- 不動産登記法ー10.処分制限の登記
- 5.破産手続開始の登記
- 破産手続開始の登記
- Sec.1
1破産手続開始の登記
■破産手続開始の登記
(1) 個人の破産の場合
裁判所書記官は、個人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、①当該破産者に関する登記があることを知ったとき、②破産財団に属する権利で登記されたものがあることを知ったときは、職権で、遅滞なく「破産手続開始の登記」を登記所に嘱託しなければならない。(破産法258条1項2号)破産者に処分権がないことを公示し、破産財産の保全と取引の安全を図るためである。
(2) 法人の破産の場合
破産者が法人である場合、破産財団に属する権利で登記されたものがあっても、近年の改正によって破産などの登記はなされないことになった。破産者が法人の場合は、法人登記に破産手続開始の登記がなされ、第三者はこれにより破産手続開始の事実を知ることができるからである。
■破産管財人の任意売却による所有権移転登記
(1) 破産手続開始決定
破産手続開始の決定、破産財団債務者が支払不能に陥ったときは、申立てにより、裁判所は破産手続開始の決定をする。(破産法15条、30条)
(2) 破産財団
破産者が、破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団となる。(破産法34条1項)
したがって、破産者が不動産その他の財産を持っていた場合、破産手続開始によって破産財団となり、破産者が勝手に処分するとはできなくなる。
(3) 破産管財人
裁判所は、破産手続開始の決定と同時に、1人又は数人の破産管財人を選任し、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利はこの破産管財人に専属する。
(4) 破産財団の換価
破産管財人は、破産財団に属する財産を換価し、その代金を債権者に配当するが、換価の方法は次の2つがある。
① 民事執行法その他強制執行の手続に関する法令によってする方法(競売)
② 破産管財人の任意売却(競売の手続によらず、破産管財人の判断で財産を売却する方法)
破産財団に属する不動産につき、破産管財人が任意売却をする場合は、裁判所の許可を得ることを要する。(破産法78条2項1号)
(5) 任意売却による所有権移転登記
通常の売買による所有権移転登記と同様に共同申請による。破産管財人が買主と共同してする。
(*1)破産管財人が不動産等の任意売却をする場合には、当該不動産等の登記識別情報(又は登
記済証)の提供は不要である。(S34.5.12民甲929号)
(*2)印鑑証明書は破産管財人のものを提供する。破産管財人の印鑑証明書は、その住所地の市区町村長が作成したものでもよいし、破産管財人が裁判所に届け出た印鑑について裁判所書記官が作成したものでも差し支えない。
(*3)任意売却をするためには、裁判所の許可を要するため、その許可書を提供する。
(*4)買主及び破産管財人から司法書士への委任状のほか、破産管財人の権限を証する裁判所の選任審判書等も提供することを要する。
先例 | (H16.12.16民二3554号) |
破産財団に属する不動産等を破産管財人が任意売却した場合には、破座手続開始の登記の効果が失われることから、裁判所書記官は、破産管財人の申立てにより、当該破産手続開始の登記の抹消の嘱託をすることができる。 |