- 不動産登記法ー4.抵当権に関する登記
- 1.抵当権設定登記
- 抵当権設定登記
- Sec.1
1抵当権設定登記
■抵当権の意義
抵当権とは、債権者が債務者又は第三者(物上保証人)が担保として提供した不動産を、引き続き設定者の占有にとどめたまま、債務が履行されないときに当該不動産を換価して、その代金から優先弁済を受けることができる約定担保物権をいう。(民法369条1項)
■抵当権設定の客体
(1) 不動産(所有権)、地上権、永小作権
民法上、抵当権設定の客体となるのは、不動産所有権(土地、建物)、地上権、永小作権である。
(2) その他
その他、個々の特別法で、登記した船舶、各種財団抵当法による財団、立木法に関する法律による立木なども抵当権の客体とすることができる。
(3) 不動産賃借権
不動産賃借権を目的として、抵当権を設定することはできない。(民法369条2項)
(4) 共有持分
抵当権は共有持分又は地上権などの準共有持分を目的として設定することもできる。
例えば、A・B共有の土地のA持分のみに抵当権を設定することも、甲・乙準共有の地上権や永小作権の甲持分のみに抵当権を設定することも可能である。cf 用益権は持分のみに設定できなかった!
(5) 所有権の一部、共有持分の一部
① 原則
所有権の一部、共有持分のさらに一部を目的とする抵当権設定は、実体法上は有効に出来るが、登記は受理されない。(S36.1.17民甲106号)権利の一部の抵当権は、どの部分を目的とするかを登記記録上公示できないからである。
甲区1番 所有権保存 平成何年何月何日受付 所有者 A
2番 所有権移転 平成何年何月何日受付 所有者 B |
この場合、Bの所有権の一部(例えば2分の1)のみに対する抵当権の設定はできない。
登記簿上、Bの所有権は甲区2番の枠のみであり抵当権の設定されている部分とそうでない部分を区別できないからである。
甲区1番 所有権保存 平成何年何月何日受付 所有者 A
2番 所有権一部移転 平成何年何月何日受付 共有者 持分2分の1 B |
同様にBの共有持分の一部(例えば4分の1)のみに対する抵当権の設定もできない。
② 例外
例外的に、次のように2回以上にわたって持分を取得している場合には、登記簿上一部を公示することができるので、Bの所有権一部を目的として抵当権を設定することができる。(S58.4.4民三2251号)この場合、登記の目的は、「所有権一部(順位2番で登記した持分)抵当権設定」又は「所有権一部(順位3番で登記した持分)抵当権設定」とする。
甲区1番 所有権保存 平成何年何月何日受付 所有者 A
2番 所有権移転 平成何年何月何日受付 所有者 持分2分の1 B 2分の1 C 3番 C持分全部移転 平成何年何月何日受付 所有者 持分2分の1 B |
先例 | (S58.4.4民三2251号) |
同一不動産につき同一人が数回にわたり持分取得の登記を経由している場合は、取得したそれぞれの持分につき抵当権を設定することができる。 |
(6) 一筆の土地の一部
一筆の土地の一部を目的とする抵当権設定も実体法上は可能だが(大T13.10.7)、登記をするには、抵当権の目的となった部分を分筆したうえで、その全体につき抵当権設定登記をしなければならない。(M33.12.22民刑2080号)一筆の一部につき権利の登記をすることは手続上認められていないからである。
(7) 建物の一部
同一の登記記録に登記されている主たる建物又は附属建物のいずれか一方のみを抵当権の目的とするためには、まず建物の分割の登記をして、それらを別個独立の建物としなければならない。(M37.2.13民刑1057号)
(8) 将来建築予定の建物
将来建築される予定の建物を目的としてあらかじめ抵当権を設定することはできない。(S37.12.28民甲3727号)抵当権は物権であるため,その目的たる物が現に存在し、特定されていなければならないからである。
(9) 所有権取得する前の日付で抵当権設定
他人所有の不動産に対して、自己が所有権を取得することを見込んで、あらかじめ抵当権設定契約をしても、抵当権設定登記はできない。(登研440号 東京法務局Q&A)担保物の処分権限のない者の行為であって当該抵当権設定契約は無効だからである。
しかし、不動産所有権取得を停止条件とする抵当権設定契約であれば有効であり、所有権取得と同時に抵当権が成立するから、契約日ではなく不動産取得の日を原因日付として設定登記をすることができる。(大決T4.10.23)
ex 1.平成29年4月1日抵当権設定契約
2.平成29年4月15日所有権取得
(10) その他
登記記録の表題部に記録された建物の新築の日付より前の日付を原因日付として、抵当権の設定の登記を申請することができる。(S39.4.6民甲1291号)
(甲建物の権利部)
甲区1番 所有権保存 平成29年8月5日受付 所有者 A |
※ 甲建物の表題部の記載によると、新築年月日が平成29年8月1日となっているが、それよりも前の日付を原因日付とする抵当権の設定登記を申請することができる。独立の建物と認められるのは、屋根及び周壁を有しその目的たる用途に供し得る状態にあることが要件とされているが、表題部に記録された建物の新築年月日は建物が法律上建物と認定される日よりも遅いのが通常であり、また建物登記記録の表題部には必ずしも新築年月日が記録されているわけではないので、表題部に記録された新築年月日を基準として抵当権設定契約の有効性を判断するのは妥当でないからである。
先例 | (S41.11.7民甲3252号) |
清算中の会社を設定者として抵当権の設定契約をすることができ、その登記を申請することができる。 |
⇒ 会社が解散した後は、会社は清算の目的の範囲内において存続するが、この清算には抵当権の設定も含まれると解される。
■抵当権の法的性質
(1) 付従性
抵当権は特定の債権を担保するものであり、付従性を有する。そのため、担保されるべき債権が存在しない状態で、抵当権を設定することはできないのが原則である。(成立における付従性)
ただし、例外的に現に債権が存在しなくても、ある特定の債権が将来において発生する可能性が法律上存在するときは、その将来発生する債権を担保するために抵当権を設定することが認められている。(付従性の緩和)
先例 | (S48.11.1民三8118号) |
主たる債務が特定し、保証契約が締結されている場合の、いわゆる委託による保証人の求償債権を担保するための抵当権設定登記は受理される。この場合の登記原因は「年月日保証委託契約による求償債権年月日設定」である。 |
(2) 随伴性
債権担保のための担保物権は、被担保債権が移転すると、それに伴って移転し、元の債権を担保し続ける。これを「担保物権の随伴性」という。例えば、AがBに1000万円貸す際にB所有の土地に抵当権を設定したが、その後AがCにこの貸金債権を譲渡した場合、債権はAからCに移転し、Aの抵当権も当然にCに移転し、以後CのBに対する1000万円の債権を担保することになる。
(3) 不可分性
担保物権は、被担保債権全部の弁済があるまで目的物全部の上に効力を及ぼす。これを「担保物権の不可分性」という。したがって、債権の一部が弁済されてもなお目的物全部に対して権利を行使でき弁済された部分に応じて目的物の範囲が縮減する訳ではない。
例えば、AがBに1000万円貸す際にB所有の土地(100㎡)に抵当権を設定した後、BがAに一部500万円の弁済をしても、Aの抵当権は引き続きB所有の土地全体(100㎡)に及び、50㎡の部分に減縮するわけではない。しかし、担保物権の不可分性については、当事者の特約で排除することは可能であると解される。
(4) 物上代位性
担保物権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。この効力を、「担保物権の物上代位性」という。
例えば、AがBに1000万円貸す際にB所有の建物に抵当権を設定した後、この建物が火災で燃えてしまったが、Bが火災保険に入っていた場合、Aは自己の1000万円の債権の範囲内で、Bが受け取る火災保険金に債権を行使していくことができる。