- 会社法ー2.株式会社
- 1.機関
- 機関
- Sec.1
1機関
株式会社は、一般の投資家から出資を募って大規模な事業を行うために考え出された。
そのために、次のような仕組みを用意している。
① 配当
② 株主有限責任 → 安心して出資してもらえるように → 債権者保護のために、「資本維持の原則」も設けられている → 出資された財産のうちの一定金額以上を会社財産として保有させる仕組み → 株主は会社に出資金額の払戻しを要求することはできない ③ 株式譲渡の自由 → 投下資本の回収が可能なように → 譲渡しやすいように「持分均一主義」がとられている。 |
会社という形態をとらずに、個人営業しか認めないとすると以下の2つの不具合が予想される。
① 個人の資力は限られるから事業規模を大きくできない。
② 事業に失敗した場合に、事業者個人の財産も含めて根こそぎ債権者に持っていかれて、丸裸にされてしまうおそれがある。
そこで、まず①について
多数の人から余った資金を集めることができれば、大きな資金となる。
↓ しかし
出資を募るためには、出資者に何らかのメリットが必要となる。何のメリットもなければ多分誰も出資してくれない。
↓ そこで
出資者に配当という形で利益を還元する。つまり配当を餌にお金を出させるのである。
次に、②について
出資者は株式会社において所有者(株主)という位置づけになる。そうすると、もし仮に出資した会社が倒産した場合、その会社の債権者が出資者のところにやってきて、その個人資産までも根こそぎもっていくことができれば、誰も出資してくれなくなる。となると一般大衆から余剰資金を集めることが困難になってしまう。そこで株主の有限責任という概念が生まれた。
たとえば、Aさんがある会社に100万円出資して株主になった会社が、後に倒産した場合、株価は事実上0円になる。つまりAさんに100万円の損害が生じることになる。このリスクは出資者である以上やむを得ないことである。しかし、Aさんかの所有者(株主)としての責任はそれでおしまいである。会社債権者がAさんの自宅までやってきてAさんの個人資産まで根こそぎ持っていくようなことはない。これが株主の有限責任である。
そうなると、会社債権者の保護を図る要請も当然に出てくることになる。つまり会社債権者が、会社が倒産したときに株主の個人資産を取立てができない以上、唯一の拠り所となるのは会社財産である。そこで万が一の時ために、一定の財産を会社に留保させておくことを義務づけ、会社債権者の保護を図ることとした。これがいわゆる「資本」である。
さらに、会社が予期せぬ損害が生じたときのために、法定準備金という制度を設け、毎年利益の中から一定額をさらに留保させ、それでもなお余剰があるときにはじめて配当という形で出資者たる株主に利益を還元することで、株主利益と会社債権者の保護の調和を図ったのである。
■株式会社の機関
(1) 機関の意義
機関とは、株式会社の意思決定または行為をする者として、会社法が「機関」の章に定めた人または会議体である。
会社も1つの組織として独立の意思と活動とを有する。しかし、法人であるため、自ら意思を有し、行為をするということはできない。そこで、会社の組織上一定の地位にある者(人または会議体)の意思決定や行為がすなわち会社の意思となり行為となることにした。つまり、会社の意思決定と活動は、自然人の意思と行為を通じて実現される。この会社の頭脳、手足ともいうべき組織上の存在を会社の機関という。
(2) 株式会社の機関
① すべての株式会社に設置が必要な機関
次の2つの機関は、すべての株式会社に設置が必要である(会社法295条、296条、326条1項)。
(a) 株主総会 (b) 取締役 |
株式会社は、株主が株主総会で取締役を選び、取締役に会社の経営を行わせる仕組みになっている。したがって。この2つの機関は必ず必要である。
Point 株主総会と取締役は、株式会社に当然設置されるので、定款に定める必要はない。
② その他の機関
その他の機関は、次のとおり。
(a) 取締役会 (b) 監査役 (c) 監査役会 (d) 会計参与 (e) 会計監査人 (f) 指名委員会等〔指名委員会・監査委員会・報酬委員会〕(および執行役) (g) 監査等委員会 |
株式会社は、その他の機関〔上記(a)~(g)〕を、定款の定めによって、設置することができる(会社法326条2項)。つまり、その他の機関は、すべての会社に設置が必要なわけではなく、原則として、設置するかどうかについては会社が任意に決めることができる。ただし、一定の会社には、一定の機関の設置が強制される場合があり、また、同時に設置することができない機関もある。
Point 「その他の機関」を設置する場合は、設置が強制される場合も含めて、定款で設置する旨を定めなければならない。
(3) 各機関の意義と役割
① 株主総会・取締役・取締役会
株式会社の構成員は出資者である株主であり、その株主で構成される会議体が株主総会である。株式会社は、株主が株主総会で取締役を選んで、取締役に会社の経営を行わせる仕組みになっている。したがって、株式会社には、必ず、株主総会と取締役が必要である(会社法295条、296条、326条1項)。
取締役会は、3人以上の取締役全員で構成される会議体である。取締役会の設置は任意とされているが、一定の会社には設置が強制される。取締役会を置く株式会社を「取締役会設置会社」という(会社法2条7号)。取締役会を設置すると、取締役の中から必ず代表取締役が選定される。
株主総会と取締役の役割は、その株式会社が「取締役会設置会社」であるか、取締役会を置かない「非取締役会設置会社」であるかにより異なる。
(a) 非取締役会設置会社
ⅰ)株主総会
非取締役会設置会社では、株主総会は、会社に関する「一切の事項」について決議をする権限を有している(会社法295条1項)。つまり、万能の機関である。
ⅱ)取締役
非取締役会設置会社では、株主総会で選任された取締役は、会社の業務を「決定」し、業務を「執行」し、対外的に会社を「代表」する権限を有している(会社法348条2項、同条1項、349条1項)。つまり、取締役は、会社の事業活動に関する意思決定を行い、その決定に従って事業活動を実行し、対外的には取締役の行為が会社の行為とされる。ただし、株主総会は会社に関する一切の事項を決定することができるので、株主総会が会社の業務を決定した場合は、これに従って業務を執行しなければならない。
Point1 非取締役会設置会社は、株主総会が万能の機関であり、株主が日常の会社経営に直接関与できる組織形態である。共同で事業を営むために親友同士が出資して会社を設立した場合のように、株主が少数で、株主間の個人的な信頼関係が重視され、株主自らも経営に関与したい場合に適している。
Point2 非取締役会設置会社は、株主が直接経営に関与できるため、株主間の個人的な信頼関係が重視される場合に適した組織形態である。そのため、非取締役会設置会社になるためには、株式会社が「公開会社でない会社」(以下「非公開会社」という。)である必要がある〔会社法では非公開会社でないと取締役会の設置が強制されてしまう〕。非公開会社とは、会社が発行する「全て」の株式について定款に「株式の譲渡制限」の定めをしている会社である。株式の譲渡制限の定めとは、株式を譲渡によって取得するには、会社の承認を要する旨の定めであり、好ましくない者が株主になるのを防ぐためのものである。
【非公開会社】
以下の会社は、いずれも「非公開会社」である。
* 「種類株式発行会社」とは、一定の事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する株式会社をいう(会社法2条13号)。それに対して、1種類の株式しか発行していない会社は「単一株式発行会社」とよばれる。
(b) 取締役会設置会社
ⅰ)株主総会
取締役会設置会社では、株主総会は、会社に関する「基本的事項」に限り決議する権限を有している(会社法295条2項)。これは、基本的事項以外の決定については、取締役会に委ねるということである。
ⅱ)取締役
取締役会設置会社では、株主総会によって取締役は3人以上選任され(会社法331条5項)、取締役会の構成員となる。取締役は、取締役会の構成員として、会社の業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定に関与する。
ⅲ)取締役会
取締役会は、株主総会で選任された3人以上の取締役によって構成される会議体である。取締役会設置会社では、取締役会が業務執行を「決定」する権限を有している(会社法362条2項)。また、取締役会は代表取締役を「選定」し、代表取締役の職務執行を「監督」する(同項)。
ⅳ)代表取締役
取締役会は会議体であるため、取締役会設置会社では、取締役会によって取締役の中から代表取締役が選定され、この代表取締役が会社の業務を「執行」し、対外的には会社を「代表」する(会社法362条3項、363条1項)。
Point1 取締役会設置会社は、株主総会の権限が限定され、取締役会の権限が強い。会社の日常の経営は取締役会に委ねられ、株主は日常の会社経営には関与しない組織形態である。一般の投資家を広く募って大規模な事業を営む場合のように、投資家である株主自身は会社の経営に関与することを望んでいないような場合に適している。
Point2 取締役会設置会社は、株主総会の権限が弱いため、第三者の立場から取締役の職務執行を監査する監査機関の設置が義務付けられる。
② 監査役・監査役会
(a) 監査役
監査役は取締役の職務の執行を監査する機関である(会社法381条)。監査とは、職務執行の状況を調査し、必要があれば是正することである。監査役の設置は任意であるが、株主総会の権限が限定されている取締役会設置会社では、取締役の権限濫用を監視するために、原則として、監査役の設置が強制される。
監査役を置く株式会社を「監査役設置会社」という。
(b) 監査役会
監査役会は、3人以上の監査役全員で構成される会議体であり(会社法390条)、監査役よりもさらに強力な監査機関である。監査役設置会社であっても、監査役会を設置するかどうかは、原則として任意である。ただし、一定の会社には、監査役会の設置が強制される。
監査役会を置く株式会社を「監査役会設置会社」といい、当然、「監査役設置会社」でもある。
③ 会計参与
会計参与は、取締役(後述する指名委員会等設置会社では執行役)と共同して、株式会社の計算関係書類を作成する機関である(会社法374条)。原則として、会計参与の設置は任意である。
会計参与は株主総会の決議で選任されるが(会社法329条1項)、会計の専門知識を有している必要があるため、その資格は公認会計士、監査法人(公認会計士を社員とする法人)、税理士または税理士法人に限定されている(会社法333条1項)。
会計参与を置く株式会社を、「会計参与設置会社」という。
④ 会計監査人
会計監査人は、株式会社の計算関係書類を監査する機関である(会社法396条)。会計監査人を設置するかどうかは原則として任意であるが、一定の会社には設置が強制される。
会計監査人は株主総会の決議で選任されるが(会社法329条1項)、会計監査の専門知識を有している必要があるため、その資格は公認会計士または監査法人に限定される(会社法337条1項)。
会計監査人を置く株式会社を、「会計監査人設置会社」という。
⑤ 指名委員会等および執行役
(a) 指名委員会等
指名委員会等とは、「指名委員会」、「監査委員会」、「報酬委員会」の3つの委員会である(会社法2条12号)。各委員会の委員は、取締役の中から取締役会の決議で選定される(会社法400条2項)。指名委員会等を設置するかどうかは任意である。
指名委員会 | 指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案の内容を決定する機関である(会社法404条1項)。 |
監査委員会 | 監査委員会は、執行役および取締役の職務の執行の監査を行う機関である(404条2項)。 |
報酬委員会 | 報酬委員会は、執行役および取締役の個人別の報酬の内容を決定する機関である(404条3項)。 |
この3つの委員会を置く株式会社を、「指名委員会等設置会社」という。指名委員会等設置会社はアメリカ型の組織形態で、権力の分散と厳格な監査制度を要求する。
(b) 執行役
指名委員会等設置会社には、必ず「執行役」が設置される(会社法402条)。
執行役は、取締役会の決議で選任され、会社の業務の「執行」を行う機関である(会社法418条)。また、執行役の中から取締役会で「代表執行役」が選定され(420条)、代表執行役が、対外的に会社を「代表」する。
なお、指名委員会等設置会社では、取締役は会社の業務を執行することができない(会社法415条)。取締役に権限が集中するのを避けるため、この執行役が設置されるのである。
⑥ 監査等委員会
監査等委員会は、取締役の職務の執行を監査する機関である(会社法399条の2第3項)。監査等委員会の委員は、取締役でなければならないが(会社法399条の2第2項)、監査等委員会設置会社では、株主総会で取締役を選任するにあたり、監査等委員である取締役が、それ以外の取締役とは区別して選任される(329条1項・2項)。
監査等委員会を置く株式会社を監査等委員会設置会社という。
(4) 機関設計
株式会社は、会社法に規定された一定のルールに従って、機関を備えていくことになる。
① 機関設計の考え方
機関設計の考え方は、大きく次の(a)「伝統型」と(b)「委員会設置型」の2つに分けることができる。株式会社は、(a)の機関設計か、(b)の機関設計か、適している方を選択すればよい。
(a) 「伝統型」
「伝統型」の機関設計を考えるうえで重要になるのが、その株式会社が「公開会社」であるか否か、「大会社」であるか否かである。この違いにより、株式会社がとりうる機関設計のパターンは、次の➊~➍の4つに分けることができる。
公開会社 | 非公開会社 | |
大会社 | ➊ | ➋ |
非大会社 | ➌ |
➍ |
➊~➍の区分に応じて最低限必要な機関を備えれば、それ以外の機関を設置するかどうかについては各会社の選択に任させる。ただし、(任意であっても)一定の機関を備えた場合は、別の機関の設置が義務付けられる場合があるので、注意が必要である。
(b) 「委員会設置型」
「委員会設置型」とは、「指名委員会等」または「監査等委員会」を設置する場合である。これらの委員会は、上記➊~➍のすべてに設置することができる。これらを設置した「指名委員会等設置会社」または「監査等委員会設置会社」はアメリカの会社形態をモデルにしているため、上記(a)とは異なる独自の機関設計となる。
② すべての株式会社に共通の機関
株式会社には、「株主総会」と「取締役」を置かなければならない(会社法295条、296条、326条1項)。 |
株式会社では、株主が「株主総会」で取締役を選任し、「取締役」に会社の経営を行わせることになっている。
③ 「伝統型」の機関設計
(a) 公開会社の取締役会の設置義務(上記①の図➊➌)
公開会社は、「取締役会」を置かなければならない(会社法327条1条1号)。 |
「公開会社」とは、その発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定め〔株式の譲渡制限の定め〕を設けていない株式会社をいう(会社法2条5号)。
【公開会社】
以下の会社は、いずれも「公開会社」である。
公開会社では、株式を自由に譲渡することができるので、株主が頻繁に交代することになり、株主が会社経営に継続的に関与することは難しい。株主の変動が生じても会社が安定して経営を続けられる仕組みが必要であるため、公開会社には、「取締役会」を設置することが義務付けられる。「取締役会」は、株主が株主総会で選任した3人以上の取締役で構成される会議体である。公開会社では、株主が会社経営に直接関与するのではなく、この「取締役会」に会社経営を委ねる形をとるのである。
それに対して非公開会社では、株式を自由に譲渡することはできないため、株主が交代することはほぼない。株主が会社経営に継続的に関与することができるので、取締役会の設置は義務付けられない。なお、非公開会社であっても取締役会を設置することは可能である。
(b) 大会社に適用される規制(上記①の図➊➋)
大会社には、「会計監査人」を置かなければならない(会社法328条1項・2項)。 |
「大会社」とは、次の要件のいずれかに該当する株式会社をいう(会社法2条6号)。
(a) 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること。 (b) 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。 |
ようするに、資本金の額が5億円以上であるか、または、負債の額が200億円以上である会社が大会社である。資本金や負債が大きいということは、会社債権者などの利害関係者も多数に上る。もし粉飾決算が行われると多数の利害関係者に不利益が生じることになる。そこで、計算関係書類が適切に作成・開示されるよう、大会社については、会計監査の専門家である会計監査人の設置が義務付けられている。
【大会社】
(c) 公開会社である大会社に適用される規制(上記①の図➊)
公開会社である大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)には、「監査役会」を置かなければならない(会社法328条1項)。 |
公開会社である大会社は、株式が大量に流通し、株主や会社債権者などの利害関係者が多数に及ぶため、代表取締役・取締役の業務執行に対する監査・監督が重要になる。そこで、公開会社である大会社については、このように、監査役よりもさらに強力な監査機関である「監査役会」の監査を受けることになっている。なお、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社が除かれているのは、そこには監査機関としての監査等委員会・監査委員会が設置されるからである。
「取締役会設置会社」(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)は、「監査役」を置かなければならない(会社法327条2項本文)。 |
取締役設置会社であっても、非公開会社である会計参与設置会社については、監査役を置かなくてもよい(会社法327条2項ただし書)。 |
監査役会設置会社は、取締役会を置かなければならない(会社法327条1項2号)。 |
会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない(会社法327条3項)。 |
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、取締役会を置かなければならない(会社法327条1項3号・4号)。 |
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、監査役を置いてはならない(会社法327条4項)。 |
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(会社法327条5項)。 |
指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない(会社法327条6項)。 |
指名委員会等設置会社 | 株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人(+会計参与) |
監査等委員会設置会社 | 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人(+会計参与) |
■株主総会ー1
(1) 株主総会の意義
株主総会は、株主全員によって構成される会社の最高の意思決定機関である。株主総会は会社のオーナーである株主全員によって構成され、会社の組織・運営に関する基本的事項については会社法295条によって株主総会の決議事項とされており、また総会決議は取締役会を拘束するため、株主総会は株式会社の最高機関である。
(2) 株主総会の権限
① 非取締役会設置会社の場合
非取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項のほか、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができる(会社法295条1項)。
この場合、株主総会の決議事項について、定款の定めは不要であり、株主総会は、いわば万能機関である。したがって、非取締役会設置会社では、取締役が決定する事項についても株主総会で決議することができる。
② 取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議をすることができる(会社法295条2項)。
したがって、会社法上に規定する事項の他は定款による規定があってはじめて決定することができることになる。
③ 株主総会の法定決議事項
「法定決議事項」とは、会社法の規定により株主総会の決議を必要とするとされている事項である。法定決議事項は必ず株主総会で決議しなければならず、これを定款で変更することができない。この法定決議事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない(会社法295条3項)。
cf. 逆に、会社法の規定により取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関による決定を必要とする事項については、株主総会で決議することができる旨を定款で定めることができる。
(3) 株主総会の招集
① 招集の時期
株主総会には、その招集する時期によって、定時株主総会と臨時株主総会がある。
(a) 定時株主総会
毎事業年度の終了後、一定の時期に招集しなければならない株主総会である(会社法296条1項)。
ここでいう事業年度とは、会社の経営状況や財務状態を表す決算書を作成し、株主総会で承認するための年度を区切った期間をいう。4月1日から翌年3月31日までを1事業年度とする株式会社が最も多く、定時株主総会の開催時期については、「事業年度末日の翌日から3か月以内に招集する」などと定款で定められることが多い。したがって多くの会社が6月末に定時株主総会を開催している。
(b) 臨時株主総会
必要がある場合にいつでも招集できる株主総会である(会社法296条2項)。
② 招集権者
(a) 原則
株主総会は、取締役が招集する(会社法296条3項)。ここでいう取締役は代表取締役に限られないが、通常は代表取締役や代表執行役が招集することが多い。
(b) 例外〔株主による招集の請求および招集〕
一定の要件を満たす株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる(会社法297条1項)。そして、一定期間内に株主総会が招集されない場合は、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができる(同条4項)。
なお、株主は、議決権を行使することができない事項を目的とする株主総会の招集の請求はできないし、全く議決権を行使することができない株主は、株主総会の招集の請求ができない。
ⅰ)招集の請求をすることができる株主
株主総会の招集を請求することができる株主は、公開会社と非公開会社で要件が異なる。
公開会社 | 総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(会社法297条1項) |
非公開会社 | 総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主(会社法297条2項) |
なお、株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に参入しない(会社法297条3項)。
ⅱ)請求をした株主が自ら株主総会を招集することができる場合
次のいずれかの要件を満たす場合には、招集の請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができる(会社法297条4項)。
イ)招集の請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
ロ)招集の請求があった日から8週間(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合 |
③ 株主総会の招集の決定
取締役は、株主総会を招集する場合には、次の事項を定めなければならない(会社法298条1項)。取締役会設置会社では、これらの事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない(会社法298条4項)。また、招集の請求をした株主が自ら株主総会を招集する場合には、当該株主がこれらの事項を定めなければならない(会社法298条1項括弧書)。
(a) 株主総会の日時および場所
(b) 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項 (c) 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨 (d) 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨 (e) その他、法務省令〔会施規63条〕で定める事項 |
(a) 日時および場所
定時株主総会は一定の時期に招集するが、臨時株主総会はいつでも招集することができる。時間も常識的な時間であれば問題ない。株主総会の招集地について、会社法は何も規定していない。しかし、株主の出席を妨げる目的で、わざと株主が出席しにくい場所を開催場所としたような場合には、後述する株主総会の決議取消し事由となり得る。
(b) 目的
株主総会については、その目的を定めなければならない。株主総会の目的とは、何について決議をするかという株主総会の議題である。議題と議案は区別され、議題とは、たとえば「取締役の選任」などで、議題をより具体的にしたものが議案である(「Aを取締役に選任する」など)。議案は議題の一種である。
(c) 書面による議決権行使
ハガキなどの書面による議決権の行使を認めることができる。
取締役は、株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の数が1000人以上である場合には、書面によって議決権を行使できる旨を定めなければない(会社法298条2項)。ただし、当該株式会社が金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社であって法務省令〔会施規64条〕で定めるものである場合は、この限りでない(同項ただし書)。
(d) 電磁的方法による議決権行使
電磁的方法(インターネット)による議決権の行使を認めることもできる。書面による議決権行使と電磁的方法による議決権行使を両方認めてもよいし、いずれか一方だけでもいい。
(e) 会社法施行規則63条で規定されている事項
細かい事項になるのでここでは省略する。
④ 株主提案権
原則として、議題や議案は招集権者が決定し、これを株主総会に提出するものであるが、会社法は、一定の要件を満たす株主にも、招集権者ではなくても、議案や議題を提案する権利を認めている。
(a) 議題の提案権(会社法303条)
ⅰ)意義
取締役(取締役会設置会社においては、取締役会)が決定した議題と別の一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)を会議の目的(議題)とすることの請求権である。たとえば、取締役選任の件といった議題の追加を請求する権利を指す。
ⅱ)要件
イ)非取締役会設置会社である場合
当該議題について議決権を行使することができる株主全員(会社法303条1項)。
ロ)公開会社である取締役会設置会社の場合
6か月前から引き続き、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。
この要件は、それぞれ定款で緩和することが可能である。つまり権利行使しやすくなる定款規定は有効であるが、逆に権利行使しにくくする規定は無効である。
議案の提案は、定款で緩和されている場合を除き、株主総会の日の8週間前までにする必要がある(会社法303条2項)。
ハ)非公開会社である取締役会設置会社の場合
総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。非公開会社である取締役会設置会社の場合は、6か月前から保有している必要はない(会社法303条3項)。
(b) 議案の提出権
ⅰ)意義
株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)につき議案を提出することができる(会社法304条)。たとえば「取締役の選任」が議題とされている株主総会において、「Aを取締役に選任する」など議題の範囲内で議案を提出する権利である。
ⅱ)要件
議題の提案権(会社法303条1項)と異なり、議決権数についての要件はない。
ⅲ)例外
提出しようとする議案が以下の要件のいずれかに該当する場合には、議案の提出はできない(会社法304条ただし書)。
イ)議案が法令または定款に違反する場合
ロ)実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(この要件は定款で緩和することができる。) |
(c) 議案の要領の通知請求権(会社法305条)
ⅰ)意義
株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる。この要件は、定款で緩和することができる。
たとえば、取締役1名の選任を議題とする株主総会が開催される場合に、あらかじめAを取締役に選任する旨の議案を提出するものであり、その議案の要領を会社から株主に通知することを請求することができる権利である。
ⅱ)要件
議題の提案権(会社法303条)と同じである。
イ)非取締役会設置会社である場合
当該議題について議決権を行使することができる株主全員。
ロ)公開会社で取締役会設置会社の場合
6か月前から引き続き、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。
この要件は、それぞれ定款で緩和することが可能である。つまり権利行使しやすくなる定款規定は有効であるが、逆に権利行使しにくくする規定は無効である。
議案の提案は、定款で緩和されている場合を除き、株主総会の日の8週間前までにする必要がある(会社法303条2項)。
ハ)非公開会社である取締役会設置会社の場合
総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。非公開会社である取締役会設置会社の場合は、6か月前から保有している必要はない(会社法303条3項)。
ⅲ)例外
提出しようとする議案が以下の要件のいずれかに該当する場合には、議案の提出はできない(会社法305条4項)。
イ)議案が法令または定款に違反する場合
ロ)実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(この要件は定款で緩和することができる。) |
ⅳ)株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置(会社法305条4項5項)
取締役会設置会社においては、株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については、議案の要領の通知請求権に関する規定は適用されない。つまり、株主が同一の株主総会において提出することができる議案の数は10までということである。この措置は、1人の株主が膨大な数の議案を提出するなどの株主提案権の濫用的な行使を防ぐことが目的としている。
なお、当該株主が提出しようとする議案が2以上であっても、次のいずれかに該当する場合は、その議案の数は1つとみなされる。
イ)役員等〔取締役、会計参与、監査役または会計監査人〕の選任に関する議案
ロ)役員等の解任に関する議案 ハ)会計監査人を再任しないことに関する議案 ニ)定款の変更に関する2以上の議案であって、当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合 |
なお、10を超える数に相当することとなる数の議案がどれになるのかは、取締役が定める。ただし、議案の要領の通知請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部または一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めなければならない。
⑤ 検査役の選任
(a) 意義
株式会社または次の(b)の要件を満たす株主は、株主総会に係る招集の手続および決議の方法を調査させるため、株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役を選任の申立てをすることができる(会社法306条1項)。
取締役または取締役会と株主とが対立する議案などを提出するなどして株主総会が紛糾することが予想される場合に、株主総会の手続が適正に行われているかを監視させることが目的である。
(b) 選任の申立てができる株主の要件
ⅰ)非公開会社の場合
議決権の100分の1以上の議決権を有する株主
議決権の100分の1以上の議決権を有する株主の算定にあたり、株主総会において決議をすることができる事頊の全部につき議決権を行使することができない株主(完全無議決権株主)は除かれる。また、この要件(議決権の100分の1以上)は、定款で緩和することができる。
ⅱ)公開会社の場合
6か月前から引き続き議決権の100分の1以上の議決権を有する株主
株主総会において決議をすることができる事頊の全部につき議決権を行使することができない株主を除かれ、要件(6か月前から引き続き議決権の100分の1以上)は、定款で緩和することができる。
(c) 裁判所による検査役の選任
裁判所は、この申立てがあった場合、不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない(会社法306条3項)。また、裁判所は選任した検査役の報酬を定めることができる(会社法306条4項)。
⑥ 株主総会の招集通知
株主総会を招集するには、取締役は株主に対してあらかじめ通知を発しなければならない(会社法299条1項)。
(a) 通知の時期
取締役は、会社の区分に応じて、次の時期までに各株主に対して招集の通知を発しなければならない。
(b) 方法(書面による通知の要否)
次のいずれかの場合には、招集通知は書面によらなければならない(会社法299条2項)。
ⅰ)取締役会設置会社である場合
ⅱ)書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合〔非取締役会設置会社でも〕 |
なお、株主の承諾を得れば、書面による通知に代えて電磁的方法による通知も認められる(会社法299条3項)。書面または電磁的記録による通知には、株主総会の目的を記載または記録しなければならない(同条4項)。
ようするに、書面や電磁的方法による議決権行使を認めていない非取締役会設置会社の場合には、口頭や電話による招集も可能だということである。この場合には、日時、場所のみの通知をすればよく、具体的な会議の目的事項の通知は不要である。
(a) 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合
(相当期間前にあらかじめ通知がある場合または調査が著しく容易である場合を除く。) (b) 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合 (c) 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合 (d) そのほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合 |
(決議の方法)
第○条 株主総会の決議は、法令またはこの定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。 |
・株式の譲渡等承認請求の際の株式の買取りに関する決議(会社法140条2項5項)
・特定の株主からの合意による株式の有償取得に関する決議(会社法156条1項、160条1項) ・全部取得条項付種類株式の取得に関する決議(会社法171条1項) ・相続人等に対する株式の売渡しの請求に関する決議(会社法175条1項) ・株式の併合に関する決議(会社法180条2項) ・募集株式の発行等に関する決議(会社法199条2項、200条1項、202条3項4号、204条2項、205条2項) ・募集新株予約権の発行に関する決議(会社法238条2項、239条1項、241条3項4号、243条2項、244条3項 ・累積投票によって選任された取締役の解任の決議 ・監査役と監査等委員である取締役の解任の決議 ・役員等の責任の一部免除に関する決議(会社法425条1項) ・資本金の額の減少に関する決議のうち一定の要件を満たさないもの(会社法447条1項) ・金銭以外の財産を配当財産とし、株主に金銭分配請求権を与えない旨の剰余金の配当に関する決議(会社法454条4項) ・定款の変更に関する決議(会社法466条) ・事業の譲渡等の承認に関する決議(会社法467条) ・解散の決議(会社法471条3号) ・組織再編行為に関する決議 |
ⅰ)発行する株式全部につき譲渡制限の定めを設定する場合
ⅱ)合併により消滅する会社または株式交換をする会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、吸収合併または株式交換の当該会社の承認決議(会社法783条1項) ⅲ)合併または株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、新設合併または株式移転の承認決議(会社法804条1項) |
ⅰ)剰余金の配当を受ける権利
ⅱ)残余財産の分配を受ける権利 ⅲ)株主総会における議決権 |
ⅰ)種類株式発行会社以外の会社での取得条項付株式についての定めの設定・定款変更(会社法110条)
ⅱ)役員等の株式会社に対する損害賠償責任の免除(会社法424条) ⅲ)業務執行者および業務の執行に関与した者の剰余金の配当等に関する責任の免除(会社法462条3項) ⅳ)職務を行った業務執行者の欠損が生じた場合の責任の免除(会社法465条2項) ⅴ)組織再編行為に伴う場合(会社法783条2項、804条2項) |
普通決議 | 特別決議 | 特殊決議Ⅰ | 特殊決議Ⅱ | |
定足数 | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数 | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数 | なし | なし |
可決要件 | 出席した当該株主の議決権の過半数 | 出席した当該株主の議決権の 3分の2以上 | 議決権を行使することができる株主の半数以上 かつ 議決権を行使することができる株主の議決権の3分の2以上 | 総株主の半数以上 かつ 総株主の議決権の4分の3以上 |
ⅰ)当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
ⅱ)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。 ⅲ)請求者が代理権を証明する書面の閲覧もしくは謄写等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。 ⅳ)請求者が、過去2年以内において、代理権を証明する書面の閲覧もしくは謄写等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。 |
ⅰ)譲渡制限株式の譲渡の不承認を決定したため、株式会社が買取権者となる場合のその買取内容の決定決議についての、譲渡承認請求権者(会社法140条3項)
ⅱ)株主総会における自己株式の取得決議につき、特定の者から買い受けることとした場合の当該売主たる株主(会社法160条4項) ⅲ)相続人等に対する売渡請求における取得決議につき、請求を受ける者など(会社法175条2項) |
1. 全部取得条項付種類株式についての定款の定めを設ける定款変更(会社法111条2項)
2. 譲渡制限株式に関する募集事項の決定またはその委任(会社法199条4項、200条4項) 3. 新株予約権の目的である株式の一部または全部が譲渡制限株式である新株予約権に関する募集事項の決定またはその委任(会社法238条4項、239条4項) 4. 会社が、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為をする場合(会社法322条1項) 5. 種類株主総会での監査役の解任(会社法347条2項、339条1項) 6. 存続会社の譲渡制限株式を対価とする存続会社における吸収合併(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項1号) 7. 承継会社の譲渡制限株式を対価とする承継会社における吸収分割(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項2号) 8. 会社となる譲渡制限会社の株式を対価とする完全親会社における株式交換(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項3号) 9. 会社法816条の3第3項の種類株主総会 |
1. 会社法111条2項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として会社法108条1項4号に掲げる事項(譲渡制限株式)についての定款の定めを設ける場合に限る。)
2. 会社法783条3項(吸収合併等の対価に譲渡制限株式等があるとき)および会社法804条3項(新設合併等の対価に譲渡制限株式等があるとき)の種類株主総会(譲渡制限株式を除く) |
1. 株式の種類の追加
2. 株式の内容の変更 3. 発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加 |
■株主総会ー2
(12) 株主総会の決議の瑕疵
株主総会等の決議に瑕疵がある場合、その決議の効力は否定されなければならないが、決議に瑕疵がある場合でもその決議の有効であることを前提に通常会社の内外の関係において多数の法律関係が築かれている。したがって一般原則によって無効の主張を認めると混乱が生じ、決議を信頼した者の利益が害されるため、会社法では会社関係の画一的処理および法的安定性を考慮して瑕疵の種類に応じて3つの訴えの制度を認めて処理を図った。
① 株主総会の決議の不存在確認の訴え(会社法830条1項)
② 株主総会の決議の無効確認の訴え(会社法830条2項) ③ 株主総会の決議取消しの訴え(会社法831条) |
① 株主総会の決議の不存在確認の訴え(会社法830条1項)
(a) 意義
決議が不存在というには、決議の手続的瑕疵が著しく、そのため決議が存在するとは、認められないような場合や決議と認め得るものが外形上も存在しない場合が決議の不存在である。たとえば、一部の株主にしか招集通知を送らなかった場合や、議事録は作成されているが総会自体が開催されていないような場合である。
(b) 決議不存在の主張の方法
誰でも、いつでも、いかなる方法によってもその不存在を主張することができ、必要があれば訴えの利益がある限り会社を被告として決議不存在確認の訴えを提起することもできる。
提訴権者、提訴期間に制限はない。被告は株式会社である。
(c) 決議不存在確認判決の効力
決議不存在確認の訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、訴訟の当事者以外の第三者に対しても、その効力を有する。つまり、すべての者との関係で当該株主総会の決議は不存在となる。
② 株主総会の決議の無効確認の訴え(会社法830条2項)
(a) 意義
決議の内容が法令に違反する場合には、決議は無効であり、その無効の確認を訴えによって請求することができる(会社法830条2項)。たとえば、株主総会の法定決議事項を取締役や取締役会に一任する決議や、公開会社が発行する株式総数を発行済株式総数の4倍を超えて増加する定款変更決議は決議内容が法令違反となり、決議無効確認の訴えの対象となる。
(b) 無効主張の方法
決議の内容が法令に違反するときは決議は当然無効だから、誰でも、いつでも、いかなる方法によってもその無効を主張することができ、必要があれば無効確認の訴えによることもできる。
提訴権者、提訴期間に制限はない。被告は株式会社である。
(c) 決議無効確認判決の効力
決議無効確認の訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、訴訟の当事者以外の第三者に対しても、その効力を有する。つまり、すべての者との関係で当該株主総会の決議は無効となる。
③ 株主総会の決議取消しの訴え(会社法831条)
(a) 意義
株主総会決議に次の手続的瑕疵がある場合は、決議を当然無効とはしないで、決議取消判決の確定により初めて無効とする(会社法831条)。
(b) 取消原因
次の場合は、決議の不存在等の場合に比べ瑕疵が重大でなく、決議を当然に無効とはせず、決議取消し訴えの対象とする。
決議取消事由 | 招集の手続または決議方法の法令・定款違反または著しい不公正 |
決議内容の「定款」違反(*1) | |
特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な決議がなされた場合(*2) |
(*1)決議内容が「法令」違反となる場合には、その瑕疵の重大性から決議無効確認の訴えの対象となる点と比較。
(*2)株主総会の決議事項に特別な利害関係を有する株主でも、原則として議決権の行使は制限されないが、そのことによって著しく不当な決議が成立してしまった場合には、決議取消しの訴えによって、決議を取り消して無効に持ち込むのである。
(c) 提訴権者
決議取消しの訴えでは提訴権者も以下の者に限られる。
・株主、取締役、監査役、執行役、清算人
・その決議によって取締役、監査役、清算人の地位を失った者
(d) 提訴期間
決議のあった日から3か月以内に訴えを提訴することができ、その間に訴え提訴がないと瑕疵は治癒され、その決議は有効なものと扱われることになる(会社法831条1項)。
判例 | (最判昭42.9.28) |
株主は自己に対する招集手続に瑕疵がなくても、他の株主に通知もれがある場合には決議取消しの訴えを提起し得る。 |
(e) 決議取消判決の効力
ⅰ)原告勝訴の場合
決議取消しの訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、その効力は当事者以外の第三者にも及ぶ(会社法838条)。決議取消判決の確定によりその決議は、決議の時に遡って無効となる(遡及効)。
ⅱ)原告敗訴の場合
原則どおり相対効しかないため、他の提訴権者は期間内であれば再び訴えを起こすことができる。
(f) 決議取消しの訴えと裁判所の裁量棄却
ⅰ)意義
決議取消しの訴えが提起された場合において、招集の手続または決議の方法が法令または定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは請求を棄却することができる。これを裁判所の裁量棄却権という(会社法831条2項)。
ⅱ)趣旨
瑕疵が軽微な場合にまで決議を取り消すと影響が大きいため、決議取消しの訴えの要件を満たしている場合であっても、裁判所の裁量で請求を棄却できるとしたものである。なお、決議取消事由のうち「招集手続または決議方法が著しく不公正なとき」、「決議内容が定款に違反するとき」、「決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき」にはこの裁量棄却は認められない。