- 会社法ー2.株式会社
- 3.株式
- 株式
- Sec.1
1 株式
■株式の意義
株式会社における社員たる地位のことを株式という。通常、会社における社員たる地位を持分というが、特に株式会社における社員たる地位のことは株式と呼ばれる。この株式という持分は、広く出資者を募り、多額の資金を集められるように均等に細分化される(持分均一主義)。その意味で「株式は細分化された均等な持分である」といわれ、その株式(持分)の大きさは会社が自由に定めることができる。
■株主の権利・義務
(1) 株主の意義
株式会社における社員たる地位が株式であり、株式の所有者が株主である。株主は株式会社における社員たる地位に基づき、会社に対しさまざまな権利をもつとともに義務を負う。
(2) 株主の権利
株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他会社法の規定により認められた権利を有する(会社法105条1項)。
① 剰余金の配当を受ける権利 ② 残余財産の分配を受ける権利 ③ 株主総会における議決権 |
株主の基本的権利はこの3つである。このうち、株主に①と②の権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有せず無効である(会社法105条2項)。
(3) 株式の共有者による権利の行使
1株をさらに細分化することはできないが、1株を数人で共有することは認められる。
数人で1株を取得する場合や相続等によって1株を数人の相続人が相続したような場合に共有関係が生じる。
数人が株式を共有する場合、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名または名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない(会社法106条本文)。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りではない(同条ただし書)。
(4) 株主の義務
株主はその有する株式の引受価額を限度とする出資義務のみを負う(会社法104条参照)。
現行の会社法は全額払込制を採用しているため、株主の出資義務は正確には株式引受人としての義務であって、株主となった後では原則として会社に対し何らの義務も負わないことになる。
■株式の内容
(1) 全部の株式の内容(単一株式発行会社の場合)
① 意義
株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次の事項を定めることができる(会社法107条1項)。
(a) 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(譲渡制限株式) (b) 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること (取得請求権付株式) (c) 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(取得条項付株式) |
② 内容
これらの事項を定めた場合には、会社法107条2項に定める事項を定款で定める必要がある。
(a) 譲渡制限株式
(イ) 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨 (ロ) 一定の場合においては株式会社が会社法136条〔株主からの承認の請求〕または会社法137条1項〔株式取得者からの承認の請求〕の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合(ex. 株主間の譲渡の場合は、承認したものとみなす) |
(b) 取得請求権付株式
(イ) 株主が当該株式会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨 (ロ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法 (ハ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法 (ニ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ロ)に規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ハ)に規定する事項 (ホ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等(株式、社債および新株予約権をいう。)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法 (へ) 株主が当該株式会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間 |
(c) 取得条項付株式
(イ) 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨およびその事由 (ロ)当該株式会社が別に定める日が到来することをもって(イ)の事由とするときは、その旨 (ハ) (イ)の事由が生じた日に(イ)の株式の一部を取得することとするときは、その旨および取得する株式の一部の決定の方法 (ニ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法 (ホ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容および数またはその算定方法 (ヘ) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(ロ)に規定する事項および当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(ハ)に規定する事項 (ト) (イ)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法 |
Point1 定款を変更してその発行する全部の株式の内容として(a)の「譲渡制限株式」についての定款の定めを設ける場合は、株主総会の「特殊決議Ⅰ」が必要である(会社法309条3項1号)。このような定款の変更は、株主にとって不利になるからである。
Point2 定款を変更してその発行する全部の株式の内容として(c)の「取得条項付株式」についての定款の定めを設け、または当該事項についての定款の変更(定めを廃止するものを除く。)をしようとする場合は、種類株式発行会社を除き、「株主全員の同意」を得なければならない(会社法110条)。このような定款の変更がされると、将来、株主の地位を奪われかねないからである。それに対して、(b)の「取得請求権付株式」についての定めを設けたり、変更したりする場合は、株主に権利を与えるものなので、通常の定款変更手続(特別決議)でよい。
(2) 異なる種類の株式(種類株式発行会社の場合)
① 意義
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社および公開会社は、(i)の事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
(a) 剰余金の配当(優先株式、劣後株式) (b) 残余財産の分配(優先株式、劣後株式) (c) 株主総会において議決権を行使することができる事項(議決権制限株式) (d) 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(譲渡制限株式) (e) 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(取得請求権付株式) (f) 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること(取得条項付株式) (g) 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること(全部取得条項付株式) (h) 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会または取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会または清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員する種類株主総会の決議があることを必要とするもの(拒否権付株式) (i) 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役またはそれ以外の取締役。次号第9号および第112条第1項において同じ)または監査役を選任すること(取締役または監査役の選任権付株式) |
② 内容
種類株式を発行するためには、その種類株式の内容および、会社が発行するその種類株式の発行可能種類株式総数を定款で定め、登記しなければならない(会社法108条2項)。
(a) 剰余金の配当についての種類株式
剰余金の配当に関する種類株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、ⅱ)配当をする条件、ⅲ)その他剰余金の配当に関する取り扱いの内容、を定款で定めなければならない(会社法108条2項1号)。なお、具体的な配当の額まで定める必要はない。剰余金の配当を受ける権利を有しないとする種類株式も発行することは可能である。
(b) 残余財産の分配についての種類株式
残余財産の分配に関する種類株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、ⅱ)当該残余財産の種類、ⅲ)その他残余財産の分配に関する取り扱いの内容、を定款で定めなければならない(会社法108条2項2号)。
(c) 議決権制限株式
議決権の行使につき制限のある種類の株式の発行を定めることができる。議決権が全くない完全無議決権株式を発行することも、議決権が一定の事項に制限された決議事項制限株式を発行することができ、一定額以上の剰余金の配当がなされない場合に議決権制限株式に議決権が生ずるなどの定めをすることも可能である。
ⅰ)定款で定める内容
議決権制限株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)株主総会において議決権を行使することができる事項、ⅱ)当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件、を定款で定める必要がある(会社法108条2項3号)。
ⅱ)議決権制限株式の発行についての制限
種類株式発行会社が公開会社である場合において、この議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えるに至ったときは、会社は直ちに議決権制限株式の数を発行済株式の総数の2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならない(会社法115条)。
(d) 譲渡制限株式
単一株式発行会社の譲渡制限付株式と同じ種類の株式だが、発行する株式の一部についてその定めを置く種類株式である点で異なる。
譲渡制限株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること、ⅱ)一定の場合においては株式会社が会社法136条または会社法137条1項の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合、を定款で定める必要がある(会社法108条2項4号)。
(e) 取得請求権付株式
単一株式発行会社の取得請求権付株式と同じ種類の株式だが、発行する株式の一部についてその定めを置く種類株式である点で異なる。よって、取得の請求を受けた株式会社が当該種類株式の対価として交付すべきものは、前述の社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他株式等以外の財産の他、当該株式会社の他の種類の株式とすることができる。
取得請求権付株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること、ⅱ)当該種類の株式についての会社法107条2項2号に定める事項、ⅲ)当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類および種類ごとの数またはその算定方法、を定款で定めなければならない。
(f) 取得条項付株式
単一株式発行会社における取得条項付株式と同じ種類の株式だが、発行する株式の一部についてその定めを置く種類株式である点で異なる。よって、株式会社が、当該種類株式の取得対価として交付すべき物は、前述の社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他株式等以外の財産の他、当該株式会社の他の種類の株式とすることができる。
取得条項付株式を発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること、ⅱ)当該種類の株式についての会社法107条2項3号に定める事項、ⅲ)当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類および種類ごとの数またはその算定方法、を定款で定めなければならない。
(g) 全部取得条項付株式
2以上の種類の株式を発行する株式会社における、そのうちの1つの種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって取得することができる旨の定款の定めがある種類の株式である。
全部取得条項付株式を発発行するためには、発行可能種類株式総数に加え、ⅰ)当該種類株式について当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得することができること、ⅱ)会社法171条1項1号に規定する取得対価の価額の決定の方法、ⅲ)当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときはその条件、を定款で定めなければならない(会社法108条2項7号)。
(h) 拒否権付株式
株主総会(取締役会、清算人会)で決めるべき事項のうち、その決議のほかに、当該種類の株式の種類株主総会の決議を必要とする旨の定めを設けることができる(会社法108条1項8号)。
当該種類の株式を発行するためには、発行可能揷類株式総数に加え、ⅰ)株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会または取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会または清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とすること、ⅱ)当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項、ⅲ)当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件、を定款で定めなければならない(会社法108条2項7号)。
(i) 取締役または監査役の選任権付株式
指名委員会等設置会社でも公開会社でもない会社は、特定の種類の株式を持つ株主が取締役または監査役の選任をすることを認める内容を定めることができる(会社法108条1項9号)。つまり、指名委員会等設置会社や公開会社においては、この種類株式を発行することはできない。
ⅰ)当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役または監査役を選任することおよび選任する取締役または監査役の数
ⅱ)選任することができる取締役または監査役の全部または一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類および共同して選任する取締役または監査役の数
ⅲ)ⅰ)またはⅱ)に掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件およびその条件が成就した場合における変更後の事項
ⅳ)その他、法務省令で定める事項(会施規19条)
を定款で定めなければならない。