- 不動産登記法ー13.総論
- 5.登記申請の却下
- 登記申請の却下
- Sec.1
1登記申請の却下
■意義
登記の申請がされた場合、登記官は提供された情報(申請情報や添付情報)等を審査して不動産登記法25条の却下事由に該当しなければ申請を受理し、却下事由に該当すれば却下を決定することになる。
■却下事由(不動産登記法25条)
① 申請に係る不動産の所在地が、当該申請を受けた登記所の管轄に属しないとき(1号)
② 申請が登記事項以外の事項の登記を目的とするとき(2号)
例えば、占有権、入会権、留置権の登記を申請したような場合である。
③ 申請に係る登記が既に登記されているとき(3号)
いわゆる二重登記の場合である。
先例 | (S39.2.21民甲384号) |
同一不動産についての二重の表題登記・所有権保存登記は二重登記に当たり申請は却下され、誤ってなされた登記は職権抹消の対象となる。職権抹消の対象となるのは原則として後の登記であるが、登記名義人が同一で後の登記につき所有権移転登記や抵当権設定登記等がされている場合は、便宜上先の登記が抹消される。ただし先の登記と後の登記の登記名義人が異なる場合には原則どおり後の登記が抹消される。 |
④ 申請の権限を有しない者の申請によるとき(4号)
申請人でない者が申請人になりすまして申請したような場合である。
⑤ 申請情報又はその提供の方法がこの法律に基づく命令又はその他の法令の規定により定められた方式に適合しないとき(5号)
申請情報として提供すべき内容の一部が抜けているような場合である。例えば、登記権利者が複数いるのにその持分を提供しなかったような場合である。
⑥ 申請情報の内容である不動産又は登記の目的である権利が登記記録と合致しないとき(6号)
申請書の内容と登記記録の内容が一致しない場合である。
⑦ 申請情報の内容である登記義務者の氏名、名称又は住所が登記記録と合致しないとき(7号)
登記義務者が登記記録上の住所や氏名を変更したような場合、前提として所有権登記名義人住所変更又は氏名変更の登記をしておかなければならない。
⑧ 申請情報の内容が、登記原因証明情報の内容と合致しないとき(8号)
例えば、申請書には抵当権の債権額を1000万円と記載しているのに、登記原因証明情報には100万円と記載したような場合である。
⑨ 申請情報と併せて提供すべき添付情報が提供されていないとき(9号)
必要な添付情報が足りない場合である。
⑩ 法定の期間内に、事前通知に対する申出がない場合(10号)
通常は、事前通知を発した日から2週間である。
⑪ 表示に関する登記の申請に係る不動産の表示が不登法29条の規定による登記官の調査の結果と合致しないとき(11号)
⑫ 登録免許税を納付しないとき(12号)
⑬ 上記のほか、登記すべきものでないとして政令(不登令20条)で定めるとき(13号)
(イ)申請が不動産以外のものについての登記を目的とするとき(不登令20条1号)
(ロ)登記名義人となる者が権利能力を有しないとき(被相続人の名義で登記をする場合を除く)
例えば、権利能力なき社団の名義で登記をすることはできない。(同2号)
(ハ)敷地権付区分建物について建物のみを目的とした登記、あるいは敷地権の目的たる土地についての登記の申請(一定の例外を除く)(同3号)
(ニ)要役地に所有権の登記がない場合の地役権の設定の登記の申請(同3号)
(ホ)相続による根抵当権の移転の登記(債務者の変更の登記)がない場合の指定根抵当権者(指定債務者)の合意の登記の申請(同3号)
(へ)1個の不動産の一部を目的とした登記の申請(地役権を除く)(同4号)
一筆の土地の一部を目的として用益権の設定の登記を申請することできない。
(ト)申請に係る登記の目的である権利が他の権利の全部又は一部を目的とする場合において、当該他の権利の全部又は一部が登記されていないとき(同5号)
例えば、登記されていない地上権を目的として抵当権を設定したような場合である。
(チ)同一の不動産を目的として2以上の登記が同時に申請された場合において、申請に係る登記の目的である権利が相互に矛盾するとき(同6号)
先例 | (S30.4.11民甲693号) |
同時に申請のあった登記権利者を異にする数個の所有権移転登記請求権の仮登記は2件とも同一の受付番号で受付けて、同時にこれらを却下する。 |
(リ)申請に係る登記の目的である権利が同一の不動産について既にされた登記の目的である権利と矛盾するとき(7号)。
二重の地上権設定登記の申請がこれにあたる。
(ヌ)上記(イ)から(リ)に掲げるもののほか、申請に係る登記が民法その他の法令の規定により無効とされることが申請情報もしくは添付情報又は登記記録から明らかであるとき(8号)
ex 売買による所有権移転登記と同時にしなかった買戻特約の登記申請
5年を超える期間を定めた共有物分割禁止特約に基づく登記
■却下事由に該当する場合の登記官の処理
登記の申請が不動産登記法25条のいずれかの号に該当し、さらに相当な期間内に申請人の補正もない場合は、登記官は理由を付した決定をもって申請を却下する。(不登法25条)
却下の決定がされたときは、登記官は却下決定書を作成し、これを申請人ごとに交付又は送付する。(不登規38条1項)代理人による申請の場合は、代理人に交付又は送付すれば足りる。(同条1項ただし書)書面によって申請がされた場合において、申請が却下されたときは、登記官は添付書面を還付する。(同条3項)ただし、偽造された疑いがある書類等については還付されない。(同条3項ただし書)
cf 申請が却下されたときは、申請書は還付されない。申請書は戻ってこないため、申請書に貼り付けた収入印紙又は領収証書についての再使用の申出をすることはできない。
申請を取り下げた場合には、申請書も添付書面も還付される。