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1機関

堀川 寿和2022/01/20 16:31

 株式会社は、一般の投資家から出資を募って大規模な事業を行うために考え出された。

 そのために、次のような仕組みを用意している。

① 配当
② 株主有限責任 → 安心して出資してもらえるように
 → 債権者保護のために、「資本維持の原則」も設けられている
 → 出資された財産のうちの一定金額以上を会社財産として保有させる仕組み
 → 株主は会社に出資金額の払戻しを要求することはできない
③ 株式譲渡の自由 → 投下資本の回収が可能なように
 → 譲渡しやすいように「持分均一主義」がとられている。


 会社という形態をとらずに、個人営業しか認めないとすると以下の2つの不具合が予想される。


① 個人の資力は限られるから事業規模を大きくできない。

② 事業に失敗した場合に、事業者個人の財産も含めて根こそぎ債権者に持っていかれて、丸裸にされてしまうおそれがある。


そこで、まず①について

多数の人から余った資金を集めることができれば、大きな資金となる。

     ↓ しかし

出資を募るためには、出資者に何らかのメリットが必要となる。何のメリットもなければ多分誰も出資してくれない。

     ↓ そこで

出資者に配当という形で利益を還元する。つまり配当を餌にお金を出させるのである。


次に、②について

 出資者は株式会社において所有者(株主)という位置づけになる。そうすると、もし仮に出資した会社が倒産した場合、その会社の債権者が出資者のところにやってきて、その個人資産までも根こそぎもっていくことができれば、誰も出資してくれなくなる。となると一般大衆から余剰資金を集めることが困難になってしまう。そこで株主の有限責任という概念が生まれた。

 たとえば、Aさんがある会社に100万円出資して株主になった会社が、後に倒産した場合、株価は事実上0円になる。つまりAさんに100万円の損害が生じることになる。このリスクは出資者である以上やむを得ないことである。しかし、Aさんかの所有者(株主)としての責任はそれでおしまいである。会社債権者がAさんの自宅までやってきてAさんの個人資産まで根こそぎ持っていくようなことはない。これが株主の有限責任である。

 そうなると、会社債権者の保護を図る要請も当然に出てくることになる。つまり会社債権者が、会社が倒産したときに株主の個人資産を取立てができない以上、唯一の拠り所となるのは会社財産である。そこで万が一の時ために、一定の財産を会社に留保させておくことを義務づけ、会社債権者の保護を図ることとした。これがいわゆる「資本」である。

 さらに、会社が予期せぬ損害が生じたときのために、法定準備金という制度を設け、毎年利益の中から一定額をさらに留保させ、それでもなお余剰があるときにはじめて配当という形で出資者たる株主に利益を還元することで、株主利益と会社債権者の保護の調和を図ったのである。


株式会社の機関

(1) 機関の意義

 機関とは、株式会社の意思決定または行為をする者として、会社法が「機関」の章に定めた人または会議体である。

 会社も1つの組織として独立の意思と活動とを有する。しかし、法人であるため、自ら意思を有し、行為をするということはできない。そこで、会社の組織上一定の地位にある者(人または会議体)の意思決定や行為がすなわち会社の意思となり行為となることにした。つまり、会社の意思決定と活動は、自然人の意思と行為を通じて実現される。この会社の頭脳、手足ともいうべき組織上の存在を会社の機関という。

 

(2) 株式会社の機関

① すべての株式会社に設置が必要な機関

 次の2つの機関は、すべての株式会社に設置が必要である(会社法295条、296条、326条1項)。

(a) 株主総会
(b) 取締役

 

株式会社は、株主が株主総会で取締役を選び、取締役に会社の経営を行わせる仕組みになっている。したがって。この2つの機関は必ず必要である。

 

Point 株主総会と取締役は、株式会社に当然設置されるので、定款に定める必要はない。

 

② その他の機関

 その他の機関は、次のとおり。

(a) 取締役会
(b) 監査役
(c) 監査役会
(d) 会計参与
(e) 会計監査人
(f) 指名委員会等〔指名委員会・監査委員会・報酬委員会〕(および執行役)
(g) 監査等委員会

 

 株式会社は、その他の機関〔上記(a)~(g)〕を、定款の定めによって、設置することができる(会社法326条2項)。つまり、その他の機関は、すべての会社に設置が必要なわけではなく、原則として、設置するかどうかについては会社が任意に決めることができる。ただし、一定の会社には、一定の機関の設置が強制される場合があり、また、同時に設置することができない機関もある。

 

Point 「その他の機関」を設置する場合は、設置が強制される場合も含めて、定款で設置する旨を定めなければならない。 

 

(3) 各機関の意義と役割

① 株主総会・取締役・取締役会

 株式会社の構成員は出資者である株主であり、その株主で構成される会議体が株主総会である。株式会社は、株主が株主総会で取締役を選んで、取締役に会社の経営を行わせる仕組みになっている。したがって、株式会社には、必ず、株主総会と取締役が必要である(会社法295条、296条、326条1項)。

 取締役会は、3人以上の取締役全員で構成される会議体である。取締役会の設置は任意とされているが、一定の会社には設置が強制される。取締役会を置く株式会社を「取締役会設置会社」という(会社法2条7号)。取締役会を設置すると、取締役の中から必ず代表取締役が選定される。

 株主総会と取締役の役割は、その株式会社が「取締役会設置会社」であるか、取締役会を置かない「非取締役会設置会社」であるかにより異なる。

 

(a) 非取締役会設置会社

ⅰ)株主総会

 非取締役会設置会社では、株主総会は、会社に関する「一切の事項」について決議をする権限を有している(会社法295条1項)。つまり、万能の機関である。

 

ⅱ)取締役

 非取締役会設置会社では、株主総会で選任された取締役は、会社の業務を「決定」し、業務を「執行」し、対外的に会社を「代表」する権限を有している(会社法348条2項、同条1項、349条1項)。つまり、取締役は、会社の事業活動に関する意思決定を行い、その決定に従って事業活動を実行し、対外的には取締役の行為が会社の行為とされる。ただし、株主総会は会社に関する一切の事項を決定することができるので、株主総会が会社の業務を決定した場合は、これに従って業務を執行しなければならない。

 

 

Point1 非取締役会設置会社は、株主総会が万能の機関であり、株主が日常の会社経営に直接関与できる組織形態である。共同で事業を営むために親友同士が出資して会社を設立した場合のように、株主が少数で、株主間の個人的な信頼関係が重視され、株主自らも経営に関与したい場合に適している。

Point2 非取締役会設置会社は、株主が直接経営に関与できるため、株主間の個人的な信頼関係が重視される場合に適した組織形態である。そのため、非取締役会設置会社になるためには、株式会社が「公開会社でない会社」(以下「非公開会社」という。)である必要がある〔会社法では非公開会社でないと取締役会の設置が強制されてしまう〕。非公開会社とは、会社が発行する「全て」の株式について定款に「株式の譲渡制限」の定めをしている会社である。株式の譲渡制限の定めとは、株式を譲渡によって取得するには、会社の承認を要する旨の定めであり、好ましくない者が株主になるのを防ぐためのものである。

 

【非公開会社】

 以下の会社は、いずれも「非公開会社」である。

 

* 「種類株式発行会社」とは、一定の事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する株式会社をいう(会社法2条13号)。それに対して、1種類の株式しか発行していない会社は「単一株式発行会社」とよばれる。

 

 

(b) 取締役会設置会社

ⅰ)株主総会

 取締役会設置会社では、株主総会は、会社に関する「基本的事項」に限り決議する権限を有している(会社法295条2項)。これは、基本的事項以外の決定については、取締役会に委ねるということである。

 

ⅱ)取締役

 取締役会設置会社では、株主総会によって取締役は3人以上選任され(会社法331条5項)、取締役会の構成員となる。取締役は、取締役会の構成員として、会社の業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定に関与する。

 

ⅲ)取締役会

 取締役会は、株主総会で選任された3人以上の取締役によって構成される会議体である。取締役会設置会社では、取締役会が業務執行を「決定」する権限を有している(会社法362条2項)。また、取締役会は代表取締役を「選定」し、代表取締役の職務執行を「監督」する(同項)。 

 

ⅳ)代表取締役

 取締役会は会議体であるため、取締役会設置会社では、取締役会によって取締役の中から代表取締役が選定され、この代表取締役が会社の業務を「執行」し、対外的には会社を「代表」する(会社法362条3項、363条1項)。

 

Point1 取締役会設置会社は、株主総会の権限が限定され、取締役会の権限が強い。会社の日常の経営は取締役会に委ねられ、株主は日常の会社経営には関与しない組織形態である。一般の投資家を広く募って大規模な事業を営む場合のように、投資家である株主自身は会社の経営に関与することを望んでいないような場合に適している。

Point2 取締役会設置会社は、株主総会の権限が弱いため、第三者の立場から取締役の職務執行を監査する監査機関の設置が義務付けられる。

 

② 監査役・監査役会

(a) 監査役

 監査役は取締役の職務の執行を監査する機関である(会社法381条)。監査とは、職務執行の状況を調査し、必要があれば是正することである。監査役の設置は任意であるが、株主総会の権限が限定されている取締役会設置会社では、取締役の権限濫用を監視するために、原則として、監査役の設置が強制される。

 監査役を置く株式会社を「監査役設置会社」という。

 

(b) 監査役会

 監査役会は、3人以上の監査役全員で構成される会議体であり(会社法390条)、監査役よりもさらに強力な監査機関である。監査役設置会社であっても、監査役会を設置するかどうかは、原則として任意である。ただし、一定の会社には、監査役会の設置が強制される。

 監査役会を置く株式会社を「監査役会設置会社」といい、当然、「監査役設置会社」でもある。 

 

③ 会計参与

 会計参与は、取締役(後述する指名委員会等設置会社では執行役)と共同して、株式会社の計算関係書類を作成する機関である(会社法374条)。原則として、会計参与の設置は任意である。

 会計参与は株主総会の決議で選任されるが(会社法329条1項)、会計の専門知識を有している必要があるため、その資格は公認会計士、監査法人(公認会計士を社員とする法人)、税理士または税理士法人に限定されている(会社法333条1項)。

 会計参与を置く株式会社を、「会計参与設置会社」という。

 

④ 会計監査人

 会計監査人は、株式会社の計算関係書類を監査する機関である(会社法396条)。会計監査人を設置するかどうかは原則として任意であるが、一定の会社には設置が強制される。

 会計監査人は株主総会の決議で選任されるが(会社法329条1項)、会計監査の専門知識を有している必要があるため、その資格は公認会計士または監査法人に限定される(会社法337条1項)。

 会計監査人を置く株式会社を、「会計監査人設置会社」という。

 

⑤ 指名委員会等および執行役

(a) 指名委員会等

 指名委員会等とは、「指名委員会」、「監査委員会」、「報酬委員会」の3つの委員会である(会社法2条12号)。各委員会の委員は、取締役の中から取締役会の決議で選定される(会社法400条2項)。指名委員会等を設置するかどうかは任意である。

指名委員会 指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案の内容を決定する機関である(会社法404条1項)。
監査委員会 監査委員会は、執行役および取締役の職務の執行の監査を行う機関である(404条2項)。
報酬委員会 報酬委員会は、執行役および取締役の個人別の報酬の内容を決定する機関である(404条3項)。

 この3つの委員会を置く株式会社を、「指名委員会等設置会社」という。指名委員会等設置会社はアメリカ型の組織形態で、権力の分散と厳格な監査制度を要求する。

 

(b) 執行役

 指名委員会等設置会社には、必ず「執行役」が設置される(会社法402条)。

 執行役は、取締役会の決議で選任され、会社の業務の「執行」を行う機関である(会社法418条)。また、執行役の中から取締役会で「代表執行役」が選定され(420条)、代表執行役が、対外的に会社を「代表」する。

 なお、指名委員会等設置会社では、取締役は会社の業務を執行することができない(会社法415条)。取締役に権限が集中するのを避けるため、この執行役が設置されるのである。

⑥ 監査等委員会

 監査等委員会は、取締役の職務の執行を監査する機関である(会社法399条の2第3項)。監査等委員会の委員は、取締役でなければならないが(会社法399条の2第2項)、監査等委員会設置会社では、株主総会で取締役を選任するにあたり、監査等委員である取締役が、それ以外の取締役とは区別して選任される(329条1項・2項)。

 監査等委員会を置く株式会社を監査等委員会設置会社という。

 

(4) 機関設計

 株式会社は、会社法に規定された一定のルールに従って、機関を備えていくことになる。

 

① 機関設計の考え方

 機関設計の考え方は、大きく次の(a)「伝統型」と(b)「委員会設置型」の2つに分けることができる。株式会社は、(a)の機関設計か、(b)の機関設計か、適している方を選択すればよい。

 

(a) 「伝統型」

 「伝統型」の機関設計を考えるうえで重要になるのが、その株式会社が「公開会社」であるか否か、「大会社」であるか否かである。この違いにより、株式会社がとりうる機関設計のパターンは、次の➊~➍の4つに分けることができる。

  公開会社 非公開会社
大会社
非大会社

 

 ➊~➍の区分に応じて最低限必要な機関を備えれば、それ以外の機関を設置するかどうかについては各会社の選択に任させる。ただし、(任意であっても)一定の機関を備えた場合は、別の機関の設置が義務付けられる場合があるので、注意が必要である。

 

(b) 「委員会設置型」

 「委員会設置型」とは、「指名委員会等」または「監査等委員会」を設置する場合である。これらの委員会は、上記➊~➍のすべてに設置することができる。これらを設置した「指名委員会等設置会社」または「監査等委員会設置会社」はアメリカの会社形態をモデルにしているため、上記(a)とは異なる独自の機関設計となる。

 

② すべての株式会社に共通の機関

株式会社には、「株主総会」と「取締役」を置かなければならない(会社法295条、296条、326条1項)。

 

 株式会社では、株主が「株主総会」で取締役を選任し、「取締役」に会社の経営を行わせることになっている。 

 

③ 「伝統型」の機関設計

(a) 公開会社の取締役会の設置義務(上記①の図➊➌)

公開会社は、「取締役会」を置かなければならない(会社法327条1条1号)。

 

 「公開会社」とは、その発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定め〔株式の譲渡制限の定め〕を設けていない株式会社をいう(会社法2条5号)。

 

【公開会社】

 以下の会社は、いずれも「公開会社」である。

 

 

 公開会社では、株式を自由に譲渡することができるので、株主が頻繁に交代することになり、株主が会社経営に継続的に関与することは難しい。株主の変動が生じても会社が安定して経営を続けられる仕組みが必要であるため、公開会社には、「取締役会」を設置することが義務付けられる。「取締役会」は、株主が株主総会で選任した3人以上の取締役で構成される会議体である。公開会社では、株主が会社経営に直接関与するのではなく、この「取締役会」に会社経営を委ねる形をとるのである。

 それに対して非公開会社では、株式を自由に譲渡することはできないため、株主が交代することはほぼない。株主が会社経営に継続的に関与することができるので、取締役会の設置は義務付けられない。なお、非公開会社であっても取締役会を設置することは可能である。

(b) 大会社に適用される規制(上記①の図➊➋)

大会社には、「会計監査人」を置かなければならない(会社法328条1項・2項)。

 

「大会社」とは、次の要件のいずれかに該当する株式会社をいう(会社法2条6号)。

(a) 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること。
(b) 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。

 ようするに、資本金の額が5億円以上であるか、または、負債の額が200億円以上である会社が大会社である。資本金や負債が大きいということは、会社債権者などの利害関係者も多数に上る。もし粉飾決算が行われると多数の利害関係者に不利益が生じることになる。そこで、計算関係書類が適切に作成・開示されるよう、大会社については、会計監査の専門家である会計監査人の設置が義務付けられている。

 

【大会社】

 

 

(c) 公開会社である大会社に適用される規制(上記①の図➊)

公開会社である大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)には、「監査役会」を置かなければならない(会社法328条1項)。

 公開会社である大会社は、株式が大量に流通し、株主や会社債権者などの利害関係者が多数に及ぶため、代表取締役・取締役の業務執行に対する監査・監督が重要になる。そこで、公開会社である大会社については、このように、監査役よりもさらに強力な監査機関である「監査役会」の監査を受けることになっている。なお、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社が除かれているのは、そこには監査機関としての監査等委員会・監査委員会が設置されるからである。

 

Point 公開会社であり、かつ大会社である監査役会設置会社であって、金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について「有価証券報告書」の提出を義務付けられている会社は、社外取締役を置かなければならない〔社外取締役の設置義務〕(会社法327条の2)。この規定に違反して社外取締役を選任しなかったときは、過料の制裁がある(会社法976条19号の2)
(d) 株式会社に一定の機関を設置した場合に適用される規制(上記①の図➊~➍)
ⅰ)取締役会設置会社に適用される規制
イ)原則
「取締役会設置会社」(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)は、「監査役」を置かなければならない(会社法327条2項本文)。
 
 取締役会設置会社では、株主総会の権限は限定され、取締役会に会社経営の権限が集中する。そこで、取締役が権限を濫用しないよう、その職務執行を監査する「監査役」の設置が義務付けられる。監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社が除かれているのは、そこには監査機関としての監査等委員会・監査委員会が設置されるからである。
 なお、非公開会社の場合は、監査役の監査の範囲を会社の業務全般でなく、定款で会計に関するものに限定することができる(会社法389条1項)。非公開会社の株主は自ら取締役を監視することもある程度可能と考えられているからである。
 
ロ)例外
取締役設置会社であっても、非公開会社である会計参与設置会社については、監査役を置かなくてもよい(会社法327条2項ただし書)。
 
 監査役設置会社が非公開会社の場合は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができるのは、会計の適正が確保されていれば十分と考えられているからである。これと同様の趣旨で、計算関係書類の作成に会計の専門家である会計参与が関与することで会計の適正が確保できると考えられているからである。
 
ⅱ)監査役会設置会社に適用される規制
監査役会設置会社は、取締役会を置かなければならない(会社法327条1項2号)。
 
 監査役会は監査役よりも強力な監査機関であるが、その監査役会が監査するのが取締役にすぎないというのでは、つり合いが取れないからである。なお、取締役設置会社には、必ずしも監査役会を設置する必要はない。
 
ⅲ)会計監査人設置会社に適用される規制
会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない(会社法327条3項)。
 
 会計監査人を選任するのは株主総会の決議だが、その案の内容〔誰を会計監査人にするのか〕を決めるのは、取締役や取締役会ではなく、監査機関である監査役だからである。
④「委員会設置型」の機関設計(上記①の図➊~➍)
 指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社には、次の規制が適用される。
 
(a) 取締役会の設置義務
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、取締役会を置かなければならない(会社法327条1項3号・4号)。
 
 「委員会設置型」の機関設計では、取締役または執行役の職務の執行は、監査委員会または監査等委員会の監査を受けるほか、取締役会の監督も受けることになる。
 
(b) 監査役の不設置
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、監査役を置いてはならない(会社法327条4項)。
 「委員会設置型」に設置される「監査委員会」および「監査等委員会」の職務権限と重複してしまうので、「監査役」を置くことができない。
 
(c) 会計監査人の設置義務
指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない(会社法327条5項)。
 
 「委員会設置型」の機関設計はアメリカモデルの厳格な監査制度を要求する組織形態であるので、会計監査人の設置が義務付けられている。
 
(d) 指名委員会等設置会社における監査等委員会の不設置
指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない(会社法327条6項)。
 
 指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社とでは機関設計が両立しないので、これらを同時に選択することはできないということである。
 
【「委員会設置型」の機関設計】
 以上のルールより、委員会設置型の株式会社の機関設計は、次のとおり。
指名委員会等設置会社 株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人(+会計参与)
監査等委員会設置会社 株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人(+会計参与)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

株主総会ー1

(1) 株主総会の意義

 株主総会は、株主全員によって構成される会社の最高の意思決定機関である。株主総会は会社のオーナーである株主全員によって構成され、会社の組織・運営に関する基本的事項については会社法295条によって株主総会の決議事項とされており、また総会決議は取締役会を拘束するため、株主総会は株式会社の最高機関である。


(2) 株主総会の権限

① 非取締役会設置会社の場合

 非取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項のほか、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができる(会社法295条1項)。

 この場合、株主総会の決議事項について、定款の定めは不要であり、株主総会は、いわば万能機関である。したがって、非取締役会設置会社では、取締役が決定する事項についても株主総会で決議することができる。


② 取締役会設置会社の場合

 取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議をすることができる(会社法295条2項)。

 したがって、会社法上に規定する事項の他は定款による規定があってはじめて決定することができることになる。


③ 株主総会の法定決議事項

 「法定決議事項」とは、会社法の規定により株主総会の決議を必要とするとされている事項である。法定決議事項は必ず株主総会で決議しなければならず、これを定款で変更することができない。この法定決議事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない(会社法295条3項)。

cf. 逆に、会社法の規定により取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関による決定を必要とする事項については、株主総会で決議することができる旨を定款で定めることができる。


(3) 株主総会の招集

① 招集の時期

 株主総会には、その招集する時期によって、定時株主総会と臨時株主総会がある。


(a) 定時株主総会

 毎事業年度の終了後、一定の時期に招集しなければならない株主総会である(会社法296条1項)。

 ここでいう事業年度とは、会社の経営状況や財務状態を表す決算書を作成し、株主総会で承認するための年度を区切った期間をいう。4月1日から翌年3月31日までを1事業年度とする株式会社が最も多く、定時株主総会の開催時期については、「事業年度末日の翌日から3か月以内に招集する」などと定款で定められることが多い。したがって多くの会社が6月末に定時株主総会を開催している。


(b) 臨時株主総会

 必要がある場合にいつでも招集できる株主総会である(会社法296条2項)。


② 招集権者

(a) 原則

 株主総会は、取締役が招集する(会社法296条3項)。ここでいう取締役は代表取締役に限られないが、通常は代表取締役や代表執行役が招集することが多い。


(b) 例外〔株主による招集の請求および招集〕

 一定の要件を満たす株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる(会社法297条1項)。そして、一定期間内に株主総会が招集されない場合は、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができる(同条4項)。

 なお、株主は、議決権を行使することができない事項を目的とする株主総会の招集の請求はできないし、全く議決権を行使することができない株主は、株主総会の招集の請求ができない。


ⅰ)招集の請求をすることができる株主

 株主総会の招集を請求することができる株主は、公開会社と非公開会社で要件が異なる。

公開会社総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(会社法297条1項)
非公開会社総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主(会社法297条2項)

 なお、株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に参入しない(会社法297条3項)。


ⅱ)請求をした株主が自ら株主総会を招集することができる場合

 次のいずれかの要件を満たす場合には、招集の請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができる(会社法297条4項)。

イ)招集の請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
ロ)招集の請求があった日から8週間(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合


③ 株主総会の招集の決定

 取締役は、株主総会を招集する場合には、次の事項を定めなければならない(会社法298条1項)。取締役会設置会社では、これらの事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない(会社法298条4項)。また、招集の請求をした株主が自ら株主総会を招集する場合には、当該株主がこれらの事項を定めなければならない(会社法298条1項括弧書)。

(a) 株主総会の日時および場所
(b) 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
(c) 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
(d) 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
(e) その他、法務省令〔会施規63条〕で定める事項

(a) 日時および場所

 定時株主総会は一定の時期に招集するが、臨時株主総会はいつでも招集することができる。時間も常識的な時間であれば問題ない。株主総会の招集地について、会社法は何も規定していない。しかし、株主の出席を妨げる目的で、わざと株主が出席しにくい場所を開催場所としたような場合には、後述する株主総会の決議取消し事由となり得る。


(b) 目的

 株主総会については、その目的を定めなければならない。株主総会の目的とは、何について決議をするかという株主総会の議題である。議題と議案は区別され、議題とは、たとえば「取締役の選任」などで、議題をより具体的にしたものが議案である(「Aを取締役に選任する」など)。議案は議題の一種である。


(c) 書面による議決権行使

 ハガキなどの書面による議決権の行使を認めることができる。

 取締役は、株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の数が1000人以上である場合には、書面によって議決権を行使できる旨を定めなければない(会社法298条2項)。ただし、当該株式会社が金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社であって法務省令〔会施規64条〕で定めるものである場合は、この限りでない(同項ただし書)。 


(d) 電磁的方法による議決権行使

 電磁的方法(インターネット)による議決権の行使を認めることもできる。書面による議決権行使と電磁的方法による議決権行使を両方認めてもよいし、いずれか一方だけでもいい。


(e) 会社法施行規則63条で規定されている事項

 細かい事項になるのでここでは省略する。


④ 株主提案権

 原則として、議題や議案は招集権者が決定し、これを株主総会に提出するものであるが、会社法は、一定の要件を満たす株主にも、招集権者ではなくても、議案や議題を提案する権利を認めている。


(a) 議題の提案権(会社法303条)

ⅰ)意義

 取締役(取締役会設置会社においては、取締役会)が決定した議題と別の一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)を会議の目的(議題)とすることの請求権である。たとえば、取締役選任の件といった議題の追加を請求する権利を指す。


ⅱ)要件

イ)非取締役会設置会社である場合

 当該議題について議決権を行使することができる株主全員(会社法303条1項)。

ロ)公開会社である取締役会設置会社の場合

 6か月前から引き続き、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。

 この要件は、それぞれ定款で緩和することが可能である。つまり権利行使しやすくなる定款規定は有効であるが、逆に権利行使しにくくする規定は無効である。

 議案の提案は、定款で緩和されている場合を除き、株主総会の日の8週間前までにする必要がある(会社法303条2項)。

ハ)非公開会社である取締役会設置会社の場合

 総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。非公開会社である取締役会設置会社の場合は、6か月前から保有している必要はない(会社法303条3項)。


(b) 議案の提出権

ⅰ)意義

 株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)につき議案を提出することができる(会社法304条)。たとえば「取締役の選任」が議題とされている株主総会において、「Aを取締役に選任する」など議題の範囲内で議案を提出する権利である。

ⅱ)要件

 議題の提案権(会社法303条1項)と異なり、議決権数についての要件はない。


ⅲ)例外

 提出しようとする議案が以下の要件のいずれかに該当する場合には、議案の提出はできない(会社法304条ただし書)。

イ)議案が法令または定款に違反する場合
ロ)実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(この要件は定款で緩和することができる。)


(c) 議案の要領の通知請求権(会社法305条)

ⅰ)意義

 株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる。この要件は、定款で緩和することができる。

 たとえば、取締役1名の選任を議題とする株主総会が開催される場合に、あらかじめAを取締役に選任する旨の議案を提出するものであり、その議案の要領を会社から株主に通知することを請求することができる権利である。


ⅱ)要件

 議題の提案権(会社法303条)と同じである。

イ)非取締役会設置会社である場合

 当該議題について議決権を行使することができる株主全員。

ロ)公開会社で取締役会設置会社の場合

 6か月前から引き続き、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。

 この要件は、それぞれ定款で緩和することが可能である。つまり権利行使しやすくなる定款規定は有効であるが、逆に権利行使しにくくする規定は無効である。

議案の提案は、定款で緩和されている場合を除き、株主総会の日の8週間前までにする必要がある(会社法303条2項)。

ハ)非公開会社である取締役会設置会社の場合

 総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主。非公開会社である取締役会設置会社の場合は、6か月前から保有している必要はない(会社法303条3項)。

ⅲ)例外

 提出しようとする議案が以下の要件のいずれかに該当する場合には、議案の提出はできない(会社法305条4項)。

イ)議案が法令または定款に違反する場合
ロ)実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(この要件は定款で緩和することができる。)


ⅳ)株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置(会社法305条4項5項)

 取締役会設置会社においては、株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については、議案の要領の通知請求権に関する規定は適用されない。つまり、株主が同一の株主総会において提出することができる議案の数は10までということである。この措置は、1人の株主が膨大な数の議案を提出するなどの株主提案権の濫用的な行使を防ぐことが目的としている。

 なお、当該株主が提出しようとする議案が2以上であっても、次のいずれかに該当する場合は、その議案の数は1つとみなされる。

イ)役員等〔取締役、会計参与、監査役または会計監査人〕の選任に関する議案
ロ)役員等の解任に関する議案
ハ)会計監査人を再任しないことに関する議案
ニ)定款の変更に関する2以上の議案であって、当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合

 なお、10を超える数に相当することとなる数の議案がどれになるのかは、取締役が定める。ただし、議案の要領の通知請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部または一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は、当該優先順位に従い、これを定めなければならない。


⑤ 検査役の選任

(a) 意義

 株式会社または次の(b)の要件を満たす株主は、株主総会に係る招集の手続および決議の方法を調査させるため、株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役を選任の申立てをすることができる(会社法306条1項)。

 取締役または取締役会と株主とが対立する議案などを提出するなどして株主総会が紛糾することが予想される場合に、株主総会の手続が適正に行われているかを監視させることが目的である。

(b) 選任の申立てができる株主の要件

ⅰ)非公開会社の場合

 議決権の100分の1以上の議決権を有する株主

 議決権の100分の1以上の議決権を有する株主の算定にあたり、株主総会において決議をすることができる事頊の全部につき議決権を行使することができない株主(完全無議決権株主)は除かれる。また、この要件(議決権の100分の1以上)は、定款で緩和することができる。


ⅱ)公開会社の場合

 6か月前から引き続き議決権の100分の1以上の議決権を有する株主

 株主総会において決議をすることができる事頊の全部につき議決権を行使することができない株主を除かれ、要件(6か月前から引き続き議決権の100分の1以上)は、定款で緩和することができる。


(c) 裁判所による検査役の選任

 裁判所は、この申立てがあった場合、不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない(会社法306条3項)。また、裁判所は選任した検査役の報酬を定めることができる(会社法306条4項)。


⑥ 株主総会の招集通知

 株主総会を招集するには、取締役は株主に対してあらかじめ通知を発しなければならない(会社法299条1項)。


(a) 通知の時期

 取締役は、会社の区分に応じて、次の時期までに各株主に対して招集の通知を発しなければならない。


(b) 方法(書面による通知の要否)

 次のいずれかの場合には、招集通知は書面によらなければならない(会社法299条2項)。

ⅰ)取締役会設置会社である場合
ⅱ)書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合〔非取締役会設置会社でも〕

 なお、株主の承諾を得れば、書面による通知に代えて電磁的方法による通知も認められる(会社法299条3項)。書面または電磁的記録による通知には、株主総会の目的を記載または記録しなければならない(同条4項)。

 ようするに、書面や電磁的方法による議決権行使を認めていない非取締役会設置会社の場合には、口頭や電話による招集も可能だということである。この場合には、日時、場所のみの通知をすればよく、具体的な会議の目的事項の通知は不要である。


(c) 株主総会参考書類、議決権行使書類の交付
 書面による議決権行使を認める場合には、招集の通知に際して、議決権の行使に際して参考となるべき事項を記載した書類(株主総会参考書類)と株主が議決権を行使するための書面(議決権行使書面)を交付しなければならない(会社法301条1項)。招集の通知を電磁的方法によってする場合には、これらの書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供することができる(同条2項)。

(d) 招集手続の省略
 議決権を行使することができる株主の全員の同意があるときは、招集手続を経ずに株主総会を開催することができる(会社法300条)。会社法が招集権者の招集と一定の招集手続を要求するのは、株主の総会への出席と準備の機会を与えるためであり、議決権を行使できる株主全員がその利益を放棄するなら、手続の省略を認めても差し支えないからである。ただし、書面による議決権行使、電磁的方法による議決権行使を定めた場合には、招集手続の省略はできない(同条ただし書)。

(e) 会社の通知義務の免責
 会社は株主名簿上の株主の住所またはその者が会社に通知した宛先に対して通知すれば免責され(会社法126条)、この住所または宛先に対して発した通知が5年以上継続して到達しない場合にはその者に通知または催告をすることを要しない(会社法196条)こととなるため、株主総会の招集通知も不要となる。

(f) 定時総会の招集通知
 取締役会設置会社においては、取締役は定時総会の招集通知に際して、法務省令で定めるところにより計算書類および事業報告、監査役または会計監査人を設置している会社では、監査報告・会計監査報告を提供しなければならない(会社法437条)。非取締役会設置会社では、これらの提供は不要である。

(g) 株主総会の延期・続行
 株主総会では延期または続行の決議をなすこともでき、その場合には次の日時と場所を決めれば再度の招集通知は不要である(会社法317条)。延期は議事に入らないまま後日に延期する場合であり、続行とは、議事に入ったが審議未了のため後日に継続する場合である。

(4) 株主総会の開催
① 議長
(a) 議長の選任
 株主総会には、議長が置かれるのが通常である。議長は定款で定められているのが一般的である(ex. 代表取締役を議長とする。)が、定款に定めがなければ総会の冒頭で選任することになる(普通決議)。

(b) 議長の権限
 株主総会の議長は、総会の秩序を維持し議事を整理する職務権限を有し、議長の命令に従わない者その他総会の秩序を乱す者を退場させることができる(会社法315条1項2項)。

② 取締役、監査役等の説明義務
 取締役、会計参与、監査役および執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない(会社法314条)。
 ただし、株主総会の目的たる事項に関しない事項について説明を求められた場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、説明義務を負わない(同条ただし書)。
 正当な理由がある場合として法務省令で定める場合とは、次の場合である(会施規71条)。
(a) 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合
(相当期間前にあらかじめ通知がある場合または調査が著しく容易である場合を除く。)
(b) 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合
(c) 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
(d) そのほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合

(5) 株主総会の決議
 株主は株主総会に出席し、質問し決議に加わる権利をもつ。この決議に加わる権利が議決権であり、共益権に属する。

① 原則(1株1議決権の原則)
 株主は1株につき1個(単元株制度採用会社については1単元につき1個)の議決権を有するのが原則である(会社法308条1項)。

② 例外
 会社法で認めた次の例外に該当する場合には、議決権を有しない。議決権のない株主の有する株式は総株主の議決権に算入しない。

(a) 単元未満株式
 単元株式数を定款で定めている場合には、1単元の株式につき1個の議決権を有する(会社法308条1項ただし書)。単元未満株式には議決権がない。

(b) 議決権制限株式
 全く議決権のない完全無議決株式はもちろん、決議事項の一部につき議決権のない一部議決権制限株式も、議決権が制限される(会社法108条1項3号)。なお、議決権制限株式の株主であっても種類株主総会では議決権を行使できる。

(c) 自己株式
 会社が取得した自己株式については議決権を有しない(会社法308条2項)。会社の経営陣の都合のよいように議決権が行使されてしまうからである。

(d) 相互保有株式
 複数の会社が互いに株式を持ち合うことを株式の相互保有という。このような状況で、たとえば、甲社が乙社の総株主の議決権の4分の1(25%)以上を有する場合、乙社は甲社の株式を有していてもその株式の議決権を行使することはできない(会社法308条1項カッコ書)。
 これは、甲社が乙社を実質的に支配することが可能な状態にあるからである。乙社による甲社株式の議決権行使を可能になると、甲社の経営陣が乙社による議決権行使を自己にとって都合のよいようにコントロールすることが可能になるからである。
  
(c) 基準日後に発行された株式
 基準日後に発行された株式の株主に議決権を認めると、当該総会において議決権を行使する株主を確定することが困難となり、基準日の制度を採用した趣旨が没却されるからである。ただし会社法124条4項による例外がある。

(6) 決議要件
 株主総会の決議要件には、普通決議、特別決議、特殊決議がある。
 株主総会の決議は、原則として普通決議で行われるが、慎重な判断が必要な事項については、特別決議や特殊決議が必要になる。特殊決議とは、特別決議よりさらに厳格な要件を必要とする場合をいう。

① 普通決議(会社法309条1項)
(a) 決議要件
ⅰ)原則
 定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
 株主総会に出席しなければならない最低数を定足数という。出席した株の議決権数が定足数に満たない場合には、株主総会自体が成立しない。
 たとえば、議決権を行使することができる株主の議決権数が100個である場合には、51個以上の議決権を有する株主が出席しなければ定足数に達せず、仮に出席した株主の議決権数が51個であったとすると、その過半数である26個以上の議決権を有する株主が賛成すれば決議は有効に成立する。

ⅱ)定款での別段の定め
 定款で別段の定めを設け、定足数または決議に必要な議決権の数を引き上げまたは引き下げることもできる。また、定款で定足数を排除し、出席株主の議決権の過半数で決すると定めることも可能である。
(決議の方法)
第○条
株主総会の決議は、法令またはこの定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。
 ただし、取締役・会計参与・監査役の選任、解任については重要な決議であるため、定款をもってしても定足数を総株主の議決権の3分の1未満にすることはできない(会社法341条)。

(b) 普通決議事項
 普通決議事項は、会社法上別段の決議要件の定めがない場合の株主総会の決議事項である。
ex. 計算書類の承認(会社法438条2項)、取締役、監査役の報酬決定(会社法361条、387条)
② 特別決議(会社法309条2項)
(a) 決議要件
ⅰ)原則
 当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければならない。
ⅱ)定款での別段の定め
 定足数については、定款で引き下げることが可能であるが、総株主の議決権の3分の1未満にすることはできない。
 決議要件については、「出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う」という部分について、3分の2を上回る割合を定款で定めることが可能であるが、逆に下回る割合を定めることはできない。また、定款で定足数を排除することもできない。
 決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることも可能である(ex. 株主の半数以上の賛成)。

(b) 特別決議事項
 定款変更についての決議が典型であるが、その他の特別決議事項は以下のとおりである。
・株式の譲渡等承認請求の際の株式の買取りに関する決議(会社法140条2項5項)
・特定の株主からの合意による株式の有償取得に関する決議(会社法156条1項、160条1項)
・全部取得条項付種類株式の取得に関する決議(会社法171条1項)
・相続人等に対する株式の売渡しの請求に関する決議(会社法175条1項)
・株式の併合に関する決議(会社法180条2項)
・募集株式の発行等に関する決議(会社法199条2項、200条1項、202条3項4号、204条2項、205条2項)
・募集新株予約権の発行に関する決議(会社法238条2項、239条1項、241条3項4号、243条2項、244条3項
・累積投票によって選任された取締役の解任の決議
・監査役と監査等委員である取締役の解任の決議
・役員等の責任の一部免除に関する決議(会社法425条1項)
・資本金の額の減少に関する決議のうち一定の要件を満たさないもの(会社法447条1項)
・金銭以外の財産を配当財産とし、株主に金銭分配請求権を与えない旨の剰余金の配当に関する決議(会社法454条4項)
・定款の変更に関する決議(会社法466条)
・事業の譲渡等の承認に関する決議(会社法467条)
・解散の決議(会社法471条3号)
・組織再編行為に関する決議

③ 特殊決議Ⅰ
(a) 決議要件
ⅰ)原則
 議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。特殊決議には、定足数の定めはない。
 たとえば、議決権を行使できる株主が10名で、この10名の株主の議決権の総数が900個の場合、5名以上の株主の賛成と、かつ600個以上の議決権を有する株主の賛成がなければ可決されないことになる。
ⅱ)定款での別段の定め
 特殊決議も定款で要件を厳しくすることは可能であるため、たとえば、議決権を行使できる株主の半数以上の部分を3分の2以上と定めたり、議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上の部分を4分の3以上と定めることは可能である。

(b) 特殊決議事項
 種類株式発行会社以外の会社の場合の次に掲げる株主総会
ⅰ)発行する株式全部につき譲渡制限の定めを設定する場合
ⅱ)合併により消滅する会社または株式交換をする会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、吸収合併または株式交換の当該会社の承認決議(会社法783条1項)
ⅲ)合併または株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、新設合併または株式移転の承認決議(会社法804条1項)

④ 特殊決議Ⅱ
(a) 決議要件
ⅰ)原則
 総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行う。
 特殊決議Ⅰと同様に定足数の定めはない。
ⅱ)定款での別段の定め
 特殊決議Ⅰと同じく、定款で要件を厳しくすることは可能である。
(b) 特殊決議事項
 非公開会社が、次の事項について株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定め(会社法109条2項、105条1項)についての定款の変更を行う決議(会社法309条4項)。
ⅰ)剰余金の配当を受ける権利
ⅱ)残余財産の分配を受ける権利
ⅲ)株主総会における議決権
 たとえば、本来であれば保有株式数に応じて権利の大きさはことなるが、これを平等に扱うような定款変更である。株主平等の原則について変更を加える重大な決定であるため、要件がさらに厳しくなっている。

総株主の同意
 次の場合には、さらに厳しく株主全員の同意が必要となる。なお、この場合、総株主の同意が得られればよいので、必ずしも株主総会を開く必要はない。
ⅰ)種類株式発行会社以外の会社での取得条項付株式についての定めの設定・定款変更(会社法110条)
ⅱ)役員等の株式会社に対する損害賠償責任の免除(会社法424条)
ⅲ)業務執行者および業務の執行に関与した者の剰余金の配当等に関する責任の免除(会社法462条3項)
ⅳ)職務を行った業務執行者の欠損が生じた場合の責任の免除(会社法465条2項)
ⅴ)組織再編行為に伴う場合(会社法783条2項、804条2項)

株主総会の決議 まとめ

普通決議特別決議特殊決議Ⅰ特殊決議Ⅱ
定足数議決権を行使することができる株主の議決権の過半数議決権を行使することができる株主の議決権の過半数なしなし
可決要件出席した当該株主の議決権の過半数
出席した当該株主の議決権の
3分の2以上

議決権を行使することができる株主の半数以上
   かつ
議決権を行使することができる株主の議決権の3分の2以上
総株主の半数以上
かつ
総株主の議決権の4分の3以上

(7) 議決権の行使
 議決権の行使は、原則として、株主が株主総会に出席して行う。
 会社法は、議決権の行使に関して、例外的な制度を定めている。

① 議決権の代理行使
(a) 議決権の代理行使の許容
 株主は代理人によってその議決権を行使することができる(会社法310条1項前段)。ただ、会社は総会に出席することができる代理人の数を制限することができる(会社法310条5項)。多くの代理人が出席して総会を荒らされることを防止するためである。

(b) 代理権の授与
 代理人によって議決権を行使する場合、当該株主または代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない(会社法310条1項後段)。当該株主または代理人は、代理権を証明する書面の提出に代えて、政令で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該株主または代理人は、当該書面を提出したものとみなされる(会社法310条3項)。

(c) 代理権授与の制限
 代理権の授与は総会ごとにしなければならない(会社法310条2項)。つまり、数回の総会について一括して委任をすることは許されない。

(d) 委任状の備置き・閲覧等
 株式会社は、株主総会の日から3か月間、委任状および電磁的記録を本店に備え置かなければならない(会社法310条6項)。株主(当該株主総会の決議事項の全部につき議決権を行使できない株主を除く。)は営業時間内いつでも委任状等の閲覧・謄写を請求することができる(会社法310条7項)。
 なお、この請求は、その理由を明らかにしてしなければならない(同項後段)。
 株式会社は、委任状等の閲覧・謄写の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない(会社法310条8項)。
ⅰ)当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
ⅱ)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
ⅲ)請求者が代理権を証明する書面の閲覧もしくは謄写等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
ⅳ)請求者が、過去2年以内において、代理権を証明する書面の閲覧もしくは謄写等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。


② 書面による議決権行使
 株主総会を招集するにあたって、取締役は、総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとする旨を定めることができる(会社法298条1項3号)。この場合には招集通知にその旨を記載または記録しなければならない(会社法299条2項、3項、4項)。
書面によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入する(会社法311条2項)。
 前述のとおり、株主総会において議決権を行使することができる株主の数が1000名以上であるときは、原則として書面による議決権行使を認めなければならない。ただし、当該株式会社が金融商品取引法に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社であって法務省令(会施規64条)で定める株式会社である場合を除く(会社法298条2項)。

③ 電磁的方法による議決権の行使
 株主総会を招集するにあたって、取締役は、総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとする旨を定めることができる(会社法298条1項4号)。この場合には招集通知にその旨を記載または記録しなければならない(会社法299条2項、3項、4項)。
 電磁的方法によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入する(会社法311条2項)。

④ 議決権の不統一行使
(a) 意義
 株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる(会社法313条1項)。
たとえば、1000株有する株主が600株を賛成票に、400株を反対票に投じるような場合である。

(b) 議決権の不統一行使の要件
 取締役会設置会社においては、議決権の不統一行使をしようとする株主は総会の日の3日前までに会社に対してその有する議決権を統一しないで行使する旨および理由を通知しなければならない(会社法313条2項)。取締役会を設置しない会社であれば、会社に対する事前通知は不要である。

(c) 不統一行使の拒否
 会社は、株主が他人のために株式を有する者でないときは、株主の不統一行使を拒むことができる(会社法313条3項)。他人のために株式を有する者とはたとえば、株式の信託を引き受けた場合など、形式的には1人の株主に属するが、実質的には複数の者(委託者)に属する場合である。
② 特別利害関係人の議決権行使
(a) 原則
 株主は決議事項につき特別利害関係を有する場合でも議決権を行使することができる。
 株主は自己の利益のために議決権を行使するのが通常だからである。

(b) 例外
 次の場合には、特別利害関係を有する株主は株主総会でその議決権を行使できない。
ⅰ)譲渡制限株式の譲渡の不承認を決定したため、株式会社が買取権者となる場合のその買取内容の決定決議についての、譲渡承認請求権者(会社法140条3項)
ⅱ)株主総会における自己株式の取得決議につき、特定の者から買い受けることとした場合の当該売主たる株主(会社法160条4項)
ⅲ)相続人等に対する売渡請求における取得決議につき、請求を受ける者など(会社法175条2項)

(8) 株主総会議事録
① 議事録の作成
 株主総会の議事については、法務省令〔会施規72条〕で定めるところにより議事録を作成しなければならない(会社法318条1項)。株主総会の議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければならない(会施規72条2項)。
② 議事録の備置き、閲覧等
(a) 株式会社は、株主総会の日から10年間本店に議事録を、支店に議事録の写しを5年間備え置かなければならない。ただし、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合であって支店において、その記録された事項を表示したものの閲覧・謄写の請求に応じることを可能とする措置として法務省令〔会施規227条2号〕で定めるものをとっている場合、当該写しを支店に備え置く必要はない(会社法318条2項3項)。株主および会社債権者は営業時間内いつでもその閲覧・謄写を求めることができる(会社法318条4項)。
(b) 株式会社の親会社社員には、その権利を行使するために必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の議事録または電磁的記録の閲覧・謄写を請求することも認められる(会社法318条5項)。
なお、親会社の債権者にこの権利は認められていない。
(9) 株主総会の決議の省略
① 意義
 取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該事項につき株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなす(会社法319条1項)。つまり、株主総会を現実に開催することを要しない。総会が開催されれば株主全員が議案となるべき提案に賛成することが明らかである場合にまで、わざわざ株主総会を開催する必要はないからである。ここでいう株主とは、当該事項について議決権を行使することができるものに限る。

② 議事録の備置き、閲覧等
(a) 株主総会の決議の省略によるみなし決議がなされた場合も、通常の株主総会の場合と同様に株主総会議事録(みなし株主総会議事録)の作成がなされる。決議があったものとみなされた日から10年間、当該提案に同意する旨を記載(記録)した書面または電磁的記録を本店に備え置き、株主および債権者の閲覧等に供さなければならない(会社法319条2項)。
(b) 株式会社の親会社社員には、その権利を行使するために必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の議事録または電磁的記録の閲覧・謄写を請求することも認められる(会社法319条4項)。

(10) 株主総会への報告の省略
 取締役が株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなされる(会社法320条)。株主全員があらかじめ通知を受け、さらに総会への報告の省略に同意している場合にまで、総会での報告を義務付けるのは効率的でないからである。
(11) 種類株主総会
① 種類株主総会の意義
 種類株主総会とは、種類株式発行会社におけるある種類の株式の株主の総会である(会社法2条14号)。

② 種類株主総会の権限
 種類株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り、決議することができる(会社法321条)。

③ 決議要件
(a) 原則
 定款に別段の定めがある場合を除き、種類株式の総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、出席株主の議決権の過半数をもってなされるのが原則である(普通決議)。
 たとえば、種類株主総会による取締役・監査役の選任、取締役の解任等の決議の場合である。

(b) 例外
ⅰ)その1
 次の場合は、議決権を行使できる種類株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数。3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)、その出席株主の議決権の3分の2(定款で加重可)以上に当たる多数をもってなされる。また、この要件に加え、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることができる(会社法324条2項)。
1. 全部取得条項付種類株式についての定款の定めを設ける定款変更(会社法111条2項)
2. 譲渡制限株式に関する募集事項の決定またはその委任(会社法199条4項、200条4項)
3. 新株予約権の目的である株式の一部または全部が譲渡制限株式である新株予約権に関する募集事項の決定またはその委任(会社法238条4項、239条4項)
4. 会社が、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為をする場合(会社法322条1項)
5. 種類株主総会での監査役の解任(会社法347条2項、339条1項)
6. 存続会社の譲渡制限株式を対価とする存続会社における吸収合併(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項1号)
7. 承継会社の譲渡制限株式を対価とする承継会社における吸収分割(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項2号)
8. 会社となる譲渡制限会社の株式を対価とする完全親会社における株式交換(譲渡制限株式であって会社法199条4項の定めがないものに限る)(会社法795条4項3号)
9. 会社法816条の3第3項の種類株主総会

ⅱ)その2
 次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(会社法324条3項)。
1. 会社法111条2項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として会社法108条1項4号に掲げる事項(譲渡制限株式)についての定款の定めを設ける場合に限る。)
2. 会社法783条3項(吸収合併等の対価に譲渡制限株式等があるとき)および会社法804条3項(新設合併等の対価に譲渡制限株式等があるとき)の種類株主総会(譲渡制限株式を除く)

④ ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会
(a) 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては、当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)の決議(特別決議)がなければ、その効力を生じない(会社法322条1項)。

(イ) 次に掲げる事項についての定款の変更(会社法111条1項、2項に規定するものを除く。)
1. 株式の種類の追加
2. 株式の内容の変更
3. 発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加
 会社法111条1項または2項に規定するものを除くとされているが、これは取得条項付株式、全部取得条項付種類株式、譲渡制限株式とする場合であり、これらの場合には会社法111条1項または2項の手続によることになるからである。
(ロ)会社法第179条の3第1項の承認
(ハ)株式の併合または株式の分割
(ニ)会社法185条に規定する株式無償割当て
(ホ)当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(会社法202条1項に掲げる事項を定めるものに限る。)
(へ)当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(会社法202条1項に掲げる事項を定めるものに限る。)
(ト)会社法277条に規定する新株予約権無償割当て
(チ)合併
(リ)吸収分割
(ヌ)吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部の承継
(ル)新設分割
(ヲ)株式交換
(ワ)株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得
(カ)株式移転
(ヨ)株式交付

(b) 例外
ⅰ)ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない(会社法322条1項ただし書)。また、ある種類の株式の内容として、種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができ、上記(イ)(単元株式数についての変更を除く。)以外の事項については、この定めを置いた種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の開催の必要はない(会社法322条2項3項)。
 つまり「株式の種類の追加」「株式の内容の変更」「発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加」の定款変更については、このような定款の定めがあっても種類株主総会の決議を要し種類株主総会の決議がなければその効力が生じない。ただし単元株式数についての定款変更には適用される。単元株式数の変更は株式の分割・併合と同様の効果を生じるからである。
 また、ある種類の株式の発行後に定款を変更して種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない(会社法322条4項)。
ⅱ)定款で種類株主総会が不要である皆の定めがある場合に、当該種類の株式を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為をする場合には、反対株主の株式買取請求が認められる(会社法116条1項3号)。

⑤ 種類株主総会の決議を必要とする旨の定め
 種類株式発行会社において、ある種類の株式の内容として、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会または取締役会、会社法478条6項に規定する清算人会設置会社にあっては株主総会または清算人会)において決議すべき事項について、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする旨の定めがあるときは、当該事項は、その定款の定めに従い、株主総会、取締役会または清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない(会社法323条)。

⑥ 株主総会に関する規定の準用
 その他、株主総会に関する規定は種類株主総会について準用する(会社法325条)。

株主総会ー2

(12) 株主総会の決議の瑕疵

 株主総会等の決議に瑕疵がある場合、その決議の効力は否定されなければならないが、決議に瑕疵がある場合でもその決議の有効であることを前提に通常会社の内外の関係において多数の法律関係が築かれている。したがって一般原則によって無効の主張を認めると混乱が生じ、決議を信頼した者の利益が害されるため、会社法では会社関係の画一的処理および法的安定性を考慮して瑕疵の種類に応じて3つの訴えの制度を認めて処理を図った。

① 株主総会の決議の不存在確認の訴え(会社法830条1項)
② 株主総会の決議の無効確認の訴え(会社法830条2項)
③ 株主総会の決議取消しの訴え(会社法831条)


① 株主総会の決議の不存在確認の訴え(会社法830条1項)

(a) 意義

 決議が不存在というには、決議の手続的瑕疵が著しく、そのため決議が存在するとは、認められないような場合や決議と認め得るものが外形上も存在しない場合が決議の不存在である。たとえば、一部の株主にしか招集通知を送らなかった場合や、議事録は作成されているが総会自体が開催されていないような場合である。


(b) 決議不存在の主張の方法

 誰でも、いつでも、いかなる方法によってもその不存在を主張することができ、必要があれば訴えの利益がある限り会社を被告として決議不存在確認の訴えを提起することもできる。

 提訴権者、提訴期間に制限はない。被告は株式会社である。


(c) 決議不存在確認判決の効力

決議不存在確認の訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、訴訟の当事者以外の第三者に対しても、その効力を有する。つまり、すべての者との関係で当該株主総会の決議は不存在となる。


② 株主総会の決議の無効確認の訴え(会社法830条2項)

(a) 意義

 決議の内容が法令に違反する場合には、決議は無効であり、その無効の確認を訴えによって請求することができる(会社法830条2項)。たとえば、株主総会の法定決議事項を取締役や取締役会に一任する決議や、公開会社が発行する株式総数を発行済株式総数の4倍を超えて増加する定款変更決議は決議内容が法令違反となり、決議無効確認の訴えの対象となる。


(b) 無効主張の方法

 決議の内容が法令に違反するときは決議は当然無効だから、誰でも、いつでも、いかなる方法によってもその無効を主張することができ、必要があれば無効確認の訴えによることもできる。

 提訴権者、提訴期間に制限はない。被告は株式会社である。 


(c) 決議無効確認判決の効力

決議無効確認の訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、訴訟の当事者以外の第三者に対しても、その効力を有する。つまり、すべての者との関係で当該株主総会の決議は無効となる。


③ 株主総会の決議取消しの訴え(会社法831条)

(a) 意義

 株主総会決議に次の手続的瑕疵がある場合は、決議を当然無効とはしないで、決議取消判決の確定により初めて無効とする(会社法831条)。


(b) 取消原因

 次の場合は、決議の不存在等の場合に比べ瑕疵が重大でなく、決議を当然に無効とはせず、決議取消し訴えの対象とする。

決議取消事由招集の手続または決議方法の法令・定款違反または著しい不公正
決議内容の「定款」違反(*1)
特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な決議がなされた場合(*2)

(*1)決議内容が「法令」違反となる場合には、その瑕疵の重大性から決議無効確認の訴えの対象となる点と比較。

(*2)株主総会の決議事項に特別な利害関係を有する株主でも、原則として議決権の行使は制限されないが、そのことによって著しく不当な決議が成立してしまった場合には、決議取消しの訴えによって、決議を取り消して無効に持ち込むのである。


(c) 提訴権者

 決議取消しの訴えでは提訴権者も以下の者に限られる。

・株主、取締役、監査役、執行役、清算人

・その決議によって取締役、監査役、清算人の地位を失った者


(d) 提訴期間

 決議のあった日から3か月以内に訴えを提訴することができ、その間に訴え提訴がないと瑕疵は治癒され、その決議は有効なものと扱われることになる(会社法831条1項)。


判例(最判昭42.9.28)
株主は自己に対する招集手続に瑕疵がなくても、他の株主に通知もれがある場合には決議取消しの訴えを提起し得る。


(e) 決議取消判決の効力

ⅰ)原告勝訴の場合

 決議取消しの訴えを認容する確定判決は、対世的効力が認められるため、その効力は当事者以外の第三者にも及ぶ(会社法838条)。決議取消判決の確定によりその決議は、決議の時に遡って無効となる(遡及効)。

ⅱ)原告敗訴の場合

 原則どおり相対効しかないため、他の提訴権者は期間内であれば再び訴えを起こすことができる。


(f) 決議取消しの訴えと裁判所の裁量棄却

ⅰ)意義

 決議取消しの訴えが提起された場合において、招集の手続または決議の方法が法令または定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは請求を棄却することができる。これを裁判所の裁量棄却権という(会社法831条2項)。


ⅱ)趣旨

 瑕疵が軽微な場合にまで決議を取り消すと影響が大きいため、決議取消しの訴えの要件を満たしている場合であっても、裁判所の裁量で請求を棄却できるとしたものである。なお、決議取消事由のうち「招集手続または決議方法が著しく不公正なとき」、「決議内容が定款に違反するとき」、「決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき」にはこの裁量棄却は認められない。