- 不動産登記法ー11.工場抵当に関する登記
- 1.工場抵当に関する登記
- 工場抵当に関する登記
- Sec.1
1工場抵当に関する登記
工場抵当法においては、工場についての抵当権として次の2つの種類を定めている。
工場抵当 | 工場抵当とは、工場に属する土地又は建物に設定された抵当権であって、工場所有者が工場に属する土地又は建物及び付加して一体となっている物のほか、これに備え付けられた機械・器具その他工場の用に供する物にも及ぼさせ、通常の抵当権よりもその効力が及ぶ範囲を拡大させて、担保価値を高めたものである。
不動産登記簿に登記される。 |
工場財団抵当 | 工場財団抵当とは、工場抵当法によって抵当権の設定が認められる財団をいう。工場に属する土地、建物、その他の工作物、地上権、賃借権、機械、器具及び工業所有権などの財産をもって組成される工場財団を一個の不動産とみなして、その上に抵当権の設定を認める。集合物の上に抵当権の成立を認める一物一権主義の例外である。工場財団登記簿に登記される。 |
■工場抵当権の設定
(1) 工場抵当権の設定契約
工場抵当権の設定契約も通常の抵当権設定と同様に設定者と抵当権者の抵当権設定契約によってその効力を生じる。抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲が通常の抵当権よりも拡大される点が通常の抵当権と異なるだけである。
(2) 工場抵当の対抗要件
工場抵当権の設定を第三者に対抗するためには登記が必要であり、この抵当権の効力が備付けの機械、器具などに及ぶことを第三者に対抗するためには、それら機械、器具など抵当権の目的となるものが抵当権の登記の登記事項とされる。登記官は、それら登記事項を明らかにするため、法務省令の定めるところによりそれを記録した目録(機械器具目録)を作成することができる。(工場抵当法3条2項)この目録への記録が、当該物件に抵当権の効力が及んでいることを第三者に対抗するための対抗要件となる。抵当権設定登記の申請においては、その申請情報と併せて、目録に記録すべき情報を提供しなければならない。(工場抵当法3条3項)
(3) 登記申請手続
通常の抵当権設定と同様に抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者となって共同申請による。(不登法60条)
工場抵当権の設定 登記申請書 記載例
(*1)抵当権設定であって、「工場抵当権設定」ではない
(*2)通常の抵当権の設定と同様に債権額を課税価格とし、その1000分の4である。(登録免許税法別表一、一、(五))
(完了後の登記記録)
■工場財団抵当の所有権保存登記
(1) 工場財団の設定
工場財団は、その所有権保存登記によって成立し、1個の不動産とみなされる。(工場抵当法14条1項)工場の所有者が工場財団を設定しようとするためには、工場財団登記簿にその所有権保存登記を申請して、その登記がなされることが必要である。工場の所有者は、抵当権の目的とするために、1個又は数個の工場をまとめて工場財団を設定することができる。(工場抵当法8条)数個の工場が別の所有者に属していても可能である。逆に1個の工場の一部につき、工場財団を設定することはできない。
(2) 工場財団の組成物件
① 組成物件
工場財団は、工場に属する土地、建物、地上権、賃貸人の承諾がある賃借権、機械、器具、電線等をもって組成する。(工場抵当法11条)他人の権利の目的となっているものや、差押え・仮差押え・仮処分の目的となっているものは、工場財団の組成物件とすることはできない。(工場抵当法13条1項)さらに、既に他の工場財団の組成物件となっているものを、工場財団の組成物件とすることはできない。(工場抵当法8条2項)
② 組成物件である不動産についての所有権の登記
工場に属する土地又は建物を組成物件として工場財団を設定する場合は、その土地又は建物について所有権の保存の登記がされていることを要する。(工場抵当法12条)
工場財団の所有権の保存の登記がされたときは、次のとおりその組成物件たる土地又は建物の登記記録に「工場財団に属した旨」の登記がされるため、その不動産に少なくとも所有権保存登記までなされている必要があるからである。
工場財団の組成物件に属した土地の登記記録
この登記によって、この土地が工場財団の組成物件であり、個々の処分ができないことが公示されたことになる。
(3) 工場財団を目的とする権利
工場財団は、所有権及び抵当権以外の権利の目的とすることはできない。(工場抵当法14条2項)
ただし、抵当権者の同意を得たときは、賃借権の目的とすることができる。(同条ただし書)ただ、工場財団の登記記録には、所有権に関する登記と抵当権に関する登記しか登記することができないため、工場財団が賃貸されてもその登記をすることはできない。
(4) 工場財団に属する物の処分の制限
工場財団に属する個々の物については、これを譲渡し、所有権以外の権利、差押え、仮差押え、仮処分の目的とすることはできない。(工場抵当法13条2項)ただし、抵当権者の同意があるときは、個々の財団組成物件を賃貸することはできる。(同条ただし書)そして、この場合、不動産の登記記録に賃借権の設定の登記をすることができる。(S41.12.20民甲第851号) cf(3)の場合
(5) 工場財団抵当の所有権保存登記
① 申請人
工場財団の所有権の保存の登記は、工場の所有者が単独で申請することができる。
② 申請情報の内容
所有権の保存の登記の申請情報の内容として、「工場の名称及び位置」、「主たる営業所」、「営業の種類」、「工場財団を組成するもの」を提供することを要する。
先例 | (M33.8.5-665) |
工場財団には少なくとも土地・建物の所有権又は地上権、不動産賃借権が含まれていることを要する。機械・器具その他の物だけで工場財団を組成することはできない。 |
先例 | (M33.11.4-2289) |
一方、工場に属する不動産のみを組成物件とし、機械・器具を含めない形で工場財団を設定することは差し支えない。 |
③ 添付情報
そして、申請情報と併せて、工場財団を組成するもの(工場財団目録に記録すべき事項)を明らかにした情報を提供することを要する。
④ 登録免許税
工場財団抵当の所有権保存登記は、工場財団1個につき、金3万円である。(登録免許税法別表一、五、(一))
cf 工場財団を目的とした抵当権の設定の登記の登録免許税は、債権金額を課税価格として、
1000分の2.5である。(登録免許税法別表一、五、(二))
(6) 工場財団目録
工場財団の所有権の保存の登記がされたときは、登記官は職権で、工場財団を組成するものを記録した工場財団目録を作成することができる。(工場抵当法21条2項)
(7) 所有権保存登記の失効
所有権保存登記後、6か月以内に抵当権の設定登記をしないときは、所有権保存登記の効力は失われる。(工場抵当法10条)工場財団は抵当権の目的とするために設定されたものであるから抵当権が設定されなければ、所有権保存登記の意味がないからである。また、工場を目的として設定されていた抵当権がすべて抹消され、その後6ヵ月以内に新たな抵当権の設定登記がなされなかった場合も工場財団は消滅する。(工場抵当法8条3項)
(8) 工場財団及び組成物件の所有権移転
工場の土地・建物等を組成物件として工場財団を設定し、その所有権の保存の登記をした後、工場財団が第三者に売り渡されたときは、工場財団について所有権の移転の登記を申請することができる。
そしてこの場合、工場財団を組成する個々の土地や建物の所有権も移転することになるので、土地・建物の登記記録についても所有権の移転の登記を申請することができる。
cf 前貢(4)の場合
(9) 工場財団目録の記録の変更
工場財団目録に掲げた事項に変更を生じたときは、所有者は遅滞なく工場財団目録の記録の変更登記を申請しなければならない。(工場抵当法38条1項)所有者による単独申請であるが、この登記の申請をするには、その申請情報と併せて抵当権者の同意を証する情報又はこれに代わる裁判があったことを証する情報を提供しなければならない。(同条2項)