• 不動産登記法ー4.抵当権に関する登記
  • 4.抵当権の変更、更正登記
  • 抵当権の変更、更正登記
  • Sec.1

1抵当権の変更、更正登記

堀川 寿和2022/01/13 13:46

 抵当権の設定登記後に、登記事項(債権額、利息、損害金、債務者等)に変更が生じたときは、抵当権の変更の登記を申請することができる。また当初から誤った内容で登記をした場合や登記すべき事項を遺漏した場合には更正登記をすることができる。

債権額の変更

(1) 債権額の増額変更の可否

 抵当権の債権額の変更は、債権の同一性が失われない範囲で認められる。債権の同一性がなければ、新たに別の抵当権を設定すべきだからである。


先例(M32.11.1民刑1904号)
当初被担保債権全額で登記がなされている場合に、のちにいわゆる「貸増し」をした場合は、貸増しによる増加部分は新たな別の債権であるから、増加部分につき別個の抵当権設定登記をすべきであって、変更登記によることはできない。


① 債権の一部を担保するために抵当権が設定された後、抵当権によって担保される債権の額を増額する変更をした場合

 抵当権によって担保される債権は同一であり、付従性の要件に反することはない。例えば1000万円の被担保債権のうち、500万円分にのみ抵当権が設定されている場合、後日債権額を500万円から1000万円の範囲で増額変更することができる。

② 将来発生する債権を担保するため抵当権が設定された後、その将来債権の債権額が増額された場合

 この将来債権には、金銭消費貸借予約(S42.11.7民甲3142号)、保証人の将来の求償債権、分割貸付、限度貸付等がある。

(イ)金銭消費貸借予約

 例えば、金1000万円の金銭消費貸借の予約契約をし、抵当権設定後に貸付予定額を1500万円に増額したような場合である。

(ロ)保証人の将来の求償債権

 保証人の求償債権を担保するため抵当権の設定登記をした後、その債権額を増加する契約が成立した場合などである。

(ハ)分割貸付、限度貸付

 例えば、900万円を3回にわたって300万円ずつ貸し付ける場合(分割貸付)や、貸付額の上限をあらかじめ定めて貸し付けをする(限度貸付)の場合である。



抵当権の債権額の増額による変更登記 申請書 記載例(1000万円→2000万円)

(*1)利害関係人の承諾が得られた場合や存在しない場合には、付記登記で登記が実行されるため、(付記)と記載する。利害関係人の承諾が得られない場合には、主登記で実行される。この場合は単に「1番抵当権変更」と記載すればよく、(主登記)の記載は不要である。

(*2)後順位担保権者等の承諾が得られる場合に提供する。

(*3)債権額の増額分は新たな設定と同じであるため、増加額に1000分の4を乗じた額である。



  (後順位抵当権者乙の承諾を得られた場合の完了後の登記記録)


       (後順位抵当権者乙の承諾を得られなかった場合の完了後の登記記録)


(2) 利息の元本組入れ(重利)

 利息の元本組入れとは、弁済期に利息が支払われなかった場合に、その利息を元本に組み入れて、これを元本の一部としてさらに利息を発生させることをいう。(重利)法定重利(民法405条)と約定重利がある。利息の元本組入れがされたときは抵当権の債権額が増額するので、抵当権の債権額の増額変更の登記を申請することができる。


(事例)

債務者Aは平成○○年4月1日から平成○○年3月31日までの2年分の利息金100万円の支払いを怠っている。そこで1番抵当権者のAは債務者甲に対して一定期間を定めて利息の支払いを催告したにもかかわらず、甲は支払わなかった。そのためAは甲に対して当該延滞利息を元本に組入れる旨を通知し、平成○○年8月1日に甲に到達した。


 利息の元本組入登記 申請書 記載例


(3) 債権額の減額変更

 被担保債権額の一部が弁済されたり、債権額を減額する変更契約がなされた場合には、債権額の減額変更の登記をすることができる。


抵当権の債権額の減額による変更登記 申請書 記載例(2000万円→1000万円)

(*1)抵当権の被担保債権額の減額変更を一部抹消と解して、抹消登記と同様に利害関係人の承諾を必須として、常に主登記で登記するとする見解もある。

(*2)一部弁済の場合は「平成何年何月何日一部弁済」

更正登記の場合は、「錯誤」又は「遺漏」と記載する

(*3)所有権以外の登記名義人が登記義務者となる場合であるため、登記義務者の印鑑証明書の提供は不要である。

(*4)債権額が減額される抵当権の被担保債権の質権者や転抵当権者等が利害関係人に該当するため、それらの者の承諾が得られて付記登記で登記を実行する場合に承諾証明情報を提供する。

(*5)不動産1個につき1000円である。(登録免許税別表一、一、(十四))



(4) 登記申請手続

① 申請人


② 登録免許税

(イ)債権額の増額の場合

 増額分について設定と同視して、増額分の1000分の4を乗じた額である。(登録免許税法別表一、一、(五))

(ロ)債権額の減額の場合

 不動産1個につき1000円である(登録免許税法別表一、一、(十四))

③ 登記の実行

(イ)登記上の利害関係人がいないか、その者の承諾を証する情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供したときは「付記登記」で登記する。(不登法66条)

 この場合、変更登記の順位が抵当権設定登記(主登記)の順位によることになり、変更後の内容を設定登記の順位で対抗できることになる。

(ロ)承諾証明情報などの提供ができないときは「主登記」による。

 この場合は、変更をその登記後の第三者には対抗できるが、登記前の第三者には対抗できない。


(5) 元本債権の全部弁済による変更登記

 抵当権の被担保債権のうち元本全額が弁済されたが、まだ利息等が残っている場合には、債権額をその利息の額とする変更の登記を申請することができる。抵当権は、元本のほか最後の2年分の利息・損害金も担保するため、元本全額が弁済されても利息等が残存している場合には、抵当権は消滅しないからである。例えば、元本1000万円を全額弁済したが、年利10%の利息を2年分(200万円分)が未弁済の場合、次のように債権額を1000万円から200万円に減額変更することができる。

 元本全部弁済による変更登記 申請書 記載例


利息・損害金の変更・更正

(1) 意義

 抵当権の設定の登記がされた後、利息や損害金の定めに変更が生じたときは、その変更の登記を申請することができる。また当初から誤った内容で登記をした場合や登記すべき事項を遺漏した場合には更正登記をすることができる。




 利息の変更登記 申請書 記載例        

(年5%から年10%に変更)

(*1)利害関係人の承諾が得られた場合や存在しない場合には、付記登記で登記が実行されるため、(付記)と記載する。利害関係人の承諾が得られない場合には、主登記で実行される。この場合は単に「1番抵当権変更」と記載すればよく、(主登記)の記載は不要である。

(*2)後順位担保権者等の承諾が得られる場合に提供する。

(*3)変更登記として、不動産1個につき1000円である。(登録免許税法別表一、一、(十四))

  (完了後の登記記録)


                                    (年10%から年5%に変更) 


損害金の変更登記 申請書 記載例     

   (年14%から年14.5%に変更)

                                  

(年14.5%から年14%に変更)


(2) 登記申請手続

① 申請人

 原則どおり登記権利者と登記義務者の共同申請である。


② 登録免許税

 利率の増額、減額共に不動産1個につき1000円である(登録免許税法別表一、一、(十四))

③ 登記の実行

(イ)登記上の利害関係人がいないか、その者の承諾を証する情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供したときは「付記登記」で登記する。(不登法66条)

 この場合、変更登記の順位が抵当権設定登記(主登記)の順位によることになり、変更後の内容を設定登記の順位で対抗できることになる。

(ロ)承諾証明情報などの提供ができないときは「主登記」による。

 この場合は、変更をその登記後の第三者には対抗できるが、登記前の第三者には対抗できない。

 誰が利害関係人に該当するかの判断は、債権額の増額・減額の場合と同様に考えればよい。


利息・損害金についての特別登記

(1) 意義

 抵当権者が利息、損害金その他の定期金を請求する権利を有するときは、満期となった最後の2年分についてのみ元本とあわせて抵当権を行使することができる。(民法375条1項2項)

 ただ、2年分を超える部分については、後順位担保権者等に優先することができず、せっかく設定した抵当権で担保されないこともあり得る。

 例えば、甲がAに対し、金1000万円を利息年10%の約定で、5年後に弁済する約束で貸し付けA所有の土地に抵当権を設定した。Aは弁済期時点で5年分の利息金500万円も全額滞納しており、甲に請求できる額は元本1000万円と延滞利息500万円の計1500万円である。しかし、甲が抵当権で優先弁済を受けられる額は元本1000万円+2年分の利息200万円の計1200万円となる。


(2) 特別登記

ただし、その2年分以前の利息についても、その満期後(遅滞後)、特別の登記をしておけば、登記した延滞利息についても優先弁済を受けることができる。(民法375条1項ただし書)

 

 利息の特別登記 申請書 記載例

(*1)債権額の増額そのものではないが、同様の効力が生じるため登記上の利害関係人がいないか、その者の承諾を証する情報又は当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供したときは「付記登記」で登記する。(不登法66条)

(*2)設定者が物上保証人の場合、

「平成何年何月何日から平成何年何月何日までの利息の担保契約」と記載する。

(*3)変更登記そのものではないため、「変更後の事項」の記載は不要である。

(*4)付記登記で実行する場合には、債権額の増額の場合と同様に利害関係人の承諾が必要である。

(*5)増加部分(延滞利息額)の債権金額を課税価格として、その1000分の4である。(登録免許税法別表一、一、(五))


            (完了後の登記記録)


利息の元本組入と利息の特別登記の違い

利息の元本組入は文字通り延滞利息が元本となるため、以後延滞利息からも利息が発生することになる。一方、利息の特別登記は延滞利息を元本に組入れるわけではなく、単に抵当権で担保させるだけの登記であり、その延滞利息に利息が発生することはない。つまり元本債権が増加するものでない点に注意。