• 権利関係ー7.相続
  • 2.遺言・遺留分
  • 遺言・遺留分
  • Sec.1

1遺言・遺留分

堀川 寿和2021/11/18 10:46

遺言

 遺言とは、自分の死後の財産の帰属などを定めておくために行われる意思表示である。

 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。


(1) 遺言能力

 15歳に達した者は、遺言をすることができる。

 制限行為能力者に関する規定は、遺言については、適用されない。


(2) 遺言の方式

 遺言は、民法に定める方式に従わなければ、効力を生じない。

 遺言には「普通の方式」と「特別の方式」があるが、「特別の方式」によることが許される場合を除いて、「普通の方式」によってしなければならない。

 「普通の方式」には、①自筆証書による遺言、②公正証書による遺言、③秘密証書による遺言の3つがある。


① 自筆証書遺言

 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 ただし、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。


Point 自筆証書遺言の押印は、必ずしも遺言書の本文の自署名下にあることを要しない。


② 公正証書遺言

 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

イ) 証人2人以上の立会いがあること。
ロ) 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
ハ) 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること。
ニ) 遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
ホ) 公証人が、その証書は上記イ)~ニ)に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。


③ 秘密証書遺言

 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

イ) 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
ロ) 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
ハ) 遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること。
ニ) 公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと。


Point 自筆証書(これに添付される財産目録を含む)および秘密証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。


Point 次の①~③に該当する者は、遺言の証人となることができない。

① 未成年者

② 推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族

③ 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人


Point 遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。


Point 遺言は、必ず本人がしなければならず、いかなる場合も、代理人によってすることはできない


【遺言の方式】

自筆証書遺言遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自分で書き、押印をする。遺言の所在・内容を秘密にでき費用もかからない。
公正証書遺言証人2人以上の立ち合いのもと、公証人が遺言者の口述を筆記し、公正証書にしてする。変造や毀滅のおそれは少ないが、秘密にできない。
秘密証書遺言封印した遺言書を公証人・遺言者・証人2人以上が封書に署名・押印してする。内容は秘密にできるが、存在そのものは秘密にできない。

危急時遺言疾病や船舶遭難などにより、死亡の危機がさし迫ったときにする。
隔絶地遺言伝染病や服役などで隔離されている者がする。


(3) 遺言の撤回

 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができる。

 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる。


(4) 遺言書の検認

 自筆証書遺言および秘密証書遺言については、原則として、家庭裁判所の検認を要する。

 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様に、発見後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。

 封印のある遺言書は、これをそのまま家庭裁判所に提出し、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで、開封しなければならない。

 検認とは、遺言の執行前に遺言書の形式その他の状態を確認し、後日において遺言書の偽造、変造がなされることを防止するための手続であって、遺言書の効力の有無を判断するものではない。

 遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行したり、家庭裁判所外においてその開封をしたりしても、遺言書の効力には影響を与えないが、このような場合は、5万円以下の過料に処せられる。


Point 公正証書遺言については、検認を要しない


(5) 法務局における遺言書の保管

 自筆証書遺言については、遺言者は、遺言保管所(法務局)の遺言書保管官に対して、遺言書の保管の申請をすることができる。なお、この遺言書は、所定の様式に従って作成した無封のものでなければならない。

 自筆証書遺言であっても、遺言書保管所に保管されている遺言書については、相続開始後に家庭裁判所の検認を要しない。遺言書は、その原本および画像データが遺言保管所(法務局)において適正に管理・保管されるため、遺言書の紛失・亡失のおそれがなくなるだけでなく、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざんなどを防ぐことができるからである。


Point 自筆証書遺言であっても、遺言保管所(法務局)に保管されていた遺言書については、検認を要しない。


遺贈

 遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を、無償で他人に与えることである。遺贈を受けた者を受遺者という。遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つがある。


(1) 包括遺贈

 包括遺贈とは、遺言者の財産の全部または一定割合を与える旨の遺贈である。したがって、相続の場合と同様に、積極財産(プラスの財産)だけでなく、消極財産(マイナスの財産)も受遺者(包括受遺者)に引き継がれることになる。

 包括受遺者は相続人と同様に扱われ、包括受遺者は、自己のために遺贈があったことを知った時から3か月以内に、遺贈について、単純承認、限定承認または放棄をしなければならない。



(2) 特定遺贈

 特定遺贈とは、遺言によって指定された遺言者の特定の財産を与える旨の遺贈である。

 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。



Point 法定相続人に対する遺贈も有効である。


配偶者居住権

(1) 配偶者居住権

 被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の①②のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(居住建物)の全部について無償で使用および収益をする権利(配偶者居住権)を取得する。

① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
② 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき


Point1 配偶者居住権は、遺産分割または遺贈により取得することができる。


Point2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。


Point3 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、配偶者居住権の遺贈をしたときは、その遺贈は、相続分の計算上、原則として特別受益(遺産の先渡し)としては取り扱われない。


Point4 配偶者居住権の存続期間は、原則として、配偶者の終身の間である。ただし、遺産分割協議または遺言に別段の定めがあるときは、その定めによる。


(2) 配偶者短期居住権

 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、一定期間、その居住していた建物(居住建物)の所有権を相続または遺贈により取得した者(居住建物取得者)に対し、居住建物について無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を有する。

 配偶者短期居住権の期間は、次の通り。


① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日
② 上記以外の場合居住建物所有者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日