- 不動産登記法ー5.根抵当権に関する登記
- 4.根抵当権の処分の登記
- 根抵当権の処分の登記
- Sec.1
1根抵当権の処分の登記
■根抵当権の処分の態様
根抵当権の元本が確定する前においては、転抵当を除き民法376条1項の処分をすることはできない。(民法398の11 1項)
元本確定前後 | 処分の種類 |
元本確定前後を問わず可能な処分 | ・転抵当
・順位変更 ・被担保債権の質入れ |
元本確定後に限って可能な処分
(*1) | ・民法376条1項の(根)抵当権の譲渡・放棄
・民法376条1項の(根)抵当権の順位譲渡・順位放棄 |
元本確定前に限って可能な処分 | ・根抵当権の全部譲渡
・根抵当権の一部譲渡 ・根抵当権の分割譲渡 |
(*1)元本確定前に自らが他の担保権者に順位譲渡・順位放棄することはできないが、他の担保権者から元本確定前に順位譲渡・順位放棄を受けることは可能である。
■根抵当権の全部譲渡
(1) 意義
根抵当権者は、元本の確定前において、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を第三者に譲渡することができる。(民法398条の12 1項)
(2) 要件
① 設定者の承諾
根抵当権の全部譲渡をするためには、設定者の承諾を得ることを要する。つまり設定者の承諾が全部譲渡の効力要件となるため、承諾があってはじめて全部譲渡の効力が生じることになる。
② 元本確定前
全部譲渡ができるのは根抵当権の元本確定前に限られる。全部譲渡の合意と設定者の承諾は元本確定前になされたが、その登記をする前に根抵当権の元本が確定してしまえば、全部譲渡による根抵当権の移転登記は受理されない。つまり「債権の範囲」「債務者」「確定期日」の変更と同様に登記が事実上の効力発生要件となる。
(3) 当事者
根抵当権の全部譲渡は、根抵当権者と譲受人の合意による。しかし、前述のとおり設定者の承諾が必要であるため、A・Cの合意及び設定者甲の承諾があってはじめて全部譲渡の効力が生じる。つまり設定者の承諾が全部譲渡の効力要件となる。
(4) 全部譲渡の効果
全部譲渡の結果、AのBに対する売買取引上の債権は、全部譲渡する前に生じたものも含めていっさいこの根抵当権では担保されなくなる。一方、CのBに対する売買取引上の債権は、全部譲渡する前に発生したものも含め、この根抵当権で担保されることになる。
(5) 全部譲渡の登記申請手続
① 全部譲渡の登記
根抵当権の全部譲渡がなされると、根抵当権の全部が移転することになるため、根抵当権の移転登記を申請することができる。
全部譲渡の登記 申請書 記載例 (極度額 金1000万円)
(*1)設定者の承諾が全部譲渡の効力要件となるため、A・C間の全部譲渡の合意の後で設定者甲の承諾が得られた場合には、設定者の承諾の日が原因日付となる。
(*2)設定者の承諾を証する情報が添付情報となる。
(*3)極度額を課税価格として、その1000分の2である。(登録免許税法別表一、一、(六)ロ)
(完了後の登記記録)
② 共同根抵当権の全部譲渡の登記
全部譲渡する根抵当権が(純粋)共同根抵当権の場合には、すべての不動産につき全部譲渡の登記をしなければその効力が生じない。共同根抵当権の「極度額」「債権の範囲」「債務者」の変更登記の場合と同様である。登記の目的は「何番共同根抵当権移転」とする。
(イ)共同担保である根抵当権の全部譲渡(一部譲渡•分割譲渡の場合も同様)の登記の申請は、各不動産についての原因日付が異なる場合でも同一の申請情報ですることができる。この場合は原因「後記のとおり」とし、各不動産ごとの原因・日付を各不動産の表示の末尾に記載する。
原因日付が異なる共同根抵当権の全部譲渡による移転登記 申請書 記載例(極度額1000万円)
(ロ)共同根抵当権で、各不動産ごとに順位番号が異なるときは、単に「共同根抵当権移転(順位番号後記のとおり)」とし、各不動産の地番(建物の場合には家屋番号)の下に(順位番号何番)と記載する。
各不動産ごとに順位番号が異なる共同根抵当権の全部譲渡による移転登記 申請書 記載例
■根抵当権の一部譲渡
(1) 意義
根抵当権者は、元本の確定前において、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡をすることができる。(民法398条の13 1項)
(2) 要件
① 設定者の承諾
根抵当権の一部譲渡をするためには、設定者の承諾を得ることを要する。つまり設定者の承諾が一部譲渡の効力要件となるため、承諾があってはじめて一部譲渡の効力が生じることになる。
② 元本確定前
一部譲渡ができるのは根抵当権の元本確定前に限られる。元本確定前に一部譲渡の合意をしてその登記も元本確定前にしなければ、一部譲渡の効力が生じない点も全部譲渡の場合と同様である。
(3) 当事者
根抵当権の一部譲渡は、根抵当権者と譲受人の合意による。しかし、設定者の承諾が必要であるため、A・Cの合意及び設定者甲の承諾があってはじめて一部譲渡の効力が生じる。つまり設定者の承諾が一部譲渡の効力要件となる点も全部譲渡の場合と同様である。
(4) 一部譲渡の効果
一部譲渡の結果、AのBに対する売買取引上の債権のほかに、CのBに対する売買取引上の債権も、一部譲渡する前に発生したものも含め、この根抵当権で担保されることになる。
(5) 一部譲渡の登記申請手続
① 一部譲渡の登記
根抵当権の一部譲渡がなされると、根抵当権の一部が移転することになるため、根抵当権の一部移転登記を申請することができる。
一部譲渡の登記 申請書 記載例(極度額 金1000万円)
(*1)設定者の承諾が一部譲渡の効力要件となるため、A・C間の一部譲渡の合意の後で設定者の承諾が得られた場合には、設定者の承諾の日が原因日付となる。
(*2)元本確定前の処分であるため所有権一部移転の場合のように持分の記載は要しない。
(*3)一部譲渡後の共有者の数で極度額を割った金額を課税価格とし、その1000分の2である。(登録免許税法別表一、一、(七))
② 共同根抵当権の一部譲渡の登記
一部譲渡する根抵当権が(純粋)共同根抵当権の場合には、すべての不動産につき一部譲渡の登記をしなければその効力が生じない点も全部譲渡の場合と同様である。