• 不動産登記法ー5.根抵当権に関する登記
  • 8.根抵当権の元本確定の登記
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1根抵当権の元本確定の登記

堀川 寿和2022/01/14 13:18

元本の確定

(1) 元本確定の意義

 根抵当権の元本の確定とは、根抵当権によって担保される債権が具体的に特定することをいう。

 元本が確定した後は、その根抵当権の債権の範囲に属する取引がされても、その新たに発生した債権は根抵当権によって担保されない。


(2) 元本の確定事由

 根抵当権は、民法で定める元本確定事由の発生によって確定することになる。



確定事由確定時期
確定期日の到来確定期日の午前0時
根抵当権者又は債務者につき相続が開始した場合において、相続開始後6か月以内に民法398条の8の「合意の登記」をしなかったとき
相続開始の時
根抵当権者又は債務者に合併があった場合に、設定者が確定請求をしたとき合併の時
根抵当権者又は債務者を分割会社とする会社分割があった場合に、設定者が確定請求をしたとき会社分割の時
設定の時から3年を経過後に、設定者が確定請求をしたとき確定請求の時から
2週間経過した時
根抵当権者が確定請求をしたとき確定請求の時
根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行又は物上代位による差押えの申立てをしたとき申立ての時
根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき差押えがされた時
第三者の申立てにより、抵当不動産の競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったとき根抵当権者がその事実を知った時から
2週間経過した時
債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき破産手続開始決定がされた時


確定期日の到来(民法398条の6 1項)

 根抵当権を設定した時又は根抵当権を設定した後に、元本の確定期日を定めることができる。(民法398条の6 1項)その確定期日が到来したら、到来した日の午前0時をもって元本が確定する。

根抵当権者又は債務者につき相続が開始した場合において、相続開始後6か月以内に民法398条の8の「合意の登記」をしなかったとき(民法398条の8 4項)

 相続開始の時に元本が確定したものとみなされる。なお(債務者でない)設定者の相続は元本確定事由とされていない点に注意!

③ ④ 根抵当権者又は債務者に合併・会社分割があった場合に、設定者が確定請求をしたとき

 なお、設定者たる債務者に合併・会社分割があった場合には確定請求をすることはできない。(民法398の9 3項ただし書、398条の10 3項)

 また、設定者が合併・会社分割があったことを知った日から2週間を経過、又は合併・会社分割の日から1か月経過したときは確定請求できない。(民法398条の9 5項、398条の10 3項)

設定の時から3年を経過後に、設定者が確定請求をしたとき(民法398条の19 1項)

 根抵当権設定者は、根抵当権を設定した時から3年を経過したときは、根抵当権の元本の確定を請求することができる。この場合は、その請求の時から2週間を経過することによって元本が確定する。

 元本確定期日の定めがあるときは、この確定請求はできない。

(イ)根抵当権の目的不動産が数人の共有であるときは、元本の確定請求はその全員からすることを要する。(質疑登研443号)

(ロ)根抵当権が数人の準共有であるときは、その全員に対して元本の確定請求をすることを要する。

(ハ)数個の不動産を目的とした共同根抵当権においては、1つの不動産についての設定者が元本の確定請求をし、元本が確定したときは、共同担保の目的たるすべての不動産につき根抵当権の元本は確定する。(民法398条の17 2項)

根抵当権者が確定請求をしたとき(民法398条の19 2項)

 根抵当権者はいつでも根抵当権の元本の確定を請求することができる。設定から3年経過している必要はない。この場合、その請求の時に元本が確定する。元本確定期日の定めがあるときは、この確定請求はできない

(イ)数人の準共有する根抵当権について、根抵当権者が元本の確定請求をする場合は、根抵当権者の全員が元本の確定請求をすることを要する。

(ロ)所有者の異なる数個の不動産を目的とした共同根抵当権について、根抵当権者が元本の確定請求をする場合は、すべての設定者に対して元本の確定請求をしてはじめて元本が確定する。(登研698号)

根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行又は物上代位による差押えの申立てをしたとき(民法398条の20 1項1号)

 差し押さえて競売等をするということは、根抵当権者に配当がされることになるため、債権額を確定させる必要があるからである。ただし、競売手続きもしくは担保不動産収益執行手続きの開始又は差押えがあった場合に限られるので、取下げを理由に競売手続もしくは担保不動産収益執行の手続きが開始されず又は差押えがなされなかったときは、元本は確定しないことになる。これに対し、一旦競売手続きもしくは担保不動産収益執行が開始され又は差押えがなされて元本が確定した後に、これらが取り消されたり取り下げられても、元本確定の効果は覆らない。つまり元本は確定したままである。根抵当権の実行に基づく競売申立てだけでなく、根抵当権とは関係のない債権に基づく強制競売の申立てであっても、その申立ての時に元本が確定する。

根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき(民法398条の20 1項2号)

 根抵当権者が国又は地方公共団体の場合である。それ以外は基本的には⑦と同じ。

第三者の申立てにより、抵当不動産の競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったとき

(民法398条の20 1項3号)

 

根抵当権者以外の第三者の申立てによって抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがされた場合、根抵当権者がこれを知った時から2週間を経過したときに元本が確定する。しかし、その後に競売手続の開始や差押えの効力が消滅したときは、元本は確定しなかったものとみなされる。(民法398条の20 2項)ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。

 つまり根抵当権者以外の第三者が当該不動産に競売手続の開始又は滞納処分による差押えをしたことを根抵当権者が知って2週間経過した後に、元本確定後にしかできない処分行為(ex根抵当権の順位譲渡・順位放棄・譲渡・放棄等)をし、その後に第三者による差押等が取消しや取下げによって失効しても元本確定の効果は覆らない。元本は確定したままである。



債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき(民法398条の20 1項4号)

 債務者又は設定者が破産手続開始の決定を受けたときは、根抵当権の元本は確定する。根抵当権者の破産は元本確定事由とはされていない点に注意。

 その後に破産手続開始決定の効力が消滅したときは、元本は確定しなかったものとみなされる点は⑨の場合と同じである(民法398の20 2項)

 ただし、元本が確定したものとして、その根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは確定の効力がそのまま持続する点も⑨の場合と同じである。(2項ただし書)




先例(H9.7.31民三1301号回答)
転抵当権者又は根抵当権の被担保債権の質権者がした競売申立ては民398条の20第1項1号(前記⑦)の確定事由に該当しない。第三者による申立てであり、3号(前記⑨)の競売手続にあたると解されるからである。



 転抵当権(債権質権者)Bによる競売申立ては第三者による申立ての場合と同視して、1番根抵当権者Aが競売手続開始を知ったときから2週間経過すれば元本が確定することになる。つまり1番根抵当権者A自ら競売申立てをした場合と異なる。


先例(H9.7.31民三1301号回答)
上記に対して、根抵当権の一部譲渡を受けた者がした抵当不動産の競売申立ては1号(前記⑦)の確定事由にあたる。


(3) 共有根抵当権の元本確定

 根抵当権を数人が準共有している場合、共有者の1人について元本の確定事由が生じても、根抵当権の元本は確定しない。(登研312号)共有根抵当権においては、共有者全員に元本確定事由が生じてはじめて根抵当権全体の元本が確定することになる。



(4) 共用根抵当権の元本確定

 根抵当権の債務者が数人いる場合つまり共用根抵当権の場合、債務者の1人について元本の確定事由が生じても、根抵当権の元本は確定しない。(質疑登研515号)債務者全員について元本の確定事由が生じてはじめて、根抵当権全体の元本が確定することになる。



(5) 共同根抵当権の元本確定

 共同根抵当権の対象不動産のうち1つについて確定事由が生ずると、すべての不動産につき確定の効力が生ずることになる。(民法398の17 2項)よって例えば、甲・乙不動産上に共同根抵当権が設定されている場合において、甲不動産についてのみ元本確定事由が生じたときには、乙不動産に元本確定登記を申請することができる。



(6) 元本確定の効果

 元本確定時に存在する元本と利息、損害金が担保され、その後に生ずる債権は当該根担当権で担保されなくなる。もっとも確定後も普通抵当権に転化する訳ではなく、根抵当権の枠支配としての性格はなお失われないため、利息、損害金は確定後に発生するものであっても、なお極度額に達するまでは担保される。(民法398条の3 1項)

① 付従性、随伴性の回復

 元本の確定により、根抵当権の被担保債権が特定する。その結果、普通抵当権の場合と同じく付従性・随伴性が認められるようになる。

 よって、被担保債権の債権譲渡又は代位弁済を原因とする根抵当権の移転、債務引受による根抵当権の変更が生じ、被担保債権の弁済により、根抵当権は消滅する。

② 民法376条1項の処分

 元本確定後は民法376条1項の処分(根抵当権の譲渡・放棄、順位譲渡・順位放棄等)が可能になり、逆に元本確定前でなければできなかった全部譲渡、一部譲渡等の処分や、根抵当権の変更(債権の範囲、債務者、確定期日等の変更)はできなくなる。


元本確定の登記

(1) 確定登記の要否

 根抵当権が確定すると、上記のように根抵当権の内容に変更が生ずることになるので、元本が確定したときは、元本確定登記をすることができる。上記のような元本確定後にしか認められていない処分の登記をする場合には、前提として元本確定登記を申請しなければならない。

ただし、次の場合のように、登記記録上、元本確定が明らかである場合には、元本確定登記を省略することができる。


  登記記録上、元本が確定していることが明らかな場合(元本確定登記が不要な場合)

① 登記された元本の確定期日が到来した場合
② 根抵当権者又は債務者に相続が開始し、相続による根抵当権の移転の登記(債務者の変更登記)はされたが、相続開始後6か月以内に指定根抵当権者(指定債務者)の合意の登記がされていない場合
③ 根抵当権者が抵当不動産に対し競売等を申し立て、差押えの登記がされた場合
④ 根抵当権者が抵当不動産につき滞納処分による差押えの登記をした場合
⑤ 根抵当権設定者につき破産手続開始の決定がされ不動産に破産手続開始の登記がされた場合(*)

(*)不動産の所有権の登記名義人たる自然人が破産手続開始の決定を受けたときは、原則としてそ

の不動産に破産手続開始の登記がされる。(破産法258条 1項 )そのため、設定者が破産手

続開始の決定を受けたことが登記記録上から明らかとなるのである。

一方、不動産の所有権の登記名義人たる法人(会社)について破産手続開始の決定がされたときは、当該法人の登記記録には破産手続開始の登記がされる(破産法257条)が、不動産の登記記録には破産手続開始の登記はされない。そのため、不動産の登記記録からは、設定者たる法人が破産手続開始の決定を受けたことが明らかではなく、原則どおり元本確定の登記をすることを要する。


 ①の場合


 ②の場合(根抵当権者に相続が開始した場合)


 ②の場合(根抵当権の債務者に相続が開始した場合)


 ③の場合


    ⑤の場合


 登記記録上、元本が確定していることが明らかでない場合(元本確定登記が必要な場合)

① 第三者の申立てによって抵当不動産に差押えがされ根抵当権者がこれを知った時から2週間を経過したことによって元本が確定した場合(*1)
② 設定者ではない債務者が破産手続開始の決定を受けて元本が確定した場合(*2)

(*1)登記記録上、知った時から2週間がいつの時点か判明しないためである。

(*2)設定者でない債務者の破産の場合には、登記記録に破産の登記がされないからである。

 

  ①の場合


(2) 申請人

① 原則(共同申請)

 根抵当権の元本の確定の登記は、共同申請でするのが原則である。元本が確定すると、新たに債権の範囲に属する債権が発生しても、その債権は根抵当権によって担保されなくなるため、設定者にとって有利、根抵当権者にとって不利と考える。



元本確定登記 申請書 記載例            (共同申請の場合)

(*1)原則として設定者を登記権利者、根抵当権者を登記義務者とする共同申請である。

(*2)変更登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))

  

 (完了後の登記記録)


先例(S55.3.4民三1196号)
根抵当権の元本が確定した後にその被担保債権を代位弁済した者は、根抵当権者に代位して設定者と共同で、元本確定の登記を申請することができる。


② 例外(根抵当権者による単独申請)

(イ)根抵当権者からの元本確定請求によって元本が確定した場合(民法398条の19 2項)

(ロ)第三者の申立てによって抵当不動産につき競売手続等が開始し、根抵当権者がこれを知った時から2週間を経過したことによって元本が確定した場合(民法398条の20第1項3号)

 ただし、当該根抵当権又はこれを目的とする権利の取得の登記と同時に元本確定の登記を申請することを要する。つまり、元本確定の登記のみを根抵当権者が単独で申請することはできない。「根抵当権又はこれを目的とする権利の取得の登記」とは、債権譲渡・代位弁済による根抵当権の移転の登記、根抵当権の順位譲渡の登記等がこれにあたる。

(ハ)債務者又は設定者が破産手続開始の決定を受けた場合(民法398条の20第1項4号)

 ただし、この場合も(ロ)の場合と同様に、当該根抵当権又はこれを目的とする権利の取得の登記と同時に元本確定の登記を申請することを要する。


登研(質疑登研676p183)
根抵当権者が単独で申請するときは、申請情報と併せて登記識別情報を提供することを要しない。

⇒ 登記識別情報は、権利者と義務者の共同申請の場合に提供すベきものであるからである。


 元本確定登記 申請書 記載例           (単独申請の場合)

(*1)登記原因証明情報としてそれぞれ以下の書面を提供する。


(イ)根抵当権者からの元本確定請求によって元本が確定した場合(民法398条の19 2項)

   ⇒根抵当権者によって「元本の確定請求がされたことを証する情報」を提供する。具体的には、配達証明付き内容証明郵便等がこれにあたる。

(ロ)第三者の申立てによって抵当不動産につき競売手続等が開始し、根抵当権者がこれを知った時から2週間を経過したことによって元本が確定した場合(民法398条の20第1項3号)

   ⇒「民事執行法49条2項の規定による催告又は国税徴収法55条の規定による通知を受けたことを証する情報」を提供する。

(ハ)債務者又は設定者が破産手続開始の決定を受けた場合(民法398条の20第1項4号)

   ⇒「債務者又は設定者について破産法30条1項の規定による破産手続開始の決定があったことを証する情報」を提供する。


元本確定後の根抵当権の移転登記

(1) 債権譲渡、代位弁済による移転登記




(極度額1000万円)

(*1)極度額を課税価格としてその1000分の2である。(登録免許税法別表一、一、(六)(ロ))


 債権一部譲渡又は一部代位弁済の場合      (極度額1000万円)

(*1)債権譲渡(代位弁済)された額を課税価格としてその1000分の2である。

極度額を超える額の債権が譲渡(代位弁済)されている場合には、極度額を課税価格としてその1000分の2である。


(2) 相続、合併による移転登記

① 相続による移転登記

 根抵当権の元本が確定した後に根抵当権者が死亡し、相続が開始したときは、確定債権が相続人に移転し、それに伴い根抵当権も相続人に移転する。したがって、相続による根抵当権の移転の登記を申請する。ただ、元本確定後であるため、指定根抵当権者の合意をするということはあり得ない。


登研(質疑登研454号)
相続による根抵当権の移転の登記を申請する場合で、相続人が数人いるときは、申請情報の内容として各人の持分を提供することを要する。


② 合併による移転登記

 また、根抵当権の元本が確定した後に根抵当権者たる法人が合併により消滅したときも、その被担保債権は承継会社に承継され、それに伴い根抵当権も承継会社に移転する。したがって、合併による根抵当権の移転の登記を申請する。