる(会社法322条1項2号)。種類株式ごとに併合比率を異にすることも、一部の種類の株式のみ併合することも可能であるが、この場合、害されるおそれのある種類の株主の種類株主総会の決議を要することになる。全体株主総会での支配比率に大きな影響を及ぼすことになるからである。
この種類株主総会は定款で定めることにより、不要とすることができるが、その場合、反対株主の株式買取請求が当然に認められることになる(会社法116条1項3号イ)。
例)A種類株式のみ2株を1株に併合すると、全体の株主総会におけるA種類株式の株主の持株比率が低下することになる。
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発行済株式総数 |
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A種類株式 |
B種類株式 |
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株式併合前 |
200株 |
100株 |
100株 |
株式併合後 |
150株 |
50株 |
100株 |
→ この株式併合を行うには、A種類株式の種類株主総会における特別決議が必要になる。
② 発行可能株式総数の変更
株式の併合に際しては、「効力発生日における発行可能株式総数」を定める必要がある。この発行可能株式総数は、株式の併合の割合に応じて定めるものでなくても構わない。
たとえば、株式の併合によって発行済株式の総数が10分の1になるとしても、発行可能株式総数を10分の1にする必要はない。変更しないことも可能である。ただし、公開会社では、発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えないように定める必要がある。
なお、株式の併合をした株式会社は、その効力発生日に、発行可能株式総数に係る定款の変更をしたものとみなされる(会社法182条2項)。
③ 株主に対する公告・通知
(a) 株主に対する通知等
株式会社は、株式の併合がその効力を生ずる日の2週間前までに、株主(種類株式発行会社にあっては、併合する種類株主)およびその登録株式質権者に対し、併合に関する事項を通知または公告しなければならない(会社法181条)。
cf. 株式分割の場合、基準日を定めたときは当該基準日の2週間前までに株式の分割における決定事項を公告しなければならない(124条3項)という規定があるが、併合の場合のように分割に関する事項を通知または公告すべき旨の規定は存在しない。
(b) 株券提出公告
株券発行会社(当該株式の全部につき株券を発行していない場合を除く。)が、株式の併合を行う場合、会社は株主から旧株券を回収し、併合後の株数を表章した株券と交換する必要があるため、会社は株式の併合の効力が生じる日までに、該株券発行会社に対し全部の株式(種類株式発行会社にあっては、併合に関する種類の株式)に係る株券を提出しなければならない旨を当該日の1ヶ月前までに、公告し、かつ、当該株主およびその登録質権者には、各別に通知しなければならない(会社法219条1項2号)。当該提出を求められた株券は、株式併合における効力が生ずる日に無効となる(会社法219条3項)。
④ 株式併合の効力発生
株主は、株式の併合がその効力を生ずる日に、その日の前日に有する株式(種類株式発行会社にあっては、併合する種類の株式)の数に、併合の割合を乗じて得た数の株式の株主となる(会社法182条)。株式の併合については、自己株式も対象となるため、自己株式を保有している場合において株式の併合があったときは、自己株式の数も減少することになる。
⑤ 株主名簿への記載
(a) 株式会社は、株式の併合をした場合には、併合した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法132条2項)。
(b) 株式会社(株券発行会社を除く。)は、株式の併合をした場合において、質権の質権者が登録株式質権者であるときは、併合した株式について、その質権者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載し、または記録しなければならない(会社法152条2項)。
⑥ 株券の交付
(a) 株券発行会社は、株式の併合をしたときは、効力発生日以後遅滞なく、併合した株式に係る株券を発行しなければならない。もっとも、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求があるときまでは、株券を発行しないことができる(会社法215条2項4項)。
(b) 株券発行会社は、併合した株式に係る株券を登録株式質権者に引き渡さなければならない(会社法153条2項)。
⑦ 端数の処理
株式の併合によって各株主の保有する株式の数に1株に満たない端数が発生する場合には、金銭によって解決することになる(会社法235条)。具体的には、各株主の保有する1株に満たない端数を合計し、その合計した数に相当する株式を競売するか、裁判所の許可を得て市場価格によって売却するか、裁判所の許可を得て市場価格によって自らその株式を買い取り、その代金を各株主に分配することになる。
⑧ 株主への影響が大きい株式の併合の場合
次のいずれかの場合には、株式の併合についてより厳格な手続が必要になる。
1. 単元株式数を定めていない場合 2. 単元株式数を定めていて、単元株式数に株式の併合の割合を乗じると1に満たない端数が発生する場合 たとえば、単元株式数が100株の場合、10株を1株に併合するときは端数が生じないが、3株を1株に併合するときは端数が生じることになる。 |
上記1.または2.のいずれかに該当する場合には、株式の併合によって株主の議決権の割合に変更が生じることになるため、該当する株式の併合に際しては、反対株主の株式買取請求が認められる。
この場合の反対株主の株式買収請求では、株式の併合によって発生する端数についてのみ買取りを請求できる(会社法182条の4)。たとえば、100株を1株に併合する場合には、99株までの100株未満の株式に限定される。
また、反対株主の株式買取請求の期間を確保するため、株式の併合の対象である株主と登録株式質権者に対する通知・公告の期間が2週間から20日に伸長される(会社法182条の4第3項)。
さらに、株式の併合が法令または定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあ るときは、株主による株式の併合の差止めの請求が認められる(会社法182条の3)。