- 不動産登記法ー6.先取特権に関する登記
- 3.不動産の先取特権
- 不動産の先取特権
- Sec.1
1不動産の先取特権
■不動産保存の先取特権
(1) 不動産保存の先取特権の意義
不動産保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用等に関し、その不動産について存在する。(民法326条)不動産保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をすることを要する。(民法337条)
(2) 不動産保存の先取特権の登記事項
絶対的登記事項は次の2つ。
① 債権額
② 債務者の氏名、住所
*「利息」「損害金」は登記事項とはならない。
(3) 不動産保存の先取特権の登記手続
先取特権者を登記権利者、先取特権の目的たる権利の登記名義人が登記義務者となる。
不動産保存の先取特権の保存登記 申請書 記載例
(*1)債権金額を課税価格として、その1000分の4である。(登録免許税法別表一、一、(五))
■不動産工事の先取特権
(1) 不動産工事の先取特権の意義
不動産工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する(民法327条1項)不動産工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記することを要する。(民法338条 1項 )
(2) 不動産工事の先取特権の登記事項
絶対的登記事項は次の2つ。
① 工事費用の予算額
工事に着手する前に登記するため、実際の債権額(工事の費用)は登記をする時点では不明であるからである。
② 債務者の氏名、住所
*「利息」「損害金」は登記事項とはならない。
(3) 不動産工事の先取特権の登記手続
先取特権者を登記権利者、当該建物の所有者となるべき者が登記義務者となる。
不動産工事の先取特権の保存登記 申請書 記載例(新築工事の請負の場合)
(*1)登記義務者は未だ所有権登記名義人となっていないため、登記識別情報が存在せず登記義務者の登記識別情報を提供することを要しない。(不登法86条 1項後段)同様に、登記義務者の印鑑証明書を提供することも要しない。登記義務者は先取特権の保存登記の時点では、所有権の登記名義人になっていないからである。
(*2)新築、増築、附属建物新築工事の先取特権の保存登記の場合には、図面付きの設計書情報が添付情報となる。一方、宅地造成の工事の先取特権の場合には、設計書情報の提供は不要である。
(*3)予算額を課税価格として、その1000分の4である。(登録免許税法別表一、一、(五))
(4) 登記の実行
建物を新築する場合における不動産工事の先取特権保存の登記の申請がなされたときは、登記官は登記記録の甲区に登記義務者の表示を記録する。(不規則161条)そして乙区に先取特権保存の登記を実行する。
* 未だ不動産が存在しない段階で保存登記を申請するので、その不動産の登記記録は存在しない。だから登記官が甲区に登記義務者の表示を記録した上で先取特権の登記をする。あくまでも暫定的な記載なので、所有権保存登記の効力を有するわけではない点に注意!
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その後、建物が完成したら、所有者は遅滞なく表題登記を経由した上で所有権保存登記を申請することを要する。(不登法87条1項)なお建物の新築工事が完了したことによる表題登記は、先の先取特権保存登記の際に作成された登記記録の表題部になされ、既に記録されている不登法86条2項1号に掲げる登記事項は抹消されることになる(不規則162条1項)
そして、保存登記をしたときは先の先取特権保存登記の際に作成された登記記録の甲区に記録されている事項も抹消されることになる。(不規則162条2項)
■不動産売買の先取特権
(1) 不動産売買の先取特権の意義
不動産売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。(民法328条)不動産売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記することを要する。(民法340条)つまり、不動産売買の先取特権の保存の登記は、売買による所有権の移転の登記と同時に申請することを要する。(S29.9.21民甲1931号)地上権、永小作権、賃借権の移転登記と同時にそれらの売買の先取特権の登記をすることもできる。(書式精義中)
(2) 不動産売買の先取特権の登記事項
絶対的登記事項は次の3つ。
① 債権額
② 利息(民法328条)
不動産売買の先取特権においては、売買代金のほか、利息についても提供することができる。
③ 債務者の氏名、住所
(3) 不動産売買の先取特権の登記手続
先取特権者(売主)を登記権利者、債務者(買主)が登記義務者となる。
不動産売買の先取特権の保存登記 申請書 記載例
(*1)売買による所有権の移転の登記と同時に申請するため、登記義務者はまだ所有権の登記名義人とはなっておらず登記識別情報の提供を要しない。また、同様の理由により印鑑証明書の提供も不要である。所有権登記名義人が義務者となる場合にあたらないからである。
(4) 登記の実行
AからBへの売買による所有権移転登記とAのための先取特権保存の登記とは同時に申請し、同一の受付番号をもって受け付けられる。
先取特権の保存登記の登記事項 まとめ
先取特権の保存登記 添付情報のまとめ