• 不動産登記法ー13.総論
  • 12.抹消登記
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  • Sec.1

1抹消登記

堀川 寿和2022/01/19 12:54

抹消登記の意義

 抹消登記とは、既存の登記が原始的又は後発的理由により登記事項の全部が不適法となっている場合に、その登記を全面的に消滅させるためにする登記をいう。


(1) 登記が原始的に不適法である場合

 例えば、AからBへの売買による所有権移転登記をしたが、その売買が無効であった場合、当該所有権移転登記は実体関係に符合しない無効な登記である。この場合、所有権移転登記を抹消してA名義に戻すことができる。


(2) 登記が後発的に不適法となった場合

 例えば、抵当権設定後に弁済により抵当権が消滅した場合、一度有効に成立した抵当権の抹消登記をすることができる。


抹消登記の申請人

(1) 原則(共同申請)

 抹消登記も、登記権利者と登記義務者との共同申請によるのが原則である。(不登法60条)


(2) 例外(単独申請)

① 判決による抹消登記

② 所有権保存登記の抹消

③ 混同による登記の抹消


     所有権抹消登記 申請書 記載例


 (完了後の登記記録)


cf 甲が死亡し第一順位の相続人A・Bのための相続登記がなされた後、その相続人全員が相続放棄をし、新たに第二順位の相続人乙が相続することになった場合

                   ↓

 この場合A・Bから乙への相続登記の更正をすることはできないため、一旦甲からA・Bへの相続登記を抹消することになる。

甲名義に登記を回復するため甲が登記権利者となるが、すでに死亡しているため新相続人乙が甲に代わって登記申請をすることになる。


単独申請の特則

(1) 死亡による権利消滅の定めによる単独抹消

 例えば、抵当権者が死亡したときに抵当権は消滅する旨の権利消滅の定めの特約の登記がなされている場合、その後抵当権者が死亡した場合には、その死亡を証する戸籍謄本を提供することによって登記権利者が単独で抵当権を抹消できる。


 cf 買主が死亡した時は所有権移転が失効する旨の付記登記があるAからBへの所有権移転登記がされている場合において、Bが死亡した時の売主Aへの所有権復帰の登記は抹消登記によらずBからAへの所有権移転登記によるべきである。買主Bが死亡するまで所有権はBに帰属していたのであり、これを抹消するのは適当でないから。この場合、Aと亡Bの相続人によって所有権移転登記を申請する。


(2) 登記義務者が行方不明の場合

除権決定による単独抹消

 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法に規定する公示催告の申立てをすることができる。(不登法70条1項)この除権決定があったときは、60条の規定(共同申請の原則)にかかわらず、当該登記権利者は、単独で登記の抹消を申請することができる。(同条2項)

(イ)登記の種類

 この除権決定によることができるのは抹消登記に限られ、設定登記、抹消回復登記などは含まれない。抹消登記であれば、担保権に限らず、所有権でも用益権でもこの手続によることができる。

(ロ)公示催告・除権決定手続

 公示催告の申立てがなされたときは、栽判所は一定の期間を定めて請求又は権利がある者は期日までにその届出をなすべく、もし届出がないときは失権の効果が生ずる旨を公示し、届出がなければ除権決定をする。(非訟事件手続法101条)

② 不動産登記法70条3項による抹消の場合

 上記のとおり、判決や除権決定を得て単独で抹消することも可能であるが、何かと手間とヒマがかかるため、不動産登記法70条3項によって先取特権、質権、抵当権(転抵当、根抵当権を含む)の担保権に限り、より簡易な方法で抹消することが認められる。

(イ)抵当権者の所在が知れず申請情報と併せて被担保債権が消滅したことを証する情報を提供する場合(不登法70条3項前段)

 登記義務者たる抵当権者の所在が知れないため、登記権利者と登記義務者との共同申請により抵当権の抹消登記を申請することができない場合、申請情報と併せて被担保債権の消滅を証する情報を提供したときは、登記権利者が単独で抵当権の抹消登記を申請することができる。具体的には、債権証書、被担保債権及び最後の2年分の利息等の弁済を証する情報及び登記義務者の所在が知れないことを証する情報を提供する。

(ロ)抵当権者の所在が知れず債権の弁済期より20年を経過した後に債権、利息、損害金の全額を供託した場合(不登法70条3項後段)

 登記義務者たる抵当権者の所在が知れないため、登記権利者と登記義務者の共同申請により抵当権の抹消登記を申請することができない場合に、債権の弁済期より20年を経過した後に債権、利息、損害金の全額に相当する金銭を供託したときは、申請情報と併せてその供託を証する情報を提供して、登記権利者が単独で抵当権の抹消登記を申請することができる。具体的には、①供託したことを証する情報(供託書正本)、②被担保債権の弁済期を証する情報及び③登記義務者の所在が知れないことを証する情報である。①②は登記原因証明情報として、③は所在不明証明情報として提供することになる。